【195】勇者が行く
俺と魔王による想像以上の一撃が炸裂し、断末魔王は豪快にブッ倒れた。
サイズが縮んで元の大魔王に戻ったことからもわかる…そう、ついに俺達は勝ったのだ。
「ふぅ~~…終わった…勝ったな。俺が…俺だけの力で!この勇者の力で!!」
「あ゛?違うだろ俺だろ。この魔王様が俺で俺だけの…むっ!?」
「…チッ、やはり…出やがったか…!」
倒れた大魔王の体から、霧っぽい何かが出てきた。
かつての霊獣マオの演出に似ている。
状況から考えて、『断末魔』の化身に違いない。
「フ…グフフ…グワハハハ!勝った?終わっただとぉ?まだ何も終わってなどいないわ!」
「この小僧が死んでも、いずれ第二第三の大魔王が現れるであろう!!」
「そうそう、その通り…えっ!?いや、そうだがなぜ貴様が言う!?」
むしろ勇者の方が堂に入っている。
「ったく、ノリが使い古されてんだよ。お呼びじゃないんだよ三下が。貴様ごときが諸悪の根源ヅラするんじゃない。」
「形態はマオの奴と似てるが、動機が“恨みつらみ”ってのがダサ過ぎるよな。」
「フン、何とでも言うがいい!我が脅威は未来永劫、貴様らを苦しませ続け…」
「あ~…それはちょっと、無理かもねー…」
なんと!大魔王も起き上がってきた。
どういう原理か、気体っぽい断末魔を素手で掴んでいる。
「なっ…は、離せ!貴様、我を道連れに死ぬ気か…!?」
「ぐふっ、アハハ…こう見えても…寂しがり屋でさぁ~…一緒に、逝こうよ。」
「ぐぉおおおおお!は、離せぇええええええぇぇぇ…ぇぇ…!!」
ズォオオオオオオオ…!!
断末魔は大魔王の体内に封印された。
「ちょっとした秘術で、命を結び付けたから…。コイツは僕が…地獄まで…連れていくよ…」
「ほぉ…共に逝くか。随分と楽しそうな旅じゃないか。心底羨ましくないが。」
「いいんだよ…。普通の相手だと、軽く触れただけで…壊れちゃうからさぁ…」
「だからみんな死んじゃえーってか?それが動機ならマジ寂しい奴だなお前。」
魔王は不覚にも同情してしまった。
「ま、俺はわからんでもないがな。周りが雑魚すぎるせいで強者が乱暴者扱い…なんとも生きづらい世の中じゃないか。」
「まぁ『勇者』のセリフじゃねぇがな。」
「…じゃあさ勇者、もし違う形で出会っていたら僕ら…友達になれたかな…?」
「ふむ、断る。」
「やっぱ鬼だわお前。」
魔王はちょっぴり自信を無くした。
「ハハ…厳しいね…。ま、これも全て…悪の道に堕ちた罰かな…」
仰向けに倒れ、力なく笑う大魔王。
そんな彼に勇者がかけたのは、意外な言葉だった。
「そうか?貴様は別に悪くはない。やりたいようにやっただけのことだろ。」
「え…?いや、でもたくさん殺し…」
「人が生きるのに犠牲はつき物だ。だから誰にも、死という名の罰が下る。」
「…プッ!アハハハハ!斬新な解釈だね、そりゃいいや…」
大魔王は、見た目通り少年らしく、無邪気な笑顔で笑った。
「ハハ…参るよね…ハハハ…自由すぎ…だよね…。勝てない…わけだよ………」
「…よっしゃーー!勝ったぁーーー!!」
ラスボスを撃破した!!
こうして大魔王は事切れ、それに引きずられるように断末魔も消え去った。
これで今度こそ、今度こそ俺達は勝ったのだ。そう、全ては…悪夢は終わりを告げたのだ。
「ふぅ~~…終わった…勝ったな。俺が…俺だけの力で!この勇者の力で!!」
「あ゛?いや、俺だろ。俺が俺で俺だけの…むっ!?」
ガキィイイン!
勇者と魔王、二人の剣が交差した。
「さぁ、邪魔者は消えた。残るは貴様だけだが…どうするよ魔王?」
「…フン。よってたかって一人を倒しといて、今さら最強決定戦もあるまい?」
「フッ…違いない。ならばその命、しばし預けておいてやろう。」
「それはこっちのセリフだ。いつか殺しに来る…首を洗って待っているがいい。」
「うむ、入念にな。」
「ガチで洗わんでいい。」
そう言うと魔王は、窓枠に手をかけた。
その背に向かって勇者は、いつも通りの悪態をついた。
「さらばだクソ魔王。」
「ああ、じゃあな…クソ勇者。」
そして、魔王は窓の外に消えた。
「ふぅ~~…色々あったが、これでやっと終わっ」
「ゆーーーうしゃーーーー!!」
「…終わってるな。」
「何が!?人の顔見て今何言った!?」
駆け寄ってきた盗子を華麗にかわしつつ、ため息交じりに罵倒する勇者。
そこに他のメンバーも集まってきた。
「お疲れ様勇者君。強さはともかく黒さでは圧倒してたよ、他の誰をも。」
「フッ、そんなに褒めるなよ賢二。照れちまうぜ。」
「だから全く褒めてないと何度言わせれば気が済むのさ耳かっぽじれやクソめ。」
安心しきった様子の賢二と、満身創痍なのを誤魔化すように強がる暗殺美。
「ふむ…どうやら意外とみんな無事らしいな。まったくしぶとい奴らめ。」
「うぉー!頑張って片付けてきたのに終わっちゃってるとか酷いんだー!」
「あ、あの人数を一人でどうこうできちゃうとか…なにげに凄いですねアナタ。」
無茶振りに対してしっかり結果を出してきた土男流の有能さに、素直に感心する絞死。
「よくやった勇者。」
「親父…」
肝心なところで役立たずだった父。
「お前は自慢の息子だ、世界中を旅してそう叫びたい気分だ。」
「是非とも勘弁してくれ。」
「だが随分と重傷じゃねぇか。大丈夫か体は?」
「いや、お前が言うなよ。怖いから視界から消えてくれよ。」
マジーンはまだ下半身が無い。
「勇者君お元気?あと私は…お元気?」
「姫ちゃんも、お元気そうで何よりだ。」
結局姫は、最後まで姫だった。
「さてと…じゃあ貴様ら準備はいいな?」
勇者は何かのスイッチを押した。
「え、えっと…勇者君?ちょっとよくわかんないんだけど、“準備”って…何?」
「む?こういう状況だと、大抵爆破される城から逃げるってのが通例だろ?」
「いやいや、そんなのアタシ知らないし!てゆーかあの天空城でもあるまいし、そんな物騒な仕組みなんて…」
「土男流!!」
「任せてくれ師匠、その点抜かりは無いんだ!ちゃんと仕掛けてきたぜ!」
「なんでっ!?」
「まったく…自由だねみんな。」
「いや、アンタだけは言うなさ姫。」
「結局終始このペースでしたか…」
「ハァ…やれやれ。どうやら俺の待つ“終末”は、だいぶ先らしいな。」
「フッ、そりゃそうさ。我が子が…いや、その先も…我ら『勇者』がいる限り、この世界は終わらない。」
「いや、下手すりゃこの爆発で“いる限り”の前提が崩れるぜ…?」
ズゴゴ…ズゴゴゴゴゴ…!
「うわっ、なんか変な地響き聞こえない!?なんかヤバそうじゃない!?」
「あ、大丈夫なんだ盗子先輩!多分私が仕掛けた『時限式魔力爆弾』が力を溜めてる音なんだー!」
「だからそれをヤバいって言ってんだよ!どこに大丈夫な要素があるんだよ!?」
「さて…じゃあ、そろそろ行くとするか。」
そう言うと、勇者は駆け出した。
「よーし野郎ども!走れぇーーーーーー!!」
「う、うわぁああああああああん!!」
こうして世界は、正義の手によって…
正義…?
まぁ、とにかく守られたのだった。
「ひぃいいいい!し、死んじゃうよ!もう爆音がすぐ僕の後ろまで…!」
「燃える鬼ごっこだね…。鬼は誰?」
「なんでアンタは最後までそんななの!?何ドランカーなの!?」
「泣き叫んでる暇があったら走れ!これで死んだら笑えない!!」
ドッガァアアアアアアアアアアアアン!!
「ぎゃああああああああああああああああ!!」
めでたしめでたし。
〔キャスト〕
略
第四部:『大魔王降臨編』
完