【194】最後の聖戦(24)
ブチ切れた断末魔王の咆哮に吹き飛ばされ、激しく壁に叩きつけられた俺と魔王。
そしてそこからは、『ハイパー・サンドバッグ・タ~イム』に突入。俺達はしこたま殴られた。
五体は悲鳴を上げ、意識も何度か飛んだ。気を抜いたら死にそうだ。だが、俺は…
「ハハハハハッ!どうした貴様ら?手も足も出んではないか情けない!」
「ぐっ…フッ、言われてるぞ魔王?随分とハイハイが似合うが幼児か貴様は?」
「テメェこそ全身真っ赤に染めて“赤ん坊”ってか?満身創痍はお互い様だろ。」
「ああ…だがまぁ、まだ生きてる。」
「フッ…だな。」
二人はプルプルと震えながらも、なんとか立ち上がった。
「…な、なぜだ!なぜ倒れぬ!?何が貴様らを突き動かす!?」
「何が…?フン!全人類を支配し、恐怖のドン底に叩き落す…それまで俺は死ねんのだ!!」
「いや、そのセリフは俺の…『魔王』のために取っといてくれよ。お前は立場違うだろわきまえろ『勇者』。」
正義の味方がいない。
「肉体はとうに限界のはず…やはりまず、心を折らねばならぬか。」
「フン、残念だがもう無理だな。」
「フフッ、面白い。この状況でまだそんな強がりを…」
「違う!心なんぞ、ついさっき折られてきたばかりだ!バッキバキになぁ!」
盗子の功績だった。
「どうやらまだ、自分が死なんと思っているようだな勇者よ。ならば貴様には…最高の絶望をくれてやろう。とくと味わうがいい。」
「いや、そんな咆哮まともに食らったら味わう前に粉微塵だろ馬鹿か貴様?超避けるぞ。」
「おっと逃げるなよ?逃げれば扉の向こうの仲間が死ぬぞ?」
断末魔王は遠くに見える盗子達を指差した。
「チッ、人質取るとかトコトン外道な奴だな…まぁ悪役の鑑とも言えるが。どうするよ勇者?まさか命乞いとかしねぇよなぁ?」
「…フン、するわけないだろ。やるならやれよ。」
「ぬ…?フハハハ!なんと情けない、我が身可愛さに味方を見捨て…」
「勘違いするな。奴らならそれくらい、自分で何とかする…そう言ってるんだ。」
「な…なにぃ…?」
「俺達は、こんなピンチなんざ慣れっこなんだよ!舐めてんじゃねぇぞ?俺の…」
「“仲間”を…とでも言うつもりか?そんな陳腐な」
「この俺の、“下僕”どもをなぁ!!」
勇者は堂々と言い切った。
「ったく、この俺にそんな脅しが効くと思うなんて浅はかにも程がある。実にムカつくぜ…こんなゲス野郎に勝てんと思うと、尚更なぁ。だろ魔王よ?」
「フン、どうやらまだ元気はあるらしいな。とはいえ何か手はあるのか?」
「あるさ。我流…いや、『我王勇者剣』とでも名付けようか。ふむ、さすが俺。」
「プフッ、なんだよその名前?俺の『魔王暗黒剣』とは比べものにならんな。」
「どっこいどっこいじゃないか!しかもかなり低レベルな!」
クライマックスの空気感に似合うよう、シリアスなキャラにキャラ変した断末魔王だが、他がまともじゃなさすぎてツッコミに回らざるを得ない状況。
「ふむ…なぁ魔王、やっぱりつまらんキャラになったよなぁコイツ?どう見てもやられ役のノリじゃないか。」
「ん?俺はこうなる前をあまり知らんが…まぁ仕方ないんじゃないか?断末魔とかいう、歴代の勇者にやられた悪党の慣れの果てを取り込んだんだろ?そりゃ負けが似合うようにもなるだろ。」
「フン、雑魚めが。」
「ああ、まったくだな。」
「き、貴様ら…!言わせておけば…!」
言いたい放題の二人を前に、口では防戦一方の断末魔王。
だが体格や攻撃力では圧倒的に水をあけているため、イラついてはいるものの焦りは見えない。
「ゴフッ!ふぅ…やれやれ。精一杯強がってはみたものの、もはや手詰まりって感じだな。敵は強すぎる。あ、決して俺が弱いわけじゃないぞ魔王?」
「ああ、正直これ程までとはな…。俺ら二人を同時に相手してなお優勢とは…化け物め。」
「フッ、照れるぜ。」
「お前の心も負けじと強ぇなオイ。」
勇者はまだまだヤル気だ。
「しかし…ハッキリ言って、全力なんてもう出せて一度きりだ。お前もそうじゃないか?」
「かもな。だがそれで倒せるかというと、まだ少し…敵が元気すぎるな。」
「意外と削ったとは思うんだがなぁ。それに急激なパワーアップのせいで、内部的にガタがきてそうな感じもある。だが確かに、あと一歩が足りん気がする。」
「この状況に一石投じられる奴か…俺には一人しか浮かばんな。」
「ほぉ、奇遇だな俺もだ。」
部屋の二人は入口の方に目を向けた。
「…へ?」
賢二はキョトンとした顔でこちらを見ている。
「見てたぜテメェ断末魔王?俺が割って入る少し前、あの賢者の魔法にビビッてやがったよなぁ!?」
「魔法?あぁ、不発に終わったあの…ハッ!まさかまた、知らぬ間に炎が…!?」
断末魔王は慌てて飛びのいた。
だが上には何も無かった。
「…と、いうことは…!?」
カチッ!
断末魔王は地雷を踏み抜いた。
ズドォオオオオオオオオオオオオオオン!!
断末魔王は爆炎に包まれた。
「ぐわぁああああああああああああ!!」
「まだだっ!チョメ太郎が落としてったコレクション…全て叩き込んでやる!食らいやがれぇええええええええええ!!」
ズダダダダダダダダダン!!
ドガガガン!ドガガガガガン!
ズバババン!ズバババババババババン!
ズガン!ズガガガン…!
ドッゴォオオオオオオオオオオオオオオン!!
花火大会のクライマックスか何かか。
シュウウゥウウウ~…
ようやく鳴りやんだ爆音。
立ち込める白煙。
「やったか…!?は、“やってないフラグ”か。油断するなよ勇者?」
「貴様こそな。この手のパターンは、油断したところに白煙の中からビーム的な何かが飛んできて胸とか貫かれたりするぞ?」
「ハァ~?おわっと!!」
本当に何かが飛んできた。
魔王は間一髪で避けた。
「ぐっ、き…貴様ら…!魔王はともかく勇者…お前…そんな勝ち方で…いいと…でも…?」
煙が次第に晴れ、傷ついた断末魔王が現れた。
さすがに倒せはしなかったものの、かなりのダメージを与えることはできたっぽい。
「まぁ確かに、一方的にボコるってのは教育上は良くないんだろうな。仮にも『勇者』なら、お前はちったぁ考えろよな。」
「む?前にギマイ大陸の先進国でゲームセンターってのに行ったことがあるが、そこでは無抵抗なモグラをブッ叩くゲームが、無邪気なガキどもに大人気だったぜ?大事なのは見た奴が…悪意を持って受け取るかどうかさ。馬鹿を基準に考えてたら身動き取れなくなるだろ?」
勇者は世相を斬った。
「いや、お前のは“どう受け取る”も何もないだろ。ド直球すぎるだろ。」
ごもっともなご意見だった。
「さて、これでやっと一筋の光明が見えてきた感じだが…」
ガキィイイイン!
勇者を狙った断末魔王の攻撃。
なんと、魔王が攻撃を受け止めた。
「ぐっ…!おいおい、反応できてねぇぞ勇者…!?勢いで助けちまったが次はねぇぞ?」
「ぐふっ…!フッ、どうやらこっちも限界のようだ。さっき言ってた通り、次の一撃が最後になるだろう。」
フラつきながら剣を構える勇者。
勇者ほどではないが、魔王にも余裕は無さそうだ。
そしてそれは、断末魔王も同じだった。
「ふぅ…ふぅ……最後の一撃か…そうだな、それがいいだろう。口で言って退く相手でないのは、もうわかった。実力行使だ。」
「ああ、悪いな。俺の諦めは…盗子の顔の次くらいに悪いんだ。いくぞっ!これで最後だぁああああああ!!」
そう言うと、勇者は駆け出した。
その後に魔王も続く。
「う…ぉおおおおおおおお!!食らいやがれぇえええええええ!!」
「どけぇ勇者ぁ!俺が決める!!」
「いいや、俺だぁ!!」
「調子に乗るなガキども!先攻は我が…」
「どうぞどうぞ。」
「えぇっ!?」
ズバシュ!!
『諸刃の剣』と『魔神の剣』が光速で十字を描いた。
断末魔王は大ダメージを受けた。
「ぐああああっ!?ば、馬鹿な…!この我の最強の肉体に…傷を…!?」
「ほぉ、意外とやるじゃないか魔王。偶然とはいえこの俺の技に合わせるとは雑魚の分際でやるじゃないか死ね。」
「死ぬのは貴様だろ?勝手に技を合わせてきやがったのもな!」
「ほざいてないで構えてやがれ。もう限界だ…次こそが最後の一撃となろう。」
“最後の一撃”のおかわりが多い。
「ま、そうだろうな。この際だ、最後にもう一度同時に食らわしてやるか?」
「ふむ。初めて合わせるのになぜか技名をハモっちゃうという謎のアレだな?」
「そこはお前…気にしちゃ駄目だろ。」
「お、おのれ…おのれおのれぇえええええ!!」
右腕を失い、益々ブチ切れる断末魔王。
だがそんなことに動じる二人ではない。
「あばよ断末魔王。この魔王様をここまで追い詰めたこと、地獄で誇るがいい。」
「まぁ俺は余裕だったが。」
「なっ!?じゃあ俺だって…!」
「最強は我だ!!天衣無縫流、究極奥義ぃ…!『死・屍・累・々・撃』!!」
断末魔王、必殺の攻撃!
ミス!二人は紙一重で避けた!
そして―――
「さーて、んじゃ最後の攻撃といくか。準備はいいか魔王?」
「テメェこそしっかり合わせろよ?こういうのは綺麗に締めてこそだしよぉ!」
「当然だ!いくぜっ!!」
「我王…!」「魔王…!」
「早速違うっ!!」
断末魔王は意表を突かれた。
「ひhgれごkfるぁあああ!!」
「やっぱり違ぁあああああああああああう!!」
ズバズバッッッッシュ!!
ザシュッ!!
「ぎょあああああああああああああああああああああああ!!」
なにはともあれ会心の一撃!