表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
193/196

【193】最後の聖戦(23)

「あっ、あっ、あぁぁあああああ…ああああああああ…!」


 盗子が与えた想像を絶する(精神的な)苦痛により、なんと死んだはずの勇者が目を覚ました。

 それが天帝の力だったのかどうかは定かではないが、これが奇跡的状況だというのは確かだ。

 あと、勇者がかつてない程に苦しんでいるのも確かだ。


「ゆ、勇者…勇者ぁ…!良かっ」

「あwせdrftgyふじこ…!zsxdcfvgbhんjmk…ひぎゃああああああああ!!」

「な、なんかこれまで見たことがないほどに取り乱してるね勇者君…」

「仕方ないさ。この私が勇者なんかに対して同情しちゃうレベルの惨事さ。」

「うぐっ…うぅ…す、すまん賢二…『濃硫酸』を。」

「いや、そんなので口ゆすいだら酷いことになるから!溶けちゃうから!」

「頼む賢二!お願いだからぁあああああああああ!!」

「ま、まさか勇者君に泣きながら土下座される日が来るなんて…」


 完全にキャラ崩壊を起こしている勇者。

 こんな状況をなんとかできる人間は、一人しかいない。


「おかえり勇者君。」

「…ああ、ただいま姫ちゃん…ただいま。お…オイ賢二!今の状況をわかりやすく説明しろ!」


 珍しく求められた時に求められた役目を果たした姫。

 そんな姫の存在だけに集中することで、勇者はなんとか平静を取り戻すきっかけを掴んだっぽい。


「えっ!?あの、その…突如現れた魔王さんと大魔王が魔王頂上決定戦で…」

「オーケーさっぱりわからんが任せろ!俺は、そのために帰ってきた!」

「あっ!あの、勇者アタシ…」

「おぉ盗子か久しぶりだな元気かそうかそうかそれは良かった。」

「えっ、えっ?えっ!?」

「よーし!頑張るぞぉーーー!!」


 つまり勇者は無かったことにした。




死の剣を振るったはずの俺だったが、なぜか、なぜだか奇跡的に生き返った。

理由はまったくわからんが助かった。まぁいい気にしないことにしよう。そう、絶対に。


「さて、じゃあ気を取り直して再戦といこうかな。いい加減終わらせんと見てる方もダルいよな。」

「ちょ、ちょっと待って勇者君。生き返ったのは良かったけど、何の手も無く戻っても…」

「いや、それが…なぜだか、謎の力が全身に満ち満ちてる感じがするんだ。」

「ハン!出たさ、根拠の無い妙な自信。この状況でそんなハッタリ言えるとかもはや敵ながらアッパレさ。」

「いや待て暗殺美、ハッタリじゃなくてだな。これがマジで…」


「そうか。一度死んで蘇ったことにより…ようやく覚醒したようだな、“あの力”が。」


 自身の内なる変化に戸惑う勇者。

 するとそこに、なんだか凄まじく意味ありげなことを言いながら、父が戻ってきた。


「あっ、勇者親父!アンタこんな時に…」

「ああ、モリモリ出たぞ。」

「やっぱウンコだったのかよ!予想通りだったけどそんなクソみたいな結果報告は要らないよ!」

「いや、“みたい”じゃなくてだな…」

「そーゆー意味じゃなしに!」

「そんなことより親父、貴様…何を知っている?」

「ふむ。貴様が感じ取った力…それは恐らく、我が一族に代々伝わってきた大いなる力…『我力ガリョク』だと思って間違いないだろう。

「我力…だとぉ?それは魔力とは別系統の力なのか?」

「ああ。そもそも我が一族は、魔力を持たぬ正統な『勇者』の家系だったのだ。祖先である『勇者:英雄』が、『断末魔』の始祖となる呪いを受けてしまうまでは…な。」

「なっ、英雄さん…だと…!?そうかよ、ここに繋がるってのかよ…!」


 懐かしい名に、マジーンは不死の呪いを受けた三千年前のことを思い出した。


「その後も魔の者達と戦い続け、長い戦いの歴史の中でさらに呪いにまみれ、そして今に至るのが我々だ。つまり…」

「魔力がスッカリ抜けちまった俺は、ようやく本来の力に目覚めたと…?」

「そう。誰よりも目立ちたいという、究極の自己顕示欲…それが『我力』だ。」


 あんまり響きの良い力ではなかった。


「そうかなるほど。つまりこれが…これが“主人公補正”ってやつか。さすがは神に選ばれし俺だ。」

「フン、調子に乗んなさ。さっき調子こいて死んだのを忘れたのかさ?」

「忘れたな。俺は都合の悪いことは器用に忘れるタイプだ。」

「勇者君、えっと、僕らは…」

「…誰だ?」

「えっ、僕らの存在も都合の悪いこと扱い!?じゃなくて、僕らに何かできることは…」

「ま、お前らはここから見ているがいい。邪魔だから入ってきたらブッた斬る。」

「わかっています。もはや私達の出る幕じゃない。お任せしますね、勇者さん。」


 見るからに行きたくなさそうな賢二と、実力不足を自覚し身を引くことにしたっぽい絞死。


「お土産よろしくね?」

「すまんな姫ちゃん…大魔王にくれてやるつもりなんだ、『冥途の土産』はな。」


 勇者は『諸刃の剣』を拾い上げ、皆に背を向けた。


「行くのか、勇者よ。」

「ああ。サクッと片付けて、貴様の“人類最強”の肩書きは俺が襲名してやるよ親父。」

「気を付けろ。慣れぬ力だ、そう長くは続かんぞ。」

「わかってる、問題ない。もう最終局面だ。ここまで随分と長丁場だったが、こんな時ほど意外とスパッと決着が着くのが世の常だからな。恐らく次が…ラストターンになるだろう。」


 そして歩き出す勇者。


「あの、勇…」

「そういえば土男流はどうした?」

「だからなんでアタシだけ無視すんの!?ねぇこっち見てよ勇者ぁ!」

「さーて!行くかぁーーー!!」


 勇者は扉を開けた。

 そこで勇者が見たのは、苦しそうにうずくまる魔王の姿だった。


「オイオイこりゃ一体どういうことだよ魔王?なぜ貴様は一人でのんびり転がっている?」

「ぐっ、テメェ…勇者か…?なんで生きてやがるよ…?」

「聞くな。俺の華麗な土下座を見たくなかったら聞かないでくれ。」

「ケッ、まぁいいが…気ぃ抜くなよ?死ぬぞ。」

「む…?ハッ!!」


ズゴォオオオオオオオオオン!


 突如、何か巨大なものが降ってきた。

 勇者は間一髪で避けた。


「チッ、なんでこんな所で落石…じゃない…だとぉ…!?“拳”かっ!?」

「そうだ…どうやら目覚めちまったようだぜ…史上最悪の、悪魔がなぁ。」

「こ、この影の正体が…“奴”だとぉ…!?」


 見上げるとそこには、どう見ても人間では無い巨大な何かがいた。

 三つの目に三本の角、大きく裂けた口には牙がギッシリと生えており、そして全身は長い毛で覆われている。一言で言うなら“化け物”だ。



「さぁ…続きを見せようか、悪夢の続きをなぁ。」



 低く響いたその邪悪な声に、勇者と魔王の背筋を悪寒が走り抜けた。

 二人は飛びのいて距離を取った。


「ふむ…で?アレは一体どういうことだ魔王?成長期にしては突然すぎるだろ?」

「あ?知らねぇよ、途中で急に…な。『断末魔』がどうこう言ってたが…」

「なるほど、完全に融合したってわけか。まさに究極のラスボスって感じだな。」

「フッ、究極…か。ならば我が名は…これより『究極神』とでも呼ぶがいい。」

「よーし行くぞ『珍魔神』!!」

「ちょっ…!」


ザシュッ!


 勇者の攻撃。

 だがあまり効かなかった。


「チッ、ああもデカいと的が絞りきれんなぁ。無駄に育ちやがって珍魔神め。」

「か、改名を要求する!大魔王…断末魔…あ、『断末魔王』と!!」

「いいだろう!さぁ来い『団地妻王』よ!」

「え、なにその甘美な響き…?」


 思春期真っ盛りのため興味津々の魔王。

 だが断末魔王の方は普通にキレた。


「お、おのれ…!この断末魔王を…ここまでコケにするとは…!」

「ところで勇者よ、さっきから言ってる『断末魔』ってのは一体何なんだ?『大魔王』とは別なんだよな?」

「歴代『魔王』の恨みの化身…時をも超えた邪念体だ。色々あって大魔王の奴と合体してな。」

「なるほど、去り際の“お、覚えてろよ…!”を体現した存在ってわけか。」

「おぉ、一気にちっぽけな存在に見えてきたな。ナイスだクソ魔王。」

「フッ、照れるぜクソ勇者。」

「無視するな!この状況で我を無視するな!!」

「プッ、“我”とか…!一人称で凄みを出そうとかどんだけ浅はかなんだ…!」

「お、オイ笑うなよ勇者。さすがにかわいそ…プフッ!」

「殺すっ!!!」


 攻撃力はどう見ても断末魔王の方が強そうだが、“口撃力”は二人の方が上のようだ。


「どうだ勇者?邪魔なコイツを倒すまで、俺達は一時休戦としないか?」

「フッ…いいだろう。さぁ来い断末魔王!この俺達が、遊んでやる!!」


 二人はボコボコにされた。



「ゲホッグホッ…!オイ、生きてやがるか魔王…?」

「ぐっ…フッ、そりゃもう当然のようにな。少々油断しすぎただけだ。」

「フン、さっきもやられて転がってたくせして油断もなにもなかろう?無駄に強がりやがって。」

「ケッ、口から豪快に血を垂れ流しながら言われてもなぁ。」


 どうやら二人とも限界は近いようだ。


「ま、控えめに言っても“万事休す”って感じだなぁ。さて…どうするか。」

「フッ、残念だがもはやどうしようもないさ。今のぼ…我に敵は無い。」

「言い慣れないなら“僕”でいいぞ?」

「くっ、舐めおって…!だが、いつまで強がっていられるかな?今の我は“全身凶器”…特に『闘神の剣』を取り込んだ、この右腕はなぁ!」


 断末魔王の右手の爪がギラリと輝いた。

 確かに『闘神の剣』と同じオーラを纏っているように見える。


「チッ、やれやれ…すぐキレやがる。大魔王は随分と緩い奴だったんだがなぁ。」

「余裕が無くなったとも取れる。冷静じゃない方が手玉に…」

「邪魔だ死ねっ!食らうがいいわ!天衣無縫流…『瞬撃シュンゲキ』!!」

「速っ!ヤベェ見失っ…」

「飛べ魔王!左だっ!」

「チッ…!」

「左から攻撃が!」

「お゛ふっ!!」


 魔王は直撃を食らった。


「て、テメェ…勇者…!」

「どうにも調子がイマイチだった理由がわかったぜ。誰かと協力なんて俺には向かんのだ。」

「ぐふっ…く、来るぞ勇者!右から攻撃が!」

「フッ、馬鹿か貴様?そんな見え透いた手に…お゛ふっ!!」

「俺の攻撃がなっ!!」


 壮絶な足の引っ張り合いだった。




 その頃、終焉の間の外の者達は…ただぼんやりと中を眺めていることしかできなかった。


~大魔王城最上階:終焉の間 前~


「な、なんか凄まじい速さ…というか全く見えないというか…凄いですね…」


 賢二は見えてすらいなかった。


「ふむ、いい笑顔だ。私といる時も、あんな楽しそうに笑ってくれればいいのだがなぁ…」

「この状況を楽しむってどんな悪魔…って、見えてるんですか凱空さん!?」

「フッ、この私に見えないモノがあるとでも?」

「じゃあまずは“現実”見ろさ。アンタ嫌われてんのさ息子に。」


 暗殺美は厳しい事実を突きつけた。


「もはや完全に人間の動きを超えてますね…」

「“大魔界大戦”だね、絞死ちゃん。」

「ですね。もはや張り合う気も失せましたよ。」

「三人まとめて爆破した方が世のためだと思うのさ。」

「ちょ、引いてないで勇者を応援しようよみんな!世界の運命がかかってんだよわかってる!?」

「いや、確かに命運かかっちゃいるが…これって誰が勝っても結果は同じじゃねぇか?」

「激しく同意さ。もはや世界は詰んだのさ。」


 確かに明るい未来が見えない。


「応援…か。残念だが盗子よ、いくら応援したとて勇者一人では恐らく勝てまい。それ程に…今の大魔王は強い。」

「えっ!じゃ、じゃあどーすれば…!?」

「プライドを捨て、魔王との共闘を選べるか…そこが最大の、鍵となるだろう。」


 じゃあもう駄目かもしれない。




そんなこんなでその後も色々と頑張った俺。だが、どうにもこうにも歯が立たん。

とはいえ、そうのんびりしてもいられん状況…。終わっちまう前に、急いで残ったイベントを消化せねばならん。


「さて貴様…断末魔と融合してとぼけたキャラも抜けたんだ、本音で話せよ?」

「む?なんの話だ…?」

「人類滅亡を目論む真の理由…それを聞かずに始末しては話も締まるまい。」


 最終回とかによくある流れだ。


「なんだ、ヤケに急ぐではないか。そろそろ体に限界でもきたかな?」

「いや、話数の都合でな。」

「勇者お前、それを言っちゃあ…」


 ぼちぼち終わります。



「…フッ、まぁいいだろう。話してくれよう、我が人を滅ぼすその訳を…!」



 断末魔王は目を閉じて語り始めた。


「隙アリィイイイイイ!!」


ザシュッ!


「ぎゃあああああ!!」


 聞いといて聞く気は無かった。


「ぐっ、貴様は…貴様ら『勇者』は、いつもそうだ!いつの世も我を煙に巻く!」

「全員か。全員こうなのかよ。そりゃあお前ら恨まれても仕方ねぇぞ。」


 勇者の非道な行いにブチ切れる断末魔王。

 不覚にも同情してしまった魔王。


「む?いやいや、むしろ俺こそが被害者だろ。もしできるなら相続放棄したい遺産だぞ。」

「うるさい黙れぇええ!ハァアアアアアアアア…!!」

「なっ、その感じ…まさか魔神の『ヤッ咆』の…!?マズい!!」


 断末魔王の咆哮。

 勇者はオーラを全開にして防御したが、防ぎきれなかった。

 魔王も巻き添えを食った。


「ぐおぉ…!あ、あの咆哮を真似るとは…器用な真似を…!」

「お…オイオイ、こんな化けモン…どう倒せってんだよ…がふっ!」


 二人は倒れて動けない。



「死ぬがいい…愚かな人間ども!!!」



 最大のピンチが訪れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ