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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
19/196

【019】三号生:激戦の果てに

群青錬邪の攻撃を前に、あわや全滅かと思われたその時、謎の乗り物に乗って降ってきたのは…なんと死んだはずの賢二だった。

その姿を見て誰よりも喜んだだろう暗殺美は、喜びのあまり卒倒したようだ。


それにしても、あの状況で生きてるとはしぶとい奴め。

以前の『秘密の部屋』での一件といい、どうやらコイツのしぶとさはゴキブリ並みらしい。


「い、生きてたのか賢二!よかったよ!」

「勇者君ありが…って、どうせ“どうでもよかった”とか言うんでしょ?」

「いや、“帰って来なけりゃ”の方な。」

「おかしいな…そこまでのことした覚え無いのに…」


 そんな冗談か本気かわからないやり取りの最中、賢二が乗ってきた宇宙船の方からうめき声が聞こえてきた。そう、群青錬邪だ。


「ぐっ、うぐぐぅ…貴様…ら…グハッ!」


 宇宙船に押しつぶされ、胸から上と右腕しか出ていない状態ではあるが、あれ程の衝撃を受けてなお生きているようだ。

 そのしぶとさにはさすがの勇者も驚きを隠しきれない。


「やれやれ、まだ生きてやがったのか化け物め…!いいだろう、今トドメを…」


 勇者が一歩踏み出した、その時―――



「おっと、それ以上動くと首が落ちるよ?」



「ッ!!?」


 なんと、勇者は首元にナイフを突き付けられている。


「ば、馬鹿な…いつの間に後ろに…!?」


 音も無く背後に現れたのは、桃色マントを纏った敵。

 声からして女性…状況的に見て『桃錬邪』だと考えて間違いない。

 もしこれで無関係だったら逆に怖い。


「なかなかやるじゃんか、ボウヤ達…フフッ。」


 そう言って笑う桃錬邪だが、仮面のせいで表情は見えない。

 言動や醸し出す雰囲気から推察すると、群青錬邪より強そうにも感じられる。

 そんな相手に背後を取られているこの状況は、もはや“詰んだ”意外の表現が見つからなかった。


「…殺せ。」


 勇者は諦めたように目を閉じた。


「ゆ、勇者!?」

「そんな…勇者君!」


 慌てて勇者に駆け寄ろうとする盗子と賢二。

 そんな二人を指差す勇者。


「コイツらを。」

「えっ、自分は!?」


 だが幸いにも、桃錬邪が勇者達に襲い掛かることはなかった。

 それどころか、いつの間にか引き抜いていた群青錬邪を肩に担ぎ、この場を去ろうとしている。


「あ~、残念ながら期待には添えないね。今日のところはコイツを連れて退くよ。まだ捕まるわけにはいかないんだ。」

「オイちょっと待て。今の状況なら貴様一人でも皆殺しにできるんじゃないか?なぜ逃げる必要がある?」


 黙って見過ごした方が得な状況だとはわかっていつつも、勇者はどうしても気になって仕方がなかった。


「ん~、そう思うならまだまだだねボウヤ。正解はそこにいる奴にでも聞きな。」

「へ…?」


 盗子は慌てて辺りを見渡したが、それらしい人影は見当たらなかった。


「…おや、思ったよりはできるようですねぇ。」


 しかし、一瞬視界が歪んだかと思った次の瞬間、先ほどまでは何も無かった場所に、まるでずっとそこにいたかのように教師が立っていた。


「えぇっ!せ、先生!?いつの間に!?」

「紺のローブに銀の長髪…今のアタシじゃさすがに荷が重いよ。相手がかつて世界を震撼させた『幻魔導士ゲンマドウシ』…『死神の凶死』ともなるとね。」


 教師は絶妙な二つ名を持っていた。


「フフッ、イヤですね~。そんなのもう昔の話ですよ。」

「いや、今でもバリバリの現役だろ。」


 勇者だけでなく誰もがそう思った。


「さて…どうしましょうねぇ。二人ともまだ『呪縛錠』も半分ほど付いてるようですし…捕らえるなら今なんですがねぇ。」


<呪縛錠>

 特殊な呪物により作られた魔法の枷。

 力の大半を抑え込むために、囚人の両手両足に装着する。

 もちろんそう簡単に外すことはできない。


「あ~、やめときな。アンタには勝てずとも、ガキどもを何人か道連れにするくらいできるよ?」

「フフフ…その程度のことに私が動じるとでも?」

「いや、動じてよ!てゆーか“その程度”て!」


 まず真っ先に狩られる気がする盗子は恐怖で震えが止まらない。

 いつもならそんな生徒の姿を見たらもっと怖がらせようとする教師だが、今回は珍しく引き下がることを選択したようだ。


「…まぁいいでしょう。学校行事はあくまで生徒達のもの…。教師が手を出すべきじゃないですからね。」

「賢明な判断だね。ま、縁があるならまた会えるさ。その時までに…せいぜい強くなっときなよ、ボウヤ達。」


 そう言い残し、五錬邪は去っていった。



「ふぅ…。なんとか生き延びたな…。今回ばかりは死ぬかと思ったぜ。」


 さすがの勇者も疲れ果てたようで、その場にへたり込んでしまった。


「あれだけ強かったのにまだ力を封じられてたとか…。いま生きてるのが奇跡って感じだね…」


 勇者同様、群青錬邪と激闘を繰り広げた巫菜子もまたぐったりしている。

 盗子と賢二は特に何もしていないが、それぞれ思うところはあるようだ。


「アタシとしては、賢二が宇宙船で突っ込んできたのが衝撃的だったかな…。暗殺美なんか驚きすぎて失神してるし。」

「僕は自分達の先生の通り名が“死神”だったってのが…一番引いたけどね。」


 とにかく色々ありすぎた。



翌日聞いた話によると、今回の被害者はかなりのものだったらしい。

だが前に先公が言っていた通り、この島に来ていたのは群青錬邪と桃錬邪の二人だけだったようで、他の色の目撃情報は無かった。

二人でそこまでの被害ということは、もし全員揃ったらどうなるか…考えたくもないな。




そして季節は流れ、冬。


群青錬邪の傷がまだ癒えていないからか、あれ以来五錬邪がどこかを襲ったとかいう話は聞かない。

願わくば俺がもう少し力をつけるまで、大人しくしていてほしいものだ。


「ま…その前に、単なる学校生活で死ぬって線もあるがな…」


 窓の外にちらつく雪を眺めながら勇者がたそがれていると、教室に入るなり教師は話し始めた。


「えー、みなさんに悲しいお知らせです。残念ながら今年の雪山登山は諸事情により中止になりました。」


 誰一人として残念がらない生徒達。かと思いきや姫だけが残念そうにしていた。


「カキ氷…」

「違うんだ姫ちゃん、残念だが雪山を食おうって時点でだいぶ違うんだ。」


 勇者が諭すも姫はまだ納得のいかない表情だが、教師は話を続けた。


「実は今年の夏、我が校の『極秘書庫』から一冊の本が盗まれたのです。」


 極秘書庫といえば、勇者と盗子も同じく夏に忍び込んだあの場所だ。


「む?あ~、まぁあのセキュリティじゃ盗まれても仕方ないだろうな。」

「いいえ、本来あそこは強力な『式神』によって守られてきた場所なんですよ。決して簡単に入れる場所ではないのです。」

「あん?以前から式神が…?だが俺らが行った時には警備員が一人しか…」


 そこまで言った時点で、勇者は今回の件について大体のことが想像できた。


「つまり、俺らが入ったのはちょうど犯行直後だったっつーわけだな?それなら警備が手薄だったのもうなずける。」

「まさか、その強力な式神を倒して本を奪った人が今回の敵…ってこと?雪山登山を無くす代わりに、アタシらにその本の奪還にあたれ…と?」


 答えはわかっていつつも、念のため盗子は疑問系で聞いた。

 しかしそのわずかな希望は、当然のようにあっさり打ち砕かれるのであった。


「そうです。奪還すべき本の名は…『拷問大全集』です。」


 なぜ学校にそんな本が。




というわけで、今年の冬は雪山登山ではなく本泥棒を捕まえるという役目が与えられた。

先公らの調べによると、敵の正体は『ベビル』という名の『怪盗』らしい。


ちなみに『怪盗』と『盗賊』の違いは、“怪盗=泥棒”、“盗賊=強盗”みたいなものだそうだ。


「さて、例の如く作戦会議から入ることにしたものの…名前しかわからんのではどうしようも無いよな賢二?」

「だよね。僕はまだその手の捜索魔法とか覚えてないし…」


 放課後、空き教室に集まったのは勇者、賢二、盗子、姫の四人。そこになぜか一号生の芋子と、もう一人謎の少女がいた。

 腰まである長い黒髪、その上に片眼用ゴーグルが付いた変わったヘアバンドをしているところを見ると、何かしらの技師だと思われる。賢二のような下がり眉毛から察するに多分弱気なタイプだ。


「あ、ああああのぉ~…」

「ん?誰アンタ?バッヂからして一号生みたいだけど?」


 弱者にはとことん強い盗子は地味に威嚇した。


「わ、わた、わた…」


 どうやら少女はかなりどもるタイプらしく、なかなか会話が進まない。

 見かねた芋子がフォローに入る。


「あ~、この子はあがり性なのよね。あんまイジめないでくれる?」

「む?なんだ芋っ子、お前の知り合いか?」


 芋子の知り合いということは、どうやら少女も一号生のようだ。


「わ、わわ私は『機関技師カラクリギシ』の『栗子クリコ』と申し上げるです!」

「ふむ…今度は栗か。今年の一号生は芋やら栗やら秋の味覚が満載だな。」

「ところでさ、一号生のアンタらがわざわざ何しに来たわけ?」


 盗子が尋ねると、芋子はとても面倒臭そうに答えた。


「今回は、一号生と三号生はペアなのよ。だからワタイは…芋、食いたい。」

「肝心なとこを芋に持ってかれないでよ!まぁ内容は大体わかったけども!」


 今さら改めて言うことでもないが、やはり芋子は今回も使えそうになかった。

 しかし、どうやら栗子の方はそうでもなさそうだ。


「あ、あのですね!そそそれでこんなカラクリを作ってきたですよ。あの…その…べ、ベビルさんにだけ反応するコンパスです。」

「随分とピンポイントだなオイ。原理はどんなだ。」


なんとも胡散臭くはあるが、栗子が取り出した珍妙な機械によると敵は北の『六本森』にいるのだという。

信用できる根拠はまったく無いが、どのみち当ても無いので騙されたと思って信じることにしよう。


そこで俺達は翌日、適当にチームを組んで現地へと赴いたのである。



「で、ここが『六本森』か…。なんだか暗くて薄気味の悪い場所だな。」


 勇者が言う通り、その森は深く木々が生い茂り、日中にも関わらず奥の方は闇に閉ざされていた。


「…五、六…七本……私は…騙されたよ盗子ちゃん。」

「いや、パッと見で気付こうよ姫。まぁ確かになんでこんな名前なのかとはアタシも思うけども。」


 もし本当に六本だったらそんな並木通りに誰が隠れるんだという話だが、その手の理屈が姫に通じるわけがなく、そして同時に勇者にも通じないようだ。


「オーケー任せろ姫ちゃん、キミが望むなら…俺は立派な『キコリ』になろう!さぁ武具玉よ、できれば斧にでも変化…あっ!」


 勇者は武具玉を取り出した。

 武具玉は『鉄の剣』に変化した。

 だが手を滑らせて泉に落としてしまった。


 慌てて賢二が中を覗き込むが、残念ながらどう見ても手は届きそうにない。


「あぁ…駄目そうだよ勇者君、ここ結構深そう…えっ!?」


ピカァアアアアア…!


 驚く賢二の視線の先では、なんと剣が落ちた泉が激しく光を放っていた。

 そして突如として、その中から謎の女神的な人影が現れたのである。


「旅人よ、もしかして今…剣を落とされましたか?」


 なんと、『泉の精』が現れた。

 その手には二本の剣が握られている。


 そして頭には、落とした剣が刺さっている。


「アナタが落としたのは、この『金の剣』ですか?それとも『銀の剣』ですか?」


ふむ…どこかで聞いたような話だ。

こういう時に欲深な奴は良い目を見ないのが世の常であり、セオリーでいけば正直に鉄の剣を落としたと言うべきだろう。


たが今回はその剣が頭に刺さっているだけに、落としたことを認めていいのか悪いのか。


「そ、それはだな…」


 勇者は慎重に考え、そして決めた。



「貴様を倒して全部いただく。」



 その発想は無かった。

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