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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
189/196

【189】最後の聖戦(20)

何かいい武器がないかとマントの中を漁ってみたら、急に様子がおかしくなったチョメ太郎。

だが理由がわかれば何のことはない。単に背中のチャックが…チャックが!?

そして、中から出てきたのは炎に包まれた巨大な怪鳥。そうか、『不死鳥:フェニックチュ』…コイツが…!


「やれやれ、出会って十余年…まさかお前にそんな驚きの正体があったとはなぁチョメ太郎。」

「ポペポピュ。プポピ。」

「なっ!?ま、まさかお前…!」

「ピッポプーー!」

「フッ、やっぱりわからん。」


 多分永久に無理だ。


「旧世界の怪物…まさかこんなのを味方につけてたとはねぇ。これがさっき言ってた“何か”ってこと?ハハハッ!」

「フン、俺に聞くな。俺が一番驚いている。」


 大魔王はやっとテンションが上がってきた。

 それは勇者も同じだった。


「よーしチョメ太郎!焼き払え!こんなクソガキ、消し炭にしてやれぃ!」

「ポピュ?」

「そうだそういう禍々しい咆哮だ。それで合ってるからこっちを向くな。」

「…ポピュ?」

「フッ、参ったな…結局任せられん。」

「なんなら味方って保証も無いさ。アンタどう始末つける気さ?」

「始末って言われてもお前…この流れでやっぱり俺が戦うとか言っても敵は納得せんぞ?武器も無いし…むっ、武器?もしかしたら、今ならもっと凄い装備が出てくるとか…」


 勇者はチョメ太郎の羽根の中に手を突っ込んだ。


「おいチョメ太郎、何か武器をよこせ!凄まじいヤツをな!」

「ポーー…ピュー~…!」

「そうそう凄まじい咆哮を…ってだから違う!こっちを向いて力を溜めるな!この際なんでもいい、強力な装備か兵器か…」

「ポピュッ!?」

「ねぇ、いつまで待たせる気?僕もういい加減、口車に乗りすぎて酔ってきたんだけど。」


 確かに都合よく待ってくれすぎな大魔王。

 だがさすがにそれももう限界のようだ。


「もう殺していいよね?これ以上は…」

「いや待て、チョメ太郎の様子が変だ。いや、まぁ普段からずっと変は変だが。」

「ポッ、ポピュパプ…ペプ…」

「アンタ何したのさ勇者?また変なチャック開けたとかじゃないのかさ?」

「いや、さすがにもう中は無いだろ。俺は特に…」

「あっ、わかったよ勇者君!さっき“装備か何か”って…“そうびか”…つまり、“装備化”!」


「ポピュッパァアアアアアアアア!!」


ピカァアアアアアアア!!


 チョメ太郎は激しく輝いた。

 なんと!チョメ太郎は真紅の大剣に変化した。


「そ、そうきたか…!毎度毎度、行動の読めない奴め…!」

「燃え盛る火炎の剣…なるほどねぇ。この子がキミの…『契約獣』か…!」

「チッ、あのクソ親父の仕業か…。いつの間に契約させられたのやら。」

「面白いね。どうやらこの『闘神の剣』に対抗しうる唯一の剣を、キミは手に入れたようだ。」

「ふむ。名は『不死鳥の剣』…じゃ安直すぎるな。ならばこう名付けようか…」


「『諸刃の剣』と!!」


 的確なネーミングだった。



一番の問題だった武器の件が意外な方法で片付き、やっと勝機が見えてきた気がしないでもない。

元がアレだと思うと何が起こるかという不安はあるが、そこは考えないようにしよう。食うか食われるか…ここからが正念場だ。


「さぁ来い大魔王!今の俺は言わば水を得た魚…刺身でも食えるぜ!?」


 食われる気マンマンに聞こえる。


「ハァ?まさかその程度で勝てる気がしちゃってるとか…?頭おかしいんじゃないのキミ?」

「オイオイ、いくらなんでもそれは賢二に失礼だろ。」

「いや、勇者君がね!?」

「んじゃ、まぁ手っ取り早く見せてあげるよ。格の違い…ってやつをね。」

「ッ!!?」


 大魔王の攻撃。

 ミス!勇者は間一髪で避けた。


「なっ…なんだ今の軌道は!?俺が天才じゃなきゃ死んでたところだ!」

「驚いたなぁ。まさかキミごときが、『天衣無縫流』の初太刀をかわすとはね。」

「て、天衣無縫流だとぉ…!?」

「へぇ…思ったより博識なんだね。そうさ、僕の星で最強と言われた伝説の」

「いや、初耳だが。」

「チッ、相変わらず舐めた口を…!」

「にしても、どうした大魔王?口とは対称的に攻撃の手は控えめじゃないか。」

「あ~、さっきから『断末魔』がうるさくってさぁ。なんか頭が痛くてねぇ~。」


 苦痛に顔を歪める大魔王。

 殺す殺すと言う割に妙に精彩を欠いていたのは、どうやらそれが原因だったようだ。


「オイオイ、やめてくれよ“覚醒フラグ”立てるの…。で?奴は貴様に何と?」

「キミの一族には、無慈悲かつ凄惨な死を…そして、世界を滅ぼせと。」


 なんだか『大魔王』らしくなってきた。



「ふぅ~…まぁまだダルいはダルいけど、だいぶ慣れてはきたかな。んじゃ、そろそろ頑張っちゃおうかな。」

「チッ、マズい流れだな…!仕方ない、全員一丸となって」


「スゥ~~~…ハァアアッ!!」


 大魔王は大声を出した。

 全員吹っ飛んで壁にメリ込んだ。


「ぐはっ!な、何をしやがった貴様…!?」

「え…発声練習?」

「た、確かに格が…違う…!こんな相手…僕らなんかが勝てるわけ…」

「ぐふっ…どうやら、父との再会は意外と早いみたいですね…」

「いや、無理だろ絞死。お前の親父は魔界の底だ。」


 やはり絶望的な状況であることに変わりはなかった。


「発声練習も終わったし、次は柔軟体操かな?全身の骨を、こう…粉々に…ね。」

「フッ、そりゃ困るな。それじゃ腕が上がらなくなっちまうじゃないか。もうお手上げなのによぉ。」

「アハハ☆いい表情だねぇ。その顔を見たかったんだよ、絶望した顔をさ。」

「もう腹ペコだよ勇者君?」

「若干一名違うようだけども。」

「…チッ!やれやれ、どうやらもう…他に道は無いらしい。」


 勇者は何かを決めたようだ。


 その頃、扉の外では―――


「ッ!!!」

「む?どうした盗子、麦茶だと思って麺つゆでも飲んだか?」

「なんで今この状況で!?そうじゃなくて…」

「そうじゃなくて?父さんにもわかるように説明してくれ。」

「なんか…嫌な予感が…」

「嫌な予感…か…。だが心配しても仕方ない、茶でも飲んで落ち着け。」

「あ、うん。ありが…ぶほぁ!!」


 盗子は麺つゆを噴いた。




散々悩んだ結果、ついに俺は覚悟を決めた。

勝てる保証の無い手だけにためらっていたが…もはやこの手しか残ってはいまい。


「さーて…じゃあやるとするか。今度こそ覚悟するがいい大魔王。」

「えー、またぁ~?もう飽きちゃったよその手の悪あがき~。」

「フン、喜べ。泣いても笑っても、これが俺の最後の一撃となるだろう。」

「なっ、その構えは…!そっか、その技なら確かに…可能性はあるかもね。」


 勇者の構えを見て、大魔王は勇者の覚悟を察した。


「だろ?まぁ当然、笑うのは俺だがな。」

「ふーん、笑いながら死ぬんだ?面白い最期だねぇ。」

「そう思うなら貴様に譲ろう。俺は泣いて喜んでやるぜ!いくぞっ!!」


バァン!


 その時、勢いよく扉が開いた。


「ちょ、ちょっと待ったぁーーーーーー!!」


 そして盗子が現れやがった。


「えっ、盗子さん…!?」

「すまん麗華、言いつけは守らん主義でな!刀神流操剣術、最終奥義…!」


 それは、かつて師が遺した呪われし秘剣―――


「や…やめて勇者ぁーーーーー!!」



「うぉおおおおおおおおお!!『一・撃・必・殺・剣』!!」


「ハァアアアアアアアア!!天衣無縫流…『生・殺・与・奪・剣』!!」



ヒュン… ヒュン…



ズバシュッ!!!!




「ぐわぁあああああああああああああああああ!!」


 会心の一撃!

 大魔王はド派手に血を噴いた。



「…ふむ。」

「ゆ、勇者ぁーーー!や…やったの!?えっ、勝っちゃったの勇者!?」

「盗子…か…」

「う…うわぁあああああん!良かった…良かったよぉおおおおお!!」


 泣きながら勇者に飛びつく盗子。

 いつもなら一撃で払いのけるところだが、勇者はそうしなかった。


「…フン、約束したろう?“絶対に生きて帰る”と。」

「う、うん!うんうんうんっ!」

「ったく、長い付き合いだってのに…何もわかってないんだな、お前…」

「アハ☆ご、ごめんね!あの時はちょっと、動転しちゃって…」

「いや…そうじゃねーよ。」

「…へ?」


「この俺が、お前との約束なんて…守るわけないだろ…?」


「え…?えっ!?えぇっ!?」


ブッシュウウウウウウウウ!!


 勇者も豪快に血を噴いた。


「ゆ、勇者っ!?勇者ぁあああああああああああ!!」

「グハッ!ガハガハッ!くっ、おのれぇ…!この僕に…こんな深手をぉ…!」


 崩れ落ちる勇者と入れ違いで、最初に倒れた大魔王が立ち上がってきた。

 かなりの重傷ではあるものの、残念ながら致命傷ではなかったようだ。


「チッ、あと一歩ってとこか…チクショウ…め………」

「ゆ、勇…し…死んじゃダメだよ死なないでよ!ねぇ目ぇ開けてよ!ねぇ!?」



チッ、これが『呪剣』を使いし者の末路か…もう目も開かん…



「嘘…だよね?アハッ、嫌だなぁ勇者君こんな時に!そんな趣味の悪い…冗談…」


オイオイ、呆けてる場合じゃないだろ賢二。あとはお前しか…いないんだぜ…?


「勇者君…眠いの?おねむさんなの?」


すまんな姫ちゃん…今日のは少しばかり、永い眠りになりそうだ…


「イヤァアアアア!死んじゃ嫌だよぉおおお!うわぁああああああああん!!」




盗子…




ウザッ…



“涙は女の武器”とはよく言うが、お前のは“凶器”だろウゼェ…



ウザすぎて死にづれぇよ…泣くんじゃねぇよクソ盗子…




ビビッて、悩んで、ヘコんで、キレて、泣いて、はしゃいで、喜んで、笑って…




どうやら俺は…




俺は、そんなお前が―――




 勇者は死んでしまった。

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