【189】最後の聖戦(20)
何かいい武器がないかとマントの中を漁ってみたら、急に様子がおかしくなったチョメ太郎。
だが理由がわかれば何のことはない。単に背中のチャックが…チャックが!?
そして、中から出てきたのは炎に包まれた巨大な怪鳥。そうか、『不死鳥:フェニックチュ』…コイツが…!
「やれやれ、出会って十余年…まさかお前にそんな驚きの正体があったとはなぁチョメ太郎。」
「ポペポピュ。プポピ。」
「なっ!?ま、まさかお前…!」
「ピッポプーー!」
「フッ、やっぱりわからん。」
多分永久に無理だ。
「旧世界の怪物…まさかこんなのを味方につけてたとはねぇ。これがさっき言ってた“何か”ってこと?ハハハッ!」
「フン、俺に聞くな。俺が一番驚いている。」
大魔王はやっとテンションが上がってきた。
それは勇者も同じだった。
「よーしチョメ太郎!焼き払え!こんなクソガキ、消し炭にしてやれぃ!」
「ポピュ?」
「そうだそういう禍々しい咆哮だ。それで合ってるからこっちを向くな。」
「…ポピュ?」
「フッ、参ったな…結局任せられん。」
「なんなら味方って保証も無いさ。アンタどう始末つける気さ?」
「始末って言われてもお前…この流れでやっぱり俺が戦うとか言っても敵は納得せんぞ?武器も無いし…むっ、武器?もしかしたら、今ならもっと凄い装備が出てくるとか…」
勇者はチョメ太郎の羽根の中に手を突っ込んだ。
「おいチョメ太郎、何か武器をよこせ!凄まじいヤツをな!」
「ポーー…ピュー~…!」
「そうそう凄まじい咆哮を…ってだから違う!こっちを向いて力を溜めるな!この際なんでもいい、強力な装備か兵器か…」
「ポピュッ!?」
「ねぇ、いつまで待たせる気?僕もういい加減、口車に乗りすぎて酔ってきたんだけど。」
確かに都合よく待ってくれすぎな大魔王。
だがさすがにそれももう限界のようだ。
「もう殺していいよね?これ以上は…」
「いや待て、チョメ太郎の様子が変だ。いや、まぁ普段からずっと変は変だが。」
「ポッ、ポピュパプ…ペプ…」
「アンタ何したのさ勇者?また変なチャック開けたとかじゃないのかさ?」
「いや、さすがにもう中は無いだろ。俺は特に…」
「あっ、わかったよ勇者君!さっき“装備か何か”って…“そうびか”…つまり、“装備化”!」
「ポピュッパァアアアアアアアア!!」
ピカァアアアアアアア!!
チョメ太郎は激しく輝いた。
なんと!チョメ太郎は真紅の大剣に変化した。
「そ、そうきたか…!毎度毎度、行動の読めない奴め…!」
「燃え盛る火炎の剣…なるほどねぇ。この子がキミの…『契約獣』か…!」
「チッ、あのクソ親父の仕業か…。いつの間に契約させられたのやら。」
「面白いね。どうやらこの『闘神の剣』に対抗しうる唯一の剣を、キミは手に入れたようだ。」
「ふむ。名は『不死鳥の剣』…じゃ安直すぎるな。ならばこう名付けようか…」
「『諸刃の剣』と!!」
的確なネーミングだった。
一番の問題だった武器の件が意外な方法で片付き、やっと勝機が見えてきた気がしないでもない。
元がアレだと思うと何が起こるかという不安はあるが、そこは考えないようにしよう。食うか食われるか…ここからが正念場だ。
「さぁ来い大魔王!今の俺は言わば水を得た魚…刺身でも食えるぜ!?」
食われる気マンマンに聞こえる。
「ハァ?まさかその程度で勝てる気がしちゃってるとか…?頭おかしいんじゃないのキミ?」
「オイオイ、いくらなんでもそれは賢二に失礼だろ。」
「いや、勇者君がね!?」
「んじゃ、まぁ手っ取り早く見せてあげるよ。格の違い…ってやつをね。」
「ッ!!?」
大魔王の攻撃。
ミス!勇者は間一髪で避けた。
「なっ…なんだ今の軌道は!?俺が天才じゃなきゃ死んでたところだ!」
「驚いたなぁ。まさかキミごときが、『天衣無縫流』の初太刀をかわすとはね。」
「て、天衣無縫流だとぉ…!?」
「へぇ…思ったより博識なんだね。そうさ、僕の星で最強と言われた伝説の」
「いや、初耳だが。」
「チッ、相変わらず舐めた口を…!」
「にしても、どうした大魔王?口とは対称的に攻撃の手は控えめじゃないか。」
「あ~、さっきから『断末魔』がうるさくってさぁ。なんか頭が痛くてねぇ~。」
苦痛に顔を歪める大魔王。
殺す殺すと言う割に妙に精彩を欠いていたのは、どうやらそれが原因だったようだ。
「オイオイ、やめてくれよ“覚醒フラグ”立てるの…。で?奴は貴様に何と?」
「キミの一族には、無慈悲かつ凄惨な死を…そして、世界を滅ぼせと。」
なんだか『大魔王』らしくなってきた。
「ふぅ~…まぁまだダルいはダルいけど、だいぶ慣れてはきたかな。んじゃ、そろそろ頑張っちゃおうかな。」
「チッ、マズい流れだな…!仕方ない、全員一丸となって」
「スゥ~~~…ハァアアッ!!」
大魔王は大声を出した。
全員吹っ飛んで壁にメリ込んだ。
「ぐはっ!な、何をしやがった貴様…!?」
「え…発声練習?」
「た、確かに格が…違う…!こんな相手…僕らなんかが勝てるわけ…」
「ぐふっ…どうやら、父との再会は意外と早いみたいですね…」
「いや、無理だろ絞死。お前の親父は魔界の底だ。」
やはり絶望的な状況であることに変わりはなかった。
「発声練習も終わったし、次は柔軟体操かな?全身の骨を、こう…粉々に…ね。」
「フッ、そりゃ困るな。それじゃ腕が上がらなくなっちまうじゃないか。もうお手上げなのによぉ。」
「アハハ☆いい表情だねぇ。その顔を見たかったんだよ、絶望した顔をさ。」
「もう腹ペコだよ勇者君?」
「若干一名違うようだけども。」
「…チッ!やれやれ、どうやらもう…他に道は無いらしい。」
勇者は何かを決めたようだ。
その頃、扉の外では―――
「ッ!!!」
「む?どうした盗子、麦茶だと思って麺つゆでも飲んだか?」
「なんで今この状況で!?そうじゃなくて…」
「そうじゃなくて?父さんにもわかるように説明してくれ。」
「なんか…嫌な予感が…」
「嫌な予感…か…。だが心配しても仕方ない、茶でも飲んで落ち着け。」
「あ、うん。ありが…ぶほぁ!!」
盗子は麺つゆを噴いた。
散々悩んだ結果、ついに俺は覚悟を決めた。
勝てる保証の無い手だけにためらっていたが…もはやこの手しか残ってはいまい。
「さーて…じゃあやるとするか。今度こそ覚悟するがいい大魔王。」
「えー、またぁ~?もう飽きちゃったよその手の悪あがき~。」
「フン、喜べ。泣いても笑っても、これが俺の最後の一撃となるだろう。」
「なっ、その構えは…!そっか、その技なら確かに…可能性はあるかもね。」
勇者の構えを見て、大魔王は勇者の覚悟を察した。
「だろ?まぁ当然、笑うのは俺だがな。」
「ふーん、笑いながら死ぬんだ?面白い最期だねぇ。」
「そう思うなら貴様に譲ろう。俺は泣いて喜んでやるぜ!いくぞっ!!」
バァン!
その時、勢いよく扉が開いた。
「ちょ、ちょっと待ったぁーーーーーー!!」
そして盗子が現れやがった。
「えっ、盗子さん…!?」
「すまん麗華、言いつけは守らん主義でな!刀神流操剣術、最終奥義…!」
それは、かつて師が遺した呪われし秘剣―――
「や…やめて勇者ぁーーーーー!!」
「うぉおおおおおおおおお!!『一・撃・必・殺・剣』!!」
「ハァアアアアアアアア!!天衣無縫流…『生・殺・与・奪・剣』!!」
ヒュン… ヒュン…
ズバシュッ!!!!
「ぐわぁあああああああああああああああああ!!」
会心の一撃!
大魔王はド派手に血を噴いた。
「…ふむ。」
「ゆ、勇者ぁーーー!や…やったの!?えっ、勝っちゃったの勇者!?」
「盗子…か…」
「う…うわぁあああああん!良かった…良かったよぉおおおおお!!」
泣きながら勇者に飛びつく盗子。
いつもなら一撃で払いのけるところだが、勇者はそうしなかった。
「…フン、約束したろう?“絶対に生きて帰る”と。」
「う、うん!うんうんうんっ!」
「ったく、長い付き合いだってのに…何もわかってないんだな、お前…」
「アハ☆ご、ごめんね!あの時はちょっと、動転しちゃって…」
「いや…そうじゃねーよ。」
「…へ?」
「この俺が、お前との約束なんて…守るわけないだろ…?」
「え…?えっ!?えぇっ!?」
ブッシュウウウウウウウウ!!
勇者も豪快に血を噴いた。
「ゆ、勇者っ!?勇者ぁあああああああああああ!!」
「グハッ!ガハガハッ!くっ、おのれぇ…!この僕に…こんな深手をぉ…!」
崩れ落ちる勇者と入れ違いで、最初に倒れた大魔王が立ち上がってきた。
かなりの重傷ではあるものの、残念ながら致命傷ではなかったようだ。
「チッ、あと一歩ってとこか…チクショウ…め………」
「ゆ、勇…し…死んじゃダメだよ死なないでよ!ねぇ目ぇ開けてよ!ねぇ!?」
チッ、これが『呪剣』を使いし者の末路か…もう目も開かん…
「嘘…だよね?アハッ、嫌だなぁ勇者君こんな時に!そんな趣味の悪い…冗談…」
オイオイ、呆けてる場合じゃないだろ賢二。あとはお前しか…いないんだぜ…?
「勇者君…眠いの?おねむさんなの?」
すまんな姫ちゃん…今日のは少しばかり、永い眠りになりそうだ…
「イヤァアアアア!死んじゃ嫌だよぉおおお!うわぁああああああああん!!」
盗子…
ウザッ…
“涙は女の武器”とはよく言うが、お前のは“凶器”だろウゼェ…
ウザすぎて死にづれぇよ…泣くんじゃねぇよクソ盗子…
ビビッて、悩んで、ヘコんで、キレて、泣いて、はしゃいで、喜んで、笑って…
どうやら俺は…
俺は、そんなお前が―――
勇者は死んでしまった。