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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
187/196

【187】最後の聖戦(18)

最上階『終焉の間』を目前に、壁を突き破ってきた強烈な一撃。

姫ちゃんを守ることに必死で隙だらけだった俺を勝手に庇い、重傷を負いやがったのはなんと…大バカ糞盗子だった。

確かにあのままじゃ俺が食らっていたが、盗子ごときに借りを作るなんて屈辱だ。


「チッ、クソがぁ…!」

「ま、待ってて盗子さん!いま僕が回復を…」

「…待て賢二、その必要はない!」

「なっ…ふ、ふざけるなよ!!この状況でまだ…」


 慌てて回復しようとする賢二を、勇者が止めた。

 さすがの賢二もこれにはキレた。

 しかし―――


「こいつを使え、『治癒石』だ。最高級品だしな、これ抱いて寝てりゃあ死にはしないだろう。お前にはまだ役目があるんだ、無駄に時間を使うな。」

「え…ゆ、勇者君…(らしくない…)」


 なにやら勇者の様子がおかしい。


「『魔道石』もあるぞ、使っとけ。MPが無きゃ貴様なんぞ糞の役にも立たんのだからな。」

「い、いつの間にそんなアイテムまで…?」

「オイオイ、ここは『城』で俺は『勇者』…となれば、宝箱を漁るのが当然の礼儀だろう?」

「えっ、いつそんな余裕が!?そして礼儀ではないと…」

「あとは治癒石が残り三つ…皆で使うぞ。万全で挑まねば話になるまい。」

「治癒石…魔道石…からのぉ~?」

「すまん姫ちゃん。宝箱に食い物は無いし、あっても食っちゃ駄目だ。」

「ぷぅー。」

「この状況で食べ物を欲するとかさすがだね姫さん。僕なんか『墓石』しか浮かばないや…」


 ある意味賢二もさすがだ。



「さて…じゃあ行くか賢二、姫ちゃん。中の親父さえ生きてりゃ、少しは希望が見えるんだが…」

「ま…待っ…うぐっ、行かないで…勇者ぁ…!」


 治癒石の効果が早速出たのか、盗子が目を覚まし、勇者の袖を掴んだ。


「だ、駄目だよ盗子さん喋っちゃ…!」


 賢二が止めても盗子は手を放そうとしない。

 するとその時、盗子には目を向けず勇者は言った。


「…お前はこれまで、俺の前で二度死んだ。二度も死んだんだ、盗子。」


「……え…?」


 勇者が何を言っているのか、盗子にはわからなかった。


「最初はカクリ島で黄錬邪に血を抜かれすぎて、次は『狂戦士』のオトコ女に首を飛ばされ…まぁそれはロボだったわけだが。」

「あ…え…それが…?」

「あんな…あんな醜いモノを、三度も俺に見せるなんて許さん!!」

「え…ええぇっ!?」


 あんまりな理由だった。


「…ま、のんびり寝てろ役立たず。俺は絶対に勝って、絶対生きて帰って来る。」

「だ、駄目だよ行っちゃ…!この世に“絶対”なんて無いもん!もし…もし死んじゃったら…!」

「ん?あるさ、“絶対”は…ある。」

「無いもん!!」

「いや、だからあると…」

「無いってば!!」

「絶対にか?」

「絶対にだよっ!!あっ…」

「フッ、一つあるなら…いくつあっても不思議じゃあるまい?」

「い、今のは言葉の」

「もう喋るな盗子、それ以上喋ると…」

「そ、そうだよ盗子さん!喋ると傷口が…!」



「俺は、“三度目”を見ることになる。」



 盗子は一切の抵抗をやめた。




ウザい盗子を黙らせ、体力も完全に回復した俺と賢二、そして姫ちゃん。あとはもう…先に進むしかない。


「さて…じゃあ行くか。『終焉の間』…この扉を開けたら、そこは地獄だ。無事に帰れる当ては無いが、平気か?」

「ハンバーグセットで…手を打つよ。」

「生きて帰る気マンマンだね姫さん。さすがだなぁ…」


ギィイイイ…


 勇者は扉を開けた。

 すると遠くに、父の背中が見えた。


「お、親父…貴様まさか…」


「ん?」

「元気か!やっぱり元気かよ化け物め!たまには死にかけてみせろよ!」


 “生きてるかと思いきや血を噴いて倒れる”みたいなよくあるパターンかと思いきや、特にそうでもなかった。


「フッ、いやぁ~…さすがの私も、ぼちぼち…限界だよ…うぐっ!」

「ま、まさか…!」


 父は限界が近そうだ(シリアスモードの)。


「アチャ~、来ちゃったかぁ~。やっと色々と慣れてきたのにな~。」

「おっと、どうやらお困りのようだな大魔王。貴様の命もここまでだぜ!」

「ま、アリが何匹増えようと…何の影響も無いけどね。」


 どうやら大魔王はまだまだ元気そうだ。


「あ゛ん!?なんだと貴様!そりゃ女王アリか働きアリかどっちだ!?」

「お、落ち着いて勇者君!アリの時点で大差ないから!」

「気を付けろ勇者。特に、我が『三つ首の矛』を砕いたあの剣は…侮れんぞ。」

「あ~、まるで僕のために創られた感じだよね、この剣…『闘神の剣』って。」


 大魔王の剣は見るからに攻撃力が高そうだが、勇者は見た目よりもその名前に反応した。


「む?闘神の…なぁっ!?それがさっき絞死が言ってた“神の創った剣”だって言うのか!?」

「そ、そんなぁ…!見つからないころか、敵が持ってるとか…」

「ああ。あんな感じで名前が出たのは、後で手に入ることの伏線だと思ってたんだがな…やれやれだ。」


 勝ち目がさらに無くなった感が。


「あ、絶望しちゃった?そうだよね~、キミ達は確かに虫レベルだもんね~。だけど、そっちのお父さんは別格…。ちょっと、邪魔だねぇ。」

「邪魔か…確かにそれは同感だな。」

「気のせいか、父さん意味が違うように聞こえるぞ息子よ。」


 ちっとも気のせいじゃなかった。


「とゆーわけで!邪魔な大人には…退場してもらうとしようかなっ!」


 父が軽くショックを受けている隙をついて、大魔王は巨大な魔法陣を展開した。


「なっ!?しまっ…勇…」



カッ!!



 大魔王は〔永劫楽園〕を唱えた。


永劫楽園ネバーランド

 大魔王:LEVEL50の魔法(消費MP9999)

 子供だけしか入れない超強力な魔法結界。心が子供でもオッサンならアウトだ。



「くぅ、眩し…あれ!?勇者君、お父さんはどこに!?凱空さんは!?」

「なっ…いない!まさか死んだのか親父!?くそっ、まだ遺産の手続きが…!」

「えっ、まずそこなの!?」

「いや~、ちょっと追い出しただけだよ。僕が生み出したこの領域には、子供しか入れない。」


 なんと、最大戦力である勇者父が戦力外となってしまった。

 マジーンも子供ではないので、仮に復活しても参戦できない。


「チッ、さっき結界張られた腹いせに張り返したってわけか?フザけやがって。」

「ど…」

「“どうしよう勇者君”禁止な賢二?どうしようも何も、こうなったら俺らだけでやるしかないだろう。」

「ド…」

「『ドーナツ』も後にしてくれ姫ちゃん。」

「さーて、じゃあさっさと終わらそうか。もうキミらみたいな虫には、何の興味も無いしね。」

「ほぉ…斬新な冗談だ。冗談にしては死ぬほど笑えんがな。」


 大魔王がゆっくりと近づいてくる。

 勇者は剣を構えた。


「え?なに、まさか抵抗しようっての?無駄だよ?」

「かもな。だが…黙って殺されてやるほど、お人よしじゃなくてなぁ!賢二っ!」

「わ、わかってる!援護は任せて!」

「姫ちゃんっ!」

「わかってるよ!団子は任せて!」

「いや、韻を踏んでる場合じゃ…」


キィイイイン!


 大魔王の攻撃。

 賢二は〔超防御〕で攻撃を防いだ。


「ま、間に合った…!良かったぁ…!」

「へぇ、よく受けたね。おフザけだけが取り得の雑魚達じゃなかったんだ?」

「フン、舐めるなよ?かつて『深緑の泣きチワワ』と蔑まれたこの賢二を!」

「かえって舐められるからやめてくれる!?というか発信源キミだよね絶対!?」


キン!チュィイン!


「ひ、ひぃいいい…!もうやめてぇー!」

「ったく、なんだよヤケにせっかちじゃないか大魔王。前までの余裕はどこへいった?」

「遊ぶのやめたんだよね。なんか…誰かを殺したくて、ウズウズしてるんだ。」

「フッ、なるほどな。まぁわからんでもないが。」

「わかっちゃ駄目だからね立場上!?冗談だよね勇者君!?」

「やれやれ、どうやら『断末魔』のせいで完全に覚醒しちまったっぽいな。このままだと…」


ガキン!ガガガキィイン!


「チッ、防戦一方だとMPが尽きて終わりだぞ賢二!わかってるのかオイ!?」

「わ、わかったよ!じゃあ今度は僕が…!」


 賢二は〔氷点下〕を唱えた。

 だが効果が無かった。


「僕が…何だって?」

「諦める番かなぁと…」


 賢二は一足先に諦めた。


「ん~、防御魔法はまあまあだったけど、攻撃は無印さん…かつての大賢者に比べるとだいぶ落ちるねぇ。ま、当たり前かぁ。」


 珍しくもったいぶらずに放った賢二の攻撃魔法を、余裕で弾いた大魔王。

 このままの調子で続けても勝てそうにない。


「ふむ、やはり普通にやっても勝ち目は無さそうだ。こうなったらやはり…“あの技”しかないな。」


 勇者は、かつて海を割った強力な合成魔法剣『断海モーゼ』を放つ気だ。

 本来なら魔法使いが三人必要な大技だが大丈夫か。


「あ、あの技って勇者君…でもそれじゃあ…!」

「諦めるな!人数が足りないくらいで…」

「いや、姫さんに通じてないかと。」

「大丈夫、まだまだ食べれるよ。」


 1ミリも通じてなかった。


「ひ、姫ちゃんは“炎系”を頼む!賢二は“氷系”と“風系”、両方こなせ!俺は剣技に集中する!」

「えー。まーだ何かやる気なの~?もう遊ばないってさっき…」

「フン!貴様の敗因は、俺を…いや、“俺達”を…舐めすぎたことだ!」


 勇者は剣を構えた。

 剣は“炎”“氷”“風”の魔法を纏っている。


「うわっ…!?そ、その強烈な波動は…!?」

「や…やれと言った俺が言うのもなんだが、一発で発動するとか…!オイ賢二、お前姫ちゃんに何を言った…!?」

「えっと、トウモロコシを持たせてみたんだ。」

「ふぁいやー!」


 焼ける前に消滅するが大丈夫か。


「さぁいくぜ!食らえ大魔王!海を…いや、未来をも斬り開く究極の魔法剣…『断海』」!!」


 勇者、賢二、姫による必殺の一撃!


ズゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 灼熱の暴風が駆け抜けた。

 凍てつく吹雪が駆け抜けた。




シュゥウウウウウ~~…


「ハァ、ハァ、当たった…よな?アレが効いてないようなら、もう後が無いぜ。」

「そ、そんな不吉なこと言わないでよ勇者君。いくらなんでもそんな…」

「ッ!!」



「さすがの僕も、ちょ~っと効いちゃったかなぁ…ムカつく。」



 残念ながら、大魔王は生きていた。

 さすがにダメージは負ったようだが、上手く避けたらしく致命傷には至っていないようだ。


「フッ、やれやれ参ったぜ…。来る前にちゃんとセーブしてくるんだったな…」

「ぼ、僕は嫌かな…同じ悪夢何度も見るの…」


 絶望的な状況。

 勇者は少し考え、そして賢二に尋ねた。


「…オイ賢二、一つだけだが名案があるぞ。乗るか?」

「えっ!ホントに!?も、もちろん乗るよ!あっ、“死ね”とか無しね!?」



「姫ちゃんを連れて…逃げろ。」



 勇者は死ぬ気だ。

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