【186】最後の聖戦(17)
かろうじて女神を退けたかと思ったら…次に現れたのは親父とタメ張る実力を持つ強敵、帝雅。
足手まといどもはなんとか追い出したが、さて…これからどうしたものか。
「ふむ、この気配…どうやら残るは大魔王だけのようだね。いやはや、まさかの大健闘だ。」
「さっき暗殺美に、お前は親父が相手してたと聞いたが…奴は死んだのか?」
「…残念だが生きているよ。敵ながら、尊敬に値する強さだよ彼は。」
「ならばなぜ、貴様は生きてここにいる?しかもタケブ大陸からの遠距離を…どうやって?」
「それは、私が宇宙で手に入れた『瞬間転移装置』…その力のおかげさ。」
「フン、なるほど。勝てんから機械に頼って逃げてきたってことか、雑魚めが。」
「ち、違う!戦略的撤退だ!あえて距離をとったのだ!これも作戦なのだよ!」
「なるほど、遠く離れ…会えない時間が愛を育てると。」
「言ってない!!」
なんとなく勇者の方が余裕がありそうだ。
「さて…じゃあやろうか帝雅。チンタラやってると大魔王が来ちまうしな。」
「この私とやり合うつもりか?フン、身の程を知るがいい。」
「貴様ほどの強者が、巧妙に物陰に隠れていた…つまり貴様の方こそ瀕死ってことだ。俺がこの機を逃がす愚か者だとでも?」
「…どうやら、父親には似なかったようだ。だがデカい態度の割に魔力が微塵も感じられんが…?」
「まぁこっちも限界超えててな。だが安心しろ、魔力の分だけ出力は落ちたが…磨き上げた剣技に遜色は無い。」
「そうか…まぁいい。死した息子を前に、狼狽する彼を討つというのも一興か。」
「ほぉ、それは面白いな。ならば俺はその逆バージョンといこう。まぁ貴様が死んでアイツが泣くかは知らんがな。」
「貴様、ことあるごとに塔子を…まさか」
「大嫌いだ!!」
「それはそれで殺す!」
「フッ…いくぞ帝雅。貴様の持つ負の遺伝子は、この俺が絶やしてくれる。」
つまり次は盗子の番だ。
そして帝雅とのバトルが始まった。相手にとって不足は無い…というかコイツ、思った以上に強い。動くたびに血しぶきが舞うほどの重傷を負っている男の動きじゃない。
「うぉおおおお!死ねぇええええ!『千刀滅殺剣』!!」
「甘いわぁ!『帝王青龍斬』!!」
ガキィイン!
「ふぅ~…やるな貴様、親父が一目置くだけある。」
「フン、こちらのセリフだよ。とても子供とは思えぬ動きだ。」
「やはり『刀神流』だけではキツいな…。ま、所詮は変人が生み出した流派か。」
「おや?なんだね、貴様は彼から『縦横無尽流』を継いではいないのか?」
「いや?一戦交えた時にいくつか見た程度だ。アレは教育のできん親でなぁ。」
「それは見ていればわかる。」
「さて、どうしたものか…。今の技が通じんとなると、もう八方塞がりだ。」
「ならば諦めるがいい。もはや正攻法で、私に勝つ手段など無い。」
「なに…?オイ貴様、今なんと言った?」
「フフフ、何度でも言ってやろう!貴様に、勝機などない!」
そうか、こだわるだけ無駄か…“正攻法”。
論点が違った。
この俺としたことが、知らぬ間に正攻法で戦うことに執着しすぎていたようだ。
ただでさえキツいってのに、普通にやって勝てるわけがないじゃないか。
むしろ目指すべき道は“邪道”…手段なんて関係ない。要は勝てばいいんだ。
「礼を言うぞ帝雅。貴様は大切なことを思い出させてくれた。」
「大切なこと…だと…?」
「さぁいくぞ!食らえ伝説の必殺剣、『問答無用剣』!!」
「むっ!?その太刀筋は…」
勇者はグーで殴った。
「ぐわっ!?おのれ、ここにきて卑怯な…!」
「おっと、足元に気をつけろ?もう踏んでるからな?」
「じ、地雷!?いつの間に…」
ドガァアアアアアアン!
“邪道”というか“外道”だった。
「フッ、どうだ帝雅よ?随分と辛そうだが、そろそろ楽になりたくはないか?」
「ゼェ、ゼェ、ふざけおって貴様…!絶対に許さんぞぉおおおおおおお!!」
「やはり、あの程度じゃトドメは刺せんか。必殺の一撃が必要のようだな。」
「殺す!ブチ殺してくれるわぁあああああああ!!」
帝雅は全力を解き放った。
「キレたか…いいだろう、俺もぼちぼち終わりにしたいと思っていたところだ。」
「無駄だ、貴様の剣は見切った!食らえ我が最終奥義、『帝王朱雀葬』!!」
「さらば帝雅、あの世へ帰れ!『十字故郷』!!」
「なっ!?そ、その軌道は『縦横無尽流』…じゃ、ない!!」
ザシュッ!
「ぐわぁああああああああ!!」
「だから親父の流派は知らんと言ったろう?まぁ『千刀滅殺剣』…今のもなかなかの技ではあるがな。」
「グフッ…お、おのれ…」
「どうやら最初から、戦える体ではなかったようだな。感謝するぞ帝雅、おかげでまだ俺にも戦いようがあることがわかったし…なかなか得るもの多き一戦だった。いま楽にして…」
「フ…フフフ…フハハハハハ!」
「む?なんだ貴様、気でもふれたか?」
「わ、我が『帝王朱雀葬』の初弾はフェイク…敵を葬るのは、背後からだ。」
「キュェエエエエエ!」
炎の鳥が無防備な勇者を襲う。
「しまった、油断し…」
ドドォーーーーン!!
勇者は不意を突かれた。
だが、攻撃は謎の影に防がれた。
「ゼェ、ゼェ、な、なんとか…間に合ったか…!」
なんと!遠くにいるはずの父が現れた。
「お、親父…!?」
「おぉ、勇者…無事で…ゼェ、ゼェ、なにより…だ…」
「馬鹿なっ!貴様は確かに、私がタケブ大陸に置き去りに…!ど、どうやってこのメジ大陸まで…!?」
「は、走って…!」
「走って!!?」
真の怪物が現れた。
「チッ、やれやれ…。貴様ごときに借りを作るハメになるとはなぁクソ親父。実にムカつくぜ。」
「す、捨て身で助けた結果がコレとは…」
「フ…フフ…やはり最後まで、最も邪魔だったのは…キミだったか、凱空君…」
呆れたような笑みを浮かべる帝雅。
どうやら自らの死を悟ったようだ。
「長き因縁もこれまでだな帝雅よ。だが最後に一つ、悲しい知らせがあるんだ。」
「む…?」
「お前は、盗子の父じゃない。チュウだけでは…子供はできんのだよ。」
「なっ…ば、馬鹿な!そんな…ママンの話と違う!」
「やはり驚いたか…。だが私はそれ以上に“ママン”に驚いたぞ。」
「貴様は馬鹿か?子ってのは男と女が(ピーー!)して(バキューン!)して…」
「ちょ、ちょっと待て勇者!確かにそうだがド直球にも程があるぞ!」
死に際の人間に鞭打つ勇者。
帝雅は現実を受け入れられない様子。
「そんな…そんな馬鹿なことが…。ならば、私は…何のために…」
そんな帝雅を眼下に、勇者は剣を振り上げた。
「フッ…さらばだ帝雅。全ての愛に見放され、絶望の果てに死ね。」
「塔子…皇子…うわぁあああああああああ!!」
ドスドスッドスドスドスッ!!
実に報われない人生だった。
女神に続き、帝雅をも葬った俺。つまりこれで残すは大魔王のみとなったわけだ。
親父もいるし、なんとなく勝機も見えてきた気がするが…その前に一つ、気になることがある。
「オイ親父、さっき盗子は帝雅の子じゃないと言っていたが、どういう意味だ?」
「ふむ…真相は知りようもないがな。もしかしたらあの子は…盗子は、“神の子”なのやもしれん。」
「む?何言ってるのかよくわからんな。冗談は息子以外の全てにしてくれ。」
「まさか存在全てを冗談扱いされるとはな…」
だが意外と違和感は無い。
「神の子って言やぁ、旧世界の神話に出てくるアレだろ?あまりにも壮大すぎるだろ。」
「いや、お前の人生もよっぽどだと思うがな。」
「フン…まぁいい、いつか解剖でもすりゃわかるだろ。ところで親父、これからどうする?」
「いま親として人として聞き捨てならないセリフを聞いた気がするが…とりあえず忘れよう。大魔王の件か?」
「ああ。かくかくしかじかで敵は更に強大になっちまった。勝てるか?」
「ん?フッ…お前はこの私を、誰だと思っている?」
「そうか…ならば引き返そう。奴の首は貴様にくれてやる。手柄は俺だがな!」
首だけもらっても困るが。
~大魔王城最上階:終焉の間 前~
「というわけで、早速挑もうと思う。どうだ親父、死地へとおもむく心境は?」
「フッ、とても新鮮な気分だな。死を覚悟したのは、そうだなぁ…母さんと喧嘩した時以来か。」
「“夫婦喧嘩”のレベルじゃないなオイ。」
状況が状況な割に、なぜだか余裕がありそうに聞こえる親子の会話。
と見せかけて、やはり今回ばかりはそのままではいられないようだ。
「…いくら私といえど、今回ばかりは命の保証は無い。お前の場合なおさらな。」
「とはいえ行くしかない。命の心配なんて、してる場合じゃないんだ。」
「そうだな…だが何も二人して、死ぬことはない。」
「む…?ガハッ!」
父は勇者に当て身を食らわせた。
「き、貴様…何のつもり…」
「もう限界だろう?お前は休んでいなさい。」
「いや、首筋をトンッで気絶とか…現実的じゃないぞ…。下手すりゃ、半身不随とか…」
「そこか。まさか物語でよくある展開ごと否定してくるとはな。」
「それに貴様とて…万全ではないだろう…?俺の目は節穴じゃ…」
「たまには父を信用しろ。なぁに、これでも人類最強と言われた身…簡単には死なん。」
「く…クソ親父…!」
「そうだ勇者、この戦闘から帰ったら…一緒に風呂でも入ろう。行ってくる。」
父に豪快に死亡フラグを立てた。
その頃、勇者に逃がされた賢二達は…見事に敵に囲まれていた。
「よーし絶対に逃がすなー!撃って撃って撃ちまくれぇーー!」
ズダダダダダダン!
物陰に隠れ、敵兵の銃撃をなんとか凌ぐ一行。
疲労困憊な状態で倒せる人数じゃない。
「チッ、なんで来た時より敵が多いのさ!?フレックスタイム制勤務かさ!?」
「ど、どうしよう…。この体で、これだけの人数相手にするのは僕ちょっと…」
「弱音吐いてる暇があったら頑張ってくれ賢二先輩!早く逃げないと師匠が殺しに来るんだー!」
「うん。確かに、突っ切るしか…なさそうだね。」
退路の方が断然ヤバい。
「あ、あのさみんな!やっぱ…戻らない?ここまで来て逃げるとか…ねぇ?」
「ハァ!?アンタ何言ってんのさアホ盗子?殺されたいなら勝手に砕け散れさ!」
「ち、違うもん!勇者は…勇者は、そんなことしないもんっ!いや違っ、するけども!でも…まぁ…うん、そうだけど…」
盗子は途中で心が折れた。
しかしその時、絞死から助け船が。
「でも確かに、追ってくるにしては遅すぎますね…。もしかしたら私達は、騙されたのかもしれません。」
「えっ…じゃあ、もしかして勇者君は…一人で…!?」
「くっ、一人で美味しい所をかっさらうとか…舐めた奴さ…!」
「だったら、戻ろうよ。」
「姫…!だ、だよね!?みんなで戻…」
「私もしたいよ…美味しい思い。」
姫は誤解している。
そんなこんなで、勇者のもとに戻ることにした一同。
だが敵兵の数は凄まじく、それもまた困難だった。
ダダダン!ズダダダダン!
「くっ、どうしよ…戻ろうにも、マシンガン持った敵に背を向けるのはそれはそれで…」
「…そうだね。じゃあ僕が」
「だったら仕方ないさ。私が残ってこの雑魚どもを食い止めるさ感謝しろや。」
「あ、暗殺美さん…!?」
「では私も残りますよ。能力的に、大勢を煙に巻く方が得意ですし。」
「私も残るぜ!行ってもどうせ足手まといになって師匠を困らせるんだー!」
暗殺美、絞死、土男流が足止めを買って出た。
「わかった…お願いね。行くよ盗子さん姫さん!お願い美咲さん!」
「クエ!」
賢二らは再び上の階へと向かった。
「良かったんですか…?好いた人と一緒に行かなくて。」
賢二の背を横目に、絞死は暗殺美に尋ねた。
「…フン、マセたこと言うのは十年早いのさこのチンチクリンめ。」
「フフッ、だったら生きなきゃいけませんねぇ…あと十年。」
「よっしゃー!いっくぜぇーーー!!」
ところでチョメ太郎はどこだ。
こうして二手に分かれた賢二達は、数分後…父の当て身で気を失い、扉の前で倒れている勇者を見つけたのだった。
~大魔王城最上階:終焉の間 前~
「ゆ、勇者!起きてってば勇者!ねぇ!?」
「む…むぐぅ…ハッ、ここは…!?」
盗子に揺り起こされ、勇者は目を覚ました。
「あっ!良かった気づいた!」
「…配役を変えてTAKE2で。」
「誰がするかっ!寝覚めからそれって失礼にも程があるよ!」
仮眠のおかげか、勇者は少し回復したようだ。
「えっと、一体何があったの勇者君?誰にやられたの?」
「親父だ。恐らく奴は一人…中に入ったのだろう。勝手なことを…」
「えっ!勇者親父が来たの!?じゃあなんか勝ち目が見えてこない!?」
「ま、全員で挑めばあるいは…な。つーわけで、みんな行くぞ!人手が足りん、すまんが今回は姫ちゃんも…」
「ちょっと待って勇者君、まだお湯が」
「悪いがお茶は後だ!今は…」
ピカッ!
その時、ヤバそうな光線が壁を突き破ってきた。
「くそっ!危ない姫ちゃーーーーーん!!」
勇者は姫を突き飛ばした。
その勇者を、盗子が突き飛ばした。
「なっ…?」
ドシュッ!
「ぁ…ぅ……」
…ドサッ
「と…盗子…?」
盗子は急所を貫かれている。