表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
184/196

【184】最後の聖戦(15)

 呪いの力で一時的に生真面目になった姫の口から飛び出した、衝撃の真実…なのかどうかは不明なセリフ。

 だがとりあえず賢二の動揺っぷりは尋常じゃなかった。


「ひ、姫さんが…僕を差し置いて『賢者』に…姫さ…あ、そうか…“姫ちゃん”の“ゃ”が…きっとそうだ…」

「落ち着くんだ賢二先輩!“ゃ”の存在は多分そこまで大きくないんだー!」

「そ、そうさ気にすんなさ!『賢者』の魔法連発できるアンタだって、もうきっと『賢者』さ!」

「てゆーか“ちゃん”は名前じゃないしね!?」

「そうかな…そうなら…いいな…」


 賢二はとりあえず現実から目を背けることにした。


「じゃあ、いっくよー盗子ちゃん!二手に分かれて左右から挟むよ!」

「え、あっ、うん!や、やってみるよ!」

「こう、パカッと…」

「一人で左右から!?アンタ今ホントに正気なの!?」


 不安でしかないが、今は信じるしかない。


「『賢者』ってことは魔法戦か…それも面白いね。そんなに得意じゃないけど僕もそうしよっと。」


 正面から迎え撃つことにしたらしい大魔王。

 そんな余裕あふれる敵に対し、まず姫から仕掛けた。


「最初っから全力だよー!むー!〔集中砲火〕!!」


〔集中砲火〕

 賢者:LEVEL20の魔法(消費MP200)

 連射砲撃系最上級魔法。不倫とかで炎上した人に向かってよく放たれる。


ズゴォオオオオオオオオン!!


 盗子への配慮は無い。



 こうして大魔王vs姫&オマケの戦いが始まった。

 不安要素てんこ盛りだが大丈夫か。


「だ、大丈夫かなぁ姫さん…相手は『大魔王』だけど…」

「多分平気。戦うのを楽しもうっていうあのヌルさは、付け入る隙アリだよ。」


 賢二は不安そうだが、妃后には勝算があるようだ。


「確かに、奴には強さとは別のヤバさみたいなのはあんま感じない気もするさ。」

「マズいのはね、“戦い”のその先…“死”を求める者…つまり、彼の方だよ。」


「ほほぉ…この俺の方が上と見るとは、なかなかに良い目をしている。」


 勇者(断末魔)はまんざらでもなさそうだ。


「た、確かに勇者君の方が好戦的で危険っぽいですけど…どうするんですか?気絶させるとか、そんな手加減なんてしてる余裕は…」

「もちろん殺す気でいくのさ。むしろこの期を待ってたと言ってもいいさ。」

「それはイヤなんだー!師匠が死んだら私は生きていけないんだー!」

「じゃあどっちにしろ生きてけないさ。素直に諦めて死んどけさ。」

「まぁ殺さない方法も、あるにはあるけど…」


 何か案があるようだが歯切れが悪い妃后。

 どうやらリスクがある方法のようだ。


「あ、わかってます!時間が…必要なんですよね?だったら僕が…!」

「アンタは稼がなくていいのさこの甲斐性無しめ!わ、私に任せとけさ!」

「うぉー!なんか“ヒモ”みたいだぜ賢二先輩ー!」


 似合うっちゃ似合う。


「フン、甘いな年増!そんな時間をくれてやる奴がどこに…」

「え、要らないよ?」

「む?ノータイムで俺を討つ手があると?フン、ハッタリも大概にするがいい。」

「さぁ、今から退魔術で『断末魔』を追い払うよ~。みんな、散って!」

「あん?なんだ、まだそんな茶番を続ける気か?馬鹿も休み休み言えぶっ!!」


 鉄拳が顔面にメリ込んだ。


「ぐっ、なぜ物理攻撃…しかもなぜそんなに強力なんだ…!」

「さーて、久々に本気でいくよー!む~!〔悪霊退散〕!!」


〔悪霊退散〕

 退魔導士:LEVEL85の魔法(消費MP500)

 あらゆる悪霊を祓う魔法。家賃を滞納された大家さんもたまに似た技を使う。


ピッカァアアアアアアアア!!


「こ、これが退魔の…!なんて神々しい光かさ…!でも光にしては妙に遅いさ。こうして話してる時間がある時点で本来ありえないさ。」


 よくある演出だから気にしちゃ駄目だ。


「フン、遅すぎるわ!この程度じゃ避けるだけじゃ物足りんな、こうしてやる!」

「うぉ!?うわぁー!何するんだ師匠ー!?」


 勇者は土男流を盾にした。

 だが魔法は土男流をスリ抜けた。


「…お?」

「チッ、そうか善人には効かんのか…!だが、まだ間に合う!」


 ミス!勇者は紙一重で攻撃を避けた。

 暗殺美も念のため避けた。


「フッ…フハハ!残念だったなぁ!おっと、第二波は撃たせんぞババア?」

「え?そんな必要…無いけど?」

「なっ…!?」


 なんと!背後からまた来た。


「ハァ、ハァ、は、〔反射鏡〕…!」

「け…賢二、貴様ァアアアアアアアアアアア…!!」


チュドォーーーーーーーン!!


「ぐわぁああああああああああ!!」



 賢二の咄嗟の機転により、 跳ね返された妃后の魔法は勇者に直撃。

 その少し前、姫&盗子vs大魔王の一戦は―――


「ふ~ん…意外とやるねぇキミら。全然眼中になかったけど…ここまで来ただけのことはあるってわけだ。」

「ば、化け物すぎるよ!今のを全部防ぐとか、もうどーすればいいわけ!?」

「でも怖くはないから大丈夫だよ。なんとかなるよ。」

「…ヘェ、僕が怖くない?言うじゃんキミ。じゃあキミが怖いモノって…何さ?」

「んー、おまんじゅう?」

「何それどんな落語!?てゆーかシリアスモードでもそのノリなのアンタ!?」

「ま、いいけどね…楽しませてくれるなら。」

「私が頑張ってアナタを倒すよ。私のお得意魔法で…あ、後ろ…」

「ハァ?やれやれ…興覚めだよ。そんなくだらない引っ掛け…えぇっ!?」


「ぐわぁああああああああああ!!」


 なんと!背後から勇者が飛んできた。


「ちょ、わっ、わぁあああああああああ!!」


チュドォーーーーーーーン!!




 妃后の魔法が炸裂し、とばっちりを食った大魔王と共に壁をブチ抜いた勇者。

 かなりの衝撃は伝わってきたが、ノックアウトとはいかず…勇者は自力で這い出してきた。


「ゲホッ、ゴホッ!チッ、よくわからんがえらい目に遭ったぜ…。一体何がどうした?」

「ゆ、勇者君なの…?それとも、まだ…」

「何をジロジロ見てやがる賢二?両目の水分をストローで吸い尽くすぞコラ?」

「だからどっち!?」

「ゆ、勇者ー!正気に戻ったの勇者!?そ、それとも…」

「何を騒ぐ盗子?ドラム缶満タンの瞬間接着剤を豪快にイッキさせるぞコラ?」

「やっぱどっち!?」


「うぉー!姫ちゃんはっけーーん!!」


 勇者の方だった。



目が覚めると、俺はなぜか壁にメリ込んでいた。しかも大魔王と一緒にだ。

これは一体どういうわけだ…と悩むのも面倒なので、適当に脳内で補完しよう。


「む~…察するに、お義母様の魔法で『断末魔』を追い出した…ってとこか?」

「察しが良すぎてなによりだよ。気分はどう勇者君?」

「…ふむ、まあ…な。」

「オイオイどうしたよ勇者?いつになく歯切れが悪ぃじゃねぇか。」


 復活したマジーンが現れた。


「む?今ごろ首が繋がったのかよ使えん雑魚め。また飛ばしてやろうか?」

「ハハッ、舐めんなよオイ?そう簡単に飛ぶほど俺の首は(ビュッ!!)


 また飛んだ。


「う、うぉー!屋根まで飛んだんだー!」

「壊れて消えた?」

「シャレんなんないからやめてよ姫!」


 マジーンの首を再び飛ばした相手…それはもちろん、大魔王だった。


「………」


 ゆっくりとこちらに向かってくる大魔王。

 その見るからにパワーアップした様子に、肩を落とす妃后。


「ハァ~…やっぱり、こうなっちゃうよね…。まぁ背に腹は変えられなかったんだけどねぇ…」

「ノーリスクそうに見えて、さっきママさんが妙に渋ってた理由がわかったさ。勇者を開放するってことは、つまり…そういうことかさ。」

「チッ、厄介だな。そうか、取り込みやがったのか…あの『断末魔』を。」


 大魔王の全身からは、見るからに邪悪なオーラがほとばしっている。



「怯えなくていいよ…全員、すぐに死ぬから。」



 凄まじい殺気が、辺りを支配した。




終わった。もう確実に終わった。これが“絶望”という感覚なのだろう。

ただでさえ勝ち目の薄い化け物だった奴らが、手を組んじまったってわけだ。

“大魔王+断末魔”…いや、“大魔王×断末魔”とするのが相応しいかもしれん。

最悪の方程式だ。一体どっちが“攻め”でどっちが“受け”…駄目だ落ち着け俺。

ここで冷静さまで失っては、完全に終わってしまう。それだけは避けねばならん。

にしても、大魔王の奴…随分と無慈悲なキャラに変わっちまったもんだぜ。


さて、もうじき完成かな…『マジーンの繊切り』。


 モザイクが必要な光景だった。



不死身のマジーンがよほど邪魔なのか、念入りに始末している大魔王。

あれだけ細切れにすれば、いくら死なんといってもこの戦いのリタイアは必至だ。


「あ、あのさ姫ママ…念のため聞くけど、実はコレも作戦の一部だったりってことは…」

「唯一の弱点だったヌルさも消えて、これで“完全体”だね。やっちゃったね。」

「いや、“テヘッ☆”って顔されても困るさ!そんなお気軽な状況と違うさ!」

「ま、責任は取るよ。だから姫ちゃん…ここでお別れだね。」

「ほぇ…?」

「私が封印するよ。命を…全魔法力を放出すれば、多分なんとかなるかな。」


 どうやら妃后は、命懸けで敵を封じるつもりのようだ。


「えっ!もしかして、アイツを永久封印できちゃうような大技とかあんの!?」

「ううん、もって数時間かな。だからその間に…できるだけ遠くに逃げてね。」

「い…イヤだよお母さん!」

「姫ちゃん…」

「お腹…すいたよ…!」

「ひ、姫ちゃん…この期に及んでアナタ…。ママ、人生最大の衝撃受けたよ。」

「お母さん、どこか行っちゃうの…?離れ離れはもうイヤだよ…?」

「姫ちゃん…」


「…ならばまずは先に、俺が時間を稼ごう。もう少しだけ…一緒にいるがいい。」


 二人を背に立つ勇者。


「ふぅ、これだけ粉微塵にすればもういいよね…さて、じゃあ次にいこうか。」


 マジーンの始末が終わった大魔王。


「オイ賢二、お前は暗殺美と土男流と先に下へ向かえ。雑魚どもが沸いてたら蹴散らして、俺の逃げ道を確保しておくがいい。寝てる絞死は置いてけ、俺が後で背負ってく。」

「わ、わかったよ勇者君!い…生き残ってね!」

「ねぇアタシは一緒にいろってこと!?それとも単に忘れられてるだけ!?」


 戸惑う盗子を残し、賢二達は去っていった。


「てなわけで、この俺が相手をしてやるぜ新生大魔王!かかっ…できればかかってくるな!」

「ハァ…馬鹿なのキミ?時間稼ぎすらできないってのがわからないかなぁ?」

「フン、舐めるなクソガキがー!食らうがいい我が刀神流…ぬっ!ぬぐっ!?」


 勇者は魔神の剣の構えた。

 だが、魔力が無いためサヤから抜けない。


「というわけで、すまんお義母様!あまり時間は稼げそうにない!」



「いい姫ちゃん?これだけは覚えといて。恋はね…“戦争”なんだよ。」

「え、鯉…?」

「そう。ママは初恋逃して死ぬほど後悔したから、アナタは絶対に捕まえてね。」

「初鯉…海とか行けばいいの?」

「え?あ~、そうだね。いろんな所にデートに行きなね。お手手繋いでさ。」

「え、手があるの…?」

「え?あぁ、もちろん他にも手はあるよ。できれば教えてあげたかったけど…」

「色々…深いね。」

「私が見るに、一番の敵は盗子ちゃんだからね。」

「え、盗子ちゃんも狙ってるの?」

「そうだよ?あのテのタイプが実は一番強敵なんだよ。気をつけなね?」

「うん…わかったよお母さん。私、負けないよ。」

「そっか、安心した…。これで…心置きなく逝けるよ。」


 豪快なスレ違いだった。



姫ちゃんのためにカッコ良く頑張ろうと思った俺だったが、『断末魔』が去ったことでまたもや魔力不足に。

時間を稼ぎたかったところだが…これ以上は避けられそうもない。


「つーわけで、もういい加減限界だぞお義母様!状況はいかがだ!?」

「あ、準備オッケー。」

「よし、ならば後は任せた!だが安心しろ…娘さんは俺が幸せに」

「勇者君…」


 姫は潤んだ瞳で勇者を見ている。


「うむ、カステラでいいかな?」

「さすが勇者君、やるね。」

「ねぇ姫ちゃん…今この時くらいはこっちに気を配ってもらえるかなぁ…?」

「お母さん…また会える?」

「え…?う~ん…ま、いい子にしてたら丑三つ時に無言で背後に立つよ。」

「いや、そんなん言われたらグレるぞ普通なら。」


 だが姫は普通じゃない。



「なに、まだ何かやっちゃう気?」


 勇者達の企みに気づき、大魔王が近づいてきた。

 だが―――


「今の僕に…うぐっ、な…にぃ…?」

「チャーンス。まだ『断末魔』を完全に支配できてないっぽいねぇ。今なら…」


 大魔王の隙を突いて、妃后が動いた。


「サヨナラ姫ちゃん…幸せになってね!ハァアアアアアアアアアア!!」


 妃后の全身から激しい光がほとばしった。

 大魔王は避けられない。


「なっ…ぐわぁあああああああああああ!!」




ピッカァアアアアアアアアア!!




 大魔王は光の檻に閉じ込められた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ