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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
183/196

【183】最後の聖戦(14)

「さぁ、とくとご覧あれ!このワタクシの、真の姿を…!」


 盗子の予想通り、女神にも真の姿があるという困った事実が発覚し、益々ピンチな感じの女神戦。

 だがどう考えても、鰤子以上の衝撃があるとは思えない。


「ま、マジで…マジで変身しちゃうの?今より更に強くなるとかアリなの!?や…やめる気ない…?」

「これ以上、時間を浪費したくありませんの。全力で仕留めますわ。」


 当然、盗子の制止など聞く気は無い女神。


「これは…マズいね。」

「姫っ!?やっと起きたのかよ遅いよ!」

「もうちょっと…甘い方がいいよ…?」

「って寝言かよ!幸せな夢見てないで現実の悪夢と向き合えよ!ねぇ!?」


 盗子は姫を叩き起こした。


「むにゅう…ほぇ?あ、おはよう盗子ちゃん。お元気?」

「かろうじてね!『夢絵本』での経験が無かったら確実に死んでるよもう!」


「ハァアアアアアアアアア…!」


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!


 盗子が姫に振り回されている間に、女神は勝手に変身モードに突入していた。


「ゆ、揺れてる…!大気が揺れる程のオーラってどんなだよっ!怖いよぉ…!」

「じゃあ逃げちゃえばいいよ。」

「えっ!?いや、ここまで来といて今さらそれは…」

「キョェエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

「…うん、アリかも。そだよね!無理することないよね!アタシら女の子だし!」


 盗子は現実から目を背けた。


「じゃあ最上階行こうよ。」

「より地獄じゃん!!なんで自分から究極の死地へ!?なにアンタ夏の虫!?」

「勇者君に…会いたいよ。」

「なっ…!?あ、アタシだって!アタシだって会いたいもんっ!」


(ぎゅるるるるる…(腹の音))


 完全にエサ目当てだった。




 というわけで、敵の変身中に逃げるという禁じ手を繰り出した盗子達。

 勇者らのいる最上階を目指すこととなった。


~大魔王城十階:竜王の間~


「ってわけなんだけど、味方がいて良かったよ…!心強いよ暗殺美!」

「チッ…やっと一段落ついたってとこで、もう一戦かさ…」

「ってアタシと!?なんでだよ!こんな極限状態でも敵対するってなんで!?」


 盗子と姫が立ち寄った『竜王の間』では、接戦の末に見事竜神を倒した賢二と暗殺美がへたり込んでいた。


「フン!自分の役目を投げ出しちゃうような奴は敵なのさクソが!死ねや!」

「くっ、ぐぅの音も出ない…!」

(ぐぅ~~…)


 姫は腹の音で応戦した。


「あ、絞死君も一緒だったんだね。無事みたいで良かった。」

「うん、そうなんだよ賢二。なんか途中で倒れてたから拾ってきたの。寝ちゃってるみたいだけど。」

「ええ、そこです…そこで寝首を…むにゅ…」

「な、なんか気の抜けない寝言だね…」


 賢二は迂闊に近づけない。


「賢二君は脚どうしたの?お巡りさんに言った?」

「いや、落し物じゃないから…。斬られちゃったんだけど、まぁ回復魔法と回復薬全部使ってなんとか…って感じかな。なんとかくっついて良かったよ。」

「賢二も暗殺美も絞死も…なんかみんな相当ボロボロだね…。こんなんでこの先大丈夫かなぁ?」

「ハァ?フザけんじゃないさ。もう限界な私らはここでリタイアさ。」

「え゛っ、賢二もそんな感じ…?」

「でも退路も無いよね。前門の勇者君、後門の女神…究極の、選択だよ。」


 前門がおかしい。




 その後、その場に留まっても何があるかわからないため、結局みんなで上に向かうことにした一同。

 途中で更に土男流も拾い、メンバーは六人になった。

 ちなみに太郎らはとっくに逃げてた。


~大魔王城最上階:終焉の間 入口~


ズッガァアアアアアン!ドガッ!ドッゴーーーン!!


「な、なんか…凄い音するね賢二…。心を折るには十分な音が…」

「だね…。しかもこっちは半分が怪我人だし…」


 最後の扉を前に、盗子と賢二は絶望的な未来が見えた。


「半分が怪我人、残りは戦力外…まさに死にに行くようなものさ。」

「大丈夫なんだ!きっと師匠が守ってくれるんだー!」

「姫だけはね…」


 少なくとも盗子は期待できない。


「盗子ちゃん、弱気になってもしょうがないよ。ここまできたら腹を減らすしかないよ。」

「いや、くくれさ。アンタの腹はもう少し弱気でもいいくらいさ。」

「ま、確かに今さらだよね!でも最悪を想定しとけばきっと耐えられるよねっ!」


 盗子は扉を開けた。


「ん…?」


 マジーン(首だけ)と目が合った。


「ギャーーーー!!」


 盗子は出鼻をくじかれた。




「…ってなわけよ。とにかくスゲェぜアイツら…あの動きは人間じゃねぇわ。」


 大魔王に斬られ、首だけの状態で転がっていたマジーンは、合流した一行に状況を説明した。


「いや、その状態で生きてるアンタには負けるけどね…。で?戦況はどんな感じなの?優勢な方は…?」

「ん~、今んとこ五分だな。まぁどっちが勝っても最強の『大魔王』だ。」


 部屋の中では大魔王と、断末魔に乗っ取られた勇者が暴れている。

 確かに正義と悪の戦いには見えない。


「とってもカオスな状況だってことは理解したぜー!」

「『断末魔』…だっけ?勇者が勇者じゃないってことはこっちも危険なんじゃ?」

「まぁ勇者君であっても危険だけどね…」



 そんな二人による、最悪決定戦は―――


~大魔王城最上階:終焉の間~


「ふむ…どうやら互角のようだな。なんとも生意気な小僧だ。『大魔王』を名乗るだけある。」

「ハハッ、これだよこれ!やっぱ楽しいねぇ~!アハハッ☆」


 求めていた接戦となったことで、大魔王はとても上機嫌のようだ。


「そうか…だが悪いな、俺はもう飽きた。さっさと死んでもらえると助かる。」

「え~~…。あ!じゃあさ、ちょっと趣向を変えてみない?」

「む?まぁ内容によっては考えてやらんでもないが…」

「その名もズバリ『ハンティング・ゲーム』!どっちが多く“アレ”を狩れるか…勝負ね?」

「…フッ、なるほど。それは確かに面白いかも、しれんなっ!」


 二人は突然駆け出した。

 扉の外の一行を狙う気だ。


「ッ!!?な、何か…来るさっ!」

「狙いは僕か…盗子さんっぽいな…」

「えっ!?ど、どっち!?空気的にどっちがやられる感じ!?」


「ぎゃふっ!!」

「ぎぇふっ!!」


 どっちもだった。



 大魔王の思い付きで始まった、『ハンティング・ゲーム』という名のふざけた余興。

 無残にもその犠牲になった賢二と盗子…となるかと思いきや、そうはならなかった。


「ふぅ~、間一髪だったねぇ~。」


 なんと!妃后が現れた。

 賢二と盗子は謎の魔法壁に守られている。


「ッ!!チッ、貴様は…!」

「うわ~、『退魔壁』かぁ~。これじゃ確かに威力も半減だねぇ。」


 勇者も大魔王も警戒して一歩退いた。


「お、おかげで助かりました。僕は賢二です。えと、アナタは…?」

「私の名は『妃后』…姫の、ママさんだよ。」

「姫ちゃん~、だからいつも言ってるでしょ?ママのセリフ取っちゃ駄目。」

「えっ!アンタ姫のお母さんなの!?やったー!味方がキターーー!」

「アナタはもしかして彼女の…チッ、無事で何よりだね。」

「ありが…えっ、なに今の舌打ち!?アタシ何かしたっけ!?」


 かつて凱空に叶わぬ好意を抱いていた妃后は、同族嫌悪で皇子のことが嫌いだった。


「やれやれ、『退魔導士』…存在自体が魔の俺にとっては、最悪の相性だぜ。」

「ハァ~。結局乗っ取られちゃったんだね勇者君…。そんなんじゃ娘はあげられないなぁ。」

「ハハッ!馬鹿か貴様、この俺を誰だと思っている?要らねぇよそんなもん!」


 痛恨の失言だが大丈夫か。



「で、どうしようか断末魔?この人邪魔だし、とりあえず二人で倒しちゃう?」

「フッ…ああ、そうするか。その方がお互いにとって有益だろう。」

「オッケー!じゃあいこっか!」


 最悪のタッグが妃后に襲い掛かった。

 だが―――


ズッガァーーーーン!!


 なんと!二人は玉砕された。


「ぐふっ!な、なんだと…!?」

「僕ら二人を…同時に…!?」

「ふぅ~…あ、驚いた?甘く見てちゃ駄目だよ?」


 勇者と大魔王の二人を素手で薙ぎ払う妃后。

 かつて英雄『四勇将』の一人に数えられた実力は健在のようだ。


「す、スゲーー!!このオバさん凄すぎなんだー!超化け物だぜー!」

「ん~、想定外だなぁ。人類側にまだ、大魔王たるこの僕と渡り合える相手が…残ってただなんてさ。」

「残念だけど、私の命にかけて…この五人には、手を出させないよ。」

「ねぇ足んなくない!?誰か足んなくない!?」


 盗子はやっぱり気が抜けない。



「ハァ、ハァ、ちょっと、疲れたかな…。このままじゃ、マズいね…」


 予想以上に強かった妃后は、その後も超強かった。

 だが、そういう都合のいい展開は長続きしないのが世の常だ。


「だ、大丈夫ですか?僕らに何かできることはあります…?」

「ん~、やっぱ勇者君を『断末魔』から解放しなきゃなんだけど、そうなると…」

「大魔王が邪魔、ってわけかさ。わかったさ、盗子がどうにかなるさ。」

「なんでアタシ!?それに“どうにかする”じゃないのもなんで!?」


 さすがに疲労が濃くなってきた妃后。

 このままではジリ貧だ。


「…僕が…じゃあ僕がいくよ!」

「賢…ちょっ、何言ってんのさ!?アンタもうボロボロじゃないかさ死ねや!!」

「うぉー!死なせたくないのか死んでほしいのかよくわかんないぜー!」

「ねぇ盗子ちゃん大変…勇者君がお菓子くれない。」

「そっち!?てゆーか姫の中の勇者って未だにその立ち位置なの!?」


「…姫ちゃん、行っといで。」

「ほぇ…?」


 妃后は姫の頭に手をかざした。

 姫の全身をまばゆい光が包む。


パァアアアアアアア…!


「えっ!?な、何この光…!?姫ママ、姫に何を…?」

「…行くよ盗子ちゃん。できたらサポートしてほしいよ。」


 なんと、姫が急にシャキッとした。


「って姫!?なにアンタまた酔っ払っ…」

「お喋りしてる時間は無いの。シリアスモードは、五分が限界だよ。」

「ちょ、どーゆー意味さ姫!?シリアスモードが五分って…アンタ勇者親父のエキスでも飲み干したの!?」

「修行の時に試したけど、私には効きにくいみたいなの。だから急がないと…」

「へ?効きにくいって何が?」

「お母さんの“呪い”。」

「大丈夫なのその教育方針!?」


 どうやら姫に『呪術:生真面目』を仕掛けたらしい妃后。

 効果があるようでなによりだが、『退魔導士』が“呪い”を使うとかいいのか。


「頑張ってね姫ちゃん。その子にだけは負けちゃ駄目だよ?」

「だからなんでアタシを目のカタキに!?敵を間違えてない!?」


「あらら、わざわざ出てくるとか…なに、死にたいわけ?」


 退魔壁から出た姫に大魔王が近づいてくる。


「私は死なないよ。頑張ってアナタをコテンパンにするの。」

「へぇ、面白いねキミ…名を聞こうか。」



「私は姫…職業は、『賢者』だよ。」



「け…えぇっ!?」


 賢二のハートに痛恨の一撃。

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