【183】最後の聖戦(14)
「さぁ、とくとご覧あれ!このワタクシの、真の姿を…!」
盗子の予想通り、女神にも真の姿があるという困った事実が発覚し、益々ピンチな感じの女神戦。
だがどう考えても、鰤子以上の衝撃があるとは思えない。
「ま、マジで…マジで変身しちゃうの?今より更に強くなるとかアリなの!?や…やめる気ない…?」
「これ以上、時間を浪費したくありませんの。全力で仕留めますわ。」
当然、盗子の制止など聞く気は無い女神。
「これは…マズいね。」
「姫っ!?やっと起きたのかよ遅いよ!」
「もうちょっと…甘い方がいいよ…?」
「って寝言かよ!幸せな夢見てないで現実の悪夢と向き合えよ!ねぇ!?」
盗子は姫を叩き起こした。
「むにゅう…ほぇ?あ、おはよう盗子ちゃん。お元気?」
「かろうじてね!『夢絵本』での経験が無かったら確実に死んでるよもう!」
「ハァアアアアアアアアア…!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!
盗子が姫に振り回されている間に、女神は勝手に変身モードに突入していた。
「ゆ、揺れてる…!大気が揺れる程のオーラってどんなだよっ!怖いよぉ…!」
「じゃあ逃げちゃえばいいよ。」
「えっ!?いや、ここまで来といて今さらそれは…」
「キョェエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
「…うん、アリかも。そだよね!無理することないよね!アタシら女の子だし!」
盗子は現実から目を背けた。
「じゃあ最上階行こうよ。」
「より地獄じゃん!!なんで自分から究極の死地へ!?なにアンタ夏の虫!?」
「勇者君に…会いたいよ。」
「なっ…!?あ、アタシだって!アタシだって会いたいもんっ!」
(ぎゅるるるるる…(腹の音))
完全にエサ目当てだった。
というわけで、敵の変身中に逃げるという禁じ手を繰り出した盗子達。
勇者らのいる最上階を目指すこととなった。
~大魔王城十階:竜王の間~
「ってわけなんだけど、味方がいて良かったよ…!心強いよ暗殺美!」
「チッ…やっと一段落ついたってとこで、もう一戦かさ…」
「ってアタシと!?なんでだよ!こんな極限状態でも敵対するってなんで!?」
盗子と姫が立ち寄った『竜王の間』では、接戦の末に見事竜神を倒した賢二と暗殺美がへたり込んでいた。
「フン!自分の役目を投げ出しちゃうような奴は敵なのさクソが!死ねや!」
「くっ、ぐぅの音も出ない…!」
(ぐぅ~~…)
姫は腹の音で応戦した。
「あ、絞死君も一緒だったんだね。無事みたいで良かった。」
「うん、そうなんだよ賢二。なんか途中で倒れてたから拾ってきたの。寝ちゃってるみたいだけど。」
「ええ、そこです…そこで寝首を…むにゅ…」
「な、なんか気の抜けない寝言だね…」
賢二は迂闊に近づけない。
「賢二君は脚どうしたの?お巡りさんに言った?」
「いや、落し物じゃないから…。斬られちゃったんだけど、まぁ回復魔法と回復薬全部使ってなんとか…って感じかな。なんとかくっついて良かったよ。」
「賢二も暗殺美も絞死も…なんかみんな相当ボロボロだね…。こんなんでこの先大丈夫かなぁ?」
「ハァ?フザけんじゃないさ。もう限界な私らはここでリタイアさ。」
「え゛っ、賢二もそんな感じ…?」
「でも退路も無いよね。前門の勇者君、後門の女神…究極の、選択だよ。」
前門がおかしい。
その後、その場に留まっても何があるかわからないため、結局みんなで上に向かうことにした一同。
途中で更に土男流も拾い、メンバーは六人になった。
ちなみに太郎らはとっくに逃げてた。
~大魔王城最上階:終焉の間 入口~
ズッガァアアアアアン!ドガッ!ドッゴーーーン!!
「な、なんか…凄い音するね賢二…。心を折るには十分な音が…」
「だね…。しかもこっちは半分が怪我人だし…」
最後の扉を前に、盗子と賢二は絶望的な未来が見えた。
「半分が怪我人、残りは戦力外…まさに死にに行くようなものさ。」
「大丈夫なんだ!きっと師匠が守ってくれるんだー!」
「姫だけはね…」
少なくとも盗子は期待できない。
「盗子ちゃん、弱気になってもしょうがないよ。ここまできたら腹を減らすしかないよ。」
「いや、くくれさ。アンタの腹はもう少し弱気でもいいくらいさ。」
「ま、確かに今さらだよね!でも最悪を想定しとけばきっと耐えられるよねっ!」
盗子は扉を開けた。
「ん…?」
マジーン(首だけ)と目が合った。
「ギャーーーー!!」
盗子は出鼻をくじかれた。
「…ってなわけよ。とにかくスゲェぜアイツら…あの動きは人間じゃねぇわ。」
大魔王に斬られ、首だけの状態で転がっていたマジーンは、合流した一行に状況を説明した。
「いや、その状態で生きてるアンタには負けるけどね…。で?戦況はどんな感じなの?優勢な方は…?」
「ん~、今んとこ五分だな。まぁどっちが勝っても最強の『大魔王』だ。」
部屋の中では大魔王と、断末魔に乗っ取られた勇者が暴れている。
確かに正義と悪の戦いには見えない。
「とってもカオスな状況だってことは理解したぜー!」
「『断末魔』…だっけ?勇者が勇者じゃないってことはこっちも危険なんじゃ?」
「まぁ勇者君であっても危険だけどね…」
そんな二人による、最悪決定戦は―――
~大魔王城最上階:終焉の間~
「ふむ…どうやら互角のようだな。なんとも生意気な小僧だ。『大魔王』を名乗るだけある。」
「ハハッ、これだよこれ!やっぱ楽しいねぇ~!アハハッ☆」
求めていた接戦となったことで、大魔王はとても上機嫌のようだ。
「そうか…だが悪いな、俺はもう飽きた。さっさと死んでもらえると助かる。」
「え~~…。あ!じゃあさ、ちょっと趣向を変えてみない?」
「む?まぁ内容によっては考えてやらんでもないが…」
「その名もズバリ『ハンティング・ゲーム』!どっちが多く“アレ”を狩れるか…勝負ね?」
「…フッ、なるほど。それは確かに面白いかも、しれんなっ!」
二人は突然駆け出した。
扉の外の一行を狙う気だ。
「ッ!!?な、何か…来るさっ!」
「狙いは僕か…盗子さんっぽいな…」
「えっ!?ど、どっち!?空気的にどっちがやられる感じ!?」
「ぎゃふっ!!」
「ぎぇふっ!!」
どっちもだった。
大魔王の思い付きで始まった、『ハンティング・ゲーム』という名のふざけた余興。
無残にもその犠牲になった賢二と盗子…となるかと思いきや、そうはならなかった。
「ふぅ~、間一髪だったねぇ~。」
なんと!妃后が現れた。
賢二と盗子は謎の魔法壁に守られている。
「ッ!!チッ、貴様は…!」
「うわ~、『退魔壁』かぁ~。これじゃ確かに威力も半減だねぇ。」
勇者も大魔王も警戒して一歩退いた。
「お、おかげで助かりました。僕は賢二です。えと、アナタは…?」
「私の名は『妃后』…姫の、ママさんだよ。」
「姫ちゃん~、だからいつも言ってるでしょ?ママのセリフ取っちゃ駄目。」
「えっ!アンタ姫のお母さんなの!?やったー!味方がキターーー!」
「アナタはもしかして彼女の…チッ、無事で何よりだね。」
「ありが…えっ、なに今の舌打ち!?アタシ何かしたっけ!?」
かつて凱空に叶わぬ好意を抱いていた妃后は、同族嫌悪で皇子のことが嫌いだった。
「やれやれ、『退魔導士』…存在自体が魔の俺にとっては、最悪の相性だぜ。」
「ハァ~。結局乗っ取られちゃったんだね勇者君…。そんなんじゃ娘はあげられないなぁ。」
「ハハッ!馬鹿か貴様、この俺を誰だと思っている?要らねぇよそんなもん!」
痛恨の失言だが大丈夫か。
「で、どうしようか断末魔?この人邪魔だし、とりあえず二人で倒しちゃう?」
「フッ…ああ、そうするか。その方がお互いにとって有益だろう。」
「オッケー!じゃあいこっか!」
最悪のタッグが妃后に襲い掛かった。
だが―――
ズッガァーーーーン!!
なんと!二人は玉砕された。
「ぐふっ!な、なんだと…!?」
「僕ら二人を…同時に…!?」
「ふぅ~…あ、驚いた?甘く見てちゃ駄目だよ?」
勇者と大魔王の二人を素手で薙ぎ払う妃后。
かつて英雄『四勇将』の一人に数えられた実力は健在のようだ。
「す、スゲーー!!このオバさん凄すぎなんだー!超化け物だぜー!」
「ん~、想定外だなぁ。人類側にまだ、大魔王たるこの僕と渡り合える相手が…残ってただなんてさ。」
「残念だけど、私の命にかけて…この五人には、手を出させないよ。」
「ねぇ足んなくない!?誰か足んなくない!?」
盗子はやっぱり気が抜けない。
「ハァ、ハァ、ちょっと、疲れたかな…。このままじゃ、マズいね…」
予想以上に強かった妃后は、その後も超強かった。
だが、そういう都合のいい展開は長続きしないのが世の常だ。
「だ、大丈夫ですか?僕らに何かできることはあります…?」
「ん~、やっぱ勇者君を『断末魔』から解放しなきゃなんだけど、そうなると…」
「大魔王が邪魔、ってわけかさ。わかったさ、盗子がどうにかなるさ。」
「なんでアタシ!?それに“どうにかする”じゃないのもなんで!?」
さすがに疲労が濃くなってきた妃后。
このままではジリ貧だ。
「…僕が…じゃあ僕がいくよ!」
「賢…ちょっ、何言ってんのさ!?アンタもうボロボロじゃないかさ死ねや!!」
「うぉー!死なせたくないのか死んでほしいのかよくわかんないぜー!」
「ねぇ盗子ちゃん大変…勇者君がお菓子くれない。」
「そっち!?てゆーか姫の中の勇者って未だにその立ち位置なの!?」
「…姫ちゃん、行っといで。」
「ほぇ…?」
妃后は姫の頭に手をかざした。
姫の全身をまばゆい光が包む。
パァアアアアアアア…!
「えっ!?な、何この光…!?姫ママ、姫に何を…?」
「…行くよ盗子ちゃん。できたらサポートしてほしいよ。」
なんと、姫が急にシャキッとした。
「って姫!?なにアンタまた酔っ払っ…」
「お喋りしてる時間は無いの。シリアスモードは、五分が限界だよ。」
「ちょ、どーゆー意味さ姫!?シリアスモードが五分って…アンタ勇者親父のエキスでも飲み干したの!?」
「修行の時に試したけど、私には効きにくいみたいなの。だから急がないと…」
「へ?効きにくいって何が?」
「お母さんの“呪い”。」
「大丈夫なのその教育方針!?」
どうやら姫に『呪術:生真面目』を仕掛けたらしい妃后。
効果があるようでなによりだが、『退魔導士』が“呪い”を使うとかいいのか。
「頑張ってね姫ちゃん。その子にだけは負けちゃ駄目だよ?」
「だからなんでアタシを目のカタキに!?敵を間違えてない!?」
「あらら、わざわざ出てくるとか…なに、死にたいわけ?」
退魔壁から出た姫に大魔王が近づいてくる。
「私は死なないよ。頑張ってアナタをコテンパンにするの。」
「へぇ、面白いねキミ…名を聞こうか。」
「私は姫…職業は、『賢者』だよ。」
「け…えぇっ!?」
賢二のハートに痛恨の一撃。