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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
182/196

【182】外伝

*** 外伝:盗子が行くⅢ ***


 それは、『天帝の試練』の日のこと。

 盗子が逃亡するまでのわずかな間の物語。



実のお母ちゃんが化けて出てきて、最後の試練を受けることになったアタシ。

話を聞く前は、何だってやってやるって気でいたけど…さすがに三年間はありえない。お母ちゃんは“一日だけ帰って来た”とか言ってたし…じゃあその後はアタシ一人きり?一人っきりで三年も!?無理無理絶対耐えらんない!三年も誰にも突っ込めないとか絶対無理だし!


~試練のほこら:伝承の間~


「だから、その…アタシ帰るね?期待にそえなくてゴメンだけど…」

「まずは試練の説明をするの。」

「えっ、スルー!?アタシ拒否権無いわけ!?」

「当然なの。それが天帝の家系に生まれた者の宿命なの。」

「そ、そんなの知んないよ!なんで他人のためにアタシがそんな苦労…」

「ワガママは認めませんの!」

「じゃあアタシもママだなんて認めないもん!」

「説明に入りますの。」

「くっ、通じてない…!」


 大して面白くもない。


「アタシだって…さ、そりゃ頑張れるなら頑張りたいよ?でも、三年は長いの!」

「何をそんなに急いでいますの?」

「大魔王だよ!大魔王が世界を滅ぼそうとしてんの!」

「だ、大魔王…!?」

「そうだよ大魔王!だから三年も待ってたら世界滅んじゃうかもなんだよ!」

「それは大変ですの。でも…だったらなおさら、天帝の力は必要なの。」

「え…そんな凄いの天帝の力って…?」

「ええ、凄いですの。何が凄いって“当たり外れ”が。」

「じゃあ絶対イヤだよ!三年も頑張って外れ引いたらどーしてくれんのさ!?」

「ちなみに私は大当たりでしたの。元気に成長した娘と…こうして会うことができたの。」

「お、お母ちゃん…」

「説明に入りますの。」

「もうちょっと余韻とか無い!?」


 皇子はかなりの堅物だった。


「ハァ…じゃあ聞くだけ聞くけど、最後の試練ってどんななのさ?」

「とっても辛いの。並みの精神力では、三年どころか一ヶ月ももたないの。」

「苦行すぎるじゃん!そんなのを実の娘に強いるのはどうなの!?」

「私もやったことなの。アレは…最初の関門が、一番の難関でしたの…」

「さ、最初の関門って…?」

「コレを持ちますの。」


 皇子は怪しげな機械を取り出した。


「このメーターがMAXになるまで、“孤独”に耐えますの。」

「何さこの変な古代機械…?それに、なんで孤独が関係してくんのさ?」

「他人の大切さを知るためなの。究極の孤独…かなりの時間を要するの。」

「きゅ、究極の…孤独…」

「まずは今の『孤独度』を測りますの。そのスイッチを、押してみるの。」

「う、うん…」


 盗子はスイッチを押した。


 メーターは一瞬で振り切った。



「し、信じられないの。私はあんなにかかりましたのに…」

「そういえば…常人なら耐えられないくらい…孤独な人生だったかな…」


 とても複雑な心境だった。


「生みの親として申し訳ない気持ちでイッパイなの。強く生きてほしいの。」

「あ、憐れみは要らないよっ!そーゆー目線が一番傷つくんだよ!」

「…でも、これなら話は変わってきますの。三年なんてかかりませんの。」

「ほ、ホント!?じゃあサクッと終わらして帰れちゃうの!?」

「それはアナタ次第なの。アナタに、命を懸ける覚悟があるかどうか…なの。」

「き…聞くだけ聞く。」

「逃げる気マンマンなのがバレバレなの。まぁ、とりあえず…コレをあげるの。」


 盗子は不思議な小袋を手に入れた。


「えっと…コレは?」

「形見の一種なの。でも、人気の無い広い場所で慎重に開けてほしいの。」

「なにその爆発物的な感じ!?このタイミングで形見渡す意味も謎だし!」

「念には念を、なの。」

「答えになってないのが怖いんだけど!?」

「一度でいい、私のこと…信じてほしいの。悪いようにはしないの。」


 詐欺師がよく言うセリフだ。


「で、結局のところ次はどんな試練なのさ?できれば短時間で強くなるのがいいんだけど…」

「そういうことなら、可能性は無いでもないの。」

「ハッ!まさか、一時間が一日に相当する不思議な空間的なものが…!?」

「冗談は顔だけにするの。」

「アンタにだけは言われたかないよ!遺伝て言葉知ってるよね!?」

「とりあえず、手っ取り早く経験値上げるのなら…コレ以上の方法は無いの。」


 皇子は謎の本を取り出した。


「この本ってもしかして…『夢絵本』!?そうか、コレなら…!」


<夢絵本>

 物語の中に入って主役気分を体験できる不思議な絵本。

 中には物語中で死ぬと実際にも死ぬなど、呪われたものも存在する。

 学園校の教材でも使われ、かつて盗子をはじめ何人もの生徒にトラウマを植え付けたとか違うとか。


「そう、現世で流れる時間は本を読むのに掛かる時間程度…なの。」

「あ、あのさ、ちなみにコレって…死んだりしないよね?」

「大丈夫。伝承によると、この本は読み手によって内容が変わるらしいの。」

「じゃあ全然大丈夫じゃないじゃん!もしかしたら…うわっ、ちょ…」

「行ってらっしゃいなの。」

「ちょ待っ」


 盗子は夢の世界へ旅立った。




かなり強引な感じで、無理矢理『夢絵本』の世界に押し込まれちゃったアタシ。

まぁ天帝候補を殺すわけないし、死ぬ話じゃないとは思うから安心ではあるけど。


「…と思ってたのに、のっけからこんな状況!?前置き無いのこの本!?」


 盗子は木に縛り付けられていた。


「あっ、起きた!起きちゃったよどーする!?」

「な、何なのさアンタら!?とにかくこの縄ほどいて…」

「おっと、喋るなブサイク。私はうるさい弟とお前が、大嫌いなんだ!」

「えっ、なにこの本…勇者監修作なの!?」


 現れたのは、盗子と同年代と思われる少年と少女。

 少年の方は雰囲気や話し方が盗子っぽく、一方少女の方は目付きや口の悪さが勇者っぽい。


「え、えっと…とりあえずお話しようよ!とりあえず自己紹介しようよ!ね?」

「断る!簡単に敵に素性を明かすなんて愚の骨頂!なぁ弟の『雄飛ユウヒ』?」

「なら勝手に俺のを明かさないでよ姉の『英羅エイラ』!」

「な、なに今の斬新な自己紹介…?」


 どうやら二人は姉弟のようだ。


「ちなみに不本意ながら双子だ。フッ、どうだ全然似てないだろう?」

「いや、不本意なのは俺の方…」

「喋るな汚物!」

「む、ムッキィーー!!」

「えっ、弟の方はむしろアタシと双子じゃない…?」


 なんだか既視感が凄い。



「あ、ところで…さ、結局のところ、アタシなんで縛られちゃってるわけ…?」

「ん?まぁ大したことはない。お前は今夜の夕飯なんだ。」

「じゃあ一大事じゃん!全然大したことなくないじゃん!」

「いや、食べないから!英羅の冗談だから大丈夫だって!」

「冗談なものか。天涯孤独の私達が生き抜くには、もはやこれしかないんだ。」

「え、天涯孤独って…?」

「親は私らが生まれてすぐに死んだと聞いた。フッ、どうだ参ったか?」

「いや、それならアンタらの方が数倍参ってるかと…」

「てなわけで、私は腹ペコなんだ。大人しく胃袋に…マズそうだなお前。やっぱやめた。」

「えぇっ!?」


 盗子は喜びづらい理由で生き延びた。



そんな感じで出会いは酷かったけど、なんとか殺されずに済んだアタシ。

でもそのまま二人の旅に巻き込まれちゃって…結局死ぬかもしれない状況に。だって、『魔王』を捜してるとか言うんだもん…絶対ヤバいじゃん…。


ただ、この二人…メチャメチャ強い。ボディガードとしてこれ以上はないってくらいに。


~タケブ大陸:チュオウ平原~


「ば、馬鹿な!ガキの分際で、俺達を赤子扱いだと…!?」

「フン、この私に喧嘩売ろうってのが間違いなんだよ雑魚どもめが。」


 イカつい魔人に囲まれた英羅だが、物怖じする様子は微塵も無く、むしろ圧倒していた。


「オイお前ら、狙うなら小僧の方にしろ!」

「なっ…それって俺の方が弱いって意味!?」

「いや、小娘の方に比べてやり口が良心的だ。」

「あぁ…なんか…うん、身内がごめん。」


 雄飛はなんだか申し訳なくなった。


「つ、強いねアンタらやっぱ…。なんかさ、もう敵無しなんじゃない?」

「あ゛ぁ!?舐めるな!貴様らなんぞ、“我らが主”の敵ではないわ!」


 双子の強さに盗子が感心していると、魔人の口からなにやら思わせぶりな存在が明かされた。


「そうだそうだ!なんたって主は、“あの星”からやって来たのだから!」

「ほほぉ、あの星だと?どこだそれは?」

「フッ、常軌を逸しすぎて誰も理解しきれぬ謎の星…『変態星:キノア』さ。」


 後にY窃を生む。



敵の魔人が言うには、なんかボスの変態がとっても強いみたい。

そうなるとまぁ展開上、当然のごとく戦う流れになるわけで…。


~タケブ大陸:エキン山~


「…来たか、招かれざる客どもよ。」


 魔人どもの主を討つべく、変態星へと乗り込んだ盗子ら三人の前に現れたのは、一見普通の見た目をした紳士風の男。だが状況的に、彼が目的の人物であることは間違いなさそうだ。


「よぉ。貴様が敵の親玉…変態伯爵か。」

「む…?フン、偉そうな小娘だ。何がどう間違ってそうなったのかは知らんが、人聞きの悪い呼び方はやめてくれ。我は魔界伯爵…『ロツシュ卿』だ!」

「“卿”を付けるからじゃない!?要らぬ誤解を生むからやめようよそれ!」


 盗子は正当な指摘をしてあげたが無視された。


「話は聞いている。貴様らだろう?我が軍に仇なすという愚か者は。」

「人々を襲われるのは困るんだよね。もし良ければ…引いてくんない?」


 英羅とは違い好戦的ではない雄飛は、念のため降参を要求してみた。


「えーーー…」

「いや、そっちの意味じゃなしに!」

「さぁ来るがいいオッサン。貴様が『魔王』かどうか、この私が見定めてやる。」

「『魔王』?そんな禍々しいものと一緒にするな。我が職業は…『秘密』だ。」


 なんと、『女神』と同じ職業らしい。

 ここで何かしらヒントが得られる流れか。


「秘密だとぉ?フン、フザけるのはそこの二人の顔だけにしてもらおうか。」

「なんでそこでアタシにくるわけ!?」

「てゆーか仮にも双子の俺に向かってそれはどうよ!?」


 盗子が二人いるようでウザい。


「我はこの星に来て間もない。まだ旅の疲れも残るというのに、やれやれ…」

「諦めるがいい!貴様のような変態は、私の…」

「フン、“刀のサビにしてやる”とでも言うつもりか小娘?」


「“ウップンのはけ口”にしてやる!!」


 そこに正義は無かった。



変態星にいた変態伯爵は、変なのは名乗り方だけで普通にめっちゃ強かった。

本人は認めてないけど、まさに『魔王』って感じで、すんごく強い…!


ズバシュッ!


「うわっ!ひぃいいいいい!」

「お、オイお前…!」

「だ、大丈夫だよ英羅!偶然転んだおかげでなんとか避けれたから!」

「いや、名前なんだっけなぁと。」

「盗子だよ!結構一緒にいたのに今さら…そしてなぜこの大変な時に!?」


 自然体の嫌がらせだった。


「くっ…!どんな攻撃かもわからない攻撃なんて、俺…一体どうしたら…!」

「ぐわっはっは!もっと怯えるがいい!この『秘密』の未知の恐怖に泣き叫ぶがいいわ!」


 職業『秘密』の正体不明の攻撃に、雄飛は混乱している。

 だが―――


「ハハハッ!怯えるがいい小僧ども!我の…なっ、これは…!?」


 なんと!伯爵の頬に傷が。


「な、なにぃ!?馬鹿なっ、まさか我が職業の謎に気づいたと…!?」

「悪いな、全然わからんがなんとなくできちゃう…それが天才というものだ。」

「な、なんとなく…だと…!?」


 何もわからないながらも、野生の勘で食らいついていた英羅。

 勝負はまだまだわからない。


「さて…私が見切るのが早いか、それとも貴様か…勝負だ、『魔王』よ!」


 盗子は出番が無い。




 盛り上がってきた所だが、例のごとく時間の都合で割愛。

 結果はまぁとりあえず、なんとか勝った。


「ふぅ~…終わったね…。んで、二人はこれからどうするの?」


 ロツシュ卿との死闘は熾烈を極め…かろうじて勝利したものの、双子は満身創痍だった。

 特に最前線で戦った英羅の消耗は激しく―――


「…私は先の戦いで片足を失い、もはや旅は続けられん身だ。隠居…するよ。」

「そんな…」


 盗子は絶句した。


「代わりに雄飛が二人分、死ぬまで過酷な旅をする。」

「そんな…!」


 雄飛も負けじと絶句した。


「お前はどうするんだ?えっと…ウ●子?」

「盗子だってば!失礼な覚え方するくらいならむしろ忘れて…って、えっ!?」


ピカッ!


 突然、盗子から激しい光がほとばしった。


「えっ、なに!?アタシ、なにが…なにっ!?」

「ふむ…どうやら時が来たようだな、異界より来た珍獣よ。」

「誰が珍獣…って、英羅…気づいてたの!?」

「そうかやはり珍獣だったか!」

「いや、そっちの方じゃなしに!」

「フン、安心して去れ。自分達の使命くらい、心得ているつもりだ。」

「し、使命って…?」


 双子二人はすでに、自分達がこれから歩んでいく未来を決めていた。


「私はこの地に都を築こう。民を鍛え、国力を上げる。人は一人では戦えん。」

「俺は世界を旅し、民を救って回ろう。我が父…『勇者:英雄』の名にかけて。」


「えっ、“都”に“勇者”…それって…!」


ピカァアアアアアア…!


 盗子は本から追い出された。




気が付くと、そこは試練のほこら。

ってことはアタシ、無事に帰って来られたってわけ…?


「おかえりなの。元気そうで何よりなの。」


 そう言って盗子を迎える皇子。

 どうやらなんとか元の世界に戻れたようだ。


「危うく死ぬとこだったけどね!むしろ生きてたのが奇跡だって程に!」

「で、何か得るものはあったの?」

「ん~…まぁ因縁めいた昔話は聞けた…かな?ホントかどうか知んないけど。」

「なんかガッカリなの。」

「しょーがないじゃん!ストーリー考えたのアタシじゃないよ!?」

「でも大丈夫、問題無いの。」

「へ…?」


「もう一冊あるの。」


 こうして盗子は逃げ出した。

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