【181】最後の聖戦(13)
暗殺美が助っ人に現れるも、劣勢には変わらない状況の竜神戦。
相変わらず逃げ腰な賢二だが、今回はさすがに何か…少し違うようだった。
「さぁ逃げ回るさ!四肢が千切れんばかりの勢いで走っ…」
「…いや、攻めよう。動き回ってできる隙が、きっと僕らの唯一の勝機なんだ。」
「勝機なんて無いヨ。」
「打ち合わせてる時間は無い…ぶっつけでいくよ暗殺美さん!僕に合わせて!」
「うん…☆あ、フン!わかったさ、意地でも合わせてやるから覚悟しとけさ!」
「イイネ、来イッ!!」
「勝負!!」
賢二は〔疾風迅雷〕を唱えた。
暗殺美は〔電光石火〕を繰り出した。
〔疾風迅雷〕
賢者:LEVEL15の魔法(消費MP120~∞(※維持したぶん消費する))
速度UP系最上級魔法。夏休み最終日に振り返る夏休みの過ぎ方くらい早い。
〔電光石火〕
暗殺者:LEVEL60の特技(消費MP0)
目にも留まらぬ早さで敵を仕留める究極奥義。眼前の蚊を殺す時のあの感じだ。
「み、見えナイッ…!?」
「フン、それはそうだろうさ!私も見えないしさっ!」
「僕も見えないし…!」
同士討ちの危機が。
「うぉおおおおりゃああああああ!死ねさぁあああああああああ!!」
キィン!ガキンガキンッ!
「クッ、さすがは風神の靴…!破壊力は凄まじいネ…!」
チュィン!キィイイン!
「〔硬化〕を使った僕の脚も、甘く見ちゃ駄目だよ!」
〔硬化〕
魔法士:LEVEL48の魔法(消費MP78)
肉体の一部を硬化させる魔法。頑固オヤジの石頭の次くらいにカタい。
ガッキィン!
「なぁっ!?わ、私の剣山を砕くトハ…!」
「よしっ、これなら勝てブハッ!!」
「うわっ!?ご、ゴメンさ賢二君!見えなかっ…眼中に無かっただけさっ!」
「あ、うん…わかってるし…」
(わかっちゃダメェーーー!!)
その後も何度か蹴った。
そしてしばらく、賢二と暗殺美の超速攻撃の前に竜神は防戦一方だった。
だが、この手の流れは…必ず一発逆転される流れだ。
「というわけで、油断せずいくさ!狙うなら剣が多く折れてる…あの位置さ!」
「えっ、“あの”ってどの辺!?全然見え…」
「気合いで察しろやこの鈍感男めがさっ!」
主に恋愛的な意味で。
「チッ、ここまでカ…!」
「これで、終わりさぁああああああああ!!」
(ニヤリ)
竜神の口元に一瞬笑みが浮かんだのを、賢二は見逃さなかった。
「ッ!!罠だっ、危ない暗殺美さ…」
ズバシュッ!!
竜神のカウンター攻撃!
賢二の右脚が宙を舞った。
「う、うわ゛ぁあああああああああああ!!」
「えっ…キャアアアアアアアアア!!けけけ賢二きゅうううううううううん!?」
「ハハハッ!油断しないと言いなガラ、盛大に油断したネ!」
「う…う…うわぁーーーん!私のせいさーーーー!うわーーん!!」
「だ、大丈夫だよ暗殺美さん…心配しないで…うぐっ!」
「で、でも…でも賢二きゅん…」
「脚なんて…すぐ…生えるから…」
それはそれで心配だが。
「よ、よくも…よくも賢二君を…!クソ許せないのさ!!」
「フフフ…ワザと弱点を晒せば食いついてくると思ったヨ。馬鹿なのが悪いネ。」
「こうなったら私が守るさ!だからアンタはまた回復魔法で…」
「そんな時間、与えると思うのかネ?『火竜の吐息』!!」
「なっ!?うわぁああああっ!!」
暗殺美は爆風で吹き飛ばされた。。
「姿に惑わされたようだネ。この姿でも炎くらい吐けるヨ、威力は落ちるがネ。」
「うぐっ…!う、動けない…動けないさ…!こんな…時にぃ…!」
「お前は後にするヨ。まずは厄介な、『賢者』の方から始末するネ。」
「け、賢者じゃないさ!単なる賢二さ!勝手に“ゃ”足してんじゃないのさ!」
「む?賢者じャ…ないのかネ?」
「当然さ!舐めてんじゃないさ!!」
むしろ舐めてなかったわけだが。
「まぁイイ、さぁいくヨ…トドメだァアアアアアアアアア!!」
「ちょっ、ヤメ…いやぁあああああああああ!!」
竜神の攻撃。
ミス!賢二は攻撃を避けた。
「ナニッ、どこだネ!?あの脚で避けられるはずガ…!」
「まさかホントに脚が生えたのかさ!?」
「うん、生えちゃったみたい…」
「って賢二君!?自分で言っといてなんだけど今そんなボケは…」
「いや、“翼”が。」
「け…えっ、天使君!!?」
『エンジェル賢二』が降臨した。
「えっ、えっ、な、なんで賢二君に…翼が…!?」
何の間違いか、脚どころか翼が生えてしまった賢二。
だが説明はとりあえず後回しだ。
「なッ、飛んダ…だト…!?だが私の優位に変わりハ…」
「さっき言ったよね、“弱点を晒せば”と!つまり本当にそこが、弱点なんだ!」
「ッ!!!」
「右手を〔硬化〕!貫けぇええええええええええ!!」
会心の一撃!
竜神の首筋に突き刺さった!
「ぐぉあああああああああ!!だ、だガ…だがまだ終わラン…!」
「それは僕のセリフだよ!外からじゃ駄目でも、体内に直接放ったら…!?」
この手のパターンのお約束の攻略法だ。
「魔法かネ!?マズイ…!!」
「勇者君、技を借りるよ…!必殺魔法、〔絶対零度〕!!」
「クッ、ならばまた『氷竜化』しテ…ェエエエエエエエエエッ!?」
ブォオオオオオオオッ!!
賢二は〔絶対零度〕ではなく、〔火炎地獄〕を唱えていた。
「ナ…火炎魔法…だトォ…!?」
「魔法士なのに勇者に技を借りるとか、どういう意味かと思ったら…そういう意味かさ…!借りたのは“卑怯な手口”…」
「ガッ…ガハッ…か、体ガ…溶ケ…テ…」
「か…勝っ…た…」
もはや立っていられず、竜神と賢二は倒れ込んだ。
暗殺美は慌てて賢二のもとへ駆け寄った。
「け、賢二君大丈夫!?大丈夫なのかさ!?」
「あ、うん…。脚は焼いて血止めしたから、なんとか…大丈夫だよ。」
「いや、その“翼”がさ!それ人として大丈夫かさ!?」
「あぁ、コレね。コレは…もういいよ、美咲さん。」
パァアアアアア…!
なんと!賢二の背中から美咲が飛び出した。
「クエ!」
「この前、契約したんだ。麗華さん…お姉さんの…契約獣だったから…」
「賢二君…って、ハッ!しまったさ、油断したらまた…」
慌てて振り返る暗殺美。
だが―――
「フン…見苦しいのハ、好きじゃないネ…。負けたヨ…殺すがいいネ。」
竜神は静かにそう言った。
どうやら抵抗する気は無いようだ。
「さ、やってやるがいいさ!サクッとトドメを刺してやるのも一種の優しささ!」
「いや、でも…」
「あれだけ渋ってタ…大魔法を、ここぞという時に決める…見た目ヨリも随分…大物だったネ…」
死を覚悟した様子の竜神は、最後にとても穏やかに、賢二に語りかけた。
「強き賢者ヨ…お前は生き残リ、そしてその先…何を為すのかネ?」
「いえ特に(キッパリ)。」
「ガッカリさせてくれるなヨ…」
「フン、勝者が敗者にかける言葉は無いのさ。つまりはそういう意味さ。」
「いや、そんな悪人に仕立て上げられても困るんだけど…」
「フッ…フフフ…面白かったヨ。負けテ悔い無し…とは言わないガ…納得はデキるネ…」
竜神の体は徐々に崩れ始めた。
「サラバだ頼りなき賢者ヨ…。願わくバ、地獄でまた…戦いたいものだガ…」
「全力でお断りします。」
「フッ、つれない…ネ……」
ヒュゥウウウウウウ~…
竜神は風に消えた。
「や、やった…。なんとか…勝てたよ、勇者君…」
「ふ、フンさ!私がいなきゃ死んでた分際で偉そうにすんなさ雑魚めが!」
「ハ…ハハハ…手厳しい…な…ぐふっ!」
「け、賢二君!?うわっ、顔が真っ青さ!斬新なメイクにも程があるさ!」
「うん、ちょっと…血を流しすぎた…かな…。でも、役目は…果たし…」
賢二は意識を失ってしまった。
「ちょっ、大丈夫賢二君!?し、死んじゃイヤァーーー!!」
反応の無い賢二を抱きしめ、泣き崩れる暗殺美。
もはや打つ手が無いと思われた、その時―――
「大丈夫、治療すればまだ助かるよ。僕らがなんとかする。」
なんと、太郎が起き上がってきた。
「あ、とりあえずトマトジュースでも注射してみる?アハ☆」
「あっためるニャら毛布持ってくるニャ!もしくは熱湯とか!」
「あとは気合いッス!そして根性ッスよ!」
その他の自称『自衛団』の面々もなぜか元気そうだ。
「なっ!?アンタら、確か死にかけてたはずじゃ…!?」
「フッ、敵が油断するくらい重傷に見せるなんて簡単さ。」
「甘く見ないでほしいよね☆」
「そうッス!特技は寝たフリ、死んだフリ!」
「それがアタチら!」
「自衛(ダンッ!ガンッ!ゴスッ!ドガンッ!)
暗殺美は半殺しにした。
賢二と暗殺美の活躍により竜神が倒れたことで、残す強敵は大魔王、帝雅、女神の三人となった。
その中の一人、女神と熱戦を繰り広げていたのは姫。そして途中から、ナンダのマスター・サーバーを破壊した盗子も合流していた。
果たして、勝敗の行方は―――
~大魔王城三階:女帝の間~
「ハァ、ハァ…ふぅ…。さて、ではトドメを刺してバスタイムでも…」
倒れた姫と盗子を見下ろす女神。
行方もなにも、既に終わっていたっぽい。
「ぐふっ、ま、まだだよっ!まだ死んだりなんか、しないんだからぁーー!!」
かと思いきや、盗子は気力を振り絞って立ち上がった。
満身創痍ではあるが、まだ致命傷は負っていないようだ。
ちなみに姫はのんきに寝息を立てている。
「ハァ…まだですの?ゴキブリのようですわね。凄まじくお似合いですこと。」
「うっさいよ!ちょっとくらいキレイだからって調子乗んないでよね!」
「あら、この美しさがおわかりですの?ならご自身の醜さも…お可哀相に。」
「何その同情に見せかけた罵倒!?」
「で?まだ続けるとでも?身の程をわきまえていただけませんこと?」
「誰が諦めるかよ!この程度の逆境なんて、日常茶飯事だもん!」
これまでもこれからも。
「さぁ、起きて姫!起きてってば!今度こそ協力して倒すんだよアイツを!」
「う~~ん…あとギャフン…」
「言わそうか!?言わせたげようかアタシが!?」
姫は布団にもぐり込んだ。
どこから布団を持ち込んだかは考えたら負けだ。
「無駄なことですわ。アナタ達も少しはやるようですが、所詮ワタクシの敵ではなくってよ?」
「フンだ!さっき息切らせてたクセによく言うよ!怖くなんかないもんね!」
「あ、アレは…ちょっと興奮してただけですわ!」
「そっちの方がなんか怖いから!」
「ではどうするおつもり?ワタクシの職…『秘密』の攻撃の前には、全てが無意味ですわ。」
「そんなこと…やってみなくちゃ、わかんないよ!」
「フッ、でしたら…わからせてさしあげますわ。」
女神の攻撃。
なんと!盗子は攻撃を受けきった。
「なっ!?お、同じ技で相殺ですって…!?一体…なぜ…!?」
「へ、へへーんだ!そんなのもちろん、秘密だよっ!」
もちろん勘だった。
その後も、一生分の運を使う勢いで攻撃を避けまくった盗子。
偶然とはいえ盗子のくせに生意気だ。
「ゼェ、ゼェ、ど、どうよ!?アタシだってやればできちゃったんだかんね!」
「く、屈辱ですわ…!アナタごとき汚物に、私の技が真似されるだなんて…!」
「こっちの方が屈辱だよ!なんで初対面のアンタに汚物扱いされなきゃ…」
「初対面…?お会いしてるじゃありませんか、『ウザ界』で。」
「へ?ウザ界…ウザ界!?いや、全然別スペックの怪奇生物しか記憶が…」
「まぁ無理もありませんけどね。あの姿…『鰤子』の姿とは全然違いますもの。」
「ええぇっ!アレがっ!?アレがどうなったらそうなるの!?何それどこの匠の仕業!?」
「これが本当のワタクシですわ。仮の姿は醜ければ醜いほど、今のワタクシが輝きますの。」
「いやちょっと待って?この手の変身系のキャラって、後で結局“この姿は醜いから好きじゃないのに”とか言いつつまた別の“真の姿”に…」
「ッ!!!」
「…マジでっ!?」
マジで。