【180】最後の聖戦(12)
自衛団の四人が倒れ、残るは…というか最初からある意味一人だった賢二は、観念して竜神との一騎打ちに挑むことにしたっぽい。
「どうやら本気のようだネ、楽しみだヨ。もう防御はヤメるんだネ?」
「そんな思い通りにいくと思ったら、大間違いですよ!」
「いや、その返しはいかがなものカ。」
賢二は強気に弱気だ。
「僕はもう、前の臆病な僕とは違うんだ。全力で…アナタを倒します!」
「いいネ…ならば私ハ、この姿で相手しようカ。」
なんと!竜神は氷の竜に変形した。
「フッ、『竜化:氷竜神』…我が吐息ハ、世界の時すら止メル。」
ブフォォオオオオ…!
「ひ、ひぃいいい…!こ、この凄い吹雪…もしかして、『業火竜』と並び称される『豪雪竜』とかいう…?」
「フン、豪雪竜ごときと並べられるとは心外だネ。もうちょっと強いヨ。」
「“ごとき”とか言う割に謙虚なんですね…」
「にしてモ、さっきから防戦一方…ヤル気無いのかネ?ガッカリだヨ。死ぬカ?」
「そ、そんなこと無いですよ!え、えっと…じゃあ、〔炎陣〕!」
竜神は炎に囲まれた。
パッと見はなかなかの火力だ。
「どうですか!?氷だったら熱には弱いはず…!」
「やれやれ、甘いネ…。絶対零度の氷ヲ、マッチの炎で溶かせるとでモ?」
「くっ…!だったら…」
「無駄だネ。たとえ最上級の魔法だろうトモ、私の氷は溶かせナイ。」
残念ながら竜神はピンピンしていた。
「そ、そんなことない!お師匠様の…あの、〔火炎地獄〕さえ使えれば…!」
「使えれば?」
「使えれば…」
使えれば。
氷竜化した竜神に、賢二はその後も手も足も出ない感じだった。
やはり賢二ごときには荷が重い相手なのだろうか。
「ゼェ、ゼェ…!だ、駄目だ…強すぎるよ…。〔炎陣〕だけでなく、〔紅蓮〕まで通じないなんて…」
「わかったロウ?その程度の魔法、試す価値も無いヨ。」
「や、やっぱり〔火炎地獄〕…前に『禁詠呪法』でなら使えたことはあるけど、でも…」
「出し惜しみかネ?どこにそんな余裕があるのかネ?」
「だ、だって…だって、失敗したら…!もし失敗…あっ…!」
「フッ、隙だらけだネ。」
モタモタしている間に、迂闊にも賢二は取り押さえられてしまった―――
「うぐぅ…!」
「終わりだヨ。もう少し楽しめると思ったガ…」
―――かに見えた。
「し、死ぬ…きっと死んじゃう…」
「ああ、死ぬネ。もう大人しク…」
「まぁ…発想はちょっと後ろ向きだけど、一矢報いるならやっぱり…これしかないよね…」
「ン?何を言っテ…?」
ボソボソと何かをつぶやいた賢二は、諦めたのかと思いきや…暴挙に出た。
「全てを燃やしゅ、灼熱のぉおおおおおお…!!」
「ッ!!?貴様、わざト間違え…」
「我が身に返れぇえええええええっ、〔火炎地獄〕!!」
ブォオオオオオオオオオ…!!
「ぐぉおおああアアアア…!こ、小癪なァアアアア…!!」
激しい炎に包まれる竜神。
さすがの大魔法だけに、大ダメージなのは間違いない。
だが、そうなると―――
「フ…フフ…だがイイ、これデ…私の勝チ…」
強靭な肉体を持つ竜神でこれなら、より中心にいた賢二が無事なわけがない。
「…ぶはっ!ゴホゴホッ…!」
…と見せかけて、なんと賢二も生きていた。
「なっ…!?馬鹿なッ、あの火力デ、生身の人間が生き残れるハズ…!」
「ぼ、僕の防御癖を…舐めないでほしいな…ぐふっ!」
どうやら賢二は、瞬時に防御魔法を展開して防いでいたっぽい。
もちろん何度も使える手ではないが、竜神に警戒心を抱かせるには十分だった。
「ハハハッ…!それでこそ我が一族の好敵手…面白いネ、最高だヨ。」
「いや、その…お構いなく…」
「こうなったラ、我が最強の姿で殺してあげるヨ。全力で…お相手するネ。」
パァァアアアアア…!
竜神は全身から剣が生えた竜に変化した。
その姿は、見るからに最強だった。
「最強形態『剣竜』…悪いが今度コソ、さよならネ。」
(あぁ…僕は死ぬのか…。悔しいなぁ…アレ?悔しい…?)
「泣いてるのかネ?ヤメてクレ、最期まで強者でいるがいいヨ。」
(“怖い”じゃなくて、“悔しい”か…。僕も少しは、変われたのかな…)
「さらば宿敵ヨ。キミと戦えタこと…誇りに思おウ。」
(ゴメン勇者君…僕、先に待ってるよ…。あ、勇者君は“地獄”か…)
「死ネ。」
ガキィイイン…!
「なっ…!?」
かつて賢二の姉…麗華の前に現れた謎の占い師は、彼女にこう告げたという。
これより数年の後―――
「えっ…?」
汝が実弟に、逃れ難き死の恐怖が襲い掛かるだろう
「チッ…邪魔が、入ったカ。」
救い手がいるとすれば、唯一人。
「た、助けに…来てくれたんだね…良かった…」
その傍らに在るは“剣”…
「賢二君に、何してくれてんのさっ!?」
暗殺美が現れた。
って勇者じゃないんかい。
「…ゼェ、ゼェ、なんとか…間に合って…良かったさ。」
賢二のピンチに現れたのは、なんと勇者ではなく暗殺美だった。
“剣”というキーワードから勇者に託して死んだ麗華の立場が無い。
「やれやれ、あの局面で邪魔するかネ…まったく無粋な娘もいたものだヨ。」
「フン、ほざいてんじゃないさ。私が“無粋”なら、じきにアンタは“無様”な男になり果てるさ。」
「あ、ありがとう…暗殺美さん…。助けに…来てくれて…」
「べ、別にアンタのためじゃないさ!忍美の空間系忍術でたまたま飛ばされてきただけさ!自惚れんなさっ!」
「ご、ごめん…」
(いやーーーん!!)
賢二は死なずに済んだが暗殺美の恋は死にそうだ。
「さて…どうしたものかネ。今の気分は最悪なんだガ?」
「私が少しだけ時間稼ぐさ!アンタも賢者見習いなら回復くらい勝手にやれさ!」
「えっ、でも…!」
「いいから信じろってのさ!」
暗殺美は『風神の靴』に力を込めた。
「その靴…なるほどネ。少しはやれそうだネ。」
「少しは…?フン、少しくらいで許してもらえると思ったら、大間違いさっ!さぁドンと来いや!別に来ないなら来ない方が助かるけどもさ!」
「サクッと殺すヨ。」
「いい度胸さ!剣が多いほど有利とか思ったら大間違いだと教えてやるさ!」
「ほぉ、言うじゃないカ。何か勝算でもあるのかネ?」
「そんなのアンタが教えろやぁあああああああ!!」
暗殺美の攻撃。
竜神に100のダメージ。
「なっ、ナニッ…!?」
「全身堅くちゃ動けもしない…そんな奴は“関節部分”を狙うのが定石なのさ。」
「…フッ、面白いネ。甘く見たことを詫びようカ。」
「フン、頭が高いのさ。温泉が吹き出るまで地中深く、頭下げろさ!」
そしてそのまま、勢いに乗って暴れまくった暗殺美。
だがやはり、竜神の方が上手だった。
「くぅ…!まったく、化け物なのにも程があるさ。キモいのさ死ぬがいいのさ。」
「無駄だヨ。煽ったところデ、私は逆上したりしないネ。」
「ハァ?そんなクソ面倒な作戦誰がやるかさ?本心に決まってるさアホめ。」
「やはりムカつくネ。死ネ。」
「そ、そうは…させないよ!」
ヨロヨロと賢二が立ち上がった。
「ほぉ、もう動けるのかネ。だがまだ回復しきったとは思えんガ?」
「そうさもっと大人しくしてろさ!あ、足手まといは邪魔なのさ!」
「一緒に倒そう、暗殺美さん。僕たち二人の…共同作業で。」
「(きょきょきょ共同作業!?なんて甘美な響きぃーーーー!!)で、どうする気なのさ?アンタにそんな強力魔法が使えるとは思えないさ。」
「うん…無いんだ…。でもきっと、協力すれば勝てるよ!」
「協力なんて意味無いヨ。この無数の剣で八つ裂きにされる運命ネ。」
「さっきの暗殺美さんの攻撃で可能性が見えたよ。弱点はやっぱり、関節部分にある。」
「フン、甘すぎるネ。そう言われて攻撃させる馬鹿がいるかネ?」
竜神は高速で回転し始めた。
二人は完全に遅れをとった。
「くっ、マズい…!全身に剣が生えた体であんな速さで回られたら…!」
「大丈夫さ、ちょっと待てば勝手に目が回って盛大に吐くに決まってるさ。」
「いや、いくらなんでも」
「うぐっ、マズいネ…」
「当たっちゃったの!?なんでそんなリスクある技出しちゃったの!?」
「けど…その“ちょっと”を生き抜くのガ、無理なんだろうがネ。」
竜神の超高速攻撃。
賢二は魔法でなんとか防いだ。
「ぐぅっ…!どどどどうしよう…!どうしよう暗殺美さん!?」
「お、落ち着けさ賢…クソ犬!こうなったら死ぬ気で逃げるしかないのさ!」
「そ、そうだね!なんとか逃げ切ってチャンスを…」
「おや、結局逃げるのかネ?」
「ッ!!」
「早く勝って仲間を助けるとか言ってたのは別人かネ。情けないものだヨ。」
「聞いちゃ駄目さ!そんな安い挑発に乗っ」
「逃げよう、暗殺美さん。」
ちょっとは乗れ。