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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
179/196

【179】最後の聖戦(11)

俺のピンチに現れたのは、なんと…まさかの俺だった。

流れ的に誰か来るんじゃないかとは思っていたが、この展開はさすがに予想外だ。


「お、俺…なのか…?いや、そんなはずはない。貴様は一体誰なんだ?」

「よぉ俺。相変わらずのナイスガイだな。我ながら惚れ惚れするぜ。」

「フッ、お前こそな。」


 確かにどちらも勇者っぽい。


「信じろ、俺はお前だ。まぁ少しばかり、離れ離れになってはいたがな。」

「ッ!!よく見ると少し透けて…そうか、あの時お義母様に鈍器で…!」

「そう、転送途中で止められたせいでな…一体化しきれなかったんだよ。」


 今の勇者は半透明の霊体に本体が引き寄せられる形で合体したのだが、途中で妃后が鈍器でゴンッしたことで中途半端に終わっていたっぽい。


「そうか。つまり俺は、まだ“完全体”じゃなかったというわけだな。」

「な、なんか会話の軸が人間のそれじゃ無いですが大丈夫です…?」

「つまりはどういうことなのかなぁ?僕にもわかりやすく教えてもらっていい?」


 勇者は理解したようだが、無職と大魔王はまだ事情が理解できていない様子。


「フッ、そうだなぁ…」

「まぁ簡単に言うなら…」


ピカァアアアアア…!


 激しい光がほとばしった。

 なんと!二人の勇者は一人になった。


「貴様は、ここで死ぬってことだ!!」


 邪悪なオーラが噴き出した。



どうやら俺は、『断末魔』を吸収中だった方の俺とうまく合体できていなかったっぽい。

どうりで究極の呪いを制したって割に苦戦するわけだ。これで合点がいったぜ。

しかも都合良く、傷や疲労も無かったことになった感じだ。これは…勝ったな!


「というわけで無職、貴様を殺す!」

「って、ええぇっ!?なにゆえにワチです!?」

「む?いや違う、俺が殺すのは…ぬぐっ、なんだこりゃ…頭が、痛ぇ…!」


 復活したかと思われた勇者だったが、急に頭を抱えてうずくまった。


「ハッ…!まさか、さっきの勇者さんが持ってきた悪い力に耐え切れなくて、逆に乗っ取られそうとか…!?」

「世界を滅ぼすのは、この俺だ!!」

「や、やっぱり!…なのかよくわからないほどに、普段の行いが邪悪ですっ!」


 勇者が完全体になると同時に『断末魔』も完全体となり、勇者を苦しめているようだ。

 このまま乗っ取られてしまったら世界は終わりだ。


「うぐっ、どうやら…完全に飼い慣らすには、もう少し時間が要るようだぜ…!」

「えー、それは困るなぁ~、暇じゃん僕。」

「フッ、問題ない。暇潰しなら…なぁ無職?」

「…ま、まさか…?」

「五分でいい…なんとか耐えろ。それが貴様の、最後の仕事だ。」


 最初の仕事でもあるが。



「んー、つまり今度はキミが相手なわけだよね…?で、強いの?何ができる人なのかなぁ?」

「え゛…えと、しいて言うなら…何も…」

「じゃあそこどいてくれる?」

「…でも、やることに意義があるです!」


 無職は震えながら身構えた。

 だが大魔王は歯牙にもかける気は無さそうだ。


「無いよ。残るのは“結果”だけさ。キミの頑張りなんて、存在と共に消える。」

「そ、そんなことないです!頑張ることは決して…」

「無意味だよ。」

「違っ…」

「やるまでもないよ、キミとじゃ絶対楽しめないね。負ける気しないし。」

「な、何が悪いです!?例えばワチの何が!?」

「名前が。」


 痛恨の一撃!



 そして数分後。戦闘前から早くも言葉でコテンパンにされていた無職だったが、実際にも同じ目に遭っていた。


ズバシュ!


「きゃうう!い、痛いです…!でも…」

「やっぱ駄目だね~。頑張りは伝わるけど、ことごとくセンスが無い感じ。」

「ハートの方が痛いです…!」


 そっちは既に致命傷だった。


「なんで勝てないとわかってて無理するかなぁ~?全然わっかんないよ。」

「ワチだって…ワチだって、死ぬ前に一度くらい、役に立ちたいんです!!」

「だから無理だってば。キミなんて何の役にも立たないし…死になよ。」


ドスドスッ!


 痛恨の一撃!

 無職は剣で背後から貫かれた。


「ぐふぅ!!」


 そしてその切っ先は、大魔王にも届いていた。


「な…にぃ…?」



「フッ…壁役ご苦労。ちゃんと役に立ったじゃないか、無職。」



 勇者が無職の背後から、二人を貫いていた。



「ちょ…ま…まさかの展開にワチ…驚きが止まらないですが…ケフッ!」

「ぐっ、さ…さすがの僕も驚いたよ…。完全に…油断しちゃってたね…」


 完全に意表を突かれた無職と大魔王。


「サラバだ無職。ろくな走馬灯も見られんだろうから首をハネてくれよう。」

「い…いちいち心にグサリとくるですね…勇者さん…」

「勇者ぁ?ハハッ、残念だったな。アイツは消えたよ…今の俺は『断末魔』だ。」

「ほ、ホントか嘘かわからないのが…辛いです…」

「まぁ安心しろ、これからあの世はもっと賑やかになる。俺が…そうしてやる。」

「まったくもって…安心できる要素が無いですが…」

「よし、そんなことより続きをやろうぜ大魔王。」

「いや、僕が言うのもなんだけど“そんなこと”扱いって…」


 勇者が剣を抜くと、勢いよく鮮血が飛び散った。

 崩れ落ちた無職が立ち上がることは、二度となかった。



「む、無念です…。せ…せめて来世では…もう少し…素敵な…名前に……」



 最期まで報われなかった。



 そんな感じで、結局見せ場の無いまま旅立った無職。

 そしてついに、悪vs悪の一騎打ちが始まるのだった。


「これでやーーっと、まともにやりあえそうだねぇ。随分待たされたけど。」

「フッ、それは悪かったな。だが任せろ、ここからは一瞬だ。」

「伝説の呪いか…相手にとって不足は無さそうだ。『団地妻』だっけ?」

「違うわ『断末魔』だ!なんだそのちょっぴりムフフな響きは!?」

「まぁどっちでもいいけどね。宇宙一楽しい戦いを、させてくれるならさ。」

「フン、この戦闘狂め。そんなことのために、よくもまぁこんな大掛かりな…」

「キミだって同じでしょ?強い者は、更に強い者を求めるもんじゃん?」

「まったくわからんな。雑魚どもを虐げる快感に勝るものなど無いわ。」

「なんか僕の立ち位置が揺らぐ感じが…」

「光栄に思うがいい小僧。これが我が世界征服のための…前哨戦となろう。」


 頑張れ大魔王。




 勇者のパワーアップにより、大魔王戦は長引きそうな感じになったので、とりあえず場面転換。

 とはいえ、いい加減あっちこっちと気が散るので、これからは一つずつ終わらせていく方向で。


 というわけでまずは、放っておいたら勝手に死んでそうな賢二戦から。


~大魔王城十階:竜王の間~


「フゥ…やるネ。人間風情がここまでやるトハ、少し想定外だったヨ。」

「ハァ、ハァ、もう、空っぽ、ですけどね…」


 ソッコーで殺されるかと思いきや、賢二はまだなんとか生きていた。

 それどころか―――


「さすがは我が父、ウザキを倒しただけあるネ。」

「んもー!太郎さんが余計なこと言うからー!」

「まぁいいじゃん。それよりさ、疑われないくらい強くなったことを喜ぼうよ。」

「そうニャ!頑張った賢ニャンは誇っていいのニャ!」

「潜り抜けた修羅場の数が違うんスよ!マジ尊敬ッス!」

「憧れるよね~♪」


 太郎、ライ、下端、召々も無駄に生き残っていた。


「ならいい加減戦ってよ!!」


 だが相変わらずタイマンだった。



「フム…実力は十分に見タ。認めようカ、お前は本気を見せるに相応しいヨ。」

「買い被らないでぇーーー!!」

「やっぱウザキの家系ってことは、『魔竜化』って線が濃厚だよね。」

「アハ☆そんなベッタベタな展開だったら超ウケるね~☆」

「…やりづらいネ。」


 太郎と召々の精神攻撃が炸裂。


「な、なんかごめんなさい…僕が謝るのも変だけども。」

「まぁいいヨ、気にせず見せようカ…ハァアアアアアアアアア…!!」


 竜神は力を溜めた。

 そして巨大な竜の姿に変身した。


「うっわぁ…死ぬなぁ…これは確実に…死ぬんじゃない?どうするの賢者君…?」

「…いや、逆にちょっと…希望が沸いてきたましたよ。」

「ナニ…?フッ、言うじゃないカ小僧。」


「痛みを感じる間もなく、死なせてくれそう…」


 言うんじゃない。



「やれやれ、参ったね…ついに僕らも年貢の納め時か…。これまで、のらりくらりと未納できたのに…」

「だいぶ前からだけどね!?少しは頑張ってみてよ太郎さんも!」

「フッ、いいよ。そうしようか。」

「えっ、本当に…?」


 なんと、心を入れ替えたかのようなセリフを口にした太郎。

 それに召々、下端、ライが続く。


「他人のこととか知らないけれど♪」

「自分の身だけは必死で守る!」

「それがアタチら!」


「『自衛団』!!」


 ド派手にポーズを決める四人。

 賢二は軽く殺意を覚えた。




ドッゴォオオオオオン!


 そんな感じで変身した竜神は、案の定クソ強かった。

 いくらなんでも賢二が一人で手におえるレベルじゃなかった。


「ぐはぁ…!つ、強すぎる…!こんなの、僕一人じゃ…でも…!」


 太郎達四人は、自衛団とか言っていた割に、変身時の衝撃波でサクッとノックアウトされていた。


「やれやれ、あの程度で気絶かネ。他愛ないにも程があるヨ。」

「ま、まぁ“隙あらばボケよう”感も凄かったし…自業自得なんだけどね…」

「諦めるがいいヨ。雑魚がどれだけいようト、私は倒せナイ。お前が来るネ。」

「…そうだね、早く治療すれば…みんなまだ助かると思うし。」

「ほぉ、それは私を倒すという意味かネ?笑える冗談だネ。」

「いや、僕はボケじゃないんで…笑わせる気は、ないですよ。」


 賢二は涙目でキメた。

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