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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
178/196

【178】最後の聖戦(10)

 勇者とマジーン、そしてなぜか夜玄が大魔王に斬りかかり、なんとなく状況が好転したっぽい大魔王戦。

 まずは夜玄の真意について知りたいところ。


~大魔王城最上階:終焉の間~


「うぐぅ…!ま、参ったなぁ…ここにきて、こんな裏切りが…あるとはねぇ…」

「裏切り者とは失敬ですね大魔王。私は最初から忠実なるしもべですよ、『天帝』の…ね。」

「ハァ…?何それ…」


 意味がわからない様子の大魔王。

 それは勇者も同じだった。


「チッ、もう何がなんだかわからん!オイ裏切り執事、わかりやすく一息で説明しやがれ!」

「今日この日の危機を予知した私に先々代天帝は命じました“未来を守れ”と。」


 夜玄は本当に一息で説明した。


「それで二重スパイか…。随分とまた気の長い…そして残酷な…作戦だねぇ…」


 不意打ちが意外と効いたらしく、大魔王は片膝をついた。


「いや、だがジジイ貴様…身内も何人か手にかけてただろ?こっちの味方だってんなら、もうちょっとうまくやれたんじゃ…」

「すべての事象は未来に繋がっています。そのためには残念ながら…消えなくてはならない命もあったのです。」

「ふむ…なるほど、『バタフライ効果』ってやつか。わからんでもないな。」

「大義のためには犠牲はつきものです。洗馬巣さんも…理解の上でしたよ。」

「まぁアイツほど惜しくない命は他に無いだろ。だが無職はまだ若かっ…」


「そうです!まだまだ人生、これからですよ!!」


 なんと!死んだはずの無職が元気に現れた。


「なっ…!?馬鹿な、お前は確かに脈が止まっていたはず…!」

「えと、私の特殊能力“何でも働かなくする能力”で一時的に脈を…敵を騙すにはまず味方から…ごめんなさいです!」

「フッ、何を謝る?騙される奴が悪いんだ、貴様の味方とやらが雑魚なんだ。」

「あ、え…あれれっ!?」


 無職は未だアウェイだった。



「ふむ…フハハハ!なにはともあれ素敵な展開じゃないか!これで3対1だなぁ大魔王!」

「へ?いや、ワチを入れれば…」

「3対1だな、大魔王!!」

「なんですそのさりげなくも大胆な戦力外通告!?」


 強気に煽る勇者。

 だが大魔王は簡単にキレるタイプではなかった。


「ハァ~…参ったね。五百年前もだけど、うまくいかないもんだねぇ何かと。」

「へぇ、テメェでも弱気になることあんだなぁクソガキ。」

「そりゃあるさ欧剣さん。でも、何が一番参ったって…キミらの甘すぎる考えに、心底参ったよ。」

「あん?テメェ何が言いた…」


「キミらごときがたった四人で、この僕に勝てるとでも…思ってるの?」


 暗黒神から邪悪なオーラがほとばしった。

 優勢かと思われた空気が一瞬で吹き飛んだ。


「ひ、ひぃいいい!この人数差で全然勝てる気がしないですけど…!?」

「ところで裏切り占い師、お前の予知じゃどっちが勝つことになってやがる?」

「この戦いは渦巻く邪気が多すぎる…。もはや私にも、結末は見切れません。」

「使えんな…まぁいい。じゃあ行くぞお前達!敵は一人だが気を抜くなよ!?」

「もちろんです。亡き主の名にかけて、全力で彼を葬ります。」

「まぁ安心しろや勇者、そんな余裕かませる程の自信も無ぇしなぁ。」

「えと、その“達”にワチは入ってるです…?」


 最初の脱落者は誰だ。




ズッガァアアアアアアアン!


「…みなさん、右です!」


ドッガァアアアアアアアン!


「ひぃいいい!ぎ、ギリギリです!一瞬でも遅れたら死ぬですよ…!」


 戦闘が再開し、三十分ほどが経過。

 大魔王の戦闘力は凄まじかったが、夜玄の予知能力のおかげで全員まだ生きていた。


「ハァ~…やっぱ邪魔だよね、その予知能力。一番困っ…」

「オイオイ、マジでそれが一番かぁ!?」


ガキィイイン!


「くっ…!キミも、随分と邪魔だよ…覇王!」

「オメェの好きにゃさせねぇよ。勇者の野郎が起きるまで、粘ってやらぁ。」

「ええ。我らが力を合わせれば、足止めくらいは造作も無いです。」


 なんと知らぬ間に勇者はお昼寝中らしく、マジーンと夜玄が踏ん張っていた。


「い、居づらい…」


 無職だけ何もしていない。



「ふぅ~…あのさぁ欧剣さん。まだ喋れるうちに、一つだけいいかなぁ?」

「あ?なんだよオイ、命乞いでもしようってか?」

「いや、確か前は“終末が見たい”とか言ってたのに、なんでそっち側に?」

「フン、オメェじゃ役者不足なんだよ。お前が勝っても、世界は終わらねぇ。」

「僕じゃ力が足りないとでも?」

「力じゃねぇんだ。オメェは絶対、途中で飽きてヤメちまうタイプだ。」

「ん~?あ~、確かにそうかも。」

「だが、コイツは違う!コイツならきっと…俺の願いを叶えてくれる!」

「えっ!?なんですその負の期待!?」


 無職は驚いたが納得はできた。


「俺はコイツを王にする。そして世界の、終わりを見るんだ。」


 否定できないから怖い。



「ん~…まぁキミら強いし楽しいは楽しいんだけど、ちょっと飽きてきたかなぁ。とりあえず、なんか人数多いし…そろそろ一人、消えてもらおうか。」

「ったく、やっぱり飽きっぽいじゃねぇか。いいぜ、来いよ。」

「いやいや、欧剣さんは不死身みたいじゃん?だから…」

「まずは私…ということですね。」


 夜玄は覚悟を決めた目をしている。


「えっ、でも先が見える人を倒すとか無理じゃないです?」

「そうでもないですよ?たとえ私がどんなに的確な予知をしても、意味の無い広範囲の攻撃…とかねぇ?」

「そういうこと。説明が早くて助かるよ。じゃあおいでよ、『ユッキー』!」


 大魔王は呪文らしきものと唱えた。

 あらかじめ地面に刻まれていた魔法陣が輝いた。


「ゆ、ユッキー!?だだだ誰です…!?」

「さぁ来ますよ…彼のしもべ、呪われし双竜の片割れ『豪雪竜』が。」


ズゴォ…ズゴゴゴゴゴォ…!



「ブフォォ…ブフォォオオ…」



 豪雪竜が現れた。

 部屋の温度が一気に下がった。


「こ、コイツが悪名高い…。やれやれ、こんなの飼ってやがったのかよ。」

「まぁ『業火竜』の方は、この前やられちゃったんだけどねぇ~。」

「ど、どどどどうするです!?これからワチらはどうなるです!?」

「…フフ、放っておいても未来は勝手にやってきます。無理して先に知る必要は無いのです。」


 夜玄はマジーンにメモを手渡した。


「あん?なんだよコレは…?」

「アナタはそれの通りに。そうすれば、望む未来は訪れますよ。」

「オメェ、死ぬ気か…?いいのかよそれで?」

「私は生きるために生きてきたわけじゃない。目的を、果たすためですから。」

「わ、ワチには?ワチには何かできることないです…?」

「…後で、話しましょう。」

「つまり“じきに死ぬ”と!?」


 残酷な予言だった。


「へぇ~、まだ諦めないんだ。死なない未来でも見えたってわけ?」

「いえいえ、私は死にますよ。避けられない運命というものはあるものです。」

「その割には絶望感が感じられないじゃん。なんでなのさ?」

「先のことは私にもわかりません。ですがこれで未来に、一筋の光明は残る!」

「まぁいいや。やっちゃいなよ、ユッキー!」

「ブフォォオオオオオオオ!!」


 豪雪竜は凍える吹雪を吐いた。

 だが夜玄は魔法で食い止めた。


「へぇ、そんな魔法も使えちゃうんだ。やっぱ長生きはするものなんだねぇ。」

「お嬢さん、私の後ろにいなさい。そうすれば、まだ死にはしない。」

「で、でも…!」

「まだ大丈夫、安心していい。」

「しきりに“まだ”を連呼するのはなぜです!?」


 無職は安心できない。


「ん~、結構頑張るねぇ。でも本職じゃないんだから、もう限界だよね?」

「だ、大丈夫です!?随分辛そうですが大丈夫です!?」

「し、心配は要りませんよ。アナタはまだ…」

「アナタ実はドSさんです!?」

「でもまだ本気じゃないんだよね~。さぁ、そろそろ本気でやりなユッキー!」

「ブフォッ!ブッフォオオオオオオオ!!」


「…今です!!」

「ッ!!?」


「ラジャー!」


 夜玄の合図にマジーンが反応した。


ザシュッ!


 マジーン、会心の一撃!

 背後から竜の首をハネた。


「ハハハッ、マジで決まったわ!あらかじめあんなメモ用意できるとか、やっぱスゲェな爺さん!」

「フ…フフ…。注意さえ引いてしまえば、背後を取るなんて造作も…グハッ!」


「あ~…確かに、そうだねぇ。」


「なっ!?テメェいつの間」


ザシュッ!


 夜玄は腹部を貫かれ、マジーンは首が飛んだ。



「くっ、なんてこった…油断しちまったわ…」

「う、うわー!聞いてたですけど首だけで生きてるとかトラウマ級ですー!」

「ハハハ!残念だったね~。予知は無理でも予想くらいできるんだよ僕も。」

「グフッ…まぁ、これも予知通り…。ここから先は、私にもわかりませんがね…」


 致命傷を負いながらも、なぜか落ち着いた様子の夜玄。


「ハァ?いやいや、死にかけといて予知通りとか強がりも大概に…」

「私に見えるのは、ここまで…。私は希望を守った…後は…お任せします……」

「ッ!!?」


「ああ、よくやったなジジイ。」


「なっ!?しまっ…」


 音も無く勇者が現れた。

 大魔王は避け切れない。


ザシュッ!


 なぜか夜玄が斬られた。


「ちょっ、なんでお爺さんを斬っちゃったです!?アナタどこの鬼さんです!?」

「フッ、せめてもの情けだ。腹に風穴を開けられ、凍てついた体でジワジワ死ぬのは苦痛だろう。」

「…ホントは?」

「勢いで。」

「やっぱ鬼です!」


「…で、調子はどうなの?睡眠取って体調は万全!って感じかな?」


 想定外の事態に一瞬動揺した大魔王だったが、すぐに落ち着きを取り戻した。


「フン、馬鹿か貴様は?眠ったくらいで傷が癒えたら医者なんぞ要らんわ。」

「ふ~ん。冗談っぽく言ってるけど本心でしょ?わかるよ。」

「…チッ、出し抜けんか…ガハッ!」


 勇者はドバッと血を吐いた。


「えぇっ!?ゆ、勇者さん!?じゃあさっき、開始早々に倒れたのは…もう体が限界で…?」

「あーあ…やっぱり限界だったみたいだね。待った甲斐が無くて残念だよ。」

「ゼェ、ゼェ、負けるというのか…?この俺が…負けると…?ありえん、こんなことは…あってはならん…!ちくしょう…!」

「ゆ、勇者さん…」

「ハァ~~…参ったなぁ、ガッカリだなぁ…。僕、何のために今日まで待ったんだろ…」

「く、クソがっ!この俺に…この俺にガッカリするなぁ…!」


 勇者を憐れみの目で見下ろす大魔王。

 だが勇者は立ち上がることすらできない。


「だ、大丈夫です勇者さん!きっと助けが来るですよ!」

「お…おぉ、そうか。確かにこの手のパターンだと誰かが…」

「誰がぁ?僕の相手になりそうな人って、キミの父親くらいなもんじゃない?」

「そ、そうだ親父だ!あのクソ親父なら、いつヒョッコリ現れても不思議では…」

「それは無いね。帝雅班からさっき通信が入ったよ、遠くで戦闘中だって。」

「なっ…!?じゃ、じゃあ…じゃあ他には…!まだ誰か…」

「諦めなよ、もうわかってるでしょ?」

「…ふ、ふざけるな!俺は…俺は、諦めるのと盗子が、大っ嫌いなんだ!!」


 もはや強がることしかできない勇者を、まるで壊れた玩具を見るような目で見ていた大魔王は…静かに剣を振り上げた。


「さぁ…死のうか。」

「くっ、ここまで…かよ…!」


 勇者が諦めかけた、その時―――



「待ぁーーーーてぇーーーーー!!」



 なんと!意外な人物が現れた。


「ッ!!?」

「えっ…!?ちょっ、どういうことです…!?」


 “もしかしたら誰かが”と誰もが思っていた展開だが、現れたのは誰も想像だにしていない人物。

 大魔王よりも無職よりも、勇者が一番困惑していた。


「お、お前は…まさか…!」




「俺かっ!?」

「俺だっ!!」



 勇者Bが現れた。

 もう何がなんだか。

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