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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
177/196

【177】最後の聖戦(9)

 盗子の功績により世の幼女達の未来が守られた頃…ところ変わって、しばらく音沙汰が無かった死体(暗黒神)と死霊(教師)のドス黒い戦いもまた、クライマックスを迎えようとしていた。


~大魔王城三階:暗黒の間~


「ハッハッハ!どうした死神、てんで話にならねぇじゃねーか!あぁん?」

「ふぅ…まったくですねぇ。帰っていいですか?」

「帰んじゃねぇよ!いや、引き止めるのもおかしいが!」


 戦闘面では暗黒神に分があるようだが、心理面では教師が翻弄しているようだ。


「まぁ…ただでさえ厳しい相手だったのが、今は邪神と二人分ですし。さすがに…ねぇ?」

「それに、もともとテメェは戦闘タイプじゃねぇしなぁ。勝負にならねぇわ。」

「でも、よく考えたら共に死人同士…とても不毛な一戦だとは思いませんか?」

「それを言っちゃあお前…」


 確かに未来の無い話だ。


「にしても困りましたねぇ。こちらにも、あともう一人くらいなんとかなりませんか霊魅さん?」

「ウフフ…無茶言うとキレますよ…」


 どうやら霊魅も限界のようだ。


「まぁ仕方ないですねぇ、じゃあそろそろ本気を出すとしましょうか。」

「あ゛?なんだテメェ、まるで今までは手を抜いてたみたく…」

「さて…じゃあいきますか。剣と鈍器、どちらがお好みです?」

「フッ、そうだなぁ…ってちょっと待て!お前どっちも違う系統だろうが!」

「え?イヤですねぇ、私が幻魔術だけの人とでも?」

「ケッ、ハッタリかよ面倒くせぇ。とことん人を煙に巻くのが好きな野郎だな。」

「本当ですよ?あらゆる科目を究めていないと、先生なんてできませんから。」

「ほほぉ…言うじゃねぇか。いいだろう、ならば俺も剣で相手してやるよ。」


 教師はバズーカを構えた。


「話が違っ…!」

「“人はむやみに信じない”…ここ、テストに出ますよ?」


ドガァアアアアアアアン!!


 勇者しか満点は取れない。



 その後しばらく、お得意の非道な攻撃全開で、暗黒神を攻めまくった教師。

 地獄で悪の修行でもしたのか、手口が生前よりさらにエグい。


「ハァ、ハァ、テメェ…!好き放題やってくれやがって…!」

「死んでるのに息切れとか…意外と演出に気を使える人なんですね。」

「ち、違ぇよ!長年体に染み付いたモンが出ちまった~みてぇな感じだよ!」

「なるほど、生前は年中ハァハァしていたと。」

「そういう意味じゃねぇよ!変態みたいに言うなよ人聞き悪ぃな!」

「お変態様…」

「いや、無理して人聞き良くしようとしてんじゃねぇよ嬢ちゃん!しかも全然なってねぇし!」


 霊魅もイジる側に回っていた。


「やれやれ、口での時間稼ぎも…そろそろ限界のようですねぇ。はてさて、どうしましょうか…」

「どうにもならねぇよ!さぁ今度は俺からいくぜぇ!技名は…そうだなぁ、『暗黒暴風葬』どでも付けようか!」

「…プフッ。」

「わ、笑うなぁああああああああああ!!」


 ズゴォオオオオオオオオ!!


 暗黒神の攻撃。

 ミス!教師は霞んで消えた。


「ハァ…まったく学習能力の無い人ですねぇ。」

「ってのは、まぁ予想の範疇だわなぁ。」

「…ハッ!しまっ…」


 逸れた竜巻が霊魅を襲う!


「ハハハッ!悪いな死神!術師がブッ飛んで、テメェもジ・エンドだ!」

「ウフフ…甘いですね…。全然…問題無いですよ…」

「なっ!?小娘、まさか避け…」


「今日は…スカートじゃないから…」


 霊魅は豪快に宙を舞った。




「だ、大丈夫ですか霊魅さん?先生ちょっと油断しちゃいまして…」

「先生…気が散るから…一人に減ってください…」

「完全に目が回ってますね…」

「ハハハッ!ざまぁねーな。心なしか姿が揺らめいてるぜ?大丈夫か死神ぃ?」

「霊魅さんの周りには魔法壁を張ります。もう同じ手は通じませんよ。」

「まぁいいさ、だったら…こっちを狙うまでだ。」


 暗黒神の攻撃。


「なっ…絞死…!?」


 暗黒の波動が、なぜか扉の陰にいた絞死を襲う。


「くっ…!」


 教師は絞死をかばった。

 教師は右肩から下が消滅した。


「こ、絞死…アナタ、勇者君に連れられて上に行ったはずでは…?」

「道端に…投げ捨てられてて…」

「勇者君に、今度会ったらじっくりコトコト話しましょうと伝えてください。」


 明らかに煮る気だ。


「やれやれだなぁオイ、ダメダメじゃねぇか死神。もう帰っちまえよあの世に。」

「いやいや、お陰さまでだいぶ…思い出してきましたよ。本気の、出し方を。」

「へぇ~。じゃあどうするよ?片手じゃ剣も握れねぇだろ?」

「ですねぇ…。では次はお待ちかねの、魔法をお見せしましょうか。」


 教師はサッと後ろに飛び退き、印を結んだ。


「馬鹿がっ!遅ぇええええええ!!」

「フッ…」



カチッ



「なっ…地雷…だぁ…!?」


ドッガァアアアアアアアアン!!


 手口がほぼ勇者だ。


「くっ、この期に及んで…卑怯な野郎だ…!」

「フフフ。要は勝てばいいんです…が、良い子は真似しちゃ駄目ですよ?」

「なら実の子に見せないでください。」


 まぁ今さら手遅れだが。


「さて、炎系・氷系・風系・雷系・絶命系…何系の魔法で消えたいですか?」

「魔法ならなんでもござれってか?なんだよテメェ『賢者』か?」

「さあ?まぁアナタが“愚者”なら、そうなるでしょうかねぇ。」

「ブッ殺す…!!」

「フフフ…残念、手遅れですよ。」


 二人から邪悪なオーラがほとばしる。

 絞死と霊魅は近づくことすらできない。


「す、凄い…!父上が、こんなに凄かったなんて…!」

「よーく…見ておくべきですよ息子さん…。もう…二度と見れないから…」

「ええ、そう…ですね…」

「こんなに…ドス黒いのは…」


 ちょっとした“魔界大戦”だった。



 そして、拮抗した戦いがしばらく続いた。

 だが…突然、終わりが見え始めた。


「ハァ、ハァ、ふぅ…おかしいですね。先ほどの暗黒神でもないですが…なぜ死者である私の…息が切れるのでしょう…?」

「ウフフ…。それは…私に限界が…近いからですよ…」


 霊魅は熱々の料理に乗せたカツオ節くらいフラフラしている。


「ハハハッ!そうか、ついに差が出てきやがったか!終わりだなぁオイ!」

「ち、父上…」

「大丈夫ですよ絞死。ちゃんと私が…全てを終わらせますから。」

「いや、“全て”の範囲によっては逆に心配なんですが。」


 “地球規模”の可能性も捨てきれない。


「フン、ハッタリこくなよ死神…いや違うな、『死神の目』も無ぇしただの雑魚魔導士か。」

「…ハァ、やれやれ。アナタはやはり、『幻魔導士』を誤解してますねぇ。愚かなことこの上ない。」

「あん?なんだよ、今までの全てが幻だった~とでも言うのかよ?」

「そんな無茶ばかりしてたら物語が破綻しますよ。“どうせ幻なんだろ?”と思われるようになったら最後ですね。」

「誰目線なんだ。それ誰目線の意見だよ。」

「なので、次でキメますよ。とっておきの…幻魔術でね。」


 言っちゃって良いのか。


「さて…ではよく見て、胸に刻んでくださいね絞死。この私の…最後の戦いを。」

「父上…」

「毎晩うなされる程に。」

「何をする気ですか。一体どんなトラウマを刻み付ける気ですか。」


 悪質な嫌がらせでしかない。


「おっと、大魔法唱える時間なんぞ与えるかよぉ!テメェこそ食らいやがれ、邪神との融合技…そうだなぁ、『暗黒旋風葬』とでも名付けようか!」

「フフフ…こちらこそ撃たせませんよ。幻魔奥義、『幻想逆転世界』…!」


ピカァアアアアア…!


 教師は謎の呪文を唱えた。

 凄まじく邪悪な扉が現われた。


「なっ!?早っ…まさかあらかじめ…」

「いや~、こっそりと魔法陣を描くのは、やはり時間がかかりますねぇ~。」

「ば、馬鹿な…!この扉はまさか、『邪教』の経典に描かれてる…!?いや、しかし…!」

「おや、ご存知ですか?なら要りませんよね、この…『魔界の扉』の説明は。」


 どう見ても悪側の秘奥義だが大丈夫か。


「さぁ逝きましょうか暗黒神。殺せないなら、異界に放り込むまでです。」

「ケッ、だがどうせ幻だろ?『死神の目』でも無きゃ幻を現実に変えるなんて…」

「それが、できる手段があるのですよ。まぁ自由自在に…とはいかないんですがねぇ。」

「あん?どういう意味だよ?」

「さぁ早く飛び込んでください暗黒神。もちろん一度閉じたら二度と…ハッ!」

「うわっ!?」

「フハハ!馬鹿がっ、やっぱツメが甘ぇんだよ貴様は…いつまでもなぁ!」


 暗黒神は絞死を扉に放り投げた。

 絞死はかろうじて扉の縁を掴んだが、今にも吸い込まれそうだ。


「くぅ…!ち、父上…!」

「ハハハハ!ざまぁねぇな死神!俺をハメるどころか、自分のガキを…」

「サヨナラです、絞死。」

「ええぇっ!?」


 絞死と暗黒神は見事にハモッた。


「ちょ、ちょっと待てよ死神!ガキが魔界に吸い込まれようとしてるってのに…」

「少ししか共にいられませんでしたが、私は幸せでしたよ…絞死。」

「私は不幸ですよ!実の親に見捨てられ…だ、駄目です…もう握力が…!」

「…ハ…ハハハ!やっぱ悪魔だわテメェ!戦闘に邪魔と見るや、実のガキまで…」


 絶望する絞死。

 歓喜する暗黒神。

 そして、安堵する教師。


「ふぅ…良かったです。初めて使った割に、うまくいきそうでなによりですよ。」

「あ゛?テメェ、何が言いてぇ?」

「フフフ、だから言ったでしょう?ここは…『逆転世界』だと。」

「あん?だから何を…ハッ!まさか、既に…!?」


 教師は絞死の手を蹴り飛ばした。

 と同時に、扉はゆっくりと閉じていく。


「なぜ『魔界の扉』ほど邪悪なものが、意外と簡単に開くのか。それは、開いた時には自分が内側にいるから…命を賭した荒業だから…なのです。」

「ち、父上ぇええええええええ!?」


 吸い込まれていく絞死。

 その最愛の我が子に向かって、教師は笑顔で別れを告げた。


「またいつか会いましょう、絞死。怨念渦巻く…この魔界の地の果てで。」

「それはちょっとぉおおおおぉぉぉぉぉぉぉ…」



バタンッ!


 脅威は去った(二重の意味で)。




 絞死が飛び出ると当時に、『魔界の扉』はバタンと閉じた。


「…ハッ、こ、ここは…!?父上は!?」

「アナタだけですよ…。もう先生は…帰らない…」


 霊魅は絞死の肩にそっと手を置いた。


「そんな…!で、でも!霊媒師さんが術を解いたら、少なくとも魔界からは…」

「どうでしょうね…。かえって呪縛されちゃうかも…しれないですね…」

「なんとかなりませんか!?試すだけでもいいんで、何か…!」

「ゲフッ!あ~…それは少し…無理そうですよ…」

「血っ!?だ、大丈夫ですか!?」

「『自爆交霊』…『偽魂』も無しに…霊を呼ぶのは…無茶だったから…。私には…もう…」


 霊魅も既に限界を超えていた。


「ち、父を…召喚したから…?」

「アナタに一つ…勇者君達に会ったら…伝えてほしいことが…ぐふっ!」

「…わかりました、お伝えします。なんでしょうか?」

「寂しくなったら…振り返ってみてと…」

「どんな怪談ですか。死に際に冗談とかなんでそんなに余裕なんですか。」

「ウフフ…冗談…?」

「違うんですか!?って、いないっ!?」



「ウフフ…ウフフフフフフフ…フ……」



「こ、こわい!!」


 死んだのか違うのか。

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