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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
176/196

【176】最後の聖戦(8)

 大魔王が最上階で想定外の事態に追いやられていた頃、父と帝雅によるもう一つの最強決定戦は―――


~タケブ大陸:ショムジ遺跡~


ドッガァアアアアアン!!


「ハァ、ハァ…フフッ、やはりさすがだな凱空君。だが、それでこそ我が宿敵に相応しい。」

「貴様もな。片腕でそこまでやられると、父さんちょっと立場が無いぞ。」

「フン、ほざくな。まだ…本気ではないのだろう?」

「ん~、解樹が死んでも一向に呪いが解ける気配が無くてなぁ。真面目にやると副作用が凄いんだ。」

「やれやれ甘く見られたものだ。そのような手抜きでこの私が倒せるとでも?」

「フッ、多くは望まんさ。勇者が大魔王を討つまでの時間さえ、稼げればいい。」

「ほぉ、随分と息子を信頼しているようだが…なぜだね?」

「む?おかしなことを聞く。血を分けた我が子を信じるのに、理由が必要か?」

「ハハッ、単なる親のひいき目か、あるいは…。面白い、私も興味が沸いた。ならば…」

「む?一体…」

「見届けに行くとしようか。来い、お前達!」


 帝雅が合図を送ると、帝雅軍の兵士達が現れた。

 だが―――


「うぎゃああああああ!!」

「ぎょへぇえええええ!!」

「ハッハー!その程度の腕前でこの父さんに挑もうとは傍ら痛し!超痛し!」

「な、なんて野郎だよ…!噂には聞いていたが、あまりにも想定外…ぐわぁあ!」


 完全に父のペースだった。


「くっ!しかも、攻撃の大半が『カンチョー』とは…ギャーー!」

「おっと、舐めてもらっては困る。『デコピン』もあるぞ?」

「キミこそ舐めてもらっては困るのだが…まぁ、それもやむなしか。」


 それなりの手練れを用意したつもりだった帝雅だが、凱空の常人離れした強さを再認識させられた。


「残念だが、彼らごときでは疲れさせることもできんよ帝雅。肛門を無駄に痛めるだけだ、やめさせなさい。」

「…確かに、そのようだな。ならば、最終手段に打って出るのみ!」

「ほほぉ、最終手段か…いいだろう!ジャン!」

「ケ…違う!!」


 やっぱり父のペースだった。



「にしても…意外だな帝雅。お前のことだ、一騎打ちでの完全勝利を望むかと思ったが。」

「フン、戦闘で負けても笑って死にそうな相手じゃなければな。キミのような人間は、やはり何か“大切なものを奪う”に限る。」

「相変わらずの外道め。まぁ悪役の鑑といえばそうなのかもしれんが。」


 勇者とは分かり合えそうな感じだ。


「さて…ではそろそろ死んでくれるかな凱空君?私には、大事な探し物があるのでね。」

「悪いがそれは無理だ。父さん、死ぬときは勇者の腕の中だと決めてるんだ。それに…貴様なんぞに渡すわけにはいかんしなぁ、かの古代兵器…『倍々菌』は。」

「ッ!!き、貴様…その情報、どこで…!?」

「これでも顔は広くてな。にしてもお前…そんなもの手に入れてどうする気だ?使えば自分も死ぬぞ?」

「ハッハッハ!………ん?」

「んんっ!?」


 帝雅は意外とうっかりさんだった。


「まぁ既に手は打ってあるがな。アレはもう場所を移した、二度と貴様のような悪の手に渡ることは無い。」


 凱空は息子も欲しがっていたことを知らない。


「…やれやれ、また邪魔されたというわけか。相も変わらず忌々しい男だ。」

「悪いな帝雅よ、これが『勇者』というものなのだ。」

「フン、そう余裕でいられるのも今のうちだ。さぁ見るがいい!我が」

「真の姿を!!とか言いつつ、おもむろに変身するのだけはやめてほしい。」

「真の…なんだとぉおおおおお!?」

「その手の展開はもう飽き飽きなんだ。もっと斬新な展開を望むぞ。」

「た、例えば…?」

「そうだなぁ…“さぁ見るがいい!我が健康的な五臓六腑を!!”みたいな?」

「死ぬわ!!なぜ意気揚々と切腹せねばならんのだ!?」


 帝雅は意外と律儀に突っ込むタイプだった。


「おのれ…!ここまで…ここまで愚弄されるとは…!」

「なんだ不満か?同じ強さを持つ者同士しか、わかり合えんこともあるだろう?」

「急に何を言い出すかと思えば…。忘れたのかね?我々の間には様々な…」

「皇子も終も…もういないんだ。」

「ッ!!」


 帝雅の動きが止まった。


「全ては過ぎ去ったことだ。囚われるのはもうヤメにしないか、帝雅よ。」

「…フッ、まさかそんな考え方が…あったとはな…」

「おぉ!わかってくれたのか!」


「ああ…話すだけ、無駄だということがね。」


ドスッ!


 帝雅の剣が父の腹部を突き刺した。


 だが、その姿は霞んで消えた。


「フッ、残像だ。」

「なっ!?馬鹿な…だが確かに手ごたえが…!」

「ああ。刺されてから動いたしな…ぐふっ。」

「じゃあ残像の意味は!?」

「やれやれ、ようやくわかりあえるかと思ったのだが…そううまくもいかんか…。まぁいい、殴り合って芽生える友情というものもある。」

「またヌルいことを…。なんだね、戦う理由が無いから駄目なのか?憎む理由が必要なのかね?」

「ま、そうなるな。特に理由が無いのなら、足止めさえできればそれでいい。」

「ハァ、そうかね…フハ…フハハハハ!ならば…くれてやろう。」


 帝雅は凄まじい速さで突進した。


ガキィイイン!


「ぬぅ…!なんて力だ…!」

「皇子がなぜ死んだか…誰に殺されたか!貴様は知っているかぁ!?」

「ッ!!?確か春菜が裏で糸を引いて…ハッ!まさか…!」

「そう!貴様の旧友、春菜という女だぁ!!」

「おぉっ!?お、おぉ…。いや、てっきり“実は私だったのだ”的な展開かと…」

「酷い女だった。嫉妬心に駆られ、皇子を…そして多くの民を殺した極悪人!」

「ち、違う!春菜はそんな女じゃない!きっと誰か悪い奴に、騙されていたに違いない!」

「…だとしたら、どうするかね?彼女を悪に染めた者がいたとしたら?」

「む?そんなの決まってる。柄にもなく修羅と化し、ボッコボコにしてやるさ!」

「フッ、そうか…やっとできたな、戦う理由が。」


「…ん?」


 肝心なところで察しが悪かった。


「だーかーらー!私が、彼女に吹き込んだのだよ!わかるだろう流れ的に!?」

「つまり、お前がそそのかしたせいで…春菜は帝都を襲ったというのか?」

「フッ…ああそうさ、全ては私が仕組んだのだよ!」

「いや、ちょっと待て。お前の扇動で春菜は皇子を…?え、お前…皇子を愛していたんじゃなかったのか…?」

「あ゛ぁ?もちろん愛していたさ!気が狂う程に愛していたさ!私はなぁ!!」


 帝雅は次第にヒートアップしてきた。


「なぜだ、なぜなんだ!?終様、皇子、そして塔子…私の愛は、なぜ誰かに奪われる!?」

「なっ、奪われたのか!?それは酷い奴もいたもんだ!けしからん!」

「ど…どの口でほざく!?親子二代に渡って私の愛を奪う貴様らは、絶対に許せぬ忌むべき存在!だから殺すのだ!私から愛を奪った者、私を愛さなかった者…全てをなぁ!」

「ふむ、よくわからんのだが…皇子がお前と愛し合った末に、盗子が生まれたのではないのか?だったら別に奪われてなど…」

「…出会いは、帝都を滅ぼすべく下見に行った時…一目惚れだったよ。」

「あぁ、回想は短めで頼む。」

「ぬぐっ…!」


 帝雅は攻撃を封じられた。


「まぁ確かに可愛い顔はしてたしな。好きになっちゃうのもわからんでもないが。それからそれから?」

「口説いたさ!必死になぁ!だが、彼女の心の中には、常に他の男がいた!」

「なっ…!」

「そうだ!!」

「ちっさいオッサン的な!?」

「比喩だよ比喩!!」

「ふむ…なかなか難しいな。」

「私は時間をかけ、何度もアタックした。だが彼女が心を開くことは無かった。」

「そのしつこさは昔からだったんだな、お前…」

「だがさすがの私にも限界がきた。だから私は…最後の手段に出たのだよ。」

「ッ!!まさか、貴様…!」

「そう…私は寝室に忍び込んだ。そして寝ている間に、奪ってやったのだよ!」

「なっ!?くっ、なんと卑劣な…!」


 本当ならかなり酷い話だ。


「彼女の可憐な、唇をなぁああああああああああああ!!」

「…お?」


 だがちょっと想定と違った。


「む…?ハッハッハ!衝撃のあまり声も出ないらしい。まぁ無理もないがね。」

「え…いや、ちょっと待とうか帝雅さん。え?唇…?あ、また比喩的な意味で?」

「何を訳のわからんことを…。言葉通りの意味だよ、混乱しているのかね?」

「えっと、じゃあ盗子は…どうやって…?」

「ハァ…キミはそこまで無知なのかね?コウノトリが運んで来たに決まっ」

「乙女か!基本ボケキャラの私が思わず突っ込んじゃう程に天然か貴様!?」

「ハァ?まったく、また意味不明なことを…」

「うぐっ…!」


 なんと!ここにきて立場が逆転した。


「ふむ…ちょ、ちょっと待ってくれ帝雅よ。あ、そうか!その日を境にもっと色々と…」

「その晩を最後に、彼女の姿は見ていない。愛情は憎しみに変わったのだ。」

「違ったのか…」

「まぁさすがに自分で手を汚すのはためらわれ…人に任せたわけだがね。」

「くっ、まぁとにかく最低な男だな…。自分を愛さなかったからというだけで…それだけで…!」

「だが塔子はまだ間に合う!遺伝子を受け継ぎし愛娘…必ずわかり合える!」

「いや、受け継いでないと思うんだが…」

「今はまだ混乱しているようだが、いずれ私を…父を愛するようになるだろう。」

(ん、待てよ?ならば盗子の父は…?そういえば、皇子は生涯独身を貫いたと…)

「この前はつい喧嘩別れしてしまった。早く仲直りせねばなるまいな。」


(父親も無しに出産…まさかあの子は、“神の子”だとでもいうのか?皇子よ…)


 まったくピンと来ないが。




 といった感じで、人外の疑惑が飛び出した盗子は…勇者に殴られ最上階から落とされたにも関わらず、しぶとくもまだ生きていた。

 ナンダに装備させられた怪しげなヘルメット的なモノが外れ、正気を取り戻した盗子は、その後…謎の薄暗い部屋に迷い込んだのだった。


~大魔王城:謎の部屋~


「ハァ、ハァ、魔法とか駆使して、なんとか生きて着地できたのはいいけど…」

「どこだ小娘ぇ!?捜せぇーー!捜して八つ裂きにしろーー!」


 そう遠くない距離から追っ手の声がした。


「こ、殺される!見つかったら殺される…って、それにしても何だろこの部屋?」


「ぬっ?き、キミは…チッ、年増ではないか。どうやって僕の部屋へ?」


 巨大なモニターにナンダの姿が現れた。


「うわっ、ロリコンだ!死してなお幼女の敵の人だ!」

「失敬な!手などは出さん、舐め回すように生暖かく見守っているだけだ!」

「それが怖いんだよ!全然正当化できる行いじゃないからね!?」

「ところで、何の用かね?今はこんな所で遊んでいる場合じゃないだろう?」

「単に迷子だよ!って、そういやアンタには、さっき機械で操られた恨みが…!」

「ちょっ、待ちたまえ。ここで暴れられたら僕の『マスター・サーバー』と…」

「う゛っ…いくら敵とはいえ、存在消しちゃうのはさすがに」


「秘蔵の『ロリ画像サーバー』が…!!」


 盗子は派手に暴れた。



「ゼェ、ゼェ、やっちゃった…つい勢いで、やっちゃったよ…」

「(ガガッ)…くっ、ここまでか…(ガガガッ)…僕の…野望も…」

「なんか…ゴメンね?なにも壊すことはなかったかも…」

「世界中のロリっ娘を操り、僕だけのドリームランドを建設するという壮大な」

「アタシ、ある意味世界を救った気がする。」


 確かに。


「フ…フフフ…だが心するがいい。僕が消えても、いずれ第二第三の僕が」

「既にたくさんいそうだから怖いんだよそのジャンル!滅んでよマジで!」

「口惜しいな…(ガガガッ)…一度でいいから、幼女と…結婚を…」

「でも確実に数年で離婚するよね!?いずれロリじゃなくなるし!」

「…かつて契りを結びかけた縁だ、一つだけ…(ガガッ)…教えてあげよう。」

「え…?」

「(ガガッ)…この城に今…一人だけ、可能性を秘めたロリっ娘(ズガンッ!!)


 ナンダの野望は潰えた。

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