【175】最後の聖戦(7)
勇者の方が盛り上がり始めたその頃、暗殺美達もまた盛り上がっていた。
忍美が『忍法:動物祭り』で呼び出した大魔獣は―――
~タケブ大陸:ショムジ遺跡~
「ギョァアアアアア…アアア…!!」
「ふぅ…少々てこずったか。だが、これで終わりだ。全てを諦めるがいい。」
残念ながら、大魔獣は帝雅に撃破されてしまった。
「あ、あんな化け物でも通じないとか…もう…お手上げなのだ…」
「フン!こうなったら…『命と引き換えに限界を超えるぜモード』しか…手は無いさ。」
精神的にも肉体的にも限界な忍美。
だが暗殺美はまだ粘るつもりのようだ。
「この期に及んでハッタリか?そんなボロボロな体で、何ができると言うんだ?」
「そんなのアンタが考えろや!こっちが教えて欲しいくらいさ!」
「そ、そんな斬新な逆ギレは初めてみたのだ!改めて尊敬するのだあさみん!」
「敵は近接戦闘しか無いさ。中距離から攻めればなんとか…」
「フハハ…!舐められたものだ。ならば見せてくれよう、『帝王玄武弾』!!」
「なっ…!?」
帝雅の中距離攻撃。
二人はギリギリでかわした。
「うぐっ…そんな技まで…あるのかさ…!」
「この私を誰だと思っている?私は『皇帝』…全てにおいて、死角は無いのだ。」
「でも父親の資格も無いのさ。」
「だ、黙れぇえええええええ!!」
ハートは結構モロい。
「…チッ、仕方ないさ。さすがの私も限界…後は、アンタに任せるさ!」
「えっ!誰!?誰がいるのだ!?」
誰かいるのかと、辺りを見渡す忍美。
「フン、今までそんなパターンしか無かったから今回もそうに違いないのさ!」
「そんな安直な…なのだ!」
「やれやれ…まさかの神頼みか。この状況で、誰が出てくると言うんだね?ありえんな。」
帝雅も一瞬騙されかけていたのは内緒だ。
「強がんなさ!アンタにだって、天敵の一人や二人いるはずさ!」
「天敵…?フン、まぁ私に太刀打ちできる者と言えば、凱空君くらいだろうな。」
「だったらそいつが出て来るって意味さ!!」
ガサッ!
背後の草陰がちょっと揺れた。
「ちょっ…もしホントだとしたら、その人から見たらあんまりなネタバレなのだ!やめてあげるのだあさみん!」
「さぁ出て来いさ!勇者父ーーーー!!」
「なっ!?馬鹿な…本当にそんなことが…!?」
「ど、どうも…馬鹿です…」
馬鹿が現れた。
颯爽と登場しようと企んでいた勇者父だったが、空気を敢えて読まない暗殺美に台無しにされてしまった。
そして、凄まじく落ちたテンションのままバトルは再開された。
「まさかキミまで、私の企みに気づいていたとはな。さすが…と言っていいのだよな…?」
「うん…でもなんか…ゴメン…」
「ちょっ、このオジさんメチャクチャ心に傷を負ってるのだ!既に精神的にヤバいのだ!」
「勇者父、アンタは行方不明って噂を聞いたさ。それを今さらどの面下げてノコノコ出て来たのかさ?」
「しかも追い討ちかけるとか非道にも程があるのだ!さすがあさみんなのだ!」
「もしもキミが勇者の嫁に来たら、父さん潔く乳首を切るぞ。」
「手首切れや!あんな奴こっちから願い下げさフザけんなさ!」
ドタバタが収まらない現場。
だが帝雅は、いち早く冷静さを取り戻した。
「凱空君…キミはまたしても、私の邪魔をするというのかね?」
「すまんな帝雅。だが我が子が伝説を残すには、“完勝”でなくてはならん。貴様は…私が排除する。」
「その余裕ヅラ…いつまでも続くと思うなよ?」
「フッ、楽しみだな。おっと、キミ達は離れていなさい。これからは激しい戦いにな…いないっ!?」
二人は今日一番の素早さを見せた。
「ハァ、ハァ、ほ、ホントに、良かったのか、置いてきて?不安、なのだ!」
「化け物は化け物同士で乳繰り合ってるのがお似合いなのさ。それに…」
「それに…?」
「私らには私らの…役目があるっぽいさ。」
「逃がさんぞ、小娘どもぉーー!!」
帝雅を勇者父に任せ、その場から逃げ出した暗殺美と忍美。
だが帝雅の家臣達に襲われ大変なことになろうとしていた。
「オラァ!死ねぇーーー!!」
ガキン!ジャキィン!
「うわっ、うわ!ヤバいのだ!ヤバすぎる状況なのだ!ひぃいいいい!」
「チッ、この人数…いくら雑魚とはいえ、消耗した体にはキッツいさクソが!」
「だぁああれが雑魚だぁああああ!!」
キィン!チュィイン!
「オイオイどうしたぁ?もう後が無いぜぇ…?イヒヒヒヒ!」
「…うぅうううううおりぁあああああああああああ!!死ねさぁあああああ!!」
ドッゴォオオオオン!
逃げ回るのを諦めた暗殺美は、傷ついた体にムチを打ち暴れ回った。
その形相は、とても賢二に見せられるものではなかった。
「ぶぎゃああああああ!!」
「ぐへぇえええええええ!!」
「ゼェ!ゼェ!ゼェ…ど、ドンと来いやぁあああああああ!!」
「す、凄いのだ!凄すぎなのだあさみん!でも…」
「へ…ヘッ!強がるなよ小娘ぇ!もうボロボロじゃねぶほぁ!!」
「ゼハァ、ゼハァ、な、舐めてんじゃ、ないのさ!まだまだ、やれ、る、のさ!」
「あ、あさ…」
「アンタは、邪魔すんなさ!」
「でも…!」
「かえって邪魔なのさ、黙って、見てろや!」
どう見ても限界なのに強がる暗殺美。
そんな暗殺美の姿に…忍美はため息をついた。
「…ハァ、困ったものなのだ。そんなツンデレじゃ、絶対不幸になるのだ。」
「あ゛ぁん!?」
「でもそれが…あさみんの、いいとこなのだ。」
忍美は不思議な印を結んだ。
暗殺美は謎の不気味な煙に包まれた。
「ちょっ、何してくれてんのさ!?そんな体で、アンタまさか…!」
「ハァ、ハァ、『忍法:超転移の術』…サヨナラなのだ、あさみん…」
「な、なにカッコつけてんのさ雑魚の分際で!?ふざけんなさ!死ねっ!」
「あ、あんまりな言い様だけども…あさみんらしくて、なんか安心なのだ。」
「ぬぐぅ~~!やめろや!戻せさ!しのみぃいいいいいいいぃぃぃぃぃ……」
暗殺美は煙の中に消えた。
「チッ、逃げられたか!ふざけやがって…!」
「アハ…もしかして今、“しのみん”て…?そうだったら…嬉しい…のだ……」
ドスッ!ドスドスドスッ!
暗殺美は言ってなかった。
そしてまた、勇者の所に場面は移る。
~大魔王城最上階:終焉の間~
「ふむ…つまりなんだ?結局お前は味方なのか敵なのかどっちだマジーン?」
「あ?そりゃオメェ、味方に決まってんだろこの流れなら。」
「絵的に却下で。」
「そう言うなよ切ねぇなオイ!確かに悪役面だがそこは諦めてくれよ!」
「そうか…ならば担当分けをしようか。大魔王と占い師、貴様はどっちを殺す?」
マジーンは信用ならないが『欧剣』の名は信用できるとして、1対1に持ち込もうとした勇者。
だが大魔王が、それを許さなかった。
「おっと、一人足りないよ。実はね…特別ゲストを用意してるんだよね。」
「む?特別ゲスト…だと…?」
「勇者は、許さない!」
なんと!敵として盗子が現れた。
ろくな未来が見えない。
「なっ…!?な、なぜ貴様が…」
大魔王に呼ばれてやってきたのは、あの晩に泣きながら去って以来、行方知れずとなっていた盗子だった。
見れば怪しげなヘルメット的なモノを装備している。相変わらず趣味の悪い奴め。
「ったく…なぜコイツがここにいる?こんな雑魚…狙って手に入れたわけじゃあるまい?」
「あ~、たまたま変な飛竜を狩ったら落ちてきてねぇ。知り合いだよね?」
「それは災難だったな。お悔やみ申し上げる。」
「人質に使おうと思ってたんだけど、意味無いっぽいね…」
悪の頂点がドン引きしている。
「フッ、そんなことはないぞ?人質ごと敵を貫くとか結構よくある手だろ。俺も機会があったらやってみたいぞ。」
「ちょ、待てって勇者!やっぱどう見ても頭のメットが何か…」
「フハハハ…!そうだよ、よくぞ気づいた!」
マジーンの言葉を遮るように、ナンダの立体映像が現れた。
「チッ、また出たかロリコン…。じゃあ貴様があの機械で操ってるってわけか。だが、十四歳は貴様の守備範囲じゃないだろ?」
「ああ。かつては恋焦がれた婚約者であったが…“初老”に用は無い。」
「ならばコイツをどうする気だ?人質にもそっちの戦力にもならんぞ?」
「フン、ただの実験さ。各地のロリを操るための…『ロリータ・コントローラー』のね。」
思考はある意味大魔王よりヤバい。
「チッ、やりづれぇ展開になっちまったな…どうするよ勇者?」
「くっ、なんてことだ…!」
「おぉ、思ってたより動揺してるじゃねぇか。少し意外だな。」
「どうしよう…凄まじくどうでもいい!」
「勘違いだったか…」
勇者はブレてなかった。
「絶っっ対に許さないよ勇者!アタシじゃなくて、姫を選ぶなんて…!」
「フン…無駄な作戦だな。洗脳して何を言わせようが、俺の心には響かない。」
「フッ、いいや?これは彼女の本心だよ。僕はキッカケを与えたにすぎない。」
ナンダの言葉が確かなら、盗子は心から根に持っているようだ。
「もう夢も希望も無いよ!こんな世界…滅んじゃえばいいんだよ!」
「オーケー、じゃあ先に逝っとけ。」
「ゆ、揺るぎねぇ意思だな…」
「当然だ。俺は『勇者』…邪魔する奴は、誰であろうとブッた斬る!!」
盗子に向けて拳を構える勇者。
だが大魔王は信じていなかった。
「アハハ!とかなんとか言いながら、実は」
「ぶべらっ!!」
ガッシャーーン!
鉄拳が顔面にメリ込んだ。
盗子は窓の外に消えた。
「奥義、『男女平等拳」…!」
「ひ、酷ぇ…!!」
マジーンはドン引きした。
大魔王も夜玄も似たような感じだ。
勇者だけが悪い笑みを浮かべている。
「さて…じゃあ仕切り直そうか。貴様らは、あんなもんじゃ済まさんぞ?」
『大魔王』は地位が危うい。
「ふむ…ではお前が大魔王とやれ、マジーン。俺がやる前に少しでも消耗させろよな。」
「オーケー…って、俺がやられるの前提かよ!?信用無ぇなオイ!」
「当然だろう?自分の役割をわきまえん奴は脇役失格だぞ、この“ミスターやられ役”め。」
「くっ…!ま、因縁もあるし…その方が俺としても、助かるんだがな。」
マジーンは大魔王の前に立ちはだかった。
「ふ~ん、キミが相手なんだ…。まぁいいや、遠慮なく殺させてもらうね~。」
「ハハハ!殺せるもんなら…ぜひ頼むわ!」
ガキィーーン!
一方、夜玄の前には勇者が。
「おやおや、まさか私をお選びとは…。私の予見とは、少々違いますねぇ。」
「む…?ハッハッハ!よーく…わかってるじゃないか!」
ガキィーーン!
勇者は夜玄ではなく、大魔王に斬りかかった。
「なっ、二人がかり…!?」
「その通りだぁ!!」
勇者にありがちなフェイントだった。
「くっ!でも二人くらい…」
厳しい状況ではあるが、なんとか凌げると判断した大魔王。
だが―――
「…いいえ大魔王、もう一人いますよ。」
「なっ…!?」
なぜかもう一人、夜玄もまた…大魔王の背後に回っていた。
ズバシュッ!
まさかの三人がかりだった。