【174】外伝
*** 外伝:欧剣が行く ***
俺の名は『欧剣』、職業は無ぇ。まぁ『自由人』とでも言っとこうか。
特に夢も希望も無ぇ世の中を、俺は怠惰に過ごしてる。生きる意味?知らねぇな。
「やっぱつまんねぇよな~。みんな死んじまえばいいのによぉ。」
現在ほどではないが、顔色の悪さと目付きの悪さは面影のある欧剣。
歳は十歳ほどだろうか。
「ん?ハハハッ、相変わらずスレてるなぁ欧剣。お前も夢持てよ夢。」
「うっせぇよ『蓮人』。俺はテメェみてぇな馬鹿にはなれねぇ。」
蓮人と呼ばれた小太りの少年は、なぜか頭にブラジャーを被っている。つまり変態だ。
「笑うなら笑うがいいさ。だが俺は諦めんよ、全てを…手に入れてやる!」
「フン、全てねぇ~…」
「そう、全ての“オッパイ”を!!」
のちの『オッパイ仙人』である。
まだ生まれて十年かそこらだが、早くも人生を諦めている俺。
なぜなら、俺は弱い。凄まじく弱いからだ。犬猫にすら勝てた例がない…泣ける。
「そんな俺が生きてて何になるよ?この戦乱の世で弱ぇとか、クソ過ぎるだろ?」
「諦めるな欧剣、希望はまだあるさ。“オッパイ”という名の…真の希望がな。」
「黙れよ永遠の思春期野郎。オメェの頭はそればっかかよ?」
「だからお前も何か探せよ欧剣。目標が無いと、生きるのは辛いぞ?」
「オメェの人生も見ていて辛ぇがな。」
「ふむ…よし、大陸に出よう欧剣!きっとそれが拙者ら二人のためになる!」
「た、大陸…お前が…?」
大陸に危機が迫る。
話の流れで大陸に渡ることになった俺達は、勢いで生まれ育った島から旅立った。
行く先で何か、生きる希望みてぇなもんが見つかればいいんだが…。
~メジ大陸:ヤイ村~
「って、なにも一番ヤベェ大陸に来ることねぇだろうよ蓮人…。『魔王』がいんだろ?」
「フン、普段いつ死んでもいいとか言ってるじゃないか。気にするな欧剣。」
「まぁいいけどさ…で?なんでこの大陸なんだよ?」
「フッ、どうせ登るなら…山は高い方がいいだろう?」
「山…?」
「そう、二つの…な。」
蓮人は両手で何かを掴みたそうにしている。
「…ま、『魔王』の!?」
蓮人は発想がヤバい。
「つーわけで、『魔王』に会いたいんだが…詳しく教えてくれねぇか?」
魔王の乳を狙おうという蓮人のイカれた野望のため、まずは村人から話を聞くことにした欧剣。どうせ止めても無駄なので、さっさと片付けることにしたようだ。
「な、なんですと…!?アンタら、一体何の目的で…?」
「いや、それは聞かねぇでくれ。」
変態扱いされるのは避けたかった。
「ふむ、『魔王』ですか…僕ら村人も大したことは知らないのですよねぇ…」
「ならば多くは求めまい。スリーサイズを、上だけ聞こうか。」
「オメェは少し黙っててくれ蓮人。緊迫感がまるで無くなる。」
「ん~…謎だらけなのですが、一つだけわかっていることがあります。アナタ方…特にアナタにとっては、大切なことかと。」
「拙者に…?フッ、まさか諦めさせようとでも?甘いな、今の拙者に…」
「彼は“男”です。」
「その発想は無かったぁああああああ!!」
蓮人の野望は断たれた。
「ならば仕方ない、帰ろう欧剣。もとい、新たな山を探しに向かおう。」
「決断早ぇな…。ま、その方が助かるが。ありがとなアンタ、おかげで帰れ…」
「いやぁ、そういうわけには…いかないなぁ。」
なんと!村人は魔物の姿に変わった。
「魔王様に仇なす不届きな人間ども!この俺様が始末してくれるわぁ!」
「お、オイオイ魔物だったよオイ…。ヘタに殴られたら死ぬぞ俺。陰に隠れてていいか?」
「…傷心の拙者は、手加減なんぞしてやれんが?」
欧剣は逃げ腰だが、蓮人の方は憂さ晴らしがしたいようだ。
「あぁ?ギャハハ!小僧ごときが俺様を倒すだとぉ?笑わせる!」
「フン、ならば見せてやろう。拙者が伝承されし格闘術…『オッパイ神拳』を!」
創始者は獄中で死んだ。
「さぁいくぞ小僧。魔王様に逆らおうとした罪…死をもって償うがいい!」
「オイ貴様、我が『オッパイ神拳』には六つの型があるんだがどれが見たい?」
「む、六つの型…だと…?」
「『皿型』『半球型』『円錐型』『釣鐘型』『三角型』…そして『山羊型』。」
「乳の形状ではないか!なんなんだそのふざけた拳法は!?」
「ちなみに拙者は半球型…別名『お椀型』が好き。」
「聞いとらんわっ!」
ツッコミ属性のある便利な敵だが、そろそろ我慢も限界のようだ。
「くっ、舐めおって小僧…!殺してくれるわぁああああああ!」
「…遅いな。」
ズボボッ!!
蓮人のカウンター攻撃。
魔物の胸に二つの風穴があいた。
「ぐはぁあああ!!こ、この技名は…まさか…!」
「そう、幻の秘奥義…『陥没乳首』。」
あんまりな最期だった。
魔王に通じる魔物を倒したせいで、魔王軍に追われる身となっちまった俺達。
いつ死んでもいいとはいっても、残虐な殺され方だけは勘弁なんだがなぁ。
~メジ大陸:逆転のほこら~
「つーわけで、しばらくここらに隠れようと思うんだがどうよ?」
「お前は…。なんでそんなに後ろ向きなんだ?もっと前を見ろ、拙者を見習え。」
「夢ばっか見てる奴に言われたかねぇわ。テメェこそ現実を見ろよ。」
結局死ぬまでこのままだとは、この時の欧剣は知る由もなかった。
「にしても…だいぶ深いな、このほこら。何か奉ってあるんだっけ?」
「知らねぇ。けどなんか…何かに、呼ばれてる気がす…ん?なんだあの光は…?」
欧剣は怪しく光る謎の剣を発見した。
欧剣は警戒して距離を取った。
代わりに蓮人が引き抜きにかかった。
「ぬぐぐぐぐっ…!駄目だ、拙者には抜けないぞ。これはもしや…!」
「ああ、“選ばれた者しか抜けない伝説の剣”的なニオイが凄まじいな。つまり俺にゃ縁が無ぇやつだ。」
「お?何か台座に書いてあるぞ。なになに…」
「…アレ?抜けちまった。」
なんと!欧剣はあっさり抜いてしまった。
だが―――
「じゃ…く…『弱者の剣』?」
とっても不名誉な名前だった。
運命に導かれ、欧剣が手にしたのは、人を馬鹿にしたような名の剣だった。
だが時が流れ、面倒なので色々と略して…こんな感じになった。
~魔王城~
「フン、舐めるな!そんな身の丈を越えるような大剣、小僧に振れるはず…」
「…って、振れてるぅーーーー!?」
「あ~悪ぃな、ちょいと訳アリなんだわ。」
ズバシュッ!
魔王城に乗り込んだ欧剣は、『弱者の剣』で敵を易々と薙ぎ払った。
名前に反してかなり強力な剣のようだ。
「ぐぉああああああ!ば、馬鹿な…!ワシが…この『魔王』たるワシが…人間ごときに…!?」
「ハッハー!この『勇者:英雄』様を、舐めるな魔王風情がぁー!!」
老齢の『魔王』に、意気揚々と斬りかかる若き『勇者』。
欧剣らの一回りほど上の、蒼い髪の青年だ。
ズバシュ!!
「ぬおぉおおお…!くっ、『四天王』どもめ…何をしている…!?」
想定外の劣勢に困惑する魔王。
だが欧剣は、その理由を知っていた。
「アンタの敗因はさ…側近を、女で固めたことだ。」
「おぱーーーい!!」
「うぎゃーーー!!」
そして伝説となった(悪い意味で)。
魔王軍に命を狙われ続ける人生もキツいってんで、潔く殺されに魔王城へと向かった俺達。
だが途中で出会った『勇者:英雄』さんと意気投合し、なんと勢いでそのまま『魔王』を討っちまった。想定外だが、まぁ結果オーライか。
「ったく、ムチャクチャな強さだなぁ英雄さんよぉ。一瞬アンタが『魔王』に見えたわ。」
「あ~、代々続く『勇者』の家系のせいかな…?雑魚どもの断末魔は心地良かったぜ。」
「性根は『魔王』じゃねぇかやっぱ。」
「拙者も驚いたよ。あんな強敵どもを…一晩で殲滅とはな…」
英雄の実力は尋常ではなく、欧剣と蓮人を含めたわずか三人だけで、魔王軍を撃破してしまったのだ。
「フッ、お前らも十分さ。その歳でそれだけやれりゃあな。ま、俺には劣るが。」
「ほほぉ、この拙者を上回ると…?貴様に乳の何がわかるっ!?」
「嫁ならいるが?」
「師匠と呼ばせてください!!生乳を…生乳を、揉みたいんだ!!」
「そこまで乳に執着を…ある意味見事だな。お前には何か無いのかよ欧剣?」
「あ?そうだなぁ…今まで夢も無く生きてきたし…よくわかんねぇ。アンタは?」
「俺はまぁ、元気なガキが見られりゃそれでいいかな。もうじき生まれんだわ。」
「へぇ~。じゃあ俺は逆に、“世界の終末を見届ける!”ぐれぇ言っとくかなぁ~アハハ!」
激戦を制した安堵感からか、珍しく浮かれる欧剣。
英雄と蓮人も同様のようだ。
だが、戦いは…まだ終わってはいなかった。
「その願い…手助けしてやろう……」
なんと!魔王は生きていた。
魔王から怪しい何かがほとばしる。
英雄は呪われてしまった。
欧剣は呪われてしまった。
蓮人は呪われてしまった。
そして魔王は息絶えた。
倒したと油断してた隙を突かれ、俺らは死に際の魔王に何かされちまった。
だが特に何も異常は感じねぇし…まぁ気にすることもねぇか。それより何より…
「大事なのは、これからの人生…だよなぁ。“魔王討伐”以上のビッグイベントとかそうそう無ぇだろ?」
「あん?さっきの“終末を見届ける”ってのはどうしたよ?」
「どんな化けモンだよ?ジョークだよジョーク。そんな長生きできるわけねぇだろうが。」
「拙者の夢は程なくして叶うがな。世界中の生乳が、群れをなして襲ってくる。」
どんな悪夢だ。
「ま、とりあえずウチ来いよ。しばらく泊まってきな。どうせ行く場所も無いんだろ?」
「いいのかよ英雄さん?嫁さんいるんだろ?」
「共に死線を超えた仲だ、遠慮するなよ。部屋くらい貸すさ。」
「じゃ、じゃあ…!」
「嫁乳は貸さんが。」
「くっ…!!」
蓮人は攻撃を封じられた。
「ん~~…なら、とりあえず世話になっかな。とりあえず今日は…疲れたわ。」
「よーし!ならば来るがいい雑魚ども!そして俺を、盛大にもてなすがいいわ!」
「いや、アンタがもてなせよ。」
それからしばらくして、英雄さんには子供が生まれ…
その日、彼は死んだ。
そして、二千五百年もの月日が流れた。
それはもう、凄まじく気の遠くなるような年月だった。
「枯れた…もう、完全に枯れたぜ…。胸が躍る事柄とか、全然…無ぇし…」
「なっ、胸が躍るだとぉ!?どこだ!?どこでそんな素敵な祭典が!?」
呪いの影響で、欧剣も蓮人も未だ生きていた。
「お、オメェは変わらねぇな…。いや、見た目は尋常じゃなく変わったが。」
「フン、貴様の方が異常なのだよ。なぜ老けとらんのだ?顔色だけは年々悪くなっていくが。」
「いや、知らぬ間に頭に乳房乗せてる奴に言われたかねぇよ。何を目指して進化したらそうなるんだよ?」
蓮人に少年だった頃の面影は微塵も無かった。
「二千五百年…お互い色々あったということかのぉ。肝心なことを除いて…な。」
「ああ…。まぁ、理由が理由のオメェと一緒にされたくは無ぇんだがな。」
「なにっ…!?貴様、オッパイを舐めるな!いや、まぁ来るべき時には是非とも舐め」
「意味が違ぇよ!ったく、変わらねぇな…そこはある意味羨ましいわ。」
「貴様は相も変わらず夢も希望も無い顔をしおって…情けない限りだのぉ。」
「…フッ、そうでもねぇぜ?最近やっと、一つの光明を見つけたんだ。」
「む?それはもしや…最近噂の“奴ら”のことか?」
「そう、世界に終末をもたらす災厄…十二の神。これで、死ねるかもしんねぇ。てなわけで、俺は期待して待ってるってわけよ。もう後はのんびりしてりゃいい。」
「だが、終末を“見届ける”…なのだろう?参加しないで良いものかどうか。」
「ま、マジで…?」
「しかも、各地で神討伐のため戦士達が立ち上がっとると聞くしのぉ。」
「なっ、じゃあどうすりゃ…?」
「拙者、討伐軍に加わろうと思う。」
「いや、お前のこととか聞いちゃ…なんでお前が?」
「名声を得れば、揉める機会も増えよう。」
「違った意味で揉めそうだがな…」
目に見えるようだった。
「で、お前さんはどうする?」
「そうだなぁ~…確かにこの絶好の機会を、台無しにはさせたくねぇなぁ。」
「よーし、ならば…行くか!」
「おぉ!」
そんなこんなで、俺と蓮人は神と戦う戦士として参戦することになった。
正義の味方じゃねぇ。隙を見て、討伐軍を内側から崩してやろうってのが魂胆だ。
すると、次第に俺らを『十賢人』だとか呼ぶ奴まで出てきやがった。
複雑っちゃ複雑だが、まぁ順調と考えることにする。
だが、少し思惑と違ったこともある。
『勇者:救世主』…凄まじく強ぇ奴がいやがったんだ。あと、『錬金術師:錬樹』ってのもヤベェ。神に片っ端からトドメ刺してやがる。他には、『教師:理慈』に『賢者:無印』…どいつもこいつも化け物揃いだ。
このままじゃ終末どころじゃねぇ。なんとか…手を打たなきゃならねぇな。
そういや最近、『邪神』の乳を揉んだ奴がいるとも聞いた。
そうか、奴は…やったのか。
残念ながら服ごしだった。
そして、『人神大戦』と名付けられたこの大戦も終盤に。
討伐軍の実力が予想以上でヤベェかなとも思ったが、少し希望が出てきた。
『魔神:マオ』…コイツは規格外だ。あの巨体にあのパワー、間違いなく最強だ。
実力見るために特攻かけたら、咆哮で粉々にされた。復活に何日もかかったが、おかげで確信した。コイツなら、世界を終わらすことができるに違いねぇ。
「つーわけで、悪ぃがオメェにゃここで…死んでもらうぜ。」
そこは空飛ぶ魔神の上。
やっと救世主と二人きりになれた欧剣は、切っ先を向けて宣戦布告した。
「キミは…欧剣さんですね?何の冗談か知りませんが、今はそんな状況じゃ…」
「ハハハッ!人生経験豊富な分、人を見る目は肥えまくってんだ。全部気づいてるっての。」
「ッ!!?」
「目ぇ見りゃわかるさ。その目は、誰かを守ろうって奴の目じゃねぇよ。」
軽く辺りを見渡し、他に誰もいないことを確認すると、救世主は態度を変えた。
「…やれやれ、まさか見抜かれるとは…。僕もまだまだなんだなぁ。」
「真意はどうあれ、結果的に世界を救われちまうのは都合が…悪いんだわ!」
ジャキィイイン!
「くっ、その大剣を軽々と…!“十賢人最強”の名はダテじゃないんだねぇ。」
「フッ、“最強”か…。俺にとっちゃ、なんとも皮肉な称号だぜ…なぁ相棒?」
「剣に話しかけるとか…痛い人?」
「う、うるせぇよ!演出の一種だよ演出の!よくあるだろ!?」
「皮肉ねぇ。全く意味がわからないけど…謙遜?強者ゆえの自信?」
「フン、言うな…泣けてくる。」
<弱者の剣>
弱い者ほど強くするという不思議な魔剣。
強くなるのはよっぽどの雑魚だ。
悪人のくせに『勇者』って肩書きの邪魔臭ぇクソガキを倒すべく、人知れず挑んだ俺だったが…健闘虚しく負けちまった。
呪いのせいで心臓とか動いてねぇから、上空から落とされた俺は死者として処理され、俺は社会的に死んだ。まぁ有名になりすぎたし、裏で動くにはその方が都合いいんだがな。
結局…魔神は封印され、救世主も消えた。道連れにされたって線が有力だろう。
つまり、待ちわびた“終末”…俺の死のチャンスは完全に無くなっちまったってわけだ。泣けてくるぜ…。
だが、俺は諦めねぇ。いつの日にか、また再びチャンスは訪れるはずなんだ。
きっと現われる。世界を終末へと導く…悪魔のような、化け物がな。
そして五百年後―――
彼は、勇者と出会う。