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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
174/196

【174】外伝

*** 外伝:欧剣が行く ***


俺の名は『欧剣』、職業は無ぇ。まぁ『自由人フリーマン』とでも言っとこうか。

特に夢も希望も無ぇ世の中を、俺は怠惰に過ごしてる。生きる意味?知らねぇな。


「やっぱつまんねぇよな~。みんな死んじまえばいいのによぉ。」


 現在ほどではないが、顔色の悪さと目付きの悪さは面影のある欧剣。

 歳は十歳ほどだろうか。


「ん?ハハハッ、相変わらずスレてるなぁ欧剣。お前も夢持てよ夢。」

「うっせぇよ『蓮人ハスト』。俺はテメェみてぇな馬鹿にはなれねぇ。」


 蓮人と呼ばれた小太りの少年は、なぜか頭にブラジャーを被っている。つまり変態だ。


「笑うなら笑うがいいさ。だが俺は諦めんよ、全てを…手に入れてやる!」

「フン、全てねぇ~…」


「そう、全ての“オッパイ”を!!」


 のちの『オッパイ仙人』である。



まだ生まれて十年かそこらだが、早くも人生を諦めている俺。

なぜなら、俺は弱い。凄まじく弱いからだ。犬猫にすら勝てた例がない…泣ける。


「そんな俺が生きてて何になるよ?この戦乱の世で弱ぇとか、クソ過ぎるだろ?」

「諦めるな欧剣、希望はまだあるさ。“オッパイ”という名の…真の希望がな。」

「黙れよ永遠の思春期野郎。オメェの頭はそればっかかよ?」

「だからお前も何か探せよ欧剣。目標が無いと、生きるのは辛いぞ?」

「オメェの人生も見ていて辛ぇがな。」

「ふむ…よし、大陸に出よう欧剣!きっとそれが拙者ら二人のためになる!」

「た、大陸…お前が…?」


 大陸に危機が迫る。



話の流れで大陸に渡ることになった俺達は、勢いで生まれ育った島から旅立った。

行く先で何か、生きる希望みてぇなもんが見つかればいいんだが…。


~メジ大陸:ヤイ村~


「って、なにも一番ヤベェ大陸に来ることねぇだろうよ蓮人…。『魔王』がいんだろ?」

「フン、普段いつ死んでもいいとか言ってるじゃないか。気にするな欧剣。」

「まぁいいけどさ…で?なんでこの大陸なんだよ?」

「フッ、どうせ登るなら…山は高い方がいいだろう?」

「山…?」

「そう、二つの…な。」


 蓮人は両手で何かを掴みたそうにしている。


「…ま、『魔王』の!?」


 蓮人は発想がヤバい。



「つーわけで、『魔王』に会いたいんだが…詳しく教えてくれねぇか?」


 魔王の乳を狙おうという蓮人のイカれた野望のため、まずは村人から話を聞くことにした欧剣。どうせ止めても無駄なので、さっさと片付けることにしたようだ。


「な、なんですと…!?アンタら、一体何の目的で…?」

「いや、それは聞かねぇでくれ。」


 変態扱いされるのは避けたかった。


「ふむ、『魔王』ですか…僕ら村人も大したことは知らないのですよねぇ…」

「ならば多くは求めまい。スリーサイズを、上だけ聞こうか。」

「オメェは少し黙っててくれ蓮人。緊迫感がまるで無くなる。」

「ん~…謎だらけなのですが、一つだけわかっていることがあります。アナタ方…特にアナタにとっては、大切なことかと。」

「拙者に…?フッ、まさか諦めさせようとでも?甘いな、今の拙者に…」


「彼は“男”です。」

「その発想は無かったぁああああああ!!」


 蓮人の野望は断たれた。


「ならば仕方ない、帰ろう欧剣。もとい、新たな山を探しに向かおう。」

「決断早ぇな…。ま、その方が助かるが。ありがとなアンタ、おかげで帰れ…」


「いやぁ、そういうわけには…いかないなぁ。」


 なんと!村人は魔物の姿に変わった。


「魔王様に仇なす不届きな人間ども!この俺様が始末してくれるわぁ!」

「お、オイオイ魔物だったよオイ…。ヘタに殴られたら死ぬぞ俺。陰に隠れてていいか?」

「…傷心の拙者は、手加減なんぞしてやれんが?」


 欧剣は逃げ腰だが、蓮人の方は憂さ晴らしがしたいようだ。


「あぁ?ギャハハ!小僧ごときが俺様を倒すだとぉ?笑わせる!」

「フン、ならば見せてやろう。拙者が伝承されし格闘術…『オッパイ神拳』を!」


 創始者は獄中で死んだ。


「さぁいくぞ小僧。魔王様に逆らおうとした罪…死をもって償うがいい!」

「オイ貴様、我が『オッパイ神拳』には六つの型があるんだがどれが見たい?」

「む、六つの型…だと…?」

「『皿型』『半球型』『円錐型』『釣鐘型』『三角型』…そして『山羊型』。」

「乳の形状ではないか!なんなんだそのふざけた拳法は!?」

「ちなみに拙者は半球型…別名『お椀型』が好き。」

「聞いとらんわっ!」


 ツッコミ属性のある便利な敵だが、そろそろ我慢も限界のようだ。


「くっ、舐めおって小僧…!殺してくれるわぁああああああ!」

「…遅いな。」


ズボボッ!!


 蓮人のカウンター攻撃。

 魔物の胸に二つの風穴があいた。


「ぐはぁあああ!!こ、この技名は…まさか…!」

「そう、幻の秘奥義…『陥没乳首』。」


 あんまりな最期だった。




魔王に通じる魔物を倒したせいで、魔王軍に追われる身となっちまった俺達。

いつ死んでもいいとはいっても、残虐な殺され方だけは勘弁なんだがなぁ。


~メジ大陸:逆転のほこら~


「つーわけで、しばらくここらに隠れようと思うんだがどうよ?」

「お前は…。なんでそんなに後ろ向きなんだ?もっと前を見ろ、拙者を見習え。」

「夢ばっか見てる奴に言われたかねぇわ。テメェこそ現実を見ろよ。」


 結局死ぬまでこのままだとは、この時の欧剣は知る由もなかった。


「にしても…だいぶ深いな、このほこら。何か奉ってあるんだっけ?」

「知らねぇ。けどなんか…何かに、呼ばれてる気がす…ん?なんだあの光は…?」


 欧剣は怪しく光る謎の剣を発見した。

 欧剣は警戒して距離を取った。

 代わりに蓮人が引き抜きにかかった。


「ぬぐぐぐぐっ…!駄目だ、拙者には抜けないぞ。これはもしや…!」

「ああ、“選ばれた者しか抜けない伝説の剣”的なニオイが凄まじいな。つまり俺にゃ縁が無ぇやつだ。」

「お?何か台座に書いてあるぞ。なになに…」

「…アレ?抜けちまった。」


 なんと!欧剣はあっさり抜いてしまった。

 だが―――


「じゃ…く…『弱者の剣』?」


 とっても不名誉な名前だった。




 運命に導かれ、欧剣が手にしたのは、人を馬鹿にしたような名の剣だった。

 だが時が流れ、面倒なので色々と略して…こんな感じになった。


~魔王城~


「フン、舐めるな!そんな身の丈を越えるような大剣、小僧に振れるはず…」

「…って、振れてるぅーーーー!?」

「あ~悪ぃな、ちょいと訳アリなんだわ。」


ズバシュッ!


 魔王城に乗り込んだ欧剣は、『弱者の剣』で敵を易々と薙ぎ払った。

 名前に反してかなり強力な剣のようだ。


「ぐぉああああああ!ば、馬鹿な…!ワシが…この『魔王』たるワシが…人間ごときに…!?」

「ハッハー!この『勇者:英雄ヒデオ』様を、舐めるな魔王風情がぁー!!」


 老齢の『魔王』に、意気揚々と斬りかかる若き『勇者』。

 欧剣らの一回りほど上の、蒼い髪の青年だ。


ズバシュ!!


「ぬおぉおおお…!くっ、『四天王』どもめ…何をしている…!?」


 想定外の劣勢に困惑する魔王。

 だが欧剣は、その理由を知っていた。


「アンタの敗因はさ…側近を、女で固めたことだ。」


「おぱーーーい!!」

「うぎゃーーー!!」


 そして伝説となった(悪い意味で)。



魔王軍に命を狙われ続ける人生もキツいってんで、潔く殺されに魔王城へと向かった俺達。

だが途中で出会った『勇者:英雄』さんと意気投合し、なんと勢いでそのまま『魔王』を討っちまった。想定外だが、まぁ結果オーライか。


「ったく、ムチャクチャな強さだなぁ英雄さんよぉ。一瞬アンタが『魔王』に見えたわ。」

「あ~、代々続く『勇者』の家系のせいかな…?雑魚どもの断末魔は心地良かったぜ。」

「性根は『魔王』じゃねぇかやっぱ。」

「拙者も驚いたよ。あんな強敵どもを…一晩で殲滅とはな…」


 英雄の実力は尋常ではなく、欧剣と蓮人を含めたわずか三人だけで、魔王軍を撃破してしまったのだ。


「フッ、お前らも十分さ。その歳でそれだけやれりゃあな。ま、俺には劣るが。」

「ほほぉ、この拙者を上回ると…?貴様に乳の何がわかるっ!?」

「嫁ならいるが?」

「師匠と呼ばせてください!!生乳を…生乳を、揉みたいんだ!!」

「そこまで乳に執着を…ある意味見事だな。お前には何か無いのかよ欧剣?」

「あ?そうだなぁ…今まで夢も無く生きてきたし…よくわかんねぇ。アンタは?」

「俺はまぁ、元気なガキが見られりゃそれでいいかな。もうじき生まれんだわ。」

「へぇ~。じゃあ俺は逆に、“世界の終末を見届ける!”ぐれぇ言っとくかなぁ~アハハ!」


 激戦を制した安堵感からか、珍しく浮かれる欧剣。

 英雄と蓮人も同様のようだ。


 だが、戦いは…まだ終わってはいなかった。



「その願い…手助けしてやろう……」



 なんと!魔王は生きていた。

 魔王から怪しい何かがほとばしる。


 英雄は呪われてしまった。

 欧剣は呪われてしまった。

 蓮人は呪われてしまった。


 そして魔王は息絶えた。



倒したと油断してた隙を突かれ、俺らは死に際の魔王に何かされちまった。

だが特に何も異常は感じねぇし…まぁ気にすることもねぇか。それより何より…


「大事なのは、これからの人生…だよなぁ。“魔王討伐”以上のビッグイベントとかそうそう無ぇだろ?」

「あん?さっきの“終末を見届ける”ってのはどうしたよ?」

「どんな化けモンだよ?ジョークだよジョーク。そんな長生きできるわけねぇだろうが。」

「拙者の夢は程なくして叶うがな。世界中の生乳が、群れをなして襲ってくる。」


 どんな悪夢だ。


「ま、とりあえずウチ来いよ。しばらく泊まってきな。どうせ行く場所も無いんだろ?」

「いいのかよ英雄さん?嫁さんいるんだろ?」

「共に死線を超えた仲だ、遠慮するなよ。部屋くらい貸すさ。」

「じゃ、じゃあ…!」

「嫁乳は貸さんが。」

「くっ…!!」


 蓮人は攻撃を封じられた。


「ん~~…なら、とりあえず世話になっかな。とりあえず今日は…疲れたわ。」

「よーし!ならば来るがいい雑魚ども!そして俺を、盛大にもてなすがいいわ!」

「いや、アンタがもてなせよ。」


それからしばらくして、英雄さんには子供が生まれ…



その日、彼は死んだ。




そして、二千五百年もの月日が流れた。

それはもう、凄まじく気の遠くなるような年月だった。


「枯れた…もう、完全に枯れたぜ…。胸が躍る事柄とか、全然…無ぇし…」

「なっ、胸が躍るだとぉ!?どこだ!?どこでそんな素敵な祭典が!?」


 呪いの影響で、欧剣も蓮人も未だ生きていた。


「お、オメェは変わらねぇな…。いや、見た目は尋常じゃなく変わったが。」

「フン、貴様の方が異常なのだよ。なぜ老けとらんのだ?顔色だけは年々悪くなっていくが。」

「いや、知らぬ間に頭に乳房乗せてる奴に言われたかねぇよ。何を目指して進化したらそうなるんだよ?」


 蓮人に少年だった頃の面影は微塵も無かった。


「二千五百年…お互い色々あったということかのぉ。肝心なことを除いて…な。」

「ああ…。まぁ、理由が理由のオメェと一緒にされたくは無ぇんだがな。」

「なにっ…!?貴様、オッパイを舐めるな!いや、まぁ来るべき時には是非とも舐め」

「意味が違ぇよ!ったく、変わらねぇな…そこはある意味羨ましいわ。」

「貴様は相も変わらず夢も希望も無い顔をしおって…情けない限りだのぉ。」

「…フッ、そうでもねぇぜ?最近やっと、一つの光明を見つけたんだ。」

「む?それはもしや…最近噂の“奴ら”のことか?」

「そう、世界に終末をもたらす災厄…十二の神。これで、死ねるかもしんねぇ。てなわけで、俺は期待して待ってるってわけよ。もう後はのんびりしてりゃいい。」

「だが、終末を“見届ける”…なのだろう?参加しないで良いものかどうか。」

「ま、マジで…?」

「しかも、各地で神討伐のため戦士達が立ち上がっとると聞くしのぉ。」

「なっ、じゃあどうすりゃ…?」

「拙者、討伐軍に加わろうと思う。」

「いや、お前のこととか聞いちゃ…なんでお前が?」

「名声を得れば、揉める機会も増えよう。」

「違った意味で揉めそうだがな…」


 目に見えるようだった。


「で、お前さんはどうする?」

「そうだなぁ~…確かにこの絶好の機会を、台無しにはさせたくねぇなぁ。」

「よーし、ならば…行くか!」

「おぉ!」



そんなこんなで、俺と蓮人は神と戦う戦士として参戦することになった。

正義の味方じゃねぇ。隙を見て、討伐軍を内側から崩してやろうってのが魂胆だ。

すると、次第に俺らを『十賢人』だとか呼ぶ奴まで出てきやがった。

複雑っちゃ複雑だが、まぁ順調と考えることにする。


だが、少し思惑と違ったこともある。

『勇者:救世主』…凄まじく強ぇ奴がいやがったんだ。あと、『錬金術師:錬樹』ってのもヤベェ。神に片っ端からトドメ刺してやがる。他には、『教師:理慈』に『賢者:無印』…どいつもこいつも化け物揃いだ。

このままじゃ終末どころじゃねぇ。なんとか…手を打たなきゃならねぇな。


そういや最近、『邪神』の乳を揉んだ奴がいるとも聞いた。

そうか、奴は…やったのか。


 残念ながら服ごしだった。




そして、『人神大戦』と名付けられたこの大戦も終盤に。

討伐軍の実力が予想以上でヤベェかなとも思ったが、少し希望が出てきた。

『魔神:マオ』…コイツは規格外だ。あの巨体にあのパワー、間違いなく最強だ。

実力見るために特攻かけたら、咆哮で粉々にされた。復活に何日もかかったが、おかげで確信した。コイツなら、世界を終わらすことができるに違いねぇ。


「つーわけで、悪ぃがオメェにゃここで…死んでもらうぜ。」


 そこは空飛ぶ魔神の上。

 やっと救世主と二人きりになれた欧剣は、切っ先を向けて宣戦布告した。


「キミは…欧剣さんですね?何の冗談か知りませんが、今はそんな状況じゃ…」

「ハハハッ!人生経験豊富な分、人を見る目は肥えまくってんだ。全部気づいてるっての。」

「ッ!!?」

「目ぇ見りゃわかるさ。その目は、誰かを守ろうって奴の目じゃねぇよ。」


 軽く辺りを見渡し、他に誰もいないことを確認すると、救世主は態度を変えた。


「…やれやれ、まさか見抜かれるとは…。僕もまだまだなんだなぁ。」

「真意はどうあれ、結果的に世界を救われちまうのは都合が…悪いんだわ!」


ジャキィイイン!


「くっ、その大剣を軽々と…!“十賢人最強”の名はダテじゃないんだねぇ。」

「フッ、“最強”か…。俺にとっちゃ、なんとも皮肉な称号だぜ…なぁ相棒?」

「剣に話しかけるとか…痛い人?」

「う、うるせぇよ!演出の一種だよ演出の!よくあるだろ!?」

「皮肉ねぇ。全く意味がわからないけど…謙遜?強者ゆえの自信?」

「フン、言うな…泣けてくる。」


<弱者の剣>

 弱い者ほど強くするという不思議な魔剣。

 強くなるのはよっぽどの雑魚だ。



悪人のくせに『勇者』って肩書きの邪魔臭ぇクソガキを倒すべく、人知れず挑んだ俺だったが…健闘虚しく負けちまった。

呪いのせいで心臓とか動いてねぇから、上空から落とされた俺は死者として処理され、俺は社会的に死んだ。まぁ有名になりすぎたし、裏で動くにはその方が都合いいんだがな。


結局…魔神は封印され、救世主も消えた。道連れにされたって線が有力だろう。

つまり、待ちわびた“終末”…俺の死のチャンスは完全に無くなっちまったってわけだ。泣けてくるぜ…。


だが、俺は諦めねぇ。いつの日にか、また再びチャンスは訪れるはずなんだ。

きっと現われる。世界を終末へと導く…悪魔のような、化け物がな。



 そして五百年後―――



 彼は、勇者と出会う。

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