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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
173/196

【173】最後の聖戦(6)

空から降ってきた宇宙船が激突し、うまいこと竜神は下敷きになった。

そういやかつてカクリ島で、群青錬邪も同じ目に遭ってたなぁ…懐かしい。まぁ群青ごとき死ななかったんだ、竜神も死んではいないのだろう。

だが今、気にすべきなのは…


「ゆ、勇者君!あの…僕、その…!」

「…誰だ貴様は?赤の他人に馴れ馴れしく呼ばれる筋合いは無いぞ。」

「ど、どうしたんだ師匠?賢二先輩じゃないか!他人扱いは酷いんだー!」


 二人は仲間割れの末に別れたままだった。


「賢二?フン…死んだよアイツは。さぁ行くぞ土男流、大魔王が待っている。」

「えぇっ!?じゃあ幽霊的なアレなのか!?それは怖いんだー!」

「いや、違っ…!」


「い…行かせんヨ。少々、意表を突かれたがネ。」


 やはり竜神は生きていた。

 だが勇者は華麗にスルーした。


「急ぐぞ土男流、敵幹部はまだまだいやがるしな。」

「ッ!!待て、行かせハ…」


 衝突の影響でまだうまく動けない竜神の隙を突き、勇者と土男流はその場を離脱した。


「い、いいのか師匠!?数分後ならともかく、賢二先輩はまだ死んでなんか…」

「いいや、確かに死んだのさ。俺の知る…敵も殺せん、軟弱な賢二はな。」

「さっぱり意味がわからないんだー!」


「盛大に遅刻した罰だ、立ってろよ…最後までな。」


 勇者は賢二の父との一戦を、盗聴蟲で全部聞いていた。




というわけで、置いていかれた賢二は…とにかく頑張るしかない。


「やれやれ…逃げられてしまったカ。仕方ない、追うとするかネ。」

「そ…そうは、させませんよ!ここで頑張らなきゃ…後で惨殺されちゃうし!」

「お前も馬鹿なのカ?私と戦っても同じだヨ。」

「勇者君をっ、甘く見ないで!!」

「…本当に仲間なのカ?」

「と、とにかく!僕は、頑張るためにここに来たんだ…だから、負けられない!」

「フゥ…まぁいい、ならば殺して進むまでヨ。」

「確かに、僕一人じゃ勝てないかもしれない。でも、今の僕には…!」


 賢二は信頼する仲間達に目を向けた。


「大丈夫、任せとくニャ!既に準備は始めてるのニャ!」

「そうッス!こういう場面はもう慣れっこッスよ!ねぇ太郎さん?」

「うん。もうじき直るよ、船。」

「そしたらすぐ出よー☆」

「おーーーっ!!」

「ちょっ…!」


 見事な団結力だった。


「み、みんなお願い!今回くらいは…たまには僕と一緒に、戦ってほしくて!」

「ハァ?“たまには”とか人聞き悪いなぁ賢者君。今まで僕らがまともに戦ったことあった?」

「だったら一度くらい頑張って!」

「自分はいつでもヤル気ッスよ!」

「でもいつも周りの勢いに流されちゃってるでしょ!?」

「アタチだって頑張りたいニャ!『猫耳族』の本気を出すニャ!」

「いや、それはやめて!自分が不幸を呼ぶ種族だって自覚を持って!」

「じゃあボクは何呼べばいいかなぁ?悪の化身とか?」

「それはどう考えても正解じゃな…呼べるの!?」

「フゥ、どうにも調子が狂うネ…邪魔だヨ。」

「言われてるよ賢者君?」

「僕がっ!?」


 頑張れ賢二。


「と、とにかく先には行かせませんよ!行きたければ僕を倒し…倒さないで…」

「早くもヘタレモード突入ニャのニャー!」

「と見せかけて結局倒しちゃうのが、船長の凄い所ッスけどね!」

「頑張れ賢者様ー!ボク達も精一杯応援するよ~☆」

「いや、だから応援じゃなしに…!」

「やれやれ、見るからに弱そうだネ。この『ウザン』の敵じゃないヨ。」


 その時、太郎がうっかり口を滑らせた。


「ウザン?なんか前に賢者君が倒した(ことになってる)『魔竜:ウザキ』っぽいね。」

「ッ!!?」


 終始冷静だった竜神が、思わず動揺を露わにした。


「ちょっ、太郎さん!?なんで火に油を注ぐようなマネを!?」

「…あ、マジで?そういう流れ?あ~~~~…じゃあ、カットで。」

「“全身を”…ですか…?」


 笑えない冗談だった。


「そうカ、貴様が噂の『賢者』カ…。それハ、甘く見てすまなかったネ。」

「い、いや、誤解なんで!僕は何もしてないんで!」

「何の労も無く倒せたト…そういうことかネ。」

「なんで僕の人生は…誤解が伝説を生むんだろう…」


 いつも八割方は太郎が悪い。



「油断はしないヨ。この『昇竜の槍』ノ、サビとなるがいいネ。」


 竜神はもちろん言い訳は聞かず、槍を構えた。

 凄まじい殺気に、賢二は震えが止まらない。


「は、はわわ~!」


 竜神の攻撃。

 ミス!賢二は魔法で攻撃を防いだ。


「キミは防御の戦士かネ…邪魔臭いネ。」

「くっ、結局今回も防戦一方になりそうな予感が…!」

「アタチらも負けてられニャいニャ!せーので応援するのニャ!せーーの!」


「賢ニャーン!」「船長ぉー!」「賢者様~☆」「賢者く~ん。」

「せめて統一して!!」


 外野の方が邪魔臭かった。



「と、いうわけで!応援もされちゃったし…一度は心が折れかけたけど、やっぱり今日は僕もガンガン攻めますよ!絶対に…勝つんだ!」

「無駄だネ。この『竜化戦士』のウロコは…どんな攻撃をも通さんヨ。」

「そんなこと、やってみなくちゃわからないよ!食らえ、〔獄炎殺〕!!」


 賢二の攻撃。

 だがあまり効果が無かった。


「やってみて…わかったかネ?」

「くっ、こうなったら…!た、太郎さん!」

「うん、わかってるよ。もう随分長い…付き合いだしね。」


 太郎は紙とペンを手渡した。




 そんな感じで例の如く賢二が遺書を書き始めた頃、姫と女神は…?


~大魔王城三階:女帝の間~


「ハァ、ハァ、し、信じられませんわ…!」

「むー!〔破滅〕!!」

「なんですのこのレパートリーの豊富さ!?そしてその邪悪さ!」

「むー!〔絶滅〕!!」

「な、なんて無慈悲な!種族ごと滅ぼすとかどれほど悪魔ですの!?」


 あながち間違いでもない。


「む~~!!」

「まだまだ続きますの!?あっ…!」


 女神は足を滑らせた。


「くっ、マズいですわ!避けきれ…」


「〔自滅〕!!」


 姫は勢い余った。


〔自滅〕

 魔法士:LEVEL5の魔法(消費MP3)

 とにかく自滅する魔法。なぜこんな魔法があるのか存在意義が全くわからない。



「う、うぅ…。酷い目に遭っちゃったよ…。痛い…よ?」

「いや、そこでワタクシを見られても困りますわ!派手に自業自得ですの!」

「誰にでも失敗はあるよ。大事なのは、素直に謝れるかどうかだよ?」

「ええぇっ!?あの、その…ご、ごめんなさい…?」

「何が?」


 女神は完全に振り回されている。


「くぅ…!どうにも調子が狂いますわ!こうなったら…衛兵、集いなさい!」


 女神は仲間を呼んだ。

 目がハートマークの兵が五十人現れた。


「うぉーー!女神様ーー!うっつくしいぃーーー!!」

「オホホホ!驚きまして?これがワタクシの魅力の」

「むー!〔全滅〕!!」

「ぎゃーー!!」


 衛兵は全滅した。


「んもぉーー!!」


 ちょっと同情の余地が。



「もう…いいですわ。お遊びはもう終わり…今からは、本気でいきますわっ!」

「えー。もうちょっと遊びたいよー。」

「そもそも遊びじゃありませんの!というか遊びで“絶命系呪文”てアナタ!」

「じゃあアゲハちゃんは何が得意なの?」

「あら、ワタクシですの?ウフフ…それは、ひ・み・つ☆」


 女神の謎の攻撃。

 姫はカマイタチ的なものに全身を切り刻まれた。


「くぁっ…!」

「そうですわ。最初から、こうすれば良かったのですわ。」

「い、痛そう…だよ…」

「なぜ他人事なのかはともかく、このまま始末して差し上げますわ。」

「私は…負けないよ。こうなったらもう、手段は選ばないよ。」

「最初から全開ではありませんこと!?」

「お母さんとの修行の成果を、今…思い出すよ。」


 忘れてたんかい。




 そしてまた話は勇者に戻る。


やっと現れた賢二に竜神を押し付け、俺は土男流と最上階に向かうことにした。

最初に大魔王が言ってた話が確かなら、この先にいる敵は二人…大魔王ともう一人だけだ。


「ったく、同じ二人だがこうも差があるとはなぁ。俺は手負い、お前は雑魚だ。」

「確かにそうだけど面と向かって言われるとさすがに傷つくんだー!」

「これまでは運良く生き延びた。だがこの先は相手が悪い。お前は残れ。」

「えっ!?そ、それは嫌なんだー!ここまで来たら死ぬまで一緒に…」

「残れ。」

「し、師匠…!」


 勇者はいつになく真剣な目をしているように見えた。


「な…なんで駄目なんだ師匠!?なんで…」



「見つけたぞぉー!!」



 その時、敵兵士が複数名現れた。


「だから。」

「だから!?」


 だからだった。



敵が多く来る気配がしたので、土男流に任せてきた。まぁ雑魚なりに足止めくらいはできるだろう。

雑兵とはいえ大勢の相手は疲れる。今の俺にはそんな小さな余裕すらないんだ。


~大魔王城最上階:終焉の間~


「ついに、辿り着いちまったか…。さすがの俺でも、生きて帰れる気がせんなぁ…チッ。」


 手負いで単身…どう考えても分が悪い状況だが、足踏みしても仕方ないので勇者は渋々扉を開けた。


ギィイイイイイ…


「…やぁ、やっと来たねぇ。でも一人で大丈夫?」


 大魔王が現れた。

 顔は笑顔だが醸し出す威圧感が半端ない。


「フッ、全然大丈夫じゃないな。勝手に死んでくれると助かる。」

「その減らず口…いつまで利けるのかな?」

「フン、減らないから減らず口って言うんだよ。馬鹿だろお前?」

「ハァ…やれやれ、なんなんだろうねぇその自信?」

「やっぱ馬鹿だろお前?そりゃあもちろん自分を、信じてるからさ。」


 根拠なんていらない。


「にしてもアレだなぁ。万全の状態で挑んでもキツいだろうに…やはりか。テメェもいるのかよ、裏切り執事。」

「おや、裏切り者とは心外ですね。そもそも仲間になった記憶がありません。」


 大魔王の陰には夜玄が立っていた。


「まぁ俺もそうだがな。ったく、大魔王にクソ執事…こんな体で2対1かよ…」



「いいや、もう一人いるぜ?」



「むっ…!?」


 勇者は辺りを見渡した。

 なんと!暗闇の中からマジーンが現れた。


「お、お前は…!お前は…お前は?」

「って忘れたのかよ酷ぇなオイ!俺だよ俺!」

「フッ、甘いな!俺にはまだ子供なんていないぞ!?」

「詐欺じゃねーよ!瀕死の割になんでそんな余裕なんだ!?」


 忘れてる勇者が酷いような空気だが、マジーンは主に暗躍しているだけで勇者との接点はほぼ無かったため、無理も無かった。


「ば、馬鹿な…!キミは確かに、あの時に…!」


 なぜか、勇者ではなく大魔王の方が反応している。


「む?なんだ、貴様ら知り合いか?意外と顔が広いな見知らぬマジーン。」

「ってやっぱ覚えてたのかよ!まぁそれも本名じゃねぇけどな!」

「ちゃんと名前があったのか?フン、雑魚魔人の分際で生意気な。」

「そりゃあるだろ。まぁ俺の名は無駄に多いがな。ある時は『魔人:マジーン』、ある時は『策士:ゴクロ』…」


 マジーンが名乗ろうとすると、それを大魔王が遮った。



「まぁいいや、今度こそ殺してあげるね…『覇王:欧剣』。」



 衝撃の名前負けが発覚。

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