【173】最後の聖戦(6)
空から降ってきた宇宙船が激突し、うまいこと竜神は下敷きになった。
そういやかつてカクリ島で、群青錬邪も同じ目に遭ってたなぁ…懐かしい。まぁ群青ごとき死ななかったんだ、竜神も死んではいないのだろう。
だが今、気にすべきなのは…
「ゆ、勇者君!あの…僕、その…!」
「…誰だ貴様は?赤の他人に馴れ馴れしく呼ばれる筋合いは無いぞ。」
「ど、どうしたんだ師匠?賢二先輩じゃないか!他人扱いは酷いんだー!」
二人は仲間割れの末に別れたままだった。
「賢二?フン…死んだよアイツは。さぁ行くぞ土男流、大魔王が待っている。」
「えぇっ!?じゃあ幽霊的なアレなのか!?それは怖いんだー!」
「いや、違っ…!」
「い…行かせんヨ。少々、意表を突かれたがネ。」
やはり竜神は生きていた。
だが勇者は華麗にスルーした。
「急ぐぞ土男流、敵幹部はまだまだいやがるしな。」
「ッ!!待て、行かせハ…」
衝突の影響でまだうまく動けない竜神の隙を突き、勇者と土男流はその場を離脱した。
「い、いいのか師匠!?数分後ならともかく、賢二先輩はまだ死んでなんか…」
「いいや、確かに死んだのさ。俺の知る…敵も殺せん、軟弱な賢二はな。」
「さっぱり意味がわからないんだー!」
「盛大に遅刻した罰だ、立ってろよ…最後までな。」
勇者は賢二の父との一戦を、盗聴蟲で全部聞いていた。
というわけで、置いていかれた賢二は…とにかく頑張るしかない。
「やれやれ…逃げられてしまったカ。仕方ない、追うとするかネ。」
「そ…そうは、させませんよ!ここで頑張らなきゃ…後で惨殺されちゃうし!」
「お前も馬鹿なのカ?私と戦っても同じだヨ。」
「勇者君をっ、甘く見ないで!!」
「…本当に仲間なのカ?」
「と、とにかく!僕は、頑張るためにここに来たんだ…だから、負けられない!」
「フゥ…まぁいい、ならば殺して進むまでヨ。」
「確かに、僕一人じゃ勝てないかもしれない。でも、今の僕には…!」
賢二は信頼する仲間達に目を向けた。
「大丈夫、任せとくニャ!既に準備は始めてるのニャ!」
「そうッス!こういう場面はもう慣れっこッスよ!ねぇ太郎さん?」
「うん。もうじき直るよ、船。」
「そしたらすぐ出よー☆」
「おーーーっ!!」
「ちょっ…!」
見事な団結力だった。
「み、みんなお願い!今回くらいは…たまには僕と一緒に、戦ってほしくて!」
「ハァ?“たまには”とか人聞き悪いなぁ賢者君。今まで僕らがまともに戦ったことあった?」
「だったら一度くらい頑張って!」
「自分はいつでもヤル気ッスよ!」
「でもいつも周りの勢いに流されちゃってるでしょ!?」
「アタチだって頑張りたいニャ!『猫耳族』の本気を出すニャ!」
「いや、それはやめて!自分が不幸を呼ぶ種族だって自覚を持って!」
「じゃあボクは何呼べばいいかなぁ?悪の化身とか?」
「それはどう考えても正解じゃな…呼べるの!?」
「フゥ、どうにも調子が狂うネ…邪魔だヨ。」
「言われてるよ賢者君?」
「僕がっ!?」
頑張れ賢二。
「と、とにかく先には行かせませんよ!行きたければ僕を倒し…倒さないで…」
「早くもヘタレモード突入ニャのニャー!」
「と見せかけて結局倒しちゃうのが、船長の凄い所ッスけどね!」
「頑張れ賢者様ー!ボク達も精一杯応援するよ~☆」
「いや、だから応援じゃなしに…!」
「やれやれ、見るからに弱そうだネ。この『ウザン』の敵じゃないヨ。」
その時、太郎がうっかり口を滑らせた。
「ウザン?なんか前に賢者君が倒した(ことになってる)『魔竜:ウザキ』っぽいね。」
「ッ!!?」
終始冷静だった竜神が、思わず動揺を露わにした。
「ちょっ、太郎さん!?なんで火に油を注ぐようなマネを!?」
「…あ、マジで?そういう流れ?あ~~~~…じゃあ、カットで。」
「“全身を”…ですか…?」
笑えない冗談だった。
「そうカ、貴様が噂の『賢者』カ…。それハ、甘く見てすまなかったネ。」
「い、いや、誤解なんで!僕は何もしてないんで!」
「何の労も無く倒せたト…そういうことかネ。」
「なんで僕の人生は…誤解が伝説を生むんだろう…」
いつも八割方は太郎が悪い。
「油断はしないヨ。この『昇竜の槍』ノ、サビとなるがいいネ。」
竜神はもちろん言い訳は聞かず、槍を構えた。
凄まじい殺気に、賢二は震えが止まらない。
「は、はわわ~!」
竜神の攻撃。
ミス!賢二は魔法で攻撃を防いだ。
「キミは防御の戦士かネ…邪魔臭いネ。」
「くっ、結局今回も防戦一方になりそうな予感が…!」
「アタチらも負けてられニャいニャ!せーので応援するのニャ!せーーの!」
「賢ニャーン!」「船長ぉー!」「賢者様~☆」「賢者く~ん。」
「せめて統一して!!」
外野の方が邪魔臭かった。
「と、いうわけで!応援もされちゃったし…一度は心が折れかけたけど、やっぱり今日は僕もガンガン攻めますよ!絶対に…勝つんだ!」
「無駄だネ。この『竜化戦士』のウロコは…どんな攻撃をも通さんヨ。」
「そんなこと、やってみなくちゃわからないよ!食らえ、〔獄炎殺〕!!」
賢二の攻撃。
だがあまり効果が無かった。
「やってみて…わかったかネ?」
「くっ、こうなったら…!た、太郎さん!」
「うん、わかってるよ。もう随分長い…付き合いだしね。」
太郎は紙とペンを手渡した。
そんな感じで例の如く賢二が遺書を書き始めた頃、姫と女神は…?
~大魔王城三階:女帝の間~
「ハァ、ハァ、し、信じられませんわ…!」
「むー!〔破滅〕!!」
「なんですのこのレパートリーの豊富さ!?そしてその邪悪さ!」
「むー!〔絶滅〕!!」
「な、なんて無慈悲な!種族ごと滅ぼすとかどれほど悪魔ですの!?」
あながち間違いでもない。
「む~~!!」
「まだまだ続きますの!?あっ…!」
女神は足を滑らせた。
「くっ、マズいですわ!避けきれ…」
「〔自滅〕!!」
姫は勢い余った。
〔自滅〕
魔法士:LEVEL5の魔法(消費MP3)
とにかく自滅する魔法。なぜこんな魔法があるのか存在意義が全くわからない。
「う、うぅ…。酷い目に遭っちゃったよ…。痛い…よ?」
「いや、そこでワタクシを見られても困りますわ!派手に自業自得ですの!」
「誰にでも失敗はあるよ。大事なのは、素直に謝れるかどうかだよ?」
「ええぇっ!?あの、その…ご、ごめんなさい…?」
「何が?」
女神は完全に振り回されている。
「くぅ…!どうにも調子が狂いますわ!こうなったら…衛兵、集いなさい!」
女神は仲間を呼んだ。
目がハートマークの兵が五十人現れた。
「うぉーー!女神様ーー!うっつくしいぃーーー!!」
「オホホホ!驚きまして?これがワタクシの魅力の」
「むー!〔全滅〕!!」
「ぎゃーー!!」
衛兵は全滅した。
「んもぉーー!!」
ちょっと同情の余地が。
「もう…いいですわ。お遊びはもう終わり…今からは、本気でいきますわっ!」
「えー。もうちょっと遊びたいよー。」
「そもそも遊びじゃありませんの!というか遊びで“絶命系呪文”てアナタ!」
「じゃあアゲハちゃんは何が得意なの?」
「あら、ワタクシですの?ウフフ…それは、ひ・み・つ☆」
女神の謎の攻撃。
姫はカマイタチ的なものに全身を切り刻まれた。
「くぁっ…!」
「そうですわ。最初から、こうすれば良かったのですわ。」
「い、痛そう…だよ…」
「なぜ他人事なのかはともかく、このまま始末して差し上げますわ。」
「私は…負けないよ。こうなったらもう、手段は選ばないよ。」
「最初から全開ではありませんこと!?」
「お母さんとの修行の成果を、今…思い出すよ。」
忘れてたんかい。
そしてまた話は勇者に戻る。
やっと現れた賢二に竜神を押し付け、俺は土男流と最上階に向かうことにした。
最初に大魔王が言ってた話が確かなら、この先にいる敵は二人…大魔王ともう一人だけだ。
「ったく、同じ二人だがこうも差があるとはなぁ。俺は手負い、お前は雑魚だ。」
「確かにそうだけど面と向かって言われるとさすがに傷つくんだー!」
「これまでは運良く生き延びた。だがこの先は相手が悪い。お前は残れ。」
「えっ!?そ、それは嫌なんだー!ここまで来たら死ぬまで一緒に…」
「残れ。」
「し、師匠…!」
勇者はいつになく真剣な目をしているように見えた。
「な…なんで駄目なんだ師匠!?なんで…」
「見つけたぞぉー!!」
その時、敵兵士が複数名現れた。
「だから。」
「だから!?」
だからだった。
敵が多く来る気配がしたので、土男流に任せてきた。まぁ雑魚なりに足止めくらいはできるだろう。
雑兵とはいえ大勢の相手は疲れる。今の俺にはそんな小さな余裕すらないんだ。
~大魔王城最上階:終焉の間~
「ついに、辿り着いちまったか…。さすがの俺でも、生きて帰れる気がせんなぁ…チッ。」
手負いで単身…どう考えても分が悪い状況だが、足踏みしても仕方ないので勇者は渋々扉を開けた。
ギィイイイイイ…
「…やぁ、やっと来たねぇ。でも一人で大丈夫?」
大魔王が現れた。
顔は笑顔だが醸し出す威圧感が半端ない。
「フッ、全然大丈夫じゃないな。勝手に死んでくれると助かる。」
「その減らず口…いつまで利けるのかな?」
「フン、減らないから減らず口って言うんだよ。馬鹿だろお前?」
「ハァ…やれやれ、なんなんだろうねぇその自信?」
「やっぱ馬鹿だろお前?そりゃあもちろん自分を、信じてるからさ。」
根拠なんていらない。
「にしてもアレだなぁ。万全の状態で挑んでもキツいだろうに…やはりか。テメェもいるのかよ、裏切り執事。」
「おや、裏切り者とは心外ですね。そもそも仲間になった記憶がありません。」
大魔王の陰には夜玄が立っていた。
「まぁ俺もそうだがな。ったく、大魔王にクソ執事…こんな体で2対1かよ…」
「いいや、もう一人いるぜ?」
「むっ…!?」
勇者は辺りを見渡した。
なんと!暗闇の中からマジーンが現れた。
「お、お前は…!お前は…お前は?」
「って忘れたのかよ酷ぇなオイ!俺だよ俺!」
「フッ、甘いな!俺にはまだ子供なんていないぞ!?」
「詐欺じゃねーよ!瀕死の割になんでそんな余裕なんだ!?」
忘れてる勇者が酷いような空気だが、マジーンは主に暗躍しているだけで勇者との接点はほぼ無かったため、無理も無かった。
「ば、馬鹿な…!キミは確かに、あの時に…!」
なぜか、勇者ではなく大魔王の方が反応している。
「む?なんだ、貴様ら知り合いか?意外と顔が広いな見知らぬマジーン。」
「ってやっぱ覚えてたのかよ!まぁそれも本名じゃねぇけどな!」
「ちゃんと名前があったのか?フン、雑魚魔人の分際で生意気な。」
「そりゃあるだろ。まぁ俺の名は無駄に多いがな。ある時は『魔人:マジーン』、ある時は『策士:ゴクロ』…」
マジーンが名乗ろうとすると、それを大魔王が遮った。
「まぁいいや、今度こそ殺してあげるね…『覇王:欧剣』。」
衝撃の名前負けが発覚。