【172】外伝
*** 外伝:賢二が行くⅤ ***
大魔王城で勇者達の戦いが始まったり始まらなかったりな頃、とある空の上…空飛ぶ海賊船『蒼茫号』では、賢二と愉快な仲間達(太郎、下端、ライ、召々)が…いつも通りダラダラしていた。
「いや~、まさか偶然船長と再会できるとは驚きッス!どうしたんスか?」
「でも確か、無職ちん達は大魔王と戦ってるはずニャ。行かニャいのかニャ?」
「え…あ、うん。もういいんだよ…もう…」
勇者と嫌な感じで別れた賢二は、だいぶやさぐれていた。
「ふ~ん…ま、いいけどね。で?これからどうしようか賢者君?僕ら超ヒマなんだよね~。」
「じゃあもう宇宙帰っちゃおうよ♪」
「でも召々さん、船長の故郷はこの地球ッスから…ねぇ?」
「…いや、行こうかな。もうこの星に、僕なんかの居場所は無さそ…」
賢二が自暴自棄になりかけた、その時―――
ドゴォオオオオオオン!!
突如、船体を激しい揺れが襲った。
賢二達は慌てて甲板に出てみた。
「う、ウニャー!明らかに敵っぽい雰囲気の奴がいるのニャ!危険ニャー!」
ライが指差す方向…そこにいたのは、洋上での一戦以来となる因縁の敵だった。
「…見ツケたゾ、勇者の一味ヨ。」
「お、お父さん…!」
サイボーグ父さんが現れた。
勇者達と別れ、行く当てもなく地球を離れたら、サイボーグと化した父と再会してしまった賢二。
大体想像はつくと思うが、例の如く防戦一方となった。
「チッ、まタ外しタカ…!」
今は父からの攻撃を、船の自動回避機能でなんとか避けている状況。
だがいつまでも避け切れるものでもない。
「ど、どどどどうしよう!ねぇどうしよう太郎さん!?」
「え、それ僕に聞いちゃう?」
「オのれチョコマカと…!逃げルナ、かかッテ来い小僧!」
「だ、だってアナタはお父さ…召々さん、どうにかなりません!?たまには『召喚士』として…」
「ん~、何か呼んじゃう?広範囲に炎ドバーッと吐いちゃう子とか、勢い余って爆発しちゃう子とか…」
「やっぱり大人しくしててくださいごめんなさい!」
「だったら自分が戦斧を振るうッス!」
「いやいやアタチが猫爪を!」
「じゃあ僕が腕を振るおうか?」
「パスタがいいな☆」
「イェーーイ!!」
賢二は一人で頑張れ。
「サァ、諦めテかかッテ来るガイイ小僧。」
「い、嫌だよ戦いたくないよお父さん!思い出してよ、僕だよ賢二だよ!」
「フン、騙サレんヨ。ソレが最近、ちまたデ流行ってイルという詐欺だろウ?」
「いや違うってば!それは面と向かってやれちゃう詐欺じゃないよ!?」
「ソレに…我ガ子賢二は、まだ三歳ダ。」
「もう十年前の話だから!なんで最新機器っぽい割に情報は古いの!?」
「あの子モ…俺ヲ捨てて…消エテしまっタ…」
父はかつて、賢二が学園校で『秘密の部屋』に迷い込んでいる間に、失踪したと勘違いして引っ越してしまったほど思い込みの激しいタイプだった。
「違っ…違うよ!自分からじゃなくて学校に消されそうになってたわけで…」
「賢二ダケじゃナイ、賢一モ…!」
それは自業自得だった。
「モハヤ、過去は必要ナイ。過去は俺ヲ苦しメルだけ…もう切り捨てタ。」
「…そっか。もう、戻れないんだね…」
賢二はどこか、覚悟を決めたような目に変わった。
「ソウ…幸せダッタあの日はモウ戻らナイ。だカラ俺は、先へと進ム。」
「だったら、僕が止める!せめてこれ以上…悪の道へと進まないように!」
なんと!賢二は防御の陣を描いた。
今の流れで攻撃じゃないとか正気か。
「やれヤレ…貴様、そレデモ『勇者』ノ仲間か?ここにキテなお防御とハ、心底情けナイ!」
「ゆ、勇者君なんて関係ない!僕は…」
「た、大変だよ賢者君!」
「えっ、どうしたんですか太郎さん!?」
「パスタが…四人分しか無い!」
「僕の分はいいんで邪魔だけはしないでください!」
「いや、僕が二人前食べたくて…」
「せめて気遣いくらい欲しかったです!」
期待を裏切らない期待の裏切り方だった。
「さぁイクゾ小僧!変形突進…『ロリータ・コンコルド・アタック』!略しテ…」
「や、やめてー!」
親からは聞きたくないセリフだった。
そして…そのまま三十分が経過。
防御だけでなく捕獲系の魔法も織り交ぜて交戦した賢二だったが、やはり攻め手が足りず劣勢だった。
「ハァ、ハァ、つ、強い…!それに速すぎて、全然捕まらない…!」
「フッ、俺ハかつて『剣士』と『賢者』ヲ目指しテ見事に挫折しタ身…負けルハズが無い。」
「え、なにその説得力の無い感じ…?」
「貴様は期待ハズレにも程がアルナ。ソレで本当に『勇者』ノ一味なノカ?」
「だ、だから…!僕はもう、勇者君なんかとは関係無いんだ!」
「…そうカ、逃げ出しタノカ。まっタク情けなイモノダ。」
「ち、違うよ!僕が見捨てたんだよ!あんな奴、もう…!」
「見捨てた…カ。成すベキことを放置シ、今マサに地球ヲ見捨テようとイウお前が言うカ。」
「ッ!!」
「貴様の親モ、そンナ息子を見たらサゾカシ悲しむことダロウな。」
「…それが、お父さんの望みなの?僕に殺されることを…望んでるの?」
「言葉の意味ガわからンナ。俺は勇者一行ヲ滅ぼすサイボーグ。望むノハ、貴様達の死ダ。」
賢二は今度こそ、覚悟を決めた目に変わった。
「わかったよお父さん…もう、迷いは無い!」
そう言うと賢二は…また防御の陣を描いた。
こいつマジか。
「チッ…この期に及んデマタ防御とハ情けナイ!もういい、死ぬガイイ!」
「いや、ぼ、僕をただの防御の人だと思ったら…」
「見るガイイ、必殺変形『ロリータ・コンバット・モード』!略しテ…」
「い、言わせないよっ!?というかどんだけあるのそういうの!?」
ナンダ語録は五百はあるらしい。
「死ネェエエエエエエ!!」
「み、見せてあげるよ!今の僕が使える(けどよく失敗する)、最強の防御魔法…〔金城鉄壁〕を!」
「フン、そんナ防御魔法なンゾ…ムッ!?自分ニではナク、俺に…ダト…!?」
金色の防壁がサイボーグ父さんを取り囲んだ。
「いくら素早くても、四方を囲んじゃえばもう…逃げ場は無いよね?」
「まサカ、最初カラそれヲ狙っテ…!?」
「いっけぇえええええええええ!雷系高位魔法、〔雷親父〕!!」
ピカッ!
〔雷親父〕
賢者:LEVEL8の魔法(消費MP120)
すぐ怒鳴る近所のオッサンが降臨する魔法。今では絶滅危惧種となっている。
シュゴォオオオオオオオオオオオン!!
どっちの親父が勝つのか。
シュゥウウウウゥ~~…
満を持して放った賢二の攻撃魔法が見事に炸裂し、行動不能となった賢二父。
仰向けに倒れ、全身の関節部から煙が立ち昇っている。
「グスン。お、お父さん…僕…」
父の元へと駆け寄り、手を取り涙ぐむ賢二。
別れの時は近い。
「…貴様、何ヲしてイル?」
「グスッ…な、なんでもないよ。この涙は…なんでもないんだよ…」
「…ソウじゃナイ。この大事ナ時に、こンナ所で何をシテイルんだ?賢二よ。」
なんと!父が賢二の名を呼んだ。
「えっ!?お、お父さん…記憶が…!?」
「最初カラあるが?」
最初からあってアレか。
「あったの!?じゃあなんでこんな…こんなことになるまで…!?」
「勢いでヤッテみた。今は反省しテイル。」
「もっと早くしてよ!そうと知ってれば、僕だって…あんな攻撃…」
「お前ニハ、覚悟が足リナイ…そう感じタノダ。父とシテ最後の…教育…ダ…」
いよいよ挙動が怪しくなってきた。
いつ爆発とかしてもおかしくない。
「お父さん!お父さん…!?」
「行け、賢二ヨ。行ッテ…自分の成すべキことヲ成すノダ、愛しい…息子ヨ…」
ゴーグル越しに見えるその瞳は、かつての優しい父のものだった。
「…わ、わかったよお父さん!僕…僕、頑張る!頑張るから…!」
「遠イ未来に…天国デ会オウ…。母サン…そして賢一と…仲良ク……」
娘とは多分無理だ。
というわけで、父を倒して決意を新たにした賢二は、宇宙船内に戻るや否や太郎を呼び出した。
「た、太郎さん!太郎さんいます!?」
「ん…?あぁ賢者君、どうしたの?話によっては“いない”って言うけど。」
「そんな堂々とした居留守は却下で!あのっ、急いで目的地変えて!」
「今いません。」
「だーかーらー!!」
話が通じないことに苛立つ賢二。
だが実は、通じてないわけではなかった。
「だってさぁ~、“大魔王城に向かえ”とか言うんでしょ?」
「へ…?なんで知って…?」
「きっとそう言うと思って、ターボの準備はもう万全ッスよ!」
「そうニャ!光の速さで飛んでけるのニャ!」
「殺人的なGだよね☆楽しそう~♪」
普段は空気を読まない連中が、珍しく逆を突いてきた。
「み、みんな…」
「ハァ…まったく、しょうがないなぁ~。なら仕方ないね、行ってらっしゃい。」
「ブレないですね、太郎さんは…」
説得に何日かかかった。