表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
170/196

【170】最後の聖戦(4)

俺と絞死のピンチに現れたのは、なんと天空城で死んだはずの悪魔…先公だった。

だが奴は確かに死んだはず…となると、もしかしたら俺達はもう死んでいるのかもしれない。もしくはこの後すぐ死ぬ。


「ハッ、そうか!幻術だな!?これは先公の幻術に違いない!」

「いや勇者さん、それは矛盾した発想のような…」

「久しぶりですねぇ勇者君。相変わらずダークな感じで先生嬉しいですよ。」


 教師は見慣れた悪い笑みを浮かべている。

 とても幻や偽者の類には見えない。


「チッ、あんだけ積んどいた爆薬でも死ななかったとは…化け物かよ死神…!」

「化け物とか失礼ですねぇ暗黒神。まぁ確かに大変でしたけどね、肉片かき集めるのは。」

「じゃあ化け物じゃねぇか!“死ななかった”よりもより化け物だろ!」


 ガチなのかジョークなのかわからない。


「あ、あの…その…」


 そんな中、一番混乱しているのはやはり、実子である絞死のようだ。


「本当に…父上…なんですか?」

「…よく、ここまで頑張りましたね。偉いですよ絞死。花丸あげちゃいます。」

「彫刻刀でか先公?」

「ハイ、背中に。」

「帰ってください。」


 間違いなく本人だった。



「さて…不利かと思われたが、先公が来て状況は変わった。ならばここからは…」

「勇者君、ここは私に」

「任せて先に行くとしようか。」

「話が早くて助かりますが…少し寂しいですね…」


 勇者は巻き添えを食いたくなかった。


「ゆ、勇者さん、ここは一応皆で力を合わせて…」

「あ?コイツにそんなのは要らん。むしろ邪魔者扱いされて殺されかねん。いいから行くぞ絞死。」

「いや、しか(ゴスッ!)ぐぇ!」

「さーて、ここはお前らに任せるぞ!絶対になんとかしろよな!」


 勇者は絞死を担いで立ち去った。


「チッ、逃げやがったか。だが追わせては…くれねぇよなぁ死神?」

「ええ。アナタには今度こそ、私から引導を渡してあげましょう。」

「フン…ったく舐められたもんだぜ。邪神を取り込んだこの俺を一人で…」

「おや、聞いてなかったんですか?彼は言いましたよ…“お前ら”と。」

「あん…?」


 教師は暗黒神の背後の、暗がりに紛れている少女に話しかけた。


「ウフフ…。やっぱり彼は…いい勘してます…」


 霊魅が現れた。

 つまりそういうカラクリだった。




厄介な暗黒神は先公に任せ、俺は絞死を担いで上を目指そう…と思ったのだが、よくよく考えたら今の体調じゃろくに戦えん。

ならば土男流らの生死を確認し、生きてたら連れてくことにしよう。盾くらいにはなるはずだ。


~大魔王城三階:未来の間~


 そして勇者が辿り着いたのは、夜玄と帝都突撃隊が戦っていた部屋。

 だが既に戦いは終わったようで、室内はとても閑散としていた。


「む?この部屋は…なんだ?よくわからん奴が死んでるようだが、これは一体…」

「…うっ…ぬぐぅ…」

「おっ、生き残りがいたのか。誰だ貴様は?」

「くっ、馬鹿な…我ら、『帝都突撃隊』が…壊滅だなん…て……」


 悔しそうな一言を残し、戦士Aは動かなくなった。

 残りのメンバーも既に事切れているようだ。


「帝都の…そうか、“咬ませ犬”として出てきたわけか。てことは、ここには土男流も無職もいなかっ…ハッ、あれは…!」


 勇者は倒れている無職を発見した。


「おい無職、こんな所で何してやがる?早く起きろ。」

「………」

「いくら勝てそうになかったとはいえ、死んだふりとか恥ずかしくないのか?」

「…………」

「ご丁寧に脈まで止めるとかお前、芸が細かいにも程が…」

「……………」


 返事が無い。ただの屍のようだ。


「おいおい…こうも見せ場が無いとか…マジかよ…」


 生涯幸が無かった。




なにかと冴えない無職だったが、いつか何かをやってくれると思っていた。

本人もきっとそのつもりだっただろう。物語的にもそうなるのがお約束…にも関わらず、奴は特に何かを成した痕跡も無く屍と化していた。

やれやれ、この俺がうっかり同情させられるとはな…。まぁいい、切り替えよう。


こうなったら土男流が生きていることを願うしかない。

まぁ生きてたところで使えるかどうかは微妙だが、この際いないよりはマシだ。


~大魔王城三階:女帝の間~


「むっ、この部屋は…おぉ土男流、生きてたか!なんだよオイ生きてたのか!」

「う…うぉー師匠ー!って、私は生きてちゃ駄目だった感じなのか!?」


 無職とは違い、土男流はまだ無事なようだ。


「あれぇ~?アナタは誰かニャン?もしかしてまた私のファンの人ぉ?」


 今度は鰤子が現れた。

 土男流も鰤子もまだ傷が無いところを見ると、どうやらまだ戦闘は始まっていなかったようだ。


「…よく頑張ったな土男流。換えの眼球を買ってくるからちょっと待ってろ。」


 鰤子を一目見て色々察した勇者は、これまでになく優しい目を土男流に向けた。


「だ、大丈夫なんだー!だから一人にしないでほしいんだ、いろんな意味で!」

「キャハハ☆よくわかんないけど超ウケるぅ~♪」

「貴様…何者だ?まさか…いや、そんなありえない展開は無いとは思うが…」

「私ぃ?えっとね~、私は…め・が・み・さ・ま☆」

「ブッ殺す!!」


 失礼だが正当なリアクションだった。



無事に土男流と合流できたのだが、その隣にはとても人とは思えん何かがいた。

最初は変わった置物だと思ったのだが、それどころか自称『女神』…よし、ブッた斬ろう。


「…人間、何か一つくらいは一番になりたいものだ。でなければ悲惨すぎる。」

「し、師匠…?」

「盗子を脅かす存在は、この俺が排除する!!」

「セリフだけなら素敵だけど意味を考えるとあんまりな気配りなんだー!」


 つまり“ブサイク頂上決戦”的な意味で。


「ちょっとちょっと~、ぜ~んぜん意味わかんないんだけど、な~にぃ~?」

「黙れブサイク!その身の程をわきまえんキャラは何様だ!ツッコミ待ちか!?コンプライアンス委員会によるオトリ捜査か!?」

「そんなこと言っちゃ駄目だよ~。この子結構可愛いじゃん?ひっど~。」

「お前に言ったんだよお前に!途中で進化を断念した猿人みたいな顔しやがってテメェ!」

「…は?」

「気づけ!鏡を見ろ!現実を見ろ!そして両親の遺伝子を恨むがいい!!」


「キャハハ☆元気だね~♪」

「う…うぉああああああああああ!!」


 勇者は発狂した。


「くっ…!ま、まさかこの俺の“口撃”で、何のダメージも与えられんとは…!」

「そ、そうなんだ!この人さっきからこの調子で私はもう心が折れたんだ!」

「ハァ~、それにしてもガッカリだな~。足音がしたから、もしかしたら戦仕様かも☆って思ったのになぁ~。」

「ん、戦仕…?奴なら死んだが。」

「…え?」


 鰤子の表情が変わった。

 勇者はそこに活路を見出した。


「いや~あの死に方は酷かったな。もうグッチャグチャで大変だったぞ。」

「う、ウソだもん!ウッソだもんもんっ!あの…あの強くて優しい戦仕様が…!」

「敵の攻撃から…子犬をかばってな…」

「ありそう…!!」


 すると勇者は、ポケットから小さな箱を取り出した。


「実はアイツから、預かっているものがあるんだ。最愛のお前に…とな。」

「え…こ、この箱は…?」

「自分の手で渡したかっただろうな…。開けて、ハメてみてやれよ…薬指に。」

「せ、戦仕様ぁ…!」


 勇者はドクロのついた小箱を手渡した。



ドッガァーーーン!!



 何に備えて持ってたのか。




「う゛…う゛お゛お゛お゛お゛ん!戦仕様ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


急遽思いついた俺のナイスな作戦が見事に炸裂し、謎のブサイクはドッカーンと砕け…散らなかった。


「くっ…!あの爆発で、死なないどころか変化無しとは…怖ろしい奴め…!」

「あんな優しそうな顔で人を爆破しちゃう師匠も、怖ろしさって意味では負けてないんだー!」

「お゛っ、お゛っ、お゛っ!」

「ひ、酷ぇな…。これほど可哀相に見えん泣き様は初めて見るぜ…」

「で、どうするんだ師匠?いつも通り始末しちゃう感じか?」

「ああ、無論だ。戦仕もあの世で暇してるだろうしな。」


 尋常じゃない嫌がらせだった。


「さらばだブス。次に生まれてくる時は、目に優しい顔で生まれてくるがいい。」

「う゛お゛お゛ん!う゛お゛お゛お゛お゛ん!」

「死ねぇえええええええええ!!」


ピカァアアアアア…!


 勇者は魔剣を振り下した。

 だが鰤子は斬る前に割れた。


「うわー!いつもながらえげつないんだー!キレイに真っ二つなんだー!」

「いや、違う!お、俺はまだ何も…一体何が…!?」


 「…やはり、この姿のままでは駄目でしたか。このような醜い“外殻”では…」


 まばゆい光の中から、鰤子のものとは異なる女の声がした。

 と同時に、勇者は何かに気付いたようだ。


「割れた死骸から…!そうかそういうことか、俺としたことが勘違いしてたぜ!」

「う、うわー!中からなんか出てきたんだー!師匠にはわかるのか!?何太郎なんだ!?」

「かつて聞いたことがある。蝶のごとく“変態する能力者”…そんな話をなぁ。前に別の変態をそれだと疑ったことがあるが、そうか…貴様が…!」


カァアアッ!!


 光が弾け、中から現れたのは…元が鰤子とは思えない美女。

 “ナンバー1キャバ嬢”感のある顔立ちで、『女神』と呼ばれるのも納得のナイスバディだった。


「ワタクシの名は『アゲハ』。アナタ…頭が高くいらしてよ?」


 キャラまで変わりすぎだった。



「う、うぉー!すんごいベッピンさんが出てきたんだー!驚いたぜー!」

「うふふ、ありがとうお嬢ちゃん。でも見飽きた反応ですわ…死んでおしまい。」

「キャラまで変わるとかすぐには対応しきれないんだ!少し待ってくれー!」

「あぁ…ごめんなさい、ワタクシが悪いのはわかっていますわ。美しさは罪…」


 面倒臭いという意味では相変わらずだった。


「なのに、なぜアナタは平然としていますの!?目が腐っていらして!?」


 女神は自分を崇めない勇者の様子に苛立ちを覚えた。


「フン。俺の女神は後にも先にも姫ちゃん一人…貴様なんぞ眼中に無い、死ね。」

「そう、同性愛者なのね…。大丈夫、ワタクシ理解はある方でしてよ?」

「凄まじくポジティブな人なんだー!そこはさっきまでと同じ人なんだー!」

「フッ、顔が良くても中身で台無し…面白いサンプルだな。是非死んでくれ。」

「殺したいほど美しい…やはりワタクシは、罪な女ですわ。」


 やっぱり面倒臭い。


「ところで女、戦闘の前に少し聞きたいことがあるんだ。」

「よろしくてよ。ワタクシ逃げも隠れもしませんわ。スリーサイズは上から…」

「聞いてねーよ!なんだよその無駄な自信は!?さっきの抜け殻のことだよ!」

「あ~アレね。アレは、この美しすぎる姿を世の狼達から隠すために五百年前…」

「オーケーわかった。イライラするからそれ以上喋るな。」

「でもキャラまで変わっちゃってるのが謎なんだ!なんでなんだ?」

「フフフ。“サナギ”の時代は過去のこと…もはや別人と思ってよろしくてよ?」

「なるほど、要は封印したい“黒歴史”だと。」

「違いますわ!“生まれ変わった”と言いたいわけですの!」

「フッ、そうか…だが悪いな、すぐに戻してやるよ…あの酷い顔になぁ!」


 相当殴らなきゃ厳しい。



「てなわけで、ぼちぼち戦闘が始まりそうだが、正直今の戦力じゃキツそうだ。オイ土男流、お前どこまでやれる?俺が回復するまで粘れるか?」

「す、すまない師匠!トーコちゃんも失って、今の私は戦力ゼロなんだー!」

「そんなんでよくノコノコとここまで来たなオイ!もっと自分を大事にしろよ!」

「諦めて、素直に死んでみてはいかが?まず勝負になりませんわよ?」

「フン。確かに凄まじいオーラは感じるが、そんな細腕でこの俺をぶべらっ!」


 女神のパンチが炸裂。

 勇者は鮮やかに宙を舞った。


「あら、隙だらけでしてよ?」

「ひ、卑怯なんだー!セリフの最中は待つのがお約束なんだぜー!?」

「チッ、俺の専売特許を…!」

「今のは聞かなかったことにしてくれー!」


 どうやら女神は鰤子とは異なり、そこそこ好戦的らしい。

 後手に回ると痛い目を見そうだ。


「やれやれ仕方ない。先のことは考えずに全力で仕留めにかかるしかないか。まぁ2対1ならあるいは…」


「おっと、そうはさせませんよ。」


「むっ?その声は…どこかで…って、どこから聞こえた?」

「し、師匠ー!なんか変な小型機械が入ってきたんだー!」


 土男流の指差したのは、ナンダが開発した自律型映像器。

 そう、つまり―――


「やぁ、久しぶりだね諸君。キミらに殺された恨み、忘れてないよ。」


 ナンダの立体映像が現れた。

 そして大勢のロボットが現れた。


 土男流は尻を揉まれたトラウマが蘇った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ