【168】最後の聖戦(2)
勇者と邪神、絞死と暗黒神、土男流と鰤子、そして無職…ではなく帝都の謎部隊と夜玄との戦いが同時に始まり、場面転換が面倒な状況。だが今のところ皆まだ元気そうだ。
しかし―――
~タケブ大陸:ショムジ遺跡~
「フン、口ほどにも…いや、口ほどの小娘め。」
「う…うぅっ…死……の…だ…」
若干一名例外がいた。
忍美は帝雅にフルボッコにされ、もはやボロ雑巾のようだ。
「ぐっ…だ…誰…か…助ケハッ!」
「深き森だ、助けは来ない。無意味な希望は捨て…ひっそりと果てるがよい。」
帝雅は左腕を振り上げた。
忍美はもう動けない。
「…フッ。残念だがそのセリフは、“誰か出て来るぞフラグ”でござる!」
その時、どこからか聞き覚えのある少年の声が。
「な…に…?馬鹿なっ、援軍だと…!?」
「まったく損な役回りでござる。出遅れはしたが、ここからは拙者が主役!我が伝説の秘奥義…『忍法:木の葉爆撃』を食らうがいいでござる!」
「そ、その声はまさか…忍びの里ごと包めるんじゃないかってくらいの大風呂敷を広げて里を飛び出した…ハッタリ君!?」
現れたのはかつて、カクリ島に五錬邪が襲来した時に無駄に場を引っ掻き回した少年『忍者:法足』。
忍美の口ぶりからすると、どうやら二人は旧知の仲のようだ。
「そう!ハッタリでござ(ズバシュ!)
法足は言う前に斬られた。
「う、うわー!戦闘どころか、お得意のハッタリすら言わせてもらえないとかあんまりなのだー!」
「まさかの救援に不覚にも面食らってしまったが…ここまでだ。二度と助けは来ない。今度こそ無意味な希望は捨て…ひっそりと果てるがよい。」
帝雅は何事も無かったかのようにTAKE2に入った。
だが―――
「…フン。残念だけどそのセリフは、“誰か出て来るぞフラグ”を立てたさ。」
その時、どこからか聞き覚えのある少女の声が。
「な…に…?馬鹿なっ、また援軍だと…!?」
「まったく損な役回りさ。出遅れたとはいえ、こんな地味な出番とか最悪さ。」
「そ、その声は…あ…あっ…」
「あさみん言うなやっ!!」
暗殺美は言われる前にキレた。
「ハァ~…やれやれさ。復帰直後にこんな遠出とかふざけんじゃないのさ。」
忍美のピンチに駆けつけた二人目は、怪我の治療のため帝都に置いてけぼりにされた暗殺美だった。
場所がメインの大魔王城ではないため、あからさまに不本意そうだ。
「小娘…貴様は確か、前にも見たな。あの子の…塔子の友人か。」
「ハァ?冗談は娘の顔だけにしとけさ。名誉毀損で訴えるさ。」
「き、貴様…!」
「ハ…ハハ…やっぱり、あさみんは…頼もしいのだ…。やっぱ、しのみんじゃ…」
「…フン、まぁもう用無しだから寝てるがいいのさ。ポックリ休めさ。」
「いや、その擬音はちょっと…」
「相も変わらず無礼な小娘だ。愛娘に悪い影響を与えられても困る…死んでもらう他ない。」
「無礼?舐めんなさ、ウチのポチを可愛がってくれた礼は…たっぷり返すさ!」
忍美に対しても無礼だった。
「うぉおおおお!死ねやオッサアアアアアアン!!」
というわけで始まった、暗殺美と帝雅の再戦。
商南の敵討ちでもあるため気合い十分の暗殺美だが、帝雅はいたって冷静に攻撃を受け流していた。
「素早いな…。以前より、だいぶその靴を使いこなしていると見える。」
「アンタこそ片腕無いクセにその余裕は何さ?ムカつくのさ娘の次に。」
「無駄だ、やめておけ。そのようなくだらん嘘で私の動揺を誘えるとでも?」
「紛れもない真実さ。それから目を背けるとこなんかはソックリ親子さ。」
「き、貴様ぁ…!貴様にあの子の何がわかる!?」
「…フン、アンタこそアレの何がわかるのさ?今さら出てきて親気取りかさ?」
「それは…どういう意味だね?」
相変わらず盗子ネタには弱かった。
「フン!後発のポッと出キャラに、デカい顔されたくないって言ってんのさ!」
「クソ生意気なぁ…!」
「上等さ、やってやるさ!命を懸けて…この、ちっさいのが!」
「…え゛ぇっ!?」
忍美は無茶振りされた。
「私はもうクタクタだから、後はアンタがやれさ。血ヘドを吐きながらさ。」
「ひ、酷いのだあさみん!そんな死人にムチ打つような…」
「そんなことして何が楽しいのさ?生きてるからこそさ。」
「それこそ何が楽しいのか問いたいのだ!」
「やめておけ忍びの小娘。ただでさえ瀕死なんだ、下手に動いたら死ぬぞ?」
「と見せかけて、怪しい“忍薬”でこっそり回復してる嫌らしい奴なのさ。」
「お、恐るべし幼馴染みなのだ!でもわざわざ敵にバラした意図は謎なのだ!」
多分ただの嫌がらせだった。
「さっさとやらないとそのちっさい体を空きビンに詰めて海に流すさ。」
「わ、わかったのだ任されたのだ!じゃあ…いくのだっ!『忍法:動物祭り』!」
〔動物祭り〕
森の動物さん達を呼び集める忍術。
成功すると、とてもメルヘンチックなお祭り騒ぎが始まる。
「ギョルァアアアアアア!!」
「う、うへぇーーー!?」
異形の大魔獣が現れた。
つまり失敗した。
そんなやらかしちゃった忍美がどうなったかは一旦置いといて、舞台は主人公のところへと。
「ふむ…なるほど、こうなるか…」
久々に会った邪神の実力は、前にシジャン城でやり合った時の比じゃなかった。
前回は復活直後の不完全体だったってのはわかるんだが、別人にも程がある。
まともにやり合ったら命がいくつあっても足りん。先のことを考えるなら…やはり手段は選ばず、短期決戦で葬るのが得策だろう。
「やはり一筋縄にはいかんか。だが!この俺もまた前回とはグハァ!違うぜ!」
「豪快に血を吐きつつ言われてものぉ。」
「ハッハッハ!まんまと騙されおっブハッ!馬鹿な奴…カハッ!ぐおぉお…!」
「そんな体を張った演技なら騙されて悔い無しじゃが。」
勇者は見るからに大ダメージを負っていた。
「…ふぅ。やれやれ、まさか前座でこれほど苦労させられるとはなぁ。」
「諦めるがいい小僧よ。痛みを感じぬ今…わらわの力は限界を超えておる。」
「フッ、わかってないなぁ死人。それは“体の異常に気づけない”というよくあるパターンがガハッ!」
「おぬしこそ気づけてないじゃないか。もはや限界では…」
「そう余裕ぶっていられるのも今のうちだ。この戦いは、長くは続かない。」
もちろんピンチ的な意味で。
「さて…どうしたものか。カルロスの時は首を飛ばしたら止まったが、今回も同じとは限らん。やはり、五体をバラしてミキサーにかけてグイッとイッキしか手はあるまい。」
「フン、やれるものならやってみるがよい。まぁ飲み干す理由は皆目見当も付かんが。」
「ん~、失った血液の補給?」
「今さら聞くのもなんじゃが…貴様人間か?」
少なくとも度胸は人間離れしている。
「とまぁそんな冗談はさておき、そろそろ本気でいくぞバッキー!」
「うむ。後悔無きよう、全力で来るがよい。」
「フッ、いいだろう。我が『縦横無尽流』の奥義が見たいと言うんだな?」
「なっ、縦横無尽流じゃと…!?」
邪神の顔つきが変わった。
「ほほぉ、知っているのか。だが悪いな、まったくもって伝承されてないぜ!」
「ならばなぜ言った!?」
勇者は回復時間を稼いでいる。
「さぁ、いい加減まじめにやるがいい。時間を稼ぎなのはわかっておるぞ?」
「むっ…そうか、上手くいかんものだな。だがまぁいい、本命は大魔王…こんな雑兵にこれ以上時間を割くわけにはいかんしなぁ。もうキメるか。」
「…ほぉ、わらわを雑魚扱いか。お得意の冗談にしては笑えんのぉ。」
二人は改めて向き合い、そして構えた。
「よーし、それではいくぞ邪神!食らうがいい、我が必殺奥義…『大旋風葬』!」
「なっ!?それはわらわのじゃ!」
「お前のモノは俺のモノ…どこぞの偉人はいい事を言った!食らえぇええい!!」
勇者は大旋風葬を見事にパクッた。
ズォオオオオオオオオオオオオ!!
「くっ、本当に放てるのか…!なんというセンスじゃ…!」
「扇子持ってるのはお前だろ。」
「そういう意味では…!」
「更に隙アリぃいいいいいいい!!」
「…フン、そう何度も隙を突かせるほど、わらわは甘くないわっ!」
カキン!ガッキィイイイン…!
ジュバッ!!
二人の力が激突した。
「フッ…やるな邪神…」
「フン、貴様もな。」
「…チク…ショウ…」
勇者はパタリと倒れた。
「ぐっ…!こ、この俺が…!」
「既に見えていた勝負じゃろう?わらわの体にはまともな傷は付いておらぬ。」
這いつくばる勇者。
勝ち誇る邪神。
勝負は見えた…かと思われた。
「…フッ、そう思っちまうあたりで…やはり貴様の負けなんだろう…なっ。」
今度こそ負けを認めるかと思いきや、勇者は相変わらずふてぶてしかった。
だがそれは、ただのブラフではなかった。
「ほぉ、まだ立ち上がれるとは…む?なんじゃ貴様、急に背が伸びたか?」
「馬鹿め、貴様が縮んだんだよ。貴様の胴体に傷が無いのは、狙ってなかっただけだ。」
「なっ…!?こ、これは…!」
邪神は足首から下が無い。
「死なないのなら機動力を奪う…それしかないだろう?」
「き、貴様…!気づかれぬよう、足首だけを狙っておったのか…!先ほどから、防戦一方に見せながら…少しずつ…!」
「だから言ったろう?“体の異常に気づけない”のパターンだとな。」
「…ふぅ、やれやれ。一度は魔王の手で無様に殺された身…所詮この程度か。」
どうやら邪神はすんなり負けを認めたようだ。
邪神ほどの者なら足が無かろうが十分に善戦できるはずだが、“作戦勝ち”を印象付けて負けた気持ちにさせるという勇者の狙いが功を奏した感じだ。
「潔いのは嫌いじゃないぜ。まぁ安心しろ、これから宣言通り美味しく調理してやる!」
「本当に飲む気なのか!ミキサーにかけてグイッと…!?貴様どこまで怖いもの知らずなんじゃ!?」
邪神はちょっぴり怯えている。
「ま、粉々にするのも面倒だしこのまま放置だ。死体使いが果てるまで、そこで見ているがいい。」
「くっ…!」
勇者は勝利した。