【167】最後の聖戦
季節は流れ、ついに約束の秋がきた。
シムソー国を離れた俺達は順調に旅を続け、気付けば目的地である『大魔王城』からそう遠くなさそうな場所までやってきていた。
暗殺美父が最後に言ったように、恐らくこれからの戦いが俺達の…最後の戦いとなるだろう。正念場だ。
「ふむ…だいぶ歩いたな。ぼちぼち着く頃だと思うんだが、どうだ無職?」
「えと、双子さんの情報が確かならもうじきなはずです。城とか、死期とか…」
「うぉー燃えてきたぜぇー!絶対に悪者全員をブッ倒してやるんだー!」
「私は一人でいいんですが…まぁ、ここまできたら仕方ないですねぇ。」
食堂でのゴタゴタで賢二、盗子、姫の三人が去ってしまったため、残された味方は勇者、無職、土男流、絞死、の四人だけになっていた。
「なぜワルツ達も当然のように組み込まれてます!?聞いてないのです!」
「ないのです!」
「む?急に欠員が出たんだ、仕方なかろう?そうしないと人数が足りんのだ。」
不満をあらわにするワルツ&ポルカ。
敵からの指定が六人だったため、仕方なく勇者は双子も強引にメンバーに加えていたのだ。
「いや、それはそちらの都合…というかポルカ達はむしろ敵なのですよ!?」
「ならば聞くが、お前ら…本当にそれでいいのか?歴史に汚名を刻む気か?」
「そ、それは…」
「でもワルツ達は、もう大魔王軍に…」
「通った道は戻れんが、進む道は選択できる。未来は、切り開けるんだ。」
勇者はいいセリフっぽいことを言った。
ワルツとポルカは顔を見合わせ、そしてうなずいた。
「…わ、わかりました!ワルツと♪」
「ポルカは♪」
「まんまと♪」
「騙された!?」
頼りない六人が行く。
その後、シムソー国から歩くこと数日。ついに俺達は…目的地らしき城へと辿り着いた。
城は前に校長が半壊させたと聞いたんだが、どうやらすでに修復済みのようだ。
まぁいい、大魔王のちょうどいい墓標になるだろう。
~メジ大陸:大魔王城~
「ふむ、この禍々しい形状…これが大魔王城に違いない、ぜぇーーーぃ!!」
「うぉー!燃えてきたぜぇーーぃ!ヤッホーーー!!」
勇者と土男流は声高らかに叫んだ。
「えっ!?ちょっ、お二人さん!?ここで大声出すのはちょっと…!」
「気にするな無職、どうせバレてるさ。今までもただ泳がされていたに過ぎん。お前も気付いてるだろ絞死?」
「ええ、完全に舐められてますねぇ。なんとか鼻を明かしてあげたいものです。」
「フッ、じきに奴らも後悔するさ。殺せるうちに…殺しとかなかったことをな。」
「そ、そうですね!ではまずは先陣を切って、ワルツと♪」
「ポルカがはぁっ!」
「死んじゃった♪」
なんと!早くも大魔王が現れた。
ワルツとポルカは素手で急所を貫かれている。
「わ、わー!ふふふ双子さーーん!?い、一撃で同時に…です…!?」
「…おいコラ大魔王、もう少し空気読めよテメェ。いくらなんでも早すぎだろ?大声で挑発しといて言うのもなんだが。」
「いや~…なんかもう、待ちきれなくてさぁ♪」
大魔王は双子から両腕を引き抜き、笑顔で振り返った。
「ったく、随分せっかちだな大魔王。折角来たんだ、せめて城内でもてなせよ。」
「ん~、別にいいじゃん。どうせすぐ死ぬんだし、もうここで死んじゃおうよ。」
「やれやれ、お前は何もわかってないな…。それで『大魔王』とか笑わせる。」
「…それって、どういう意味?」
「フッ…やれやれ学の無い奴め。」
勇者の呆れた様子に、カチンときた様子の大魔王。
辺りに緊張が走ったが、勇者に退く気はなさそうだ。
どうやら勇者には、そう言うだけの根拠があるらしい。
「『勇者』と『大魔王』の決戦は、最上階の『王の間』と相場が決まってるだろうがっ!!」
そうでもなかった。
「いや、そんな勝手な定義を押し付けられても。」
「それに、お前は面白い戦いがしたいんだろう?だったらもう少し待つがいい。」
「ハァ?なんでさ?」
「なぜなら俺には、“戦闘の中でもっと強くなるフラグ”が立っている。今も昔も主人公にはそういう力があるんだよ。」
「いやいや、それは結果論であって当てにするのはどうかと思うけど…」
「というわけで、上で待っているがいい。後で菓子折り持って行くから。うん。」
「ん~…まぁいいや、なんかとっても腑に落ちないけど口車に乗ってあげるよ。その方が面白そうだしね。」
「あ、ついでといっちゃなんだが、お前んとこも二人減らしてくれよ。メンバーが足りん。」
「ど、どこまで厚かましいです!?怖いもの知らずにも程があるです!」
無職はハラハラして気が気じゃない。
「あ~大丈夫。ここには今、僕を除けば幹部クラスは四人しかいないからね。」
「む?こちらには六人と指定しておきながら…なぜだ?」
「ま、少しお使いにね。キミら知ってる?古代人が残した“三大秘密兵器”を。」
「ッ!!」
「対古代神用に作られた『爆々弾々』、天の城に使われた『天空波動砲』…」
「…そして三つ目、あらゆる生物を死に至らしめるという最悪の細菌兵器…『倍々菌(バイバイキン)』か。」
「お?へぇ~、知ってるんじゃん。意外と博識だねぇ。」
「フッ、いつか我が手に…と思ってな。」
「うぉー!そんな物騒なモノを手に入れてどうする気なのか気になるぜー!」
「僕の目的はわかるよね?キミ達を倒したらもうこの星に…用は無いからさ。」
その頃、タケブ大陸の森深くにある『ショムジ遺跡』には、大魔王が兵器捜索のために派遣した帝雅がいた。
「ここが例の場所か。随分かかったが、それだけの価値がある兵器と…むっ?」
ガタッ
「フッ、なるほど。どうやら敵にも少しは…キレる者がいるらしい。」
“いつか我が手に”どころか、実はすでに調査班を派遣していた勇者。
だが、その相手は―――
(う、うわーー!し…しのみんは聞いてないのだぁーーー!!)
勇者は人選をミスった。
城に入る前にラスボスに襲われて若干ビビッたものの、なんとか大魔王を追い返した俺達は、気を取り直して城へと乗り込んだ。
残るは俺、絞死、無職、土男流の四人…これ以上減るわけにはいかん。
「と思ったら、早速三つに分かれてやがる。斬新な建築様式だなぁオイ。」
「敵の数は四人…どう役割分担するかは重要なポイントですねぇ。」
「三組に分かれるなら私は師匠と一緒がいいんだー!もう離れたくないんだー!」
「わ、ワチも…できれば一人は嫌なんですが…」
「私は一人でいいですよ。むしろ他人とか邪魔ですし。」
「じゃあ俺は絞死と行く。」
「ちょっ…いや、一番求めてないと精一杯伝えたはずですが?」
「俺はお前と行きたい。それだけだ。」
「え…なぜ…?」
もちろん嫌がってるからだ。
こうして俺は、嫌がる絞死を華麗に無視し、分かれ道の先へと歩を進めた。
さぁ誰が出るだろう?また大魔王が…みたいなことにならなきゃいいんだが。
~大魔王城三階:暗黒の間~
「って、結局お前かよ。部屋の名前でバレバレじゃないか。もっと凝れよオイ。」
「フッ、また会えて嬉しいぞ小僧。主君を奪われた恨み…忘れてはいない。」
暗黒神(中身は黒猫)が現れた。
「私もアナタにはお会いしたかったですよ、暗黒神。」
「うぉっ!?ちっさい死神!?」
暗黒神は絞死を見て混乱した。
~大魔王城三階:未来の間~
「そうですか、ついに来てしまいましたか…この日が。」
そこにいたのは、あらゆる未来を見通す男『占い師:夜玄』。
「来ちゃったです…」
無職は未来が見えない。
~大魔王城三階:女帝の間~
「うぉー!ここが女神の人の部屋かー!インタビューでは会えてないから楽しみだぜー!」
土男流は良くないフラグを立てた。
「あら~?」
鰤子が現れた。
「うわぁーーー!?」
土男流は眼球に痛恨の一撃。
というわけで、俺と絞死の相手は暗黒神(featuring 黒猫)のようだ。
一番面倒そうな奴だぜやれやれ。
~大魔王城三階:暗黒の間~
「だがまぁ…手の内がわかっている分、やりやすいとも言えるか。いいだろう、かかって…」
「勇者さん、すみませんが彼は私に相手をさせてください。一対一なら…」
父のカタキだからか、絞死はヤル気満々だ。
だが、暗黒神は余裕の笑みを浮かべている。
「フォフォフォ、舐めてもらっては困る。こう見えて私は」
「かの『死体マスター』に昇格した身だ。あらゆる死体を操ることができる。」
「そう。憑依していない者はオート操縦にはなるが、私には忠誠を誓うのだ。」
「つまり、全ての死体は奴の糧となる!ゆえにその力は無限に近いっ!!」
「って、他人の見せ場の半分をごく自然にかっさらうのはやめるがいい小僧!」
「そしてそちら側が異様に似合うのもやめてください、ややこしい。」
敵の中身が偽者だからか、勇者は余裕がありそうに見える。
「まぁ一度倒してるし今回は絞死に譲ってやらんでもないが、それだと俺が暇じゃないか。」
「フォフォッ、問題ない。貴様に丁度いい相手を用意してやろう。」
「フン。死体になるような雑魚なんぞ、何人集めようが俺は全然困らんぞ。」
「…フッ。実は私が動けぬ間に、部下が面白い死体を拾っていてなぁ。」
暗黒神は新たな死体を召喚した。
そこに現れたのは―――
「久しいのぉ、小僧よ。」
なんと!『邪神:バキ』が現れた。
「えええぇっ!?」
余裕は一気に吹っ飛んだ。
「チッ、やれやれ…暇潰しの相手に呼ぶような奴じゃないだろオイ…」
死体使いを煽ってみたら、魔王が仕留めたはずの邪神が現れた。なんてこった。
コイツは魔神に次ぐ猛者だったと聞く。しかも痛みを感じぬ死体の身…ヤバいぞ。
「さぁどうする小僧?形勢は一気に逆転したと思うが?」
「フン、甘いな逆だよ猫ジジイ!この流れは…アレだ、“最終的に正気を取り戻して味方に”の流れ!」
「久しいな勇者。貴様には、いつぞやの借りを返さねばと思っておった。」
「フッ、そういや元々が敵だった。」
「その割になぜ冗談を言えるのか不思議でなりません…。何か怪しい薬でもキメてるんですか勇者さん?」
「つーわけで絞死、お前の望み通りそいつはお前に任せてやろう。」
「それはありがたいですが…アナタは勝てるのですか?」
「問題ない。万一死体になったら、貴様の敵となって立ちはだかってくれよう。」
「どうせ死ぬならチリも残さず消えてください。」
「さぁ来い邪神!俺がお前を無事に、地獄へと送り返してやる!着払いでな!」
受け取り人は誰だ。
勇者達の激しい戦いが始まろうとしていた頃、土男流と鰤子は…まだ戦っていなかった。
~大魔王城三階:女帝の間~
「というわけで、私はアンタを倒さなきゃならないんだ!わかってくれたか?」
「キャッ☆こっわ~い!鰤子ちゃん震えが止まらにゃいよぉ~!」
「う、うぉー!思わずブン殴りたくなる人に会ったのは初めてだぜー!」
かつてあの戦仕がブン殴った程のウザさだった。
「んもぉ~。私は敵じゃないって言ってるニャン?」
「そりゃ確かに戦わなくて済むのは助かるけど、予想と違って戸惑っ…」
「そこは頑張って受け入れてよぉ~♪」
「ゴメンだけど全然受け入れられない箇所(顔)の主張が凄まじいんだー!」
「の~んびりお話しよ?ずぅ~~っと一人で、暇だったんだぁ~。」
「でもさっき結構な数の兵隊さんを撒いてきたぜ?味方じゃなかったのか?」
「みんな照れ屋さんで☆」
「アンタ無駄にポジティブにも程があるんだー!」
苦労がしばらく続きそうな土男流。
だが無職の方も、違った意味で辛い状況に陥っていた。
~大魔王城三階:未来の間~
「ふぅ…来ると思っていましたよ。あまりに予想通りでつまらない。」
夜玄の前に立ちはだかる四人の兵士。
「覚悟するがいい大魔王軍よ!我らが戻った今、貴様らの悪事もここまで!」
「辺境の星々にて鍛え上げたこの力、とくと味わうがいい!」
「我ら『帝都突撃隊』…『帝都守護隊』と対を成す、超攻撃型部隊の前には…」
「貴様なんぞ、敵ではない!」
(わ、ワチはどうすれば…)
無職は出番すら無かった。