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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
166/196

【166】外伝

*** 外伝:勇者凱空Ⅵ ***


 それは、凱空達が終を封じてから、五年が経過したある日のことだった。


「あれから、もう五年か…」


封印してから随分と経つが、我が未来の妻は未だ氷柱の中で眠り続けている。外から見つめるのもそれはそれで良いのだが、やはり切ないものだ。

気付けば俺も二十歳…元々は年上だったろう終の歳も、とうに追い抜いてしまったことだろう。

だが、蘇らせるわけにもいかん。やれやれ、思い通りにいかない女ってのはまったく…最高だな!


「お前もそうは思わんかカルロス?」


 凱空がそう尋ねた少年の名は『カルロス』。またの名を『剣次』といった。


「でもさ凱空さん、振り回され好きってのは大抵報われないんだぜ?」

「確かに…そうかもな。だから念のため、『縦横無尽流』をお前に託すのだよ。」

「彼女と結ばれる日が来なかった場合に備えて…か。意外と用意周到だなぁ。」

「だが俺に子が生まれたら返してくれ。」

「いや、“技術”ってそんなもんじゃねぇだろ。習得より難しいよそれ。」

「とにかく、色々頼むぞカルロス。なんだか最近少し…嫌な予感がするのだ。」

「ヘッ、任せとけよ。墜落した宇宙船から救ってもらった恩は、必ず返すぜ!」


 撃墜したのは凱空だ。



木になった柿を落とそうと石を投げたら宇宙船が落ちてきたのが、ちょうど一年程前。俺はその時拾った少年に、自分の持てる技術の一端を授けることにしたのだった。


「という、言うに言えない事情があるんだ。すまんなカルロス。」

「言ってる言ってる!アンタ全部言っちゃってるよズバリと!え、マジで!?アンタの犯行…!?」

「本当にすまん。だが、動揺している場合じゃないぞ?」

「…ああ、気づいてるぜ?腕試しには、ちょうど良さそうな状況じゃんか!」


 剣次の攻撃!

 ミス!謎の男は素手で止めた。


「チッ、気づかれていたか…生意気な小僧よ。」

「なっ、剣を素手で…だとぉ!?何モンだよアンタ!?」


「我が名は『途冥人トメイト』。残念だが俺には、いかなる物理攻撃も効かん。」


 音も無く現れたのは、赤いマントを羽織った男。

 後の二代目赤錬邪である。


 だが、凱空が目を向けたのは…途冥人とは反対側にある木陰だった。


「ふぅ…やれやれ、やはり来てしまったか。いつか来るとは思っていたよ。」


「久しいなぁ『勇者』よ。返してもらいに来たぞ…我が主をなぁ。」


 かつての強敵『帝雅』が現れた。

 凱空の嫌な予感の正体は恐らくコイツだ。


「ふむ…すまんが帰ってくれストーカー。我が妻はとても嫌がっているぞ。」

「いや、その言葉はそのまま返そうこの誘拐犯め。」


 悪い意味でいい勝負だった。


「だが、この俺の熱視線でも溶けない氷だ、貴様とてどうしようもあるまい?」

「フッ、この私が無策でやってくるほど愚かだと思うのかね?」

「なにぃ?これだけの魔法を解除できる魔導士なんて、聞いたことが…」


「あん?舐めんなよ?魔法も呪いも突き詰めれば根源は同じ。『呪術師』に、不可能は無ぇのさ。」


 今度は成長した解樹が現れた。


「じゅ…じゅじゅちゅ師?」


 凱空もやっぱり言えなかった。



「やれやれ、仕方ないな…。カルロス、まずは優先してじゅじゅちゅ師をなんとかするぞ。」

「ん?なんでだよ?嫁さんが目覚めるなら願ったりじゃねぇの?」

「だ、だってお前…そんな急に起きられても、心の準備が…」

「ウブだなオイ!ま、嫌いじゃねぇけどな。オーケー任せてくれ!修行の成果を見せてやるぜ!」

「おっと、そうはさせんよ小僧。貴様の相手はこの俺がしよう。」

「もちろんキミの相手は私だよ、凱空君。術式の邪魔は絶対にさせん。」


 剣次の前に途冥人が、凱空の前に帝雅が立ちはだかった。


「フン、ダブルデートか…。だが男同士じゃ楽しめそうにないなぁ、残念だっ!」


 凱空の攻撃!

 ミス!帝雅は攻撃を防いだ。


「シムソー城では不覚をとったが、今の私に死角は無い。」

「マズいな…やはり手ぶらで倒せる敵ではないか。」

「なぁ凱空さん、俺の双剣を片方貸そうか?俺は片方でもなんとか…」

「いいや、油断はすべきじゃない。俺はまぁ…そうだなぁ、これでなんとかなるだろう。」

「なっ…貴様、そんなもので私の相手をするだと!?なんたる屈辱…!」

「フッ、安心しろ帝雅。コイツで戦うのは、初めてってわけじゃない。」


 凱空は『ゴボウ』を構えた。



チュイン!


「ふぅ、まさかそれ程の腕前だったとはなぁ帝雅よ。あの時は風邪でも引いていたか?」

「氷と共に主が砕けでもしたら大変だからな、力をセーブしていたまでだよ。」


チュイン!チュィーーン!


「想像以上だぞ帝雅。互角とまではいかんが、この俺と戦える力を持つ者がまだいたとはな。」

「というか待て!なぜゴボウでそのような強度と金属音が出せるのだ!?」

「ハハッ、ちょっとした魔術の応用だ。ある程度の強度まで上げるくらい造作も無いよ。」

「なっ…それ程の芸当、誰に仕込まれた!?」

「フッ、“通信教育”だ。」

「やることなすこと規格外…やはり、“今のまま”で勝てる相手ではないか…!」


 帝雅はマントを脱いだ。

 なんと、その首には『呪縛錠』が付いていた。


「なっ…!貴様、そんな枷をつけたまま戦っていたというのか…!?」

「我が主に付けられたものだ。忠誠の証にと思っていたのだが…仕方ない。ハァアアアアアアアア!!」


 なんと!帝雅は呪縛錠を引きちぎった。

 力ずくで外すなど、本来ありえないことだ。


「…さて、ではそろそろ茶番はヤメにしようか凱空君。」

「確かに見違えたな。これは俺と互角…下手するとそれ以上か。」

「なかなかの洞察力だ。ならば抵抗が無駄なのもわかるだろう?」

「やれやれ…仕方ない、ではこの俺も奥の手を出すとしよう。さぁ現れるがいい、ゴボウの精霊達よ!」


 凱空はゴボウを勢いよくバラ撒いた。


「ご、ゴボウの精霊…だと…?また私の知らぬ謎の秘術を…!?」

「フッ、勢いでやってみただけだとは言いづらい空気だな。」

「き、貴様ぁ…!」




ガッキィイイイイン!!


「ハッハッハ!やるなぁ帝雅よ!久々に血湧き肉踊る楽しい戦いだ、彼女との戦い以来だな!」

「フフッ、強がりも大概にしたまえ。豪快に血を撒き散らしながら何を言う?」


 帝雅が本気モードに移行して数十分が経過。

 楽しそうに振る舞う凱空だが、どう見ても劣勢だった。


「お、オイ凱空さん大丈夫か!?その血の量は…待ってろ、俺が加勢に…!」

「ッ!!来るなカルロス…!!」

「フハハハハ!そうか貴様にも枷があったか、ならば私が消してくれよう!」


 帝雅の攻撃!

 ミス!剣次には当たらなかった。


 だが代わりに、凱空の顔面を斬り裂いた。


「ぐぉあああああああああああっ!こ、この俺の顔にぃいいいいいいいい」

「す、すまねぇ凱空さん…!俺のせいで…」

「ダンディーな傷跡がああああああっ☆」

「お、俺の…おかげで?」


 剣次は混乱している。



「この実力差にその傷…終わりだな。大人しく死んでもらおうか凱空君。」

「…ふぅ、やれやれ…少し、間に合わなかったか。だが…死ぬ前で良かったよ。」

「何の話だ…?ハッ、この模様は…!」


 帝雅は地面を見る凱空の目線に気付いた。

 なんと!さっきのゴボウが『五芒星』を描いている。


「こ、これは…まさか…!」

「そう、ダジャレだっ!!」

「そんな馬鹿なっ!違うだろう、この手の模様は何かしら魔除けの…」

「フッ、勘がいいな。今の俺なら大丈夫とは思うんだが、“奴”を出すのは久しぶりなんでなぁ。」


 凱空はおもむろに『守護神の兜』を脱いだ。


「む?一体何を…な、なんだその…邪悪なオーラは…!?」

「フッ、よぉ久しぶりだなぁ『断末魔』。少しでいい…俺に力を貸しやがれ。」


 本気の凱空のお出ましだ。




ズバシュッ!!


「ぐわぁああああああ!!」

「ふむ…」


五芒星のおかげか俺の実力か、今のところ『断末魔』は制御できている。

前に乗っ取られかけたこともあるし油断は禁物だが、とりあえずはやれそうだ。


「ぐふっ、なんという力だ…!まさかあの状況から形勢が逆転しようとは…!」

「ならば俺に任せてもらおう!名高き『勇者』を討ったとあれば名も上がる!」


 空気の読めない途冥人が割って入った。

 どう考えてもこれからコテンパンにされる流れだが大丈夫か。


「退くがいい雑魚よ。お前なんぞ、推理モノなら最初の晩に死んでるレベルだ。俺の敵じゃない。」

「フン、聞いていなかったのか?俺は『魔欠戦士』だ、いかなる物理攻撃も」


 次の瞬間、途冥人の左腕がフッ飛んだ。


「え…う、うぎゃあああああああ!う、腕が!俺の腕がぁあああああ!?」

「いかなる物理攻撃も…?フン、そんなの所詮、“人間レベル”での話だろう?」

「す、スゲェ…!こんなに強かったのかよ…!あと、いつになくシリアスだし!」

「下がっていろカルロス。周りに気を使う余裕は、ナッスィーーーン!だよん♪」

「ええぇっ!?」


 凱空は突然壊れた。



「うぐっ、ど、どういうことだ…?性格が…真面目を保て…な…イェーイ!」

「いや~、どういうことだはこっちの話だよ。その程度で済むとか化け物かよアンタ?」


 終の解呪の術式を中断し、解樹が合流してきた。


「じゅじゅちゅ師…そうか、貴様の仕業だな?貴様の、“呪い”の一種か。」

「ああ。『シリアス限界』…真面目な思考を抑制され、やがて精神崩壊に至る。」

「フッ…効かんなぁ全く効かんよ効かん。残念だが、この俺に呪いの類はちっとも機関銃。ズダダダダダンッ!」

「ヤベェめちゃくちゃ効いてやがるぜ凱空さん…!いや、いつも変な人ではあるけども!」

「ぐっ、貴様の…目的は何だ?呪いの押し売りが趣味ってだけの、ゲス野郎か?」

「…アンタさっき、『断末魔』って言ったろ?俺その呪い欲しいんだわ、くれねぇか?」


 厄介なのは帝雅だけではなかった。


「うぐっ、に、逃げろカルロス…!もしくは、禿げろ…!」

「いや、禿げねーけど!でも逃げもできねーよ、アンタが死んじまう!」

「殺す!この腕の恨み、絶対に晴らしてくれるっ!」

「どうやら再度、形勢は逆転したようだな。今度こそ終わりにしてくれよう。」


 意識を保つだけで精一杯の凱空、腕を斬られて逆上する途冥人、勝利を確信した様子の帝雅。

 まだ実力が足りない剣次では、どうしようもない状況だった。


「ば、万事休すかよ…!」


 剣が絶望しかけた、その時―――


「なっ、なんだこりゃ…!?まだ俺の術式は終わってないってのに…これは…!」


 突如、邪悪なオーラが辺りを包み込んだ。

 なんと!終を封じた氷がパリンと砕けた。


「……………」


「おぉ!ついに目覚めたか我が主よ!この日を心待ちにしていたぞ!」




「………」




ズッガァアアアアアアアアアン!!



「ギャアアアアアアアアアアア!!」



 帝雅はボッコボコにされた。

 つまり終は寝起きが悪かった。




「ふぅ…で、なんなんだいアンタらは?状況をわかりやすく説明してもらおうじゃないか。」


 解樹の術で封印が弱まっていたようで、終は内側から自力で破って出てきてしまった。

 尋常ではなく邪悪なオーラが周囲を包み込む。


「ひ、久しぶりだな終…さん。お…俺だぜ?俺が封印を解いてやっ」


ドッガアアアアアン!!


 解樹は岩山にメリ込んだ。


「な…なん…で……」

「いや、なんとなく。」

「ひ、酷ぇ…!これが…『魔王』かよ…!」


 終のあまりの非道さに、剣次はドン引きした。


「用も無いのに寄ってくるのが悪いんだよ、さっさと消えな。特にアンタ、顔が暑苦しい。」

「なっ…なんて無礼な女だ!いくら以前の『魔王』とて」


ズガンッ!


「ぶべらっ!!」


キラーーン☆


 途冥人は星になった。



「ぐふっ!さ、さすがは我が主よ!味方にさえもその残虐な振る舞い…実に素晴らしい!」


 なんと、最初に死ぬほどボコられたはずの帝雅が起き上がってきた。

 嬉しそうなのでもしかしたらドMなのかもしれない。


「味方…?アタイは、あんなの仲間にした覚えは無いんだけどねぇ。」

「いや、彼らはアナタのために私が用意した『新魔王軍』の…」

「ん?あ~~~…やめたよ、それ。もういいんだよ。」


 露骨に興味無さそうな感じの終。

 その様子を見て、帝雅の雰囲気が変わった。


「な…なんだと…?」

「マオが半分抜けたからかねぇ、そういう欲求は全然無くなっちまったんだよ。だからもう…」


「ま、『魔王』を…やめるだとぉ?裏切りだ…これは、とんでもない裏切りだ!」


 わなわなと肩を震わせる帝雅。


「あっそ。だったらなんだってんだい?」

「………す。」

「ハァ?何を言っ…」



「殺ぉおおおおおおおおおおす!!」



ズガンッ!


「ぶべらっ!!」


キラーーン☆


 帝雅も星になった。




 終の寝起きの悪さは凄まじく、帝雅も蹴り飛ばされて遥か彼方に消えた。

 その後、解樹も岩壁から引き抜かれ、同じく蹴り飛ばされて星になった。


「ふむ、やっと会えたな魔王…いや、終よ。この五年、会えるのを待ちわびていたぞ。」


 解樹が離れたからか慣れたからか、凱空は正気を取り戻していた。

 まぁ『魔王』に恋い焦がれている時点で正気かどうかは怪しいが。


「五年…ハァ、アンタのしつこさはゴキブリ並みだねぇ。さすがのアタイも参ったよ。」

「そうか、じゃあ結婚しよう。」

「って早っ!敵同士からいきなり結婚て凱空さんアンタ…」


 剣次はツッコミを入れかけたが、なんとなく無粋と思い直し、その場を離れた。


「…フン、そんな簡単な口説き文句じゃねぇ。こう見えてアタイ、意外にもロマンチストなんだよ。」

「ぐっ、ならば…夜空に輝く幾千の星たちよりも…」

「えっ…☆」

「キミの方が近い。」

「いや、そりゃそうだけども!不覚にも一瞬キュンとしかけたアタイの乙女心を返しとくれ!」


 意外とチョロいのかもしれない。


「絶対に、幸せにする。」

「えっ…☆」

「この俺の、“四つ葉のクローバー”が!」

「アンタがしろっ!!」

「俺で…いいのか?」

「ハッ…!い、今のは単なる言葉のアヤで…!」

「フッ、まぁいいだろう。時間は腐るほどあるんだ。これからじっくり落としてやる…覚悟しておけ。」

「へぇ~、言うじゃないか。このアタイに勝てるとでも思うのかい?」

「まあな。なにしろ俺は…これまで一度も、負けたことが無いんだ。」


 凱空は自信満々で言った。

 だが想定に反し、凄まじく苦戦することになる。


 結局、口説き落とすまでに…三年もかかったという。



 そして、更にその翌年―――


「ぎゃああああ!もうダメェーー!死ぬぅううううう!」


「そんなこと言わずにほら奥さん!頑張って!ハイ呼吸法!」

「ヒッ、ヒッ、フォオオオオオオ!!」

「いや、旦那さんは黙っててください!」

「ヒッ、ヒッ、うっふぅ~~ん☆」

「奥さんは妙な色気出さないで!」


「ハーイ、生まれましたよー。」



「うぉおおおおおお!ラブリィイイイイイ!!」



 勇者が生まれた。

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