【165】決別の時
超強い酒を無理矢理飲ませたら、なんと賢二の裏人格が覚醒したっぽい。
ならば俺は水を飲んれ酔いをさますとしよう。水さえ飲めば一瞬れ分解されるのが子供酒の利点らよな。
「プハァ~、スッキリした。にしても、そうか…賢二は酔うと邪悪な感じに変身するんだな。確か前に、魔法〔反転〕でもそうなったとか聞いたが…」
「勇者君は…勇者君は、酷い!酷いのよ!いっつも酷すぎるわっ!」
「と思ったらそっちか。そっちにいっちゃうのか。おネェモードに突入か。」
結局賢二も面倒臭いタイプだった。
「私にもそうだけど、もっと酷いのが…盗子さん!彼女の扱いは最悪だわ!」
「今のお前もなかなか最悪だけどな。」
「うるっさい!!ねぇアンタ…彼女のこと、ホントはどう思ってるのよ?」
賢二はなかなかの話題をブッ込んできた。
「…貴様…何が言いたい?」
「ホントは好きなんでしょって、そう言いたいのよっ!!」
「そりゃ最高だろ、姫ちゃんは。」
「そっちじゃない!アンタ会話する気ある!?」
「…ハァ~。もういい賢二、これ以上のジョークは笑えん。水飲んで酔いをさますがいい。」
「飲まないわ!今のテンション維持しないと、きっと言いたいことも言えない!」
「じゃあ“苦汁”を。」
「余計に飲めるかっ!私のことはいいから彼女の…あっ、ちょ、ヤメ…ぐぼっ!」
賢二は強引に水を飲まされた。
「ふぅ、やっと落ち着いたか。どうだ賢二、目は覚めたか?」
「僕は…怒ってるんだ。今までずっと我慢してたけど、この際だから言わせてもらうよ!」
シラフに戻った割に、賢二は未だ強気だった。
「一体お前は何に怒っているんだ?アイツの扱いなんてどうでもいいだろ。」
「よくなんてないよ!彼女は本気で好きなんだよキミのことが!キミのことが…」
「…賢二、お前まさか」
「う、うるさい!自分の気持ちにも気づけないようなお馬鹿は、黙っててよっ!」
賢二は勇者に向かって杖を構えた。
「フッ…ハハハハハッ!面白い冗談だ、あやうく笑い死んじまうところだぜ。」
「僕のことなんてどうでもいい!今は、キミ達の話をしてるんだよ!」
「あ゛ん…?さっきから随分と偉そうだなぁオイ。まさかこの俺に喧嘩でも売る気か?」
「人ってさ勇者君、負けて初めて素直になれるってこと…あると思うんだ。」
「ほぉ…それはまた、さらに笑える冗談だなぁ…賢二。」
賢二が珍しくやる気だ。
「そういや賢二よ、お前とは最も長い付き合いだが…やり合うのは初めてだな。」
「いつもは一方的にサンドバッグだしね…。でも、今日は違うよ!」
「本気でこいよな。負けた言い訳にされちゃかなわん。“仲間だから”とか…」
「フンだ!擬似大魔王として、勇者君以上に相応しいキャスティングは無いよ。」
「フッ、言うじゃないか雑魚めが。賢二の分際で俺に挑もうとは笑止!」
「勇者君こそ、伝説の偉人達に鍛えられた僕を…あまり舐めない方がいいよ。」
賢二はいつになく強気だ。
「ならばいくぞ賢二。折角の勝負だ、どうせやるなら正々堂々と…む?」
「え?」
「隙ありぃいいいいいい!!」
勇者はいつも通りだ。
思いがけず始まった賢二との一戦。
なんと意外にも賢二はかなり成長していて、この俺がまさかの苦戦をしいられた。
賢二ごときに一時間も粘られるとか、末代までの恥…目撃者がいなくて良かった。
「くっ…この俺の攻撃をことごとく防ぐとは、やるじゃないか賢二の分際で。」
「ハァ、ハァ、長い付き合いは、ダテじゃないよ。勇者君の手口なんて、大体…」
「大体?」
「いつも想像の…何歩か上を…」
「そう、俺の戦闘は常に進化している。対策なんて考えても無駄だぜ?」
「そうだね…だったら、圧倒的な攻撃で押さえつけるのみ!」
賢二の両手に激しい炎が。
「ハハッ、生意気にも凄い炎じゃないか。まともに食らったら、死ぬかもなぁ。」
「あぁ、確か言ってなかったよね?実は僕…もう、『賢者』なんだ。」
賢二からの思わぬ告白に、勇者の表情が変わった。
「なっ!?ま、まさか貴様が、この俺を差し置いてそんな上級レベルに…!?」
(嘘だとバレたら殺される…)
普通にハッタリだった。
「殺すっ!!」
どのみち殺されます。
「さて…思いのほか時間かかっちまったが、貴様ごときにこれ以上時間はかけられん。次でキメてやるから覚悟しな。」
「MPの絡みもあるし、こっちも長期戦は勘弁だよ。僕も次に全力を注ぐ!」
二人は少し距離を取ってそれぞれ身構えた。
「ハァアアアアアアッ!さぁ、うなれ魔神剣!奴を闇へと葬り去るのだ!!」
「お願いですお師匠様、僕に力を…!」
「噂に聞いた変態師匠か…だが甘いなっ、俺は揉ません!!」
「そっちじゃない方の!!今のは変人じゃない方の…くっ、どっちもか…!」
「さらば賢二!刀神流操剣術、千の秘剣…ぬぐっ、なにぃ…!?」
なんと!勇者は足にきていた。
「勝機…!さぁ燃え上がれ煉獄の炎、火炎地ご…」
「…まともに食らったら、死ぬかもなぁ。」
先ほどの勇者のセリフが、賢二の頭をよぎった。
「ッ!!」
「その一瞬の隙が、貴様の命取りだぁーー!!」
「あっ!しまっ…うわぁああああああああああああああ!!」
勇者、会心の一撃!
賢二は見事な放物線を描いた。
「フン、どうだ参ったか賢二よ?この俺に逆らったアホな自分を悔いるがいい!」
勇者の全力パンチをまともに食らい、ノックダウン寸前の賢二。
だがまだ諦めていないらしく、なんとか起き上がろうとしている。
「ま、まだだよ!まだやれ…えっ…な、なんだろう…急に力が抜けて…?」
「フッ、言ったろう?“時限式”だと。」
「さっきのスープの…!?やっぱり…また想像の…斜め上を…うぐっ!」
「…去れ、賢二。貴様のような使えん雑魚は、どこへなり消えるがいい。」
「くそっ、くそぅ…え、ちょっ、待っ…うわああああぁぁぁぁぁぁ…!」
賢二は窓から捨てられた。
勢いで賢二を追い出したことで、仲間は図らずも敵の指定した六人になってしまった。
残ったメンバーじゃ凄まじく不安なわけだが、そこは今さら考えても意味が無い。今日はもう疲れたし眠ろう。明日になればきっと、このモヤモヤした気持ちも…
「って時に、なんでお前なんかに会っちまうんだろうなぁ…」
「う~ん、どんな時なのかはわかんないけど、絶対悪い意味なんだよね…?」
夜。外で風に当たっていた勇者の前に現れたのは、特に呼ばれたわけでもない盗子だった。
「で、どうしたんだ盗子?なんで酔った勢いで寝てないんだよアホが。」
「あ、うん。なんかさ…もうじき決戦かと思うとちょっと、寝付けなくてさぁ。」
「オーケー、協力しよう。」
「いや、“永眠”はいいから!むしろ永眠が怖いあまり寝付けないんだから!」
「何を恐れる?別に思い残すことも無いような、くだらん人生だったろうに。」
「ば、馬鹿にすんなよ!アタシだって、そんくらいあるもん!」
「ほぉ、それは面白い。言ってみろ、ただし二文字以内でな。」
「短いよ!そんなんで表現できる思い残しとか…いや、ううん、じゃあ言うよ!」
「言ってみろ!!」
「好き!」
「死ね。」
勇者も二文字で返した。
「…ほ、本気…なんだからね…?」
話の流れから、勢いで勇者に告った盗子。
普段から言ってることではあるが、改まって言われると響きが違うもの。
果たして勇者の心にはどう響いたのだろうか。
「盗子…悪いが…いや、悪いとも感じん程に興味が無い。」
「ゆ、勇気を…死ぬほど勇気を振り絞ったのにバッサリ…」
「勇者君、それは言いすぎだと思うよ。こっぴどいのは良くないよ。」
「なっ!?ひ…姫ちゃん…!?」
いつもの流れになるかと思われたが、なんと姫がたしなめた。
どうやら姫はまだ酔っているようだ。
「姫ちゃんいつの間に…。だが訂正はしない、ゴミは捨てなきゃ増えるだけだ。」
「…わかったよ。そこまで言うんなら、出てくよアタシ!アンタが本気で言ってるんならねっ!」
「俺ほど自分の気持ちに素直に生きている人間を、俺は見たことがないが?」
「くっ、なんてゆー説得力…!」
「話は済んだか?だったらもう消えてくれ、俺はもう眠いんだ。」
「じゃ、じゃあ…最後に…選んで!姫もいる今この場で、ハッキリと選んで!」
盗子はとんでもない暴挙に出た。
「あん?選べって何をだ?」
「決まってんでしょ!アタシか姫か、真剣に選ん」
「姫ちゃん。」
脊髄反射の一種だった。
「つーか、“興味が無い”とまで言われた状況で、なぜか“選べ”とか言えるんだよお前?頭大丈夫か?てなわけで貴様に興味は無い。ポヒュッと消えるがいい。」
「い、いや、もっと真剣に!そーゆーんじゃ無しにさ、もっとこう、ほら、マジでマジに!」
「だから姫ちゃん。」
「う…うわーん!少しくらい真面目に考えてくれてもいいのにぃー!」
「ちゃんとしようよ勇者君。私も興味あるよ。」
「なっ、姫ちゃんまで…!?何を言うんだ、俺はちゃんと考えた末に…」
「後悔の無いように、ね?」
勇者の目をジッと見つめる姫。
酔いがさめたら絶対に覚えていないだろうが、邪険に扱うのも気が引けた。
「くっ、今回のお酒マジックは長いな…いや、だが真面目に話すチャンスか…」
「勇者…」
「勇者君…」
「…やれやれ。どちらかを選べか…なるほど、確かにそうすべきなんだろうな。」
「ちゃ、ちゃんと真面目に考えてよね勇者?」
「フン、わかっているさ…。だが究極の選択だ、少し…考えさせてくれ。」
「勇者君…自分の気持ちに、素直にね?」
「ああ。」
勇者はしばらく黙って考えた。
そして―――
「…よし、決めた。やはり夜が明けたら、出てってもらうことにしよう。盗子…」
「うわーん!結局そうなるん…」
「お前はついて来い。死ぬまでコキ使ってやるよ。」
「えっ!?あ、うん!“死ぬまで”が引っ掛かるけど…うんっ☆でも、じゃあ…」
「悪いが姫ちゃん、キミとの旅は…ここまでだ。」
「え…」
ここから先は、命の保証が無い。
盗子なら死んでも良かった。
別れを告げると姫ちゃんはしばらく押し黙り、そして諦めたように去っていった。
姫ちゃんのあんな寂しそうな顔は…初めて見た。ちくしょう、彼女に酒さえ入っていなければ…!
「姫、ちょっと泣いてたよね…。なんか…手放しで喜べないな…」
「辛い決断だった…。だが惚れた女を、死地へと連れて行くわけにはいかん。」
「え…えぇっ!?さ、さっきのって、アタシが好きって意味じゃなかったの!?」
「あん?なに血迷ったことを言ってるんだ。そんな奇抜な発想は一切無いぞ。」
「一切なの!?いや、でもさっき“究極の選択”って…!」
「“彼女を危険にさらす”か、“お前を連れていく”か…どちらも辛い選択肢だった。」
「そんな負の理由で悩まれてたの!?」
「ハァ…お前もそうだが、かつては血子にマー、そして賢二…誤解が絶えんようだからハッキリと言うぞ?」
「いや、あの…なんかもうわかったから、トドメは要らないというか…」
「俺はな…俺は!」
「お前と!盗子が!大・嫌・い・な・ん・だっ!!」
「う、うわーん!死んじゃえー!みんな死んじゃえー!うわーん!!」
盗子も泣きながら去っていった。
勇者が決断を迫られたタイミングで取られたアンケートの結果がこちら。
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