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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
165/196

【165】決別の時

超強い酒を無理矢理飲ませたら、なんと賢二の裏人格が覚醒したっぽい。

ならば俺は水を飲んれ酔いをさますとしよう。水さえ飲めば一瞬れ分解されるのが子供酒の利点らよな。


「プハァ~、スッキリした。にしても、そうか…賢二は酔うと邪悪な感じに変身するんだな。確か前に、魔法〔反転〕でもそうなったとか聞いたが…」

「勇者君は…勇者君は、酷い!酷いのよ!いっつも酷すぎるわっ!」

「と思ったらそっちか。そっちにいっちゃうのか。おネェモードに突入か。」


 結局賢二も面倒臭いタイプだった。


「私にもそうだけど、もっと酷いのが…盗子さん!彼女の扱いは最悪だわ!」

「今のお前もなかなか最悪だけどな。」

「うるっさい!!ねぇアンタ…彼女のこと、ホントはどう思ってるのよ?」


 賢二はなかなかの話題をブッ込んできた。


「…貴様…何が言いたい?」

「ホントは好きなんでしょって、そう言いたいのよっ!!」

「そりゃ最高だろ、姫ちゃんは。」

「そっちじゃない!アンタ会話する気ある!?」

「…ハァ~。もういい賢二、これ以上のジョークは笑えん。水飲んで酔いをさますがいい。」

「飲まないわ!今のテンション維持しないと、きっと言いたいことも言えない!」

「じゃあ“苦汁”を。」

「余計に飲めるかっ!私のことはいいから彼女の…あっ、ちょ、ヤメ…ぐぼっ!」


 賢二は強引に水を飲まされた。



「ふぅ、やっと落ち着いたか。どうだ賢二、目は覚めたか?」

「僕は…怒ってるんだ。今までずっと我慢してたけど、この際だから言わせてもらうよ!」


 シラフに戻った割に、賢二は未だ強気だった。


「一体お前は何に怒っているんだ?アイツの扱いなんてどうでもいいだろ。」

「よくなんてないよ!彼女は本気で好きなんだよキミのことが!キミのことが…」

「…賢二、お前まさか」

「う、うるさい!自分の気持ちにも気づけないようなお馬鹿は、黙っててよっ!」


 賢二は勇者に向かって杖を構えた。


「フッ…ハハハハハッ!面白い冗談だ、あやうく笑い死んじまうところだぜ。」

「僕のことなんてどうでもいい!今は、キミ達の話をしてるんだよ!」

「あ゛ん…?さっきから随分と偉そうだなぁオイ。まさかこの俺に喧嘩でも売る気か?」

「人ってさ勇者君、負けて初めて素直になれるってこと…あると思うんだ。」

「ほぉ…それはまた、さらに笑える冗談だなぁ…賢二。」


 賢二が珍しくやる気だ。


「そういや賢二よ、お前とは最も長い付き合いだが…やり合うのは初めてだな。」

「いつもは一方的にサンドバッグだしね…。でも、今日は違うよ!」

「本気でこいよな。負けた言い訳にされちゃかなわん。“仲間だから”とか…」

「フンだ!擬似大魔王として、勇者君以上に相応しいキャスティングは無いよ。」

「フッ、言うじゃないか雑魚めが。賢二の分際で俺に挑もうとは笑止!」

「勇者君こそ、伝説の偉人達に鍛えられた僕を…あまり舐めない方がいいよ。」


 賢二はいつになく強気だ。


「ならばいくぞ賢二。折角の勝負だ、どうせやるなら正々堂々と…む?」

「え?」


「隙ありぃいいいいいい!!」


 勇者はいつも通りだ。




思いがけず始まった賢二との一戦。

なんと意外にも賢二はかなり成長していて、この俺がまさかの苦戦をしいられた。

賢二ごときに一時間も粘られるとか、末代までの恥…目撃者がいなくて良かった。


「くっ…この俺の攻撃をことごとく防ぐとは、やるじゃないか賢二の分際で。」

「ハァ、ハァ、長い付き合いは、ダテじゃないよ。勇者君の手口なんて、大体…」

「大体?」

「いつも想像の…何歩か上を…」

「そう、俺の戦闘は常に進化している。対策なんて考えても無駄だぜ?」

「そうだね…だったら、圧倒的な攻撃で押さえつけるのみ!」


 賢二の両手に激しい炎が。


「ハハッ、生意気にも凄い炎じゃないか。まともに食らったら、死ぬかもなぁ。」

「あぁ、確か言ってなかったよね?実は僕…もう、『賢者』なんだ。」


 賢二からの思わぬ告白に、勇者の表情が変わった。


「なっ!?ま、まさか貴様が、この俺を差し置いてそんな上級レベルに…!?」

(嘘だとバレたら殺される…)


 普通にハッタリだった。



「殺すっ!!」



 どのみち殺されます。



「さて…思いのほか時間かかっちまったが、貴様ごときにこれ以上時間はかけられん。次でキメてやるから覚悟しな。」

「MPの絡みもあるし、こっちも長期戦は勘弁だよ。僕も次に全力を注ぐ!」


 二人は少し距離を取ってそれぞれ身構えた。


「ハァアアアアアアッ!さぁ、うなれ魔神剣!奴を闇へと葬り去るのだ!!」

「お願いですお師匠様、僕に力を…!」

「噂に聞いた変態師匠か…だが甘いなっ、俺は揉ません!!」

「そっちじゃない方の!!今のは変人じゃない方の…くっ、どっちもか…!」

「さらば賢二!刀神流操剣術、千の秘剣…ぬぐっ、なにぃ…!?」


 なんと!勇者は足にきていた。


「勝機…!さぁ燃え上がれ煉獄の炎、火炎地ご…」



 「…まともに食らったら、死ぬかもなぁ。」



 先ほどの勇者のセリフが、賢二の頭をよぎった。


「ッ!!」


「その一瞬の隙が、貴様の命取りだぁーー!!」

「あっ!しまっ…うわぁああああああああああああああ!!」


 勇者、会心の一撃!

 賢二は見事な放物線を描いた。



「フン、どうだ参ったか賢二よ?この俺に逆らったアホな自分を悔いるがいい!」


 勇者の全力パンチをまともに食らい、ノックダウン寸前の賢二。

 だがまだ諦めていないらしく、なんとか起き上がろうとしている。


「ま、まだだよ!まだやれ…えっ…な、なんだろう…急に力が抜けて…?」

「フッ、言ったろう?“時限式”だと。」

「さっきのスープの…!?やっぱり…また想像の…斜め上を…うぐっ!」

「…去れ、賢二。貴様のような使えん雑魚は、どこへなり消えるがいい。」

「くそっ、くそぅ…え、ちょっ、待っ…うわああああぁぁぁぁぁぁ…!」


 賢二は窓から捨てられた。




勢いで賢二を追い出したことで、仲間は図らずも敵の指定した六人になってしまった。

残ったメンバーじゃ凄まじく不安なわけだが、そこは今さら考えても意味が無い。今日はもう疲れたし眠ろう。明日になればきっと、このモヤモヤした気持ちも…


「って時に、なんでお前なんかに会っちまうんだろうなぁ…」

「う~ん、どんな時なのかはわかんないけど、絶対悪い意味なんだよね…?」


 夜。外で風に当たっていた勇者の前に現れたのは、特に呼ばれたわけでもない盗子だった。


「で、どうしたんだ盗子?なんで酔った勢いで寝てないんだよアホが。」

「あ、うん。なんかさ…もうじき決戦かと思うとちょっと、寝付けなくてさぁ。」

「オーケー、協力しよう。」

「いや、“永眠”はいいから!むしろ永眠が怖いあまり寝付けないんだから!」

「何を恐れる?別に思い残すことも無いような、くだらん人生だったろうに。」

「ば、馬鹿にすんなよ!アタシだって、そんくらいあるもん!」

「ほぉ、それは面白い。言ってみろ、ただし二文字以内でな。」

「短いよ!そんなんで表現できる思い残しとか…いや、ううん、じゃあ言うよ!」

「言ってみろ!!」


「好き!」

「死ね。」


 勇者も二文字で返した。



「…ほ、本気…なんだからね…?」


 話の流れから、勢いで勇者に告った盗子。

 普段から言ってることではあるが、改まって言われると響きが違うもの。

 果たして勇者の心にはどう響いたのだろうか。


「盗子…悪いが…いや、悪いとも感じん程に興味が無い。」

「ゆ、勇気を…死ぬほど勇気を振り絞ったのにバッサリ…」



「勇者君、それは言いすぎだと思うよ。こっぴどいのは良くないよ。」



「なっ!?ひ…姫ちゃん…!?」


 いつもの流れになるかと思われたが、なんと姫がたしなめた。

 どうやら姫はまだ酔っているようだ。


「姫ちゃんいつの間に…。だが訂正はしない、ゴミは捨てなきゃ増えるだけだ。」

「…わかったよ。そこまで言うんなら、出てくよアタシ!アンタが本気で言ってるんならねっ!」

「俺ほど自分の気持ちに素直に生きている人間を、俺は見たことがないが?」

「くっ、なんてゆー説得力…!」

「話は済んだか?だったらもう消えてくれ、俺はもう眠いんだ。」

「じゃ、じゃあ…最後に…選んで!姫もいる今この場で、ハッキリと選んで!」


 盗子はとんでもない暴挙に出た。


「あん?選べって何をだ?」

「決まってんでしょ!アタシか姫か、真剣に選ん」

「姫ちゃん。」


 脊髄反射の一種だった。


「つーか、“興味が無い”とまで言われた状況で、なぜか“選べ”とか言えるんだよお前?頭大丈夫か?てなわけで貴様に興味は無い。ポヒュッと消えるがいい。」

「い、いや、もっと真剣に!そーゆーんじゃ無しにさ、もっとこう、ほら、マジでマジに!」

「だから姫ちゃん。」

「う…うわーん!少しくらい真面目に考えてくれてもいいのにぃー!」

「ちゃんとしようよ勇者君。私も興味あるよ。」

「なっ、姫ちゃんまで…!?何を言うんだ、俺はちゃんと考えた末に…」

「後悔の無いように、ね?」


 勇者の目をジッと見つめる姫。

 酔いがさめたら絶対に覚えていないだろうが、邪険に扱うのも気が引けた。


「くっ、今回のお酒マジックは長いな…いや、だが真面目に話すチャンスか…」

「勇者…」

「勇者君…」


「…やれやれ。どちらかを選べか…なるほど、確かにそうすべきなんだろうな。」

「ちゃ、ちゃんと真面目に考えてよね勇者?」

「フン、わかっているさ…。だが究極の選択だ、少し…考えさせてくれ。」

「勇者君…自分の気持ちに、素直にね?」

「ああ。」


 勇者はしばらく黙って考えた。

 そして―――


「…よし、決めた。やはり夜が明けたら、出てってもらうことにしよう。盗子…」

「うわーん!結局そうなるん…」

「お前はついて来い。死ぬまでコキ使ってやるよ。」

「えっ!?あ、うん!“死ぬまで”が引っ掛かるけど…うんっ☆でも、じゃあ…」


「悪いが姫ちゃん、キミとの旅は…ここまでだ。」


「え…」


ここから先は、命の保証が無い。


 盗子なら死んでも良かった。




別れを告げると姫ちゃんはしばらく押し黙り、そして諦めたように去っていった。

姫ちゃんのあんな寂しそうな顔は…初めて見た。ちくしょう、彼女に酒さえ入っていなければ…!


「姫、ちょっと泣いてたよね…。なんか…手放しで喜べないな…」

「辛い決断だった…。だが惚れた女を、死地へと連れて行くわけにはいかん。」

「え…えぇっ!?さ、さっきのって、アタシが好きって意味じゃなかったの!?」

「あん?なに血迷ったことを言ってるんだ。そんな奇抜な発想は一切無いぞ。」

「一切なの!?いや、でもさっき“究極の選択”って…!」

「“彼女を危険にさらす”か、“お前を連れていく”か…どちらも辛い選択肢だった。」

「そんな負の理由で悩まれてたの!?」

「ハァ…お前もそうだが、かつては血子にマー、そして賢二…誤解が絶えんようだからハッキリと言うぞ?」

「いや、あの…なんかもうわかったから、トドメは要らないというか…」

「俺はな…俺は!」



「お前と!盗子が!大・嫌・い・な・ん・だっ!!」



「う、うわーん!死んじゃえー!みんな死んじゃえー!うわーん!!」


 盗子も泣きながら去っていった。

勇者が決断を迫られたタイミングで取られたアンケートの結果がこちら。

https://yusha.pupu.jp/cgi-bin/select/fvote_res.cgi

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