【164】波乱の晩餐会
忍美に強制的に別れを告げた勇者一行。
特に別れを惜しむ者はいなかったので、気持ちの切り替えは早かった。
「さてと、邪魔者もいなくなったことだし…飯でも食いに行くか。お前らもこの数日、飲まず食わずで腹ペコだろう?なぁ無職?」
「えと、普通に三食出てたですが。」
「じゃあその時点で疑問を感じろよ。どう考えても殺す相手への待遇じゃないだろうが。」
「ち、違うんだ師匠ー!“太らせて食べる”とか物騒なこと言われてたんだー!」
「フン、まぁいい。とりあえず一段落ついたし、晩餐会といくか!」
「やったぁーー!!」
「…ってゆーから食堂まで来たってのに、料理人いないじゃん!店は開いてるのになんで…?」
盗子は店内を探し回った。だが料理人どころか他の店員も客も、人っ子一人いなかった。
「あー、問題ない。貸し切ったんだ。」
「え、貸し切り…?なんでなの勇者?」
「だってお前、『人間の踊り食い』とか出してくる国民性だぞ?信用できるか?安心しろ、食材もちゃんとしたのを仕入れてある。」
「いや、でも誰が調理すんの…?」
不安そうな盗子の肩に、そっと手を置く姫。
「大丈夫だよ盗子ちゃん。ここは私が猛威を振るうよ。」
「腕を振るえよ!アンタは台風か何かかよ!?」
「フッ、楽しみだぜ。俺は姫ちゃんが作ったものなら何でも食うぞ?」
「アンタ正気?たとえ毒でも?」
「ああ、皿までな。」
「じゃ、じゃあアタシの…アタシの料理は!?」
「皿だけな。」
「敢えて皿を残さないのはなぜ!?」
捨て身の嫌がらせだった。
「てなわけで、各自何か素敵なものを頑張って作るがいい!楽しみにしてるぞ(盗子の以外)!」
「いま絶対“盗子の以外”って思ったよね!?そーゆー目をしたよね!?」
「仕事じゃないなら…仕事じゃないならワチも、やれそうな気がするです!」
「ねぇ賢二君、〔火炎地獄〕使える?」
「いや姫さん、そんな無駄な火力は要らないかと…」
「うぉー頑張るぜー!すんごいのを焼き上げてやるんだー!」
「オイ土男流、お前その感じ…皿から焼こうとしてないか…?言っとくが食わんぞ俺?」
「ただの料理大会のはずなのに…なぜでしょう、何かありそうな予感が…」
「き、気のせいだよ絞死!いくらなんでも、たかが料理くらいでそんな…」
ボガァアアアン!
「うっぎゃー!爆音!?なんでなんで!?」
突如オーブンが爆発し、盗子は飛び上がった。
そして同時に―――
「わー!マヨネーズがー!!」
奥のキッチンから謎の絶叫が聞こえてきた。
どこかで聞いたような声だ。
「マヨネーズが!?やっぱりなんで!?って、そもそも誰…!?」
「なっ、今のくだり…そのハモッた声…お前ら…!」
爆煙の中に二つの影が現れた。
「あら勇者様、お久しぶりかしら?」
「海の上でお会いしたから、そうでもないかしら?」
「ったく、面倒臭い奴らが…。下がってろお前達、今はメシの支度が優先だ。」
「そうはいきません!ワルツと♪」
「ポルカの♪」
「カルパッチョ。」
「食べないでぇーー!!」
ワルツとポルカが現れた。
「えっ、なんなのコイツら…?勇者の知り合いなの?」
「そうか、お前らは知らんか。前に洋上で襲撃してきのがコイツらだぞ。ほら、無職の親父漁船を砲撃でブチ抜いた。」
「えっ、あの時パパさんを…!?」
「あら、お父様の漁船を?それはごめんなさいね、うふふ♪」
「いえ、パパさんが漁船で。」
「え?ぎょ…えっ!?」
「ぎょ…えぇっ!?」
無理もない反応だった。
「ど、どーするの勇者?敵なんでしょ?のんびり料理なんかしてる場合じゃなくない?」
「そうなのです!お料理どころじゃないのです!」
「でも違うのです!今日は襲撃じゃなくて、大事なお話を持ってきたのです!」
「大事な話?知らんな、今はそれどころじゃない。急がんとメシを求めた姫ちゃんはまた旅立っちまう。」
「ふん、失礼しちゃうよ勇者君。私そんな食いしん坊じゃ(ぎゅるるるる)…ないよ?」
「みんな、急げぇーーー!!」
ワルツとポルカも手伝った。
全員で料理に取り掛かり、そしてなんとか一通り出揃った。
さぁこれからが本番だ。
「よーし、まずは俺の作ったスープからだ。盗子は“煮え湯”でも飲んでろ。」
「もうお腹イッパイ飲まされたよそんなの!年がら年中だよ!」
~勇者の料理~
「どうだ賢二、美味いだろ?」
「このスープ…お、美味しい!意外にもとっても美味しいよ勇者君!」
「フッ、時限性だ。」
「何が!?ねぇ何がっ!?」
~絞死の料理~
「この煮物は…絞死君の?手が込んでるねぇ~、ちょっと変わった味だけど。」
「結構無茶しますね、盗子さん。」
「何が!?ねぇ何がっ!?」
~無職の料理~
「無職はセンスが無い。」
「つまり“永久就職”も厳しいと…」
~ワルツ&ポルカの料理~
「こちらはワルツと♪」
「ポルカの♪」
「遺作となった。」
「まだ生きたいですーー!!」
~土男流の料理(?)~
「師匠ー!私のはどうなんだー!?とってもうまく焼けたと思うんだー!」
「だから食器は要らんと言ったのに、なんでそんなプロ顔負けの腕前なんだ。」
~賢二の料理~
「むぐぅ…うん、このお肉は…アリだね。」
「あ、それ僕が作ったんだよ姫さん。まぁ単に塩コショウで焼いただけなんだけどね。」
「奇遇だね、私のもだよ。」
「そうなんだー!やっぱりシンプルなのが一番だよね!」
~姫の料理~
「こ、この過激な味は間違いなく姫ちゃんの…ぐふっ!美味びゃブハッ!」
「勇者!?ねぇ、ちょっ…勇者ぁ!?」
誰も盗子のには触れない。
皆の料理は基本的に食えたものではなかったが、晩餐会は一応盛り上がった。
だが『子供酒』が入ったこともあり、場は次第に乱れ始めたのだった。
「よーしなんか楽しくなってきたぜ!オイ双子ども、お前ら何かやれぇー!」
「イェーイ!やっちゃえ双子ちゃ~ん!」
勇者と盗子もそれなりに酔っているが、他のメンバーの方が酷いようで、どんどんカオスな状況へと陥っていった。
「ハ~イ、かちこまりまちた~☆えと、ポルカが奏でて♪」
「ワルツが踊りゅ♪」
「俺は特に邪魔はしない。」
「こ、困りまちた!それはそれれ何か物足りない感じが…!」
「洗脳されちゃいまちたー!」
ワルツとポルカはポンコツ度に磨きがかかっていた。
「洗脳…うん、真っ当な職が無理ならワチ、いっそそういうダークな…ウフフ…」
「私はね?グスン、お酒とか初めてで、えぐっ、こんな酔っ…うぇええええん!」
無職はやさぐれ、絞死は泣き上戸と化していた。
「師匠見てくれー!私一人れこんなデカいボトル空けう゛ぇえ゛え゛え"え"!」
「なんかみんな…面倒臭いね…」
賢二は酔うに酔えない。
「ぃっく。そういやお前ら、えっと…バルスとムスカ。何しに来たんらっけ?」
「あ、ひゃい勇者様。ワルツ達は、お手紙を持ってきたのれす~♪」
「お読みくらはい勇者様~☆」
「手紙だぁ?どれどれ…チッ、古代文字か。読めるか賢二?」
「いや、普通の文字だよ?勇者君の視界が大変なことになってるだけだって。」
飲み続けること小一時間で、賢二以外のメンバーはさらに酔いが回っていた。
「ねぇねぇ姫~、どこのだ~れが、な~んて書いちゃってあるのさぁ~?」
「うん、読むね盗子ちゃん。えっと…大魔王からだね。最後の戦闘の日時、それとルールが書いてあるよ。」
「姫さん…。前にも見たけど、やっぱ慣れないねそのしっかり具合…」
姫は酔うほどにシャキッとしていく。
「ルール…らとぉ?ケッ!あの野郎、ゲームか何かと勘違いしてねぇか?舐めやがって!」
「本当にゲーム感覚なんだよ。僕らなんかに負けるはずないと思ってるんだ。」
「絶対に負けられないね、賢二君。だから私達はもっと…もっと上を目指さなきゃだよね。」
「そうだね姫さん。目指さなきゃね、もっと上を…」
「う゛ぇえ゛え゛え"え"!」
水飲め土男流。
「で?その手紙にはなんて書いてあるんだ?早く読むがいい賢二。」
「えっと、“こっちの主要メンバーは六人だから、そっちも六人で来い”…らしいよ。」
「んぁ?ちょっと待て。大魔王、帝雅、暗黒神、竜神、女神、夜玄、俺…七人じゃらいか?」
「いや、なんでそっち側に入っちゃってるの勇者君?全然違和感は無いけども。」
「えと、アタシと勇者、賢二、姫、絞死、無職、土男流…一人多い!となると…」
「じゃあな盗子。」
「はいキター!やっぱりそうキター!いやらよアタシ離れたくないよぅ!」
「え、もしかして素直に従う気?勇者君は逆に大軍を用意するタイプかと…」
「フン、こう言われちゃお前、多勢で乗り込んれ勝っても誇るに誇れんらろう?」
「それって…まんまと敵の思惑に…」
「そんなことより、だ。俺はそれよりも言いたいことがあるんら、なぁ賢二。」
「ん?なに勇者君…?」
「飲め。」
賢二は溺死しかけた。
「ハッハッハー!飲め!飲むがいい賢二!胃袋がブチ破れるまれ飲めぇー!」
賢二を押さえつけ、強引に酒を流し込む勇者。
良い子は真似しちゃ駄目だ。
「ゲホッ!グハァ!ちょっ、ヤメて勇者君!僕、飲んだことないから…げふっ!」
「フッ、安心しろ。これは『チュピリタチュ』…そんらに強い子供酒らない。」
「最強種じゃん!余裕で火が付くお酒…もはや“燃料”じゃん!喉あっつい!」
「まぁ今日くらい付き合えよ賢二。他の奴らもホレ、潰れて眠っちまった。」
二人以外は全員、死んだように床に転がっている。
「いや、らったらなんれ僕まれ潰そうと…うぐぅ、駄目らもう…酔いが…!」
「オイオイ、何を情けな…」
「あ゛ぁ?」
“裏賢二”が目を覚ました。