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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
164/196

【164】波乱の晩餐会

 忍美に強制的に別れを告げた勇者一行。

 特に別れを惜しむ者はいなかったので、気持ちの切り替えは早かった。


「さてと、邪魔者もいなくなったことだし…飯でも食いに行くか。お前らもこの数日、飲まず食わずで腹ペコだろう?なぁ無職?」

「えと、普通に三食出てたですが。」

「じゃあその時点で疑問を感じろよ。どう考えても殺す相手への待遇じゃないだろうが。」

「ち、違うんだ師匠ー!“太らせて食べる”とか物騒なこと言われてたんだー!」

「フン、まぁいい。とりあえず一段落ついたし、晩餐会といくか!」

「やったぁーー!!」



「…ってゆーから食堂まで来たってのに、料理人いないじゃん!店は開いてるのになんで…?」


 盗子は店内を探し回った。だが料理人どころか他の店員も客も、人っ子一人いなかった。


「あー、問題ない。貸し切ったんだ。」

「え、貸し切り…?なんでなの勇者?」

「だってお前、『人間の踊り食い』とか出してくる国民性だぞ?信用できるか?安心しろ、食材もちゃんとしたのを仕入れてある。」

「いや、でも誰が調理すんの…?」


 不安そうな盗子の肩に、そっと手を置く姫。


「大丈夫だよ盗子ちゃん。ここは私が猛威を振るうよ。」

「腕を振るえよ!アンタは台風か何かかよ!?」

「フッ、楽しみだぜ。俺は姫ちゃんが作ったものなら何でも食うぞ?」

「アンタ正気?たとえ毒でも?」

「ああ、皿までな。」

「じゃ、じゃあアタシの…アタシの料理は!?」

「皿だけな。」

「敢えて皿を残さないのはなぜ!?」


 捨て身の嫌がらせだった。


「てなわけで、各自何か素敵なものを頑張って作るがいい!楽しみにしてるぞ(盗子の以外)!」

「いま絶対“盗子の以外”って思ったよね!?そーゆー目をしたよね!?」

「仕事じゃないなら…仕事じゃないならワチも、やれそうな気がするです!」

「ねぇ賢二君、〔火炎地獄〕使える?」

「いや姫さん、そんな無駄な火力は要らないかと…」

「うぉー頑張るぜー!すんごいのを焼き上げてやるんだー!」

「オイ土男流、お前その感じ…皿から焼こうとしてないか…?言っとくが食わんぞ俺?」

「ただの料理大会のはずなのに…なぜでしょう、何かありそうな予感が…」

「き、気のせいだよ絞死!いくらなんでも、たかが料理くらいでそんな…」


ボガァアアアン!


「うっぎゃー!爆音!?なんでなんで!?」


 突如オーブンが爆発し、盗子は飛び上がった。

 そして同時に―――


「わー!マヨネーズがー!!」


 奥のキッチンから謎の絶叫が聞こえてきた。

 どこかで聞いたような声だ。


「マヨネーズが!?やっぱりなんで!?って、そもそも誰…!?」

「なっ、今のくだり…そのハモッた声…お前ら…!」


 爆煙の中に二つの影が現れた。


「あら勇者様、お久しぶりかしら?」

「海の上でお会いしたから、そうでもないかしら?」

「ったく、面倒臭い奴らが…。下がってろお前達、今はメシの支度が優先だ。」

「そうはいきません!ワルツと♪」

「ポルカの♪」

「カルパッチョ。」

「食べないでぇーー!!」


 ワルツとポルカが現れた。



「えっ、なんなのコイツら…?勇者の知り合いなの?」

「そうか、お前らは知らんか。前に洋上で襲撃してきのがコイツらだぞ。ほら、無職の親父漁船を砲撃でブチ抜いた。」

「えっ、あの時パパさんを…!?」

「あら、お父様の漁船を?それはごめんなさいね、うふふ♪」

「いえ、パパさんが漁船で。」

「え?ぎょ…えっ!?」

「ぎょ…えぇっ!?」


 無理もない反応だった。


「ど、どーするの勇者?敵なんでしょ?のんびり料理なんかしてる場合じゃなくない?」

「そうなのです!お料理どころじゃないのです!」

「でも違うのです!今日は襲撃じゃなくて、大事なお話を持ってきたのです!」

「大事な話?知らんな、今はそれどころじゃない。急がんとメシを求めた姫ちゃんはまた旅立っちまう。」

「ふん、失礼しちゃうよ勇者君。私そんな食いしん坊じゃ(ぎゅるるるる)…ないよ?」

「みんな、急げぇーーー!!」


 ワルツとポルカも手伝った。



全員で料理に取り掛かり、そしてなんとか一通り出揃った。

さぁこれからが本番だ。


「よーし、まずは俺の作ったスープからだ。盗子は“煮え湯”でも飲んでろ。」

「もうお腹イッパイ飲まされたよそんなの!年がら年中だよ!」


~勇者の料理~


「どうだ賢二、美味いだろ?」

「このスープ…お、美味しい!意外にもとっても美味しいよ勇者君!」

「フッ、時限性だ。」

「何が!?ねぇ何がっ!?」



~絞死の料理~


「この煮物は…絞死君の?手が込んでるねぇ~、ちょっと変わった味だけど。」

「結構無茶しますね、盗子さん。」

「何が!?ねぇ何がっ!?」



~無職の料理~


「無職はセンスが無い。」

「つまり“永久就職”も厳しいと…」



~ワルツ&ポルカの料理~


「こちらはワルツと♪」

「ポルカの♪」

「遺作となった。」

「まだ生きたいですーー!!」



~土男流の料理(?)~


「師匠ー!私のはどうなんだー!?とってもうまく焼けたと思うんだー!」

「だから食器は要らんと言ったのに、なんでそんなプロ顔負けの腕前なんだ。」



~賢二の料理~


「むぐぅ…うん、このお肉は…アリだね。」

「あ、それ僕が作ったんだよ姫さん。まぁ単に塩コショウで焼いただけなんだけどね。」

「奇遇だね、私のもだよ。」

「そうなんだー!やっぱりシンプルなのが一番だよね!」



~姫の料理~


「こ、この過激な味は間違いなく姫ちゃんの…ぐふっ!美味びゃブハッ!」

「勇者!?ねぇ、ちょっ…勇者ぁ!?」



 誰も盗子のには触れない。




 皆の料理は基本的に食えたものではなかったが、晩餐会は一応盛り上がった。

 だが『子供酒』が入ったこともあり、場は次第に乱れ始めたのだった。


「よーしなんか楽しくなってきたぜ!オイ双子ども、お前ら何かやれぇー!」

「イェーイ!やっちゃえ双子ちゃ~ん!」


 勇者と盗子もそれなりに酔っているが、他のメンバーの方が酷いようで、どんどんカオスな状況へと陥っていった。


「ハ~イ、かちこまりまちた~☆えと、ポルカが奏でて♪」

「ワルツが踊りゅ♪」

「俺は特に邪魔はしない。」

「こ、困りまちた!それはそれれ何か物足りない感じが…!」

「洗脳されちゃいまちたー!」


 ワルツとポルカはポンコツ度に磨きがかかっていた。


「洗脳…うん、真っ当な職が無理ならワチ、いっそそういうダークな…ウフフ…」

「私はね?グスン、お酒とか初めてで、えぐっ、こんな酔っ…うぇええええん!」


 無職はやさぐれ、絞死は泣き上戸と化していた。


「師匠見てくれー!私一人れこんなデカいボトル空けう゛ぇえ゛え゛え"え"!」

「なんかみんな…面倒臭いね…」


 賢二は酔うに酔えない。



「ぃっく。そういやお前ら、えっと…バルスとムスカ。何しに来たんらっけ?」

「あ、ひゃい勇者様。ワルツ達は、お手紙を持ってきたのれす~♪」

「お読みくらはい勇者様~☆」

「手紙だぁ?どれどれ…チッ、古代文字か。読めるか賢二?」

「いや、普通の文字だよ?勇者君の視界が大変なことになってるだけだって。」


 飲み続けること小一時間で、賢二以外のメンバーはさらに酔いが回っていた。


「ねぇねぇ姫~、どこのだ~れが、な~んて書いちゃってあるのさぁ~?」

「うん、読むね盗子ちゃん。えっと…大魔王からだね。最後の戦闘の日時、それとルールが書いてあるよ。」

「姫さん…。前にも見たけど、やっぱ慣れないねそのしっかり具合…」


 姫は酔うほどにシャキッとしていく。


「ルール…らとぉ?ケッ!あの野郎、ゲームか何かと勘違いしてねぇか?舐めやがって!」

「本当にゲーム感覚なんだよ。僕らなんかに負けるはずないと思ってるんだ。」

「絶対に負けられないね、賢二君。だから私達はもっと…もっと上を目指さなきゃだよね。」

「そうだね姫さん。目指さなきゃね、もっと上を…」


「う゛ぇえ゛え゛え"え"!」


 水飲め土男流。



「で?その手紙にはなんて書いてあるんだ?早く読むがいい賢二。」

「えっと、“こっちの主要メンバーは六人だから、そっちも六人で来い”…らしいよ。」

「んぁ?ちょっと待て。大魔王、帝雅、暗黒神、竜神、女神、夜玄、俺…七人じゃらいか?」

「いや、なんでそっち側に入っちゃってるの勇者君?全然違和感は無いけども。」

「えと、アタシと勇者、賢二、姫、絞死、無職、土男流…一人多い!となると…」

「じゃあな盗子。」

「はいキター!やっぱりそうキター!いやらよアタシ離れたくないよぅ!」

「え、もしかして素直に従う気?勇者君は逆に大軍を用意するタイプかと…」

「フン、こう言われちゃお前、多勢で乗り込んれ勝っても誇るに誇れんらろう?」

「それって…まんまと敵の思惑に…」

「そんなことより、だ。俺はそれよりも言いたいことがあるんら、なぁ賢二。」

「ん?なに勇者君…?」


「飲め。」


 賢二は溺死しかけた。



「ハッハッハー!飲め!飲むがいい賢二!胃袋がブチ破れるまれ飲めぇー!」


 賢二を押さえつけ、強引に酒を流し込む勇者。

 良い子は真似しちゃ駄目だ。


「ゲホッ!グハァ!ちょっ、ヤメて勇者君!僕、飲んだことないから…げふっ!」

「フッ、安心しろ。これは『チュピリタチュ』…そんらに強い子供酒らない。」

「最強種じゃん!余裕で火が付くお酒…もはや“燃料”じゃん!喉あっつい!」

「まぁ今日くらい付き合えよ賢二。他の奴らもホレ、潰れて眠っちまった。」


 二人以外は全員、死んだように床に転がっている。


「いや、らったらなんれ僕まれ潰そうと…うぐぅ、駄目らもう…酔いが…!」

「オイオイ、何を情けな…」


「あ゛ぁ?」


 “裏賢二”が目を覚ました。

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