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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
161/196

【161】外伝

*** 外伝:勇者凱空Ⅴ ***


俺の名は凱空。イケメン真っ盛り十五歳の『勇者』。帝都を離れ三年が経ち、今は『メジ大陸』にいる。

基本的にやる気は無いのだが、今回ばかりは仕方ない。『魔王』を…討つのだ!


「よし、じゃあ入るぞみんな。敵は顔すら知られていない猛者だ、油断するな?」


 大魔王城の城門前に立ち、凱空は四勇将の四人(秋臼、妃后、拳造、無印)に注意を促した。


「フッ、何のスイカも無い。我がスイカの前ではな。」

「早く終わらせてご飯行こうよ、凱空君。」

「ま、雑兵の相手は任せろや。俺がまとめて吹き飛ばしてやらぁ。」

「敵は強大…ぢゃがワシらならば、打ち滅ぼせよう!」

「そうか、ならば行くぞ!なるべく死なずに…ついて来い!」


 凱空は扉を開けた。


「…ん?」


 『魔王:終』が現れた。

 展開が急すぎる。


「ふむ、女一人…か。正直女に手を上げるのは本意ではないが、敵であるなら仕方ない諦めよう。」


 当然、凱空は相手が『魔王』だとは知らない。


「敵は一人…まずは俺が行く。皆はネットリと見ていてくれ。」


ガコンッ!


 凱空は華麗に罠を踏んだ。


ビリビリビリビリッ!


「なっ…ぐわぁああああああああ!!」


「ん…?アハハハ!おやおや、まさかこんな簡単に引っ掛かるとはねぇ!」

「こ、この痺れるような感覚…まさか、これが…!」


これが、恋!?


 スタンガンの一種だった。


一目見た瞬間…の、ちょっと後に走った電流のような感覚…間違いない、恋だ。

よく見ればかなり好みな顔立ちのような気もする。年上の美女…悪くない。後は少々気が強ければ満点だ。


「やれやれ、なんだいアンタら?ここらじゃ見ない顔だねぇ…名乗りな。」

「フッ、俺か?よくぞ聞いてくれた。俺の名は」

「ゴチャゴチャ言ってると指とツメの間に爪楊枝差し込むよ?」


 自分で聞いておいてあんまりな仕打ちだった。


 だが―――



「ほ…惚れたっ!!」



 凱空の方が普通じゃなかった。


「えっ…?」

「え゛えぇっ!?」

「…へ?」


 妃后は驚いた。

 無印は驚いた。

 魔王は驚きあまり絶句した。


「俺の名は、『勇者:凱空』。お前を…嫁にもらいに来た男だ!!」


 凱空は目的が変わった。



「なっ、『勇者』…だって…!?」

「というわけで、一目惚れした!すぐに嫁入りの準備をしてきてくれ!」

「なっ…ちょ、ちょっと待ちな。アンタ、自分が何言ってるかわかってるかい?こんな状況でプロポーズとか…」

「俺はとてもワクワクしている。もはや当初の目的も思い出せん。」

「ハァ、なんてこったい…。こんなのが、アタイが待ち焦がれた『勇者』だってのかい…」

「なっ…ま、待ち焦がれた!?まさか既に両想いフラグが立っていたとは!」

「いや、立ってないから!くっ、あんのクソ占い師…今度会ったらシバく…!」


 終はかつて、占い師に“汝の生涯を左右する者が現れる”と告げられていた。


「よし、では質問タイムだ。まずはスリーサイズを真ん中から教えてくれ。」

「上から聞けっ!いや、教えないけどね!?なんで『魔王』であるアタイが…」

「ま、魔王…だとぉ!?」

「フフッ…そうさ、そうなのさ!何を隠そう、このアタイこそが」

「愛に障害は付き物だ。問題ない。」

「問題大アリだろ!?どこの世界に『魔王』を口説く『勇者』が…」

「そんな細かいことは気にせず、俺と結婚してくれ。絶対に、一生をかけて幸せにしてくれ!」

「いや、アンタがしろや!」

「ああ任せてくれっ!!」

「あ、違っ、ちょっ…!」


「…おっと待ちたまえ。我が主にこれ以上ちょっかいを出すのは、やめてもらおうか。」


 現れたのは若き日の帝雅。

 魔王はその隙に上へと逃げた。


「なっ…ま、待ってくれハニー!くっ、追ってくれ無印!」

「はいな!」

「おっと、悪いがキミは通さないよ。キミが『勇者』なんだろう?ならばここで、死んでもらうことにしよう。」

「フッ、それはありえん。俺は今、人生稀に見る程に…やる気に満ちている。」


 ここから二人の因縁が始まる。



「おっとぉ、邪魔はさせねぇぜぇ?」


 そして…もう一つの因縁もまた、この時に始まっていた。


「ん?なんだキミは?邪魔をしないでもらおう。」

「おぉ、拳造…頼めるか?」

「ああ、行って来いや。この貸しはまぁ、今度酒でも…な。」

「わかった。たらふく飲んで、一緒に走ろう!」

「いや、金払えよ。」


 凱空は無視して走りだした。




拳造に後を任せ、俺はハニーを追って上の階を目指した。

無印らが先に行ったはずだが、道すがら多くの兵と遭遇…ということは、途中の分岐で俺は道を間違えたのだろう。

だがまぁ最上階で会えるだろうから気にせず進もう。


「ふむ、だいぶ上まで来たな…最上階はそろそろか?無駄な時間がかかるし、もうこれ以上敵に会いたくは…む?」

「ちょっとぉ~、こっちの道選ぶとか超迷惑ってゆーかぁ~?」


 廊下の隅から男似が現れた。


「…む?お前は確かオカマバーの…。随分印象が変わったが、何があった?」

「説明とか超ダルいんですけどぉ~。」

「なんだオイ、あまり邪険に扱うと泣くぞオイ。」

「じゃあ死ねばぁ~?」


 二人が以前に会ったのは十年近く前。

 その頃は凱空に軽くあしらわれた男似だったが、すっかり様子が変わっていた。


「くっ…!前は握るのも躊躇していたその大鎌…それのせいか?どんな心境の変化だ?」


「…ま、事情が変わったってゆーかぁ?なりふり構ってらんない~みたいな?」

「なるほど、鎌だけにか。」

「マジ死ねばいいんじゃな~い?」

「フッ…面白い。枷が外れた貴様の実力…見せてもらおうか!」

「ハァ~?超ウザ~。」


フッ、ちょっともう辛い。


 凱空は心が折れそうだ。




ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ…!


「この揺れ…無印達と彼女の戦いも、どうやら佳境のようだ。間に合うか…!?」


 なんだかんだで男似を退けた凱空は、愛しの魔王が待つ最上階を目指して猛ダッシュしていた。

 そして―――


~魔王城最上階:終焉の間~


「さぁやって来たぞこの俺が!何をしにって?それはもちろんお迎えにっ!」

「ん…?おや、やっと来たのかい。でも…少しばかり遅かったねぇ。」


 なんと!先に行った無印、妃后、秋臼の三人は全員倒されていた。


「お、遅かった…?おぉ!そんなにも待ってくれていたのか!」

「いや、少しは仲間を案じてやりなよ!アンタ目ん玉ついてないのかい!?」

「心配したって傷は治らない。まぁ生きてるようだし、問題は無いさ。」

「ハァ~…。で、これからアンタはどうする気だい?まだ同じ茶番を続ける気じゃないだろうね?」

「…聞くが、お前の好みの男とはどんな奴だ?」

「フン!残念だけど無いのもねだりさ。このアタイより…強い男なんてのはね。」

「フッ…いやいや、俺は一人だけ知っているぞ?今から、会わせてやろう。」


 凱空は珍しく本気だ。



そして、未来の妻との戦闘が始まった。

だがさすがは『魔王』…クソ強い。間違いなくこれまで出会った中で最強だ。


「ハァ、ハァ、まさかこの俺に、片ヒザをつかせる人間が、存在しようとはな。」

「ハァ、ハァ、アタイも、驚きだよ。アンタ…ホントに人間なのかい?」

「どうだ、惚れたか?」

「フン、気の早い男だねぇ。この程度でアタイに勝った気に…ぐっ!うぅ…!?」


 なぜか急に魔王が苦しみ始めた。


「むっ、どうした!?まさか…“つわり”か!?お前の方こそなんて気の早い…」

「ぐふっ、ま、待ちな…!“アンタ”は…引っ込んで…うわぁああああああ!!」


 魔王から邪悪な波動がほとばしる。


「そうか、どうやら噂の『魔神』がお出ましのようだな。まったく無粋な真似をしやがる。」

「…フッ、普段は隙の無い女なんだが…なぜか今日は珍しく動揺していてねぇ。うまいこと主導権も奪えたし…急遽だが、選手交代だ。」

「ま、構わんよ。無事に救い出せば株も上がるしなぁ。さて…だが、どう傷つけずに倒すか…」


 凱空が辺りを見渡すと、秋臼、妃后、無印の三人が気が付いたらしく、ちょうど起き上がろうとしていた。


「さぁみんな、そろそろお目覚めの時間だ!秋臼、奴の動きを止めろ!」

「意味がわかりかねる。」

「スイカを…スイカするんだ!」

「ふむ、任された。」

「妃后、『退魔封印』の準備に入ってくれ!無印は援護を!」

「うん、オッケー凱空君!」

「任せんしゃい!して、ダーリンは?」

「俺には探し物があるんだ。絶対に見つけ出すよ…『四つ葉のクローバー』!」

「いや、なんでだよ兄ちゃん!?こんな城内にあるわけないし、仮にあっても今じゃねぇだろ!」

「さっきハニーが俺に“幸せにしてくれ”…とな。まぁ亀にはわかるまいが。」

「多分だが間違ってるのはお前だと思うぜ!?」


 亀吉は釈然としなかった。




「ゼェ、ゼェ、こいつは…なかなかしんどい敵ぢゃぞい…!」

「ふむ、悪しきスイカの分際で、なかなかのスイカよ…!」


 それからしばらく攻防戦が続き、そろそろ限界が近づいてきた。


「くっ、ここまでか…!準備はどうだ妃后!?いけそうか!?」

「い、いけるよっ!あんな邪悪なのを自分の体に入れるとかかなり抵抗あるけど、考えたら負けだよね!」

「妃后よ、お前は純血の退魔導士だから、多分耐えられる!と思いたい!」

「あ、うん!任せてよ凱空君!」


ピカァアアアアアア!!


「むぐっ!?な、なんだいこの光は…!?力が…失われていく…!」


 妃后は『退魔封印術』を発動した。

 マオは見るからに苦しんでいる。


「…けど、負けられないねぇええええええええ!!」


 だが、マオのパワーは強大すぎた。


「…ギブ!」


 なんと!先に妃后が音を上げた。


「ちょっ、マジか妃后!?チッ、やはり無理があったか…!仕方ない、じゃあ任せた無印!」

「えっ!家庭を!?」

「すまんが生涯独身を貫いてくれ!今はなんとか魔王を封印するんだっ!」

「気持ちはわかるが兄ちゃん、前半のえげつねぇのは要らねぇ気が…!」

「グスン…いいぢゃろう!永久に氷漬けにしてくれるっ!〔絶・対・零・度〕!」


 無印は泣きながら〔絶対零度〕を唱えた。


〔絶対零度〕

 賢者:LEVEL60の魔法(消費MP300)

 氷系最上級魔法。独身・恋人無しのまま迎えるクリスマスくらいクソ寒い。


ヒュオォオオオオオオオオオ!!


「ぐわぁああああああああああ!!」


 会心の一撃!

 魔王は氷の柱に封じ込められた。



稀に見る見事な連携で、なんとか魔王を封印することに成功した俺達。

本当はマオだけ封印できれば良かったのだが、この際仕方ない。良しとしよう。


「厳しい…戦いだったな…」

「お前なんもしてねぇけどな。」

「フッ、オイオイ見くびらないでくれ亀吉。ちゃんと見つけたぞ?」

「いや、クローバーはどうでもいいよ!戦えってんだよ!…でもよく見つけたなオイ!」

「安心しろ。順番は変わったが、それはそれで…ちゃんとやるさ。なぁオイ?」


 凱空は振り返らずに言った。


 帝雅が現れた。

 男似が現れた。


「き、貴様ら…よくも我が主を…!許せん!許せぇええええええん!!」

「ちょぉ~~~、ムカつくってゆーかぁ~?」


「さて、じゃあ後片付けといくか。ゴミ掃除は相変わらず…嫌いじゃないんだ。」


 詳細は想像で補ってください。




 そして、戦いは終わり―――


嫁の入った氷柱を担ぎ、俺は知り合いのいる島『カクリ島』へと移り住むことにした。

本当はマオだけ再封印を行いたかったのだが、失われた太古の退魔術をまとめた魔術書『天地封印術典』の解読が全くうまくいかず、諦めざるをえなかった。

ちょうどペルペロスを貸し出す約束もしていたし、しばらくはこの島で大人しく過ごすとしよう。


「お前達にも、随分と世話になったな。皆はこれからどうするんだ?」

「俺は宇宙に出るぜ。男なら、でっけぇ夢を語らねぇとなぁ。」

「じゃあワシも拳造についていこうかねぇ。次の恋を宇宙に求めるもまた一興ぢゃて。」

「ま、まだ諦めねぇんだなムーちゃん…」

「ワシはまた、新たなスイカを求めさすらおう。それがスイカのさだめだ。」

「私もしばらくフラフラするよ。素敵な出会いとか落ちてないかな~。」


 どうやら四勇将はそれぞれ旅出つつもりのようだ。


「そうか…ならば、しばしの別れだな。まぁ、いずれ会うこともあるだろう。」

「その時は、戦いぢゃなくのんびり茶でも飲みたいもんだのぉ。」

「ヘッ、俺は酒がいいけどよぉ。」

「美味しいお菓子があるなら来るよ♪」

「ワシもスイカを持参しよう。」

「フッ…そうだな。世界が真の平和を手に入れた時…その時に、また会おう!」


 こうして五人は再会を誓い合った。

 だがこの全員が揃うことは、二度と無かった。

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