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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
160/196

【160】メジ大陸へ(3)

盗子と賢二を残し、俺は走った。とにかく走った。姫ちゃんらに追いつき、更に走った。途中もう駄目かと思ったが、意外にも氷がもったこともありなんとか切り抜けられた。

そう、俺達は見事走り切り、無事に対岸まで辿り着けたのである。


まぁ『断海』の影響で対岸の街はほとんど消し飛んでいて、綺麗サッパリな感じではあるが。


「盗子、賢二…安らかに眠れ。この街の残骸が、お前らの墓標代わりだ。」

「えと、ちゃんと弔ってあげてはどうです…?こんな墓標とかあんまりです…」

「フッ、案ずるな無職。よーし土男流、軽くひとっ走りしてアイス買って来い。」

「いや、いくらなんでも墓標が『アイスの棒』とかあんまりなんだー!」

「まぁ俺も鬼じゃない、死んだなら墓くらい作ってやるさ。死んだのなら…な。」

「へ…?あっ!」


 無職は上を見上げた。

 なんと!美咲の背に乗る二人が見えた。


「フッ、やはりな。一瞬影が見えたからもしや…と思ったが、やるじゃないか。」

「クエ!」

「ひ、酷いよ勇者!あんな場面で置き去りにするなんて酷すぎだよっ!」

「む?どうした、何か珍しいことでもあったか?」

「いや、いつも通りだけど!いつもそうなんだけどもっ!」


 確かに今さらだった。



間一髪のところで美咲が助けたようで、生意気にも生きていた二人。

超微力とはいえ、今の状況で戦力が減るのは避けたかっただけに助かったぜ。


「にしても…参ったな、思いっきりナシ大陸じゃないかここ…。く、クソ寒いぞチクショウ!」

「ま、まぁいいじゃん!いくら寒くっても死ぬほどじゃないよ!ね?」

「お前は死ぬほどウザい。」

「今はそんな話してんじゃないよ!大丈夫だって励ましてるだけじゃん!」

「フン、そう願いたいもんだ。だが俺が動けん状況で敵が来たら…どうだかな。」



 その頃、メジ大陸の某所では…夜玄と大魔王が、薄暗いモニター室で話をしていた。


「…というわけで、勇者一行には逃げられた模様です。どういたしましょう?」

「ん~、だから追っ手とか別にいいって言ってるじゃん。焦らなくても後で『業火竜』が…」

「(ガガッ)いや、是非やらせてくれたまえ。彼らを…(ガガガッ)倒すのが僕の悲願なのだ。」


 モニターの中から、ノイズ交じりの声が聞こえた。

 どこかで聞いたような男の声だ。


「でもさ、失敗したのはアンタが改造したマグロ魚船のせいじゃんか。その辺わかってる?」

「確かに彼が敵側についたのは計算外だった。だが次は無い、安心していい。」

「ん~、まぁいいけどね。そんな体になってまで…しつっこいねぇアンタも。」

「でもまさか、“魂の電子化”などという離れ業が可能とは私も驚きましたよ。」

「フフッ、甘く見ないでほしいものだな…」


「僕の頭脳と『ロリータ・コンピュータ』に、不可能は無い。」


 ロリコンは不滅だった。


「あ~、まぁ好きにやりなよロリコンさん。どうせ僕はまだしばらくは動けないしねぇ。」

「いや大魔王様、ロリコンに好きにやらせるのはどうかと…」

「安心したまえ、その最新鋭の医療器具があれば、キミの完治は遠くない。」

「あ~、確かにこれは確かにいい感じかも。助かるよ。で?これからはどう遊ぼうってわけ?」

「フフッ…“ある男”を向かわせている。我が最強のしもべをね。」

「へぇ最強かぁ~、面白そうだね。どんな人なの?」

「何年か前…とある理由で自殺を図った男を保護してね、改造したのさ。」

「え、なにそのちっとも保護じゃない保護?」


 大魔王ですらドン引きの非道さだった。


「元々が才のある男だったが、私の力を得てその力は更に増強されたよ。」

「ですが、機械ごときが彼らに勝てるとは…」


 夜玄は懐疑的だが、ナンダは自信満々で言った。


「甘く見るなと言ったはずだよ?彼は傑作…最強の、『魔導サイボーグ』だ。」



そして、無情な―――



ドッゴォオオオオオン!


「なっ、魔法弾だと…!?早速追っ手かチクショウめ…!賢二、敵影は!?」

「えっ…?」


 敵の姿に気付いた賢二は、目を疑った。


「避けタカ…素早イナ。だガ、次は外さナイ。」


 上空に浮いているのは、半分機械化されたようなサイボーグ的なオッサン。

 状況的に、ナンダが言っていた『魔導サイボーグ』とやらだろう。


「ちょ…ちょっ、待って!?あ…アナタは…!」

「むっ!?なんだ賢二、知り合いか!?」


「お、お父さん…!」


 複雑な親子対決が始まる。



なんと、いきなり攻撃してきた妙な人造人間は、なんと賢二の親父なのだという。

確か賢二の親は、賢二が学園校の『秘密の部屋』に閉じ込められた一件で死んだと判断し、ショックで引っ越したと聞いたが…。


「オイ、どうなってるんだ賢二?あんなメカニカル親父が親だってのか?」

「ま、間違いないよ…。確かに様子は全然…変わっちゃってるけど、でも…」

「じゃ、じゃあ話し合おうよ!家族ならきっと話し合えば…」

「話し合うつもりはナイ。死んでモラウ。」


 盗子の甘っちょろい提案はもちろん却下された。


「俺に家族はいナイ。子供二人は失踪シ、妻は病に倒レタ。全てに絶望シタ。」

「お、お母さんが!?お母さんの方は…病気で…?」

「チッ、どうやら絶望につけ込まれ、誰かに改造されたと見るのが妥当な線か。」

「そ、そんな…!」


 あんまりな展開に賢二は絶句した。


「となれば、始末するしかないな。立ちはだかる者は、もはや敵でしかない。」

「なっ…ち、違う敵じゃない!僕のお父さんだよっ!」

「だがロボだぞ?」

「ロボチガウよ!」

「そう、ロボチガウ。俺ハ『魔導サイボーグ』…名は、『賢三ケンゾウ』。」


 命名の順序がおかしい。



倒すべき敵は賢二の父のサイボーグ『賢三』。なぜ親の方が数字が大きいんだ。

それに、『賢三』に『拳造』、『賢二』に『剣次』…カブッているにも程がある。

だがまぁそんなこと今さら気にしてもしょうがない。とりあえず敵ならば、討つのみだ。


「覚悟を決めろ賢二。これは展開的に話の通じん流れだ、殺すしかない。」

「だ、駄目だよ勇者!おかしいよ!親子が殺し合うだなんて…!」

「俺なら余裕。」

「アンタを基準に考えちゃ駄目!」

「それにお前んとこも似たようなもんだろ盗子。」

「そ、それは言っちゃ駄目!」

「む、無理だよ…僕には…無理だ…」

「あ゛ん!?この期に及んで何を舐めたこと…」


「いや、MPが…」


 完全にガス欠だった。


「チッ、仕方ない。俺が食い止めるからお前らは先に逃げてろ!邪魔だ!さぁ行け無職!」

「え!で、でもロボ的なお父さんはきっと素早いかと思われるですが…!」

「俺が地上に引き付ける、お前らは空を行け!オイ美咲、貴様何人まで乗せて飛べる!?」

「クエ!」

「チッ、まったくわからん!」

「じゃあなんで聞いたです!?」

「よくわからんが気合いで頑張れ美咲!そうでなけりゃ夕飯のメインは貴様だ!」

「ク、クェ!?」

「だ、大丈夫なの勇者君!?一人じゃ…やっぱり僕も…」

「問題無い。機械化されて強化されてるにしろ、所詮は…貴様ごときの親だ!」

「な、なんか複雑だなそれ…」

「よし!さぁ逃げるんだ姫ちゃ…ん?土男流もチビッ子忍者も見当たらんが…?」

「あれっ!?ホントだ!気付かなかったよアタシも!いつの間に!?」

「えと、さっきの“アイス買って来い”を合図に…です。」

「くっ、しまったジョークと言い忘れた…!オイ賢二、早く行って彼女を護衛しやがれ!」

「えっ、で、でも…!」

「動揺してる貴様なんぞいつも以上に使えん!強引にでも連れてけ無職!」

「は、ハイ任されたです!お気をつけて!」

「さぁ行けぃ美咲!」

「クエッ!!」


 美咲は無職と賢二を乗せて全速力で飛び去った。


「え、アタシは…?」


 盗子は全員に忘れられてた。


「さぁ来い賢二父よ!大人しく待ってるとは律儀で感心したがもう結構だ!」

「充電完了。太陽光発電バンザイ。」

「全然待ってたわけじゃないじゃん!ピンチじゃん!」

「適当に何発か食らわしたら逃げるぞ盗子、準備し…速いっ!」


 魔導サイボーグの攻撃。

 勇者はいいのをもらってしまった。


「ぐほぁ…!うぐっ、しまった…!あんな…賢二の親ごときに…!」

「我が一族は魔道の家系ダガ…肉弾戦も、嫌いジャナイ。」

「…チッ、そうだったな…“あの女”の、親でもあったか…!」

「ど、どーする勇者!?疲れててしんどいよね!?でも逃げるにしてもどこへ…」

「やはり空だな。美咲を追う素振りが見られなかった…恐らく奴は飛べない。」

「そ、そんなこと言ってもアタシらだって飛べないじゃん!」

「いや、お前は普段から浮いてるよ。」

「そういう意味じゃ無しに!」

「チッ、仕方ない…!やはり俺がオトリになる、だからお前は」

「で、でも勇者…」

「犠牲になれ!」

「あれれっ!?じゃあオトリの意味は…って、キタァアアアアアアアッ!!」


 魔導サイボーグの攻撃。


 ミス!謎の飛行物体が二人をかっさらった。


「グォ~!」

「え!アンタは…リュオ!?た、助けに来てくれたんだね!」


 危機一髪のところで二人を助けたのは、ソボーの相棒だった飛竜『リュオ』だった。


「ありがとー!ありがとねリュオー!」

「~♪」


 飛竜は昼食前だ。




「ふぅ、なんとかなったな。敵も追っては来れんようだし。」


 飛竜の背に乗り、賢二らの後を追う二人。

 うまいこと戦闘は回避できたようだ。


「でもなんで追ってこないんだろ?最初空に浮いてたし飛べるよねアイツ?」

「あ~、さっき一撃もらった隙に背の噴射口にちょっと…な。」

「いつの間に!?そっか、やけにすんなり攻撃食らったなと思ったらそんな…抜け目ないねさすがだよ!」


 相変わらず正攻法じゃなかった。


「で、これからどーしよ?やっぱ姫を捜す気?」

「いや、姫ちゃんは…恐らく追っても捕まらん。発信機に従って賢二を追うぞ。」

「ま、まだ付いてるんだねそーゆーの…」

「つーか盗子、あんまりくっつく…チッ、まぁいい。今は…このままでいい。」

「えっ!?な、何その意外な反応!?ちょ…えぇっ!?」

「い、いいから黙って…大人しくそばにいろ。」

「う、うんっ…☆」


ふむ…死ぬかもしれん。


 勇者は凍えている。


ヒュゥウウウウウ!



「うっひゃー!風さっむ~~い!死ぬぅーー!!」

「あぁ、なななんだ…そそんな所にいたのか…先公。」

「そっちは行っちゃ駄目!帰ってきてっ!って、マジでいたりしないよね!?」

「と、盗子…ももし俺が凍ったら、熱湯で五分温めてからご飯にかけてくれ…」

「え!何そのレトルトなカレー感覚!?だ、駄目だよ勇…ハッ、村だ!リュオお願い!」

「ペッ!」

「うわぉ飼い主そっくり!!」


 盗子の扱いは共通だった。




しばらく記憶が途絶え、目が覚めた時に俺が見たのは、知らん部屋の天井だった。


「う゛…こ、ここは…?」

「あっ!気が付いたんだね勇者!良かったぁー!」

「チッ、地獄か…」

「って失敬だよ!こんなプリチーな餓鬼がどこにいんのさ!?」

「姫ちゃんはどこだ?ちゃんと合流できたんだろうなオイ?」

「いや、その前にアンタ死にそうだったからさ。とりあえず避難したんだよ。」

「避難…?そういやどことなく見た覚えのある建築様式だが、どこだ…?」

「おぉ、目が覚めたかね蒼き少年よ。なかなかにしぶとい。」


 部屋の奥から相原医師が現れた。


「やはり地獄か…」

「いやいや失敬だねキミ。」

「この部屋…柱の模様などから判断するに、恐らく『魔国』の…絞死の城だな?というわけで絞死を呼んで来い。俺に挨拶が無いとは生意気だ。」

「ほほぉ、いい勘をしているね。確かにここは彼の城だよ、ナシ大陸のね。」

「てっきりあのまま大魔王軍に乗っ取られたもんだと思ってたが、無事だったんだな。」


「取り返したんですよ、力ずくでね。まぁだいぶ荒されててションボリですが。」


 絞死が現れた。


「よぉ、どうだったよ絞死?〔武者修行〕のおかげで良い師には出会えたか?」

「不発でした。」

「本人を前にそれは酷い。」


 相原はちょっぴり傷ついた。


「だが、少しは成長したように見える。大魔王戦での健闘、期待しているぞ。」

「いや、なぜ一緒に行く流れになってるのか全くわからないのですが。」

「フッ、お前の父に教わった手法だ。」

「私には…関係の無い話です。」

「そうもいかんのが世の中ってもんでなぁ。親の責任は、子の責任なんだよ。」


 勇者の母は『魔王』だ。


「まぁまだ親しくもない仲だが、お前も城を壊された恨みもあろう?“敵の敵は味方”と言うだろ、行くぞ。」

「確かに恨みはあるので、倒しには向かいますよ。一人で…ですがね。」

「やれやれ、相変わらず偏屈だなぁ。どうせ行くなら一緒に行きゃいいだろ。何にこだわってるんだ貴様は?」

「私はこれまで…一人で生きてきました。それは、これからも変わりません。」

「フン、ほざくな。人は一人では生きられん。それはこの俺とて例外ではない。」

「えっ…あ、あの俺様主義の勇者がそんな…」

「姫ちゃんがいなければっ!」

「あーそっちね!そっちのパターンね忘れてたよっ!」


 勇者はしつこく口説いたが、絞死は頑なに拒絶した。


「他人と歩む道など、私にはありません。必要だとも思いません。」

「教わってないから知らんだけだろう?“無知”を得意げに語るとは愚かだな。」

「な、なんですって…?」

「ついて来い、絞死。来れば父の教えを…代わりに俺が、叩き込んでやる!」


 決して良い条件ではない。



その後、嫌がる絞死をなんとか言いくるめ、共に旅立つことに決まった。

向かうは当然メジ大陸だが、ここからじゃ陸路しか選択肢は無さそうだ。


「そういや盗子、飛竜はどうした?」

「あ~、ウチらをここに降ろしてどっか行っちゃった。そもそも気まぐれで助けてくれたっぽいし、今後は期待はできないかな。てゆーか途中、危うく食べられかけたしね。迂闊に気を許せないよ。」

「まぁどのみち寒すぎて使えんか。では絞死よ、貴様が用意した乗り物には…もちろん暖房はあるんだよな?」

「まぁこういう大陸ですし、乗り物には普通に付いてますよ。大丈夫です。」

「ほほ~。ちなみに燃料は何なんだ?」

「ちょっとした“猛毒”です。」

「全然大丈夫じゃない単語が聞こえたけどホントに大丈夫!?事故ったらウチらだけの被害じゃ済まなくない!?」

「フッ、まぁいい…なんとかなるさ!行くぞっ!」


 数日後、とある大地が死んだ。

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