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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
159/196

【159】メジ大陸へ(2)

ウザい双子を一喝し、俺は海竜に乗って姫ちゃんと自分の船へと戻った。

敵船も懲りずに追ってきているようだが…あれだけビビらせたんだ、しばらくは大丈夫だろう。


「さぁ土男流、メシの支度だ。まずはその海竜を三枚に下ろすぞ!」

「乗せてもらっといて早速食っちゃうとか非道すぎてたまんないぜ師匠ー!」

「ちょっ、アンタも止めようよ姫!仲良しなんじゃないのこの海竜と!?」

「うん、大好きだよ『蒲焼き』ちゃん。」

「その割になんて怖ろしい名前を…」


 海竜は恐怖のあまり動けない。


「あっ、で、状況はどうだったです?敵さんはどんな人達だったですか?」

「ん?あぁ、見知った双子と愉快な死体達だった。」

「死体は全然愉快じゃないと思うですが…」

「し、死体ってことはつまり…『死体使い』の人がいたってこと勇者君?」

「あ~、まぁ半分正解って感じかな。暗黒神のせいでパワーアップした死体使いは『死体マスター』とやらになったらしくてな、今は優雅にテレワーク中だとよ。」

「た、倒すべき司令塔は乗ってないとか…それって結構まずい状況なんじゃ…?」

「フン、相変わらず心配性だな賢二。あんな奴らが何人いようが…」

「えっ!うわっ、危ない…!!」


 突如、激しい閃光が船をかすめた。



「ポルカ様!『軽量版暗黒波動砲』、第一波は謎の力の影響で逸れました!」

「じゃあ急いで次を準備ですよワルツですけど!」

「第二波はあと十分程で準備できます、ワルツ様!」

「次は当てましょうねポルカですけど!」


 なんと、先ほどの一撃は敵船によるものだった。



「チッ、まさかあんなヤバいのを積んでいたとはな…舐めてたぜ。」


敵船が放った凄まじい砲撃。賢二が瞬時に魔法で逸らしたようだが、危なかった。

今の光…見覚えがあるな。あの天空城の主砲を模した武器に違いない。本物に比べりゃ当然威力は劣るが、この船を吹き飛ばすくらいは容易だろう。だとすると結構まずい。


「あらかじめ言っとくけど、いま咄嗟に全魔法力出しちゃったから、僕はもう…」

「大丈夫だ賢二、大抵は“命を燃やして”的な感じでもうちょっと頑張れる。」

「いや、それ確実に死んじゃう流れだし…」

「あっ!よく見れば岸が見えてきたですよ!陸へ逃げちゃえばあるいは…!」


 無職の言う通り、対岸に陸地が見てきた。

 だが残念ながらまだまだ遠い。


「邪悪な波動を感じる…恐らく第二波発射はそう遠くない。まず間に合わんな。」

「じゃ、じゃあ泳ぐとかです…!?」

「この重装備じゃ長距離は泳げん。ちくしょう、他に乗り物でもあれば…って、そうだ海竜!奴はどうし…なぁっ!?」


 海竜は胴から上が吹き飛ばされていた。

 どうやら先ほどの流れ弾が直撃したようだ。


「くっ、なんて酷いことを…!」

「いや、さっき美味しくいただこうとしてたじゃん!って、どどどどーしよ!?あんなの食らったら絶対死んじゃうじゃん!でも周りは海だし…」

「泳げないなら走ればいいよ。」


 姫は無茶なことを言った。


「って余計にハードル上げてんじゃないよ!海面走るとかどこの忍者だよ!?」

「し、しのみん出来ないのだ…忍者失格なのだ…」

「気にすることないんだー!私だって『人形師』なのに手ぶらなんだー!」

「…いや、無理じゃないかもしれん。そういやかつて麗華に聞いたことがある。」


 なんと、勇者には何か心当たりがあるようだ。


「えっ、お姉さんが!?お、お姉さんは…なんて?」

「ある技の話だ。海を割る程の究極の魔法剣…その名も、『断海モーゼ』。」

「う、海を割るとか凄すぎるのだ!驚きなのだ!アンタできるのかそれ!?」

「どんな理論かは聞いたが…残念ながら今は無理だな。発動には剣士と三人の魔導士が必要らしい。」

「師匠は剣士側だから、賢二先輩に姫ちゃん先輩…確かに一人足りないんだー!」

「くぅ、今ほど自分の不甲斐なさを悔やんだ時は無いです…!」

「いや、お前は毎日悔やめよ職無し。まぁもう…悔やむ時間すら残ってなさそうだがな。」

「だ、大丈夫!アタシがやれるよっ!アタシ『技盗士』になったから、魔法だって真似事くらいはできるよ!」

「むっ、なんだと…!?盗子のくせに生意気な!」

「僕も、命燃やすとかは無理だけどギリギリまでなら…うん!」

「頑張ってねみんな。」

「いや、アンタもだよ姫!わかってる!?」


 雲を掴むような作戦だった。


「とりあえず勇者君、その技はどういう技なの?例えば属性は何属性?」

「属性は“火”“風”“氷”の三つだ。熱風の剣技で蒸発させながら海を割り、断面は凍らせて固定するらしい。」

「み、三つの属性の合成…確かに究極だね…。じゃあ誰が何を担当しよう?」

「あ、アタシは得意とか無いから、できれば賢二が詳しいのを教えてほしいな。」

「じゃあ氷系かな。僕はMP少ないからできれば風系を…姫さん炎系ってどう?」

「ご飯三杯はイケるよ。」

「ねぇ話噛みあってる!?大丈夫!?」

「まぁ威力の方は任せろ。我が剣の放つ暗黒の波動は、星をも貫くぜ!!」


 勇者は力を練った。

 例の如く邪悪なオーラが辺りを包む。


「お、おっかないのだぁーー!!鬼が!目の前に鬼がいるのだー!」

「うぉー!さすがだぜ師匠ー!絵的にはどう見てもダークサイドなんだー!」

「チャンスは一度きり…全力でいくぞ。本気の一撃を、ブチかましてやる!」


 対岸の街が危険だ。



役割分担も終わり、あとはもうとりあえずやってやるしかないって感じの状況。

賢二から雑魚盗子へのレクチャーが終わったら、思いっきりブチかましてやる。


「で、どう盗子さん?今のを全開でって感じでいいと思うんだけど、いけそう?」

「う゛…う、うん!頑張ってみるよ!たまにはカッコいいとこ見せるよっ!」

「し、師匠ー!敵船の光が強くなってきたんだー!もう超ヤバいんだー!」


 どうやらもう時間が無いようだ。

 動くなら今しかない。


「チッ…仕方ない急ぐぞ野郎ども!力を込めるのは俺、賢二、姫ちゃん、盗子の順だ!イーーチ!」

「に、ニィ!」

「イチ!」

「ゼ…えっ!?ちょっ…!」


ドガァアアアアアアアアン!!


 ミス!魔法は暴発した。



「えぇっ!?う、撃ちましたワルツ!?」

「う…撃ちましたポルカ!?」


 だが敵に動揺を与えた。



「ぐっ、ふざけやがって…クソ盗子め…!」

「いや、アタシのせいじゃなくない!?どう考えても姫じゃ…」


 たった一度のチャンスはあっさり不発に終わり、もはや絶望的な状況に。


「というわけで…賢二、一言頼む。」

「サヨナラ人生…」

「いやぁああああああああああん!!」


ズドォオオオオオン!


「う、うわーん!撃たれたーー…って、えぇっ!?」


 なんと!魚船の方から突然モリが放たれた。

 モリは敵船の船尾に直撃した。


「なっ…なんだ今のは!?ナイスだが一体誰の仕業だ!?」

「え、いや、でもこの船にはワチら以外は誰も…」


「…行きなさい。この場は私が食い止めよう。キミ達は前へ、進むのだ。」


 どこからか謎の男の声が聞こえた。

 港からの呼びかけに応えた声と同じだ。


「う、うっわー!これってば船が喋ってるのだー!やっぱり幽霊船なのだー!」

「私はこの時のために、この姿になったのだと…今はそう思えるよ、無職。」

「えっ、ワチです!?いやいや喋る船に知り合いとか…あっ!」


 その時無職は、何かに気付いた。


「そ、その声…そして『マグロ漁船』…ま、まさか………パパさん!?」


 父は夢を叶えていた。



なんと、驚くべきことにこの怪船の正体は無職の父親なのだという。

そういえば無職の父は、“マグロ漁船になる”とかイカれたことを言い残して消えたと言ってたな…マジかよ。

荒唐無稽な話ではあるが、まぁ魔法だなんだのファンタジーな世界にいてそんなこと言うのも無粋か。


「だが、モリなんてそう何本もあるもんじゃないし…敵に砲撃されたら終わりってのに変わりは無いがな。」

「し、師匠ー!もう敵船の光が限界な感じでキラッキラなんだー!ヤバいぜー!」

「チッ、もうか…!オイ賢二、また魔法でなんとか食い止めやがれ!」

「お…お掛けになった賢二は、現在使えま」

「テメェ賢二ぃーー!!」


ピカッ!



ズドォーーーーーン!!


 敵船の必殺攻撃!

 だが謎の防壁が食い止めた!


「なっ…これも船の力か!?」

「ああ、『超電磁バリア』だ。こう見えて私には、最新の科学技術が組み込まれている。」

「ぱ、パパさん…言いにくいですけど、それもうマグロ漁船じゃないです…!」

「だ、だが長くはもたない。早く…娘を…頼む、無職を守ってやってくれ…!」

「いや、『無職』は守っちゃ駄目だろ。就職目指せよ。」

「今のは意味が違う気がするですが…」


 頼む相手が悪かった。


「よし、この隙に『断海』の再チャレンジといくぞ!準備しろ姫ちゃん、賢二、その他!」

「なんでアタシ一人をわざわざ略すの!?文字数変わんないよ!?」

「で、でも勇者君…やったところでどうせ失敗…」

「黙ってやれ!やってもやらんでも死ぬなら、俺はやって盗子を殺す!」

「だからなんで毎回途中で矛先がこっちに来ちゃうの!?」

「私は頑張るよ。頑張らないとお母さんに怒られるの。」

「えっ…ど、どうしちゃったの姫?なんかいつになく発言がまともだけど…?」

「わかる、わかるぞ姫ちゃん。アレは敵に回しちゃマズい相手だ。」


「は、早く…!もう手が…痺れて…!」


 そうこうしているうちに、船はボチボチ限界な感じになっていた。


「うぉー困ったぜー!どの辺が手なのかサッパリわかんないんだー!」

「ととととにかくヤバいのだぁーーー!!」

「チッ、やれやれ…じゃあ、やるか!腹ぁ決めろや賢二!!」

「う…うん!わかったよ!」

「いくぞ!うぉおおおおおおおお!!」


 四人は力を込めた。

 だが一度失敗してることもあり、なかなか出力が上がらない。


「くっ、消耗しすぎたか…!だが弱音に意味は無い、死ぬ気で頑張れ!」

「大丈夫、私がみんなの分まで頑張るよ!むー!死め…」

「それ以外で頼む姫ちゃん!それは後でたっぷり味わうから盗子が!」

「なぜにアタシが!?」

「だがこのままじゃその“後”すら無い!気合い入れろぉおおおおおおお!!」


ピカァアアアア!


 四人は更に力を込めた。

 凄まじいパワーがほとばしる。


 しかし―――


「だ…駄目だぁ…!やっぱり、僕の“風”と盗子さんの“氷”の力が…足りな…」

「ゆ、勇者ぁーーー!!」


 どうやら限界っぽいポンコツ二人。

 だが勇者は諦めなかった。


「まだだっ!!かつて、“地獄の風雪”を操り、俺を苦しめた強敵がいたぁ!!」

「えっ、そのオーラの感じって…まさか…『邪神』の…!?」

「うぉおおおおおおおおお!見るがいい、この天才のセンスを!唸れ超絶魔法剣、『断・海・大・旋・風・葬』!!」


ズゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 勇者、会心の一撃!

 見事に海を分断した!


 対岸の街は消し飛んだ。



俺と姫ちゃんの力で、技は見事成功した。まるでアレだ、一足早いケーキ入刀だ。


「ハァ、ハァ、行くぞ雑魚ども!急がねば撃たれたり崩れたりで大変そうだ!」

「おぉ、素晴らしい…力だ…!さぁ早く逃げなさい、私はもう…限界だ…!」


 船の所々に亀裂が入り始めた。

 船体ごとバリアが砕けるのも時間の問題だ。


「ぱ、パパさん…ワチ…!」

「サヨナラだ、無職。お前の人生はまだ長い、生きて…素敵な職に就くんだよ。」

「パ…ぐぇっ!」


 勇者の当て身(手加減なし)が炸裂した。


「ゴチャゴチャうるせぇ!時間が無い、飛べぇ雑魚ども!」

「お、オォーー!!」


 勇者達は全員船から飛び降り、そして走りだした。

 その姿を見守りながら、船は穏やかに呟いた。


「ふぅ、良かった…。最期に…最期にやっと娘に、働く父の姿を」


ピカァ!


ドガァアアアアアアアアアアアン!!


 無職はぐったりしている。




船から颯爽と飛び降り、俺達は走った。急がないとマズい状況になりそうだしな。


「ゼェ、ゼェ、結構距離あるよね…!早くも死にそうー!アタシもう限界かも!」

「うわっ、み、見てくれ師匠!両端の氷の壁ってば結構モロそうなんだー!」

「チッ、やはり不完全だったか…なんでこう悪い予感は必ず当たるんだ…!」

「盗子ちゃん…!」


 姫はスプーンを構えた。


「い、今は駄目だよ姫!?“氷=カキ氷”って発想はお願いだから後にして!できれば今後は控えて!」

「前の方はまだ大丈夫そうだ、崩れるとしたら後ろから…時間との勝負だな。」

「…う゛っ、う~ん…ハッ!こ、ここは!?」


 勇者に担がれていた無職が目を覚ました。


「ったく、やっと起きたか無職。重いからさっさと降りて自分で走りやがれ。」

「れ、レディーに対して重いとかデリカシーに欠けると思うですっ。」

「じゃあ尻が軽い。」

「それもまた違うですし…お、お尻鷲掴みもヤメてほしかったり…です…」


 勇者はデリカシーが足りない。



ゴゴ…ズゴゴォ……!


「どどどどうしよ勇者!また崩れてきたよ!このペースじゃ絶対間に合わ…」

「ギャーギャー騒いでる暇があったらその分走れ!それ以外に手は無い!」

「わ、わかってるけどもう結構限界で…あっ、アレは…!」


 振り返った盗子は落とし物に気づいた。

 盗子は慌てて取りに戻った。


「バッ…馬鹿盗子!何してやがるっ!?この状況で戻るとか正気か!?」

「だ、だって、試練の時もらった大事なモノなの!お母ちゃんからもらっ…」


ズゴゴゴォオオ!!


「わっ、うわー!後ろの方から崩れ始めたんだー!激ヤバなんだー!」

「チッ…皆は止まらず行けぇ!俺はもう一度、さっきの奥義を叩き込む!」

「えっ、勇者君…!?」

「余計なことは言わず、信じろ賢二!この俺に不可能は無い!」

「いや…盗子さんを守るとか意外だなぁと。」

「者どもぉ俺に続けぇ!対岸まで一直線だー!!」

「えぇ!?ちょっ…勇者ぁ!?」


 賢二は余計なことを言った。


「ちょっ、賢二…どーすんのさ!アンタのせいでホントに行っちゃったよ勇者!?まぁ元はと言えばアタシの落とし物せいだけど、でも…」

「足掻かない・夢を見ない・明日は来ない…」

「いや、アンタの“諦めの境地”は聞いてないから!死ぬまでは足掻こうよ!」

「そ、そうだよね!やるだけやってみなくちゃね!ぎ…ぎ…〔銀世界〕!!」


 賢二は〔銀世界〕を唱えた。

 だが案の定MPが足りない。


「やっぱり明日は来ない…」

「じゃ、じゃあ今度はアタシが…!」


 盗子も真似してみた。

 だがセンスが足りない。


「ハイ終わったぁああああああああああ!!」



ドッシャアアアアアアアアアアアア!!



 二人は海の藻屑と消えた。

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