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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
158/196

【158】メジ大陸へ

帝都を発ち、数日が経った。

今のメンバーは俺と賢二、盗子、無職、土男流、忍美の六人。手負いの暗殺美は置いてきた。

目指すは『メジ大陸』。最短ルートでいくには極寒の『ナシ大陸』を経由する必要がある…が、あんな寒い思いはもう二度としたくない。決戦の前に凍死しかねん。

よし、そうと決まれば船を探そう。海路ならば直接メジ大陸に乗り込める。


きっと沈むんだろうが…。


 結局死ぬかもしれない。



というわけで、ナシ大陸を迂回してメジ大陸へ向かうべく、俺達は船を探しに港へやってきた。


~タケブ大陸:ラミィ港~


「よし、じゃあ恒例の乗り物強奪ターイムのお時間だ。楽しみだな!なぁ盗子?」

「楽しめるかっ!懲りずに言うけどなんで“強奪”が前提なんだよ!」

「そ、そうだよ勇者君。先に大きな戦いが控えてるんだし、それまでは大人しく…ねぇ?」

「オーケー、二人で行って来い。」

「話を聞いてーー!!」


「…というのがお約束の流れなんですが、どなたかご質問のある方は?」

「も一回やろうか?」

「そ、その妙に慣れきった対応でわかったです。“拒んでも無意味”だと。」


 悟りきった賢二と盗子を見て、無職は抵抗を諦めた。


「ならば話が早い、行って来い我がしもべ達よ!」

「し、しのみんはしもべじゃないのだ!言うこと聞くいわれは無いのだ!」

「よっしゃー!頑張るぜ師匠ー!勝負だぜしのみん!」

「えっ?ま、負けないのだっ!」

「いや、勝つとか負けるとかの前に…」

「フッ…皆まで言うな、無職。」


船…無ぇな…。


 港は焼け野原だった。



「チッ、大魔王軍が各地で大暴れっつー噂は前からあったが、よもや船が全滅とはな…やれやれだ。というわけで賢二、魔法で船を出すがいい。」

「ごめん勇者君、魔法使いってそんなに便利な存在じゃないんだよ。」

「じゃあ盗子、尻から…」

「出せるかっ!!出したら出したでアンタそれに乗る気!?」


 想像したくもなかった。


「にしても、どうするです?この状況…ワチにはもうお手上げとしか思えないですが…」


「いやいや、残った船はあるよ。ま、少々いわく付きじゃがなぁ。」


 船の残骸の陰から謎の老人が現れた。

 なにやら情報を持っているようだ。


「む?なんだジジイ、情報アリか?よし、死にたくなくば話して死ぬがいい。」

「さっすが師匠!素直に教えそうな人をわざわざ脅すあたりが最高だぜー!」

「駄目なのだ怖いのだ!いわく付きとか絶対変なことが起きるのだ!」

「フン、いわく付きがなんだってんだ。そんなのもう慣れッ子だぞ。」


 勇者は人生がいわくまみれだった。


「狼煙でも上げてみるがいいよ。ほれ、よく見るとあそこに見えるじゃろう?」


 爺さんの指す方向を見ると、確かに遠くに一隻の船が見える。

 そして、見るからに怪しい雰囲気を醸し出している。


「ふむ…ジジイの話が確かなら普通の船ではなさそうだが…まぁこの際贅沢は言ってられん。というわけで賢二、魔法で呼び寄せるがいい。」

「ごめん勇者君、僕…基本的に防御魔法以外は時の運なんだ。」

「じゃあ盗子、尻から…」

「だから呼べないからっ!!アンタはアタシのお尻を何だと思ってんの!?」


 もちろんただの悪ふざけだった。


「よーし野郎ども!じゃあ喉が裂けるまで呼びまくれ!」

「オーイ!船さぁーん!聞こえたら来てほしいんだー!」

「しのみんも負けてはいられないのだ!オーイ!オーイお船さーん!」

「おい無職、お前も土男流他を見習え!声出せよ声!」

「いや、対岸から呼ぶとか無茶にも程が…」

「そうだよ勇者、そこそこ距離あるのに…」



「呼んだかーーい!?」



「って、ホントにキタですーー!?」

「てゆーか返事したーーー!!」


 謎の船が陽気に現れた。




呼んだらホントにやってきた謎の船。

まぁ船が返事するはずが無いので、中に誰かいるんだろうが…一体何者だろう?


「ま、そんなこと気にしてる場合じゃない…か。やっぱ大魔王の手の者か…?」

「そんな最悪な予感がしても乗るんだね…。まぁそうなるよね…」

「諦めよ賢二…」


 勇者一行が乗り込んだ途端、エンジン全開で沖へと走り出した謎の船。

 それもそのはず。島の陰から悪そうな装飾の漁船が現れ、追いかけてきたのだ。

 どうやらこの漁船は大魔王側ではないらしい。


「オイ盗子、状況はどうだ?邪魔な奴らはどうなった?」


 船首にいた勇者は、船尾で敵の様子を見ていた盗子に尋ねた。


「あ、うん。さっき賢二が一撃かましたから、今は随分向こうで止まってるよ。」

「いや、お前のことなんだが。」

「なんで未だ邪魔者扱い!?」


 その時、船内を探っていた土男流と忍美が甲板に出てきた。


「師匠ー!なんかおかしいんだー!船内のどこにも人がいないんだー!」

「そうなのだ!ロッカーにも引き出しにも茶筒の中にも!」

「いや、お前じゃあるまいし。」

「え、でも誰もいないって…じゃあなんで動いてるんだろ?」

「フン、馬鹿盗子め。そんなこと気にしてる場合じゃないだろ。武器とか積んでないのか?爆弾とかミサイルとか化学兵器とか…」

「あるわけないじゃん!どうみても漁船だよね!?」

「にしても解せんな…。さっきの賢二の魔法はそれなりの火力に見えたが、追ってはまだ…やはり妙だな。というわけで、なんか気になるから誰か聞いて来い。」

「えぇっ!?いや、なんでそんな無謀なことすんの!?わざわざ敵にとか…!」

「まずは一人か。盗子の他にはいないかー?」

「えっ!立候補じゃないよ今の!?」

「じゃあ私が行くんだー!師匠の期待には絶対に応えてみせるぜー!」

「しのみんも!しのみんも負けられないのだ!」

「し、仕事ならワチも逃げないですよ!チャンスは掴みにいくものです!」

「まぁ、言い出したら聞かないしね…。行けと言うなら泣きながら行くよ…僕…」

「えっ、意外にも賢二まで!?そ、そんな流れならアタシだって…!」


「どうぞどうぞ。」

「ええぇっ!?」


 伝統芸をパクッた。


「さぁ行ってこい盗子。安心しろ、骨も残らん。」

「せめて拾って!?せめて“骨は拾ってやる”と…!」

「ハァ…やれやれ仕方ないな。じゃあ俺が見てくるとするか。」

「えっ、マジで!?いいの!?」

「フッ、追う側だと思って油断してる奴らをビビらせるのもまた一興だ。」

「なにその感じ悪い動機!?」

「よし賢二、ちょっくら俺を〔砲撃〕で敵船に撃ち込んでくれ。軽く見てくる。」

「いや、その魔法はそんな使い方する魔法じゃ…」

「フッ安心しろ、経験済みだ。」


 勇者はかつて戦仕との一戦において、技の風圧で海を渡り海軍の船に乗り込んだ実績があった。


「え、じゃあホントにやっちゃうよ?後で怒らないでよ…ね?」


ズドォオオオオオン!


 賢二は〔砲撃〕を唱えた。


〔砲撃〕

 魔法士:LEVEL5の魔法(消費MP8)

 砲弾等を撃ちっ放す魔法。反動や着地の問題上、人間に使うとかそんな馬鹿な。


ヒュゥウウウウ~…



「お、オイ!なんだアレ…!?」

「ん…?ひ、人だ!人が飛んで…」


ズダンッ!


 追っ手の船の甲板に、見事着地した勇者。

 だが、かなりのスピードで突っ込んだため足へのダメージは避けられなかった。


「ぬぐぐっ…!クソッ!この俺に、これ程の痛みを…許さんぞ貴様らぁ!!」

「す、凄ぇ…こんな壮絶な八つ当たり、初めて見たぜ…!」

「うるさい黙りやがれ雑魚ど…む?オイお前ら、内臓がコンニチハしてるじゃないか。斬新なファッションにも程があるだろ。」


 船上の敵兵達は、どう見ても“動く死体”だった。


「フッ、驚いたか?そう、これは嗟嘆様の力を得て進化した、黒猫様の奥義!」

「そうか、『死体使い』の…。ってことは腹話術なんだろ?自分に“様”とか痛すぎるなオイ。」

「フッフッフ…違うさ!黒猫様はついに、『死体マスター』に昇格されたのだ!」


<死体マスター>

 『死体使い』の上級職。

 死体への憑依のみならず、複数の死体を遠隔操作することまで可能。

 遠隔操作された死体は、その脳の記憶を元に勝手に動く。


「やれやれ、悪趣味なことしやがる…。だがまぁ、不死身なだけで雑魚は雑魚…俺の敵ではないな。一瞬で倒し…」

「うふ☆相変わらず甘いのですね勇者様♪」

「やっぱりケーキみたいに甘いのですね勇者様☆」

「むっ、お前達は…!」


 どこかで聞いたことのある少女達の声に、勇者は振り返った。

 そこにいたのは…見たことのある顔だった。


「ワルツと♪」

「ポルカが♪」

「AVデビュー。」

「し、しないですぅーーー!!」


 懐かしの双子が現れた。



死体の群れの中から現れたのは、なんと帝都の武術会で会った双子だった。

一緒に天空城へと向かった兄丸や女闘は天空城でゾンビ化し、死体使いの手下になっていたのを斬った記憶があるが…この二人は見た感じ普通に生きてるように見える。一体どういうことだ?


「お前ら生きてたのか。確かに兄丸らの死体と戦った時には見なかったが。」

「あっ、それには秘密があるのです♪」

「あるのです☆」

「なるほど、殺される前に完全服従して難を逃れたというわけだな。雑魚め。」

「こ、困りました!この人勘が良すぎます!」

「見せ場泥棒は相変わらずです!」

「別に仲間と思ってたわけじゃないが…裏切られた感は否めんな。ムカつくぞ。」


 不機嫌そうな勇者。

 一方、ワルツとポルカは楽しそうだ。


「ウフフ☆生きるためなら♪」

「手段は問わない♪」

「それがこの俺!勇者様だーー!!」

「どうしましょう!やっぱり勝てる気がしません!」

「どうしましょう!どうしましょう!」

「…まったく、討伐しに行った相手側に寝返るとはクソみたいな奴らだな。」

「し、仕方ないのです!生きるためでした!」

「そうです!生き残るためでした!」

「だが、天空城を降りた今…逃げればいいんじゃないか?」

「ハッ!そういえばっ!」


 二人は揃ってお馬鹿だった。


「くっ、でも…一度外した人の道!」

「今さら戻れぬ人の道!」

「そうか?」

「なんてズ太い…!」

「さて…どうやら悪の道に堕ちたというよりただのアホのようだが、退く気無し…か。容赦する気はさらさら無い。貴様らも死ぬ気でかかってくるがいい!」


 勇者は短剣を構えた。


「ハイ!望むところです!」

「では、参りますっ!ワルツと♪」

「勇者が♪」

「ポルカを…えっ!?」

「死ねぇえええええええ!!」


 勇者の先制攻撃。

 ミス!船が大きく揺れて攻撃が逸れた。


「はわわ!揺れます揺れます~!」

「うわわ!化け物がぁ~~!!」

「こ、コイツは…!」


「グォオオオオオオオ!!」


 海中から海竜が現れた。

 かつて学園校時代に一戦交えた奴に似ている。


「チッ…!オイ、お前らでやれるか『バリン』と『ボリン』?」

「そんな咀嚼音みたく呼ばれても!」

「なんだか美味しくいただかれそう!」

「いいか、奴が口を開いたら危険だからな。あの『水流弾』…あんなの食らったら船ごとブッ飛ぶぞ。」

「その丁寧な前振りはまさか…!?」

「はうわー!やっぱり開こうとしてますー!」


 海竜はパックリと口を開けた。


「チッ、来るぞ…!」


 だが中から出てきたのは―――


「ぐぉーーー!」


「う…うぉおおおおおおおおお!?」



「あー、勇者君お元気?」



 なんと!なぜか口の中から姫が現れた。



例の如く読めないタイミングで現れた姫ちゃん。帝都で知らぬ間に別れて以来だからもういつぶりかもわからんが、相変わらず可愛いくてたまらない。

ふむ、こうなったら遊んでる暇は無い。すぐに戻って昼飯にしよう。大晩餐会だ!


「よし、じゃあ戻ろうか姫ちゃん。昼食には好きなものを用意する。何がいい?」

「とにかく丸焼きがいいよ。」

「オーケー任せろ、目の前に手配した!」

「ッ!!?」


 海竜は逃げないと危険だ。


「そ、そうはいかないのです勇者様!」

「お待ちください勇者様!」

「今の俺は上機嫌だ。見逃してやるから邪魔するなよ『バッド』と『エンド』。」

「ワルツです!」

「ポルカです!」

「さて、味付けはどうしたものか…」


 勇者はもう心ここにあらずだが、残念ながら双子は空気を読めていなかった。


「ピンチの次はチャンスあり♪」

「ですから今からこちらのターン♪」



「…あ゛ぁ?」



 ワルツは石化した。

 ポルカは石化した。


 勇者は悠然と立ち去った。

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