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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
156/196

【156】帝都奪還作戦(11)

 また一つ、因縁の戦いが終わった頃…最上階の頂上決戦もまた、終わりへ向かおうとしていた。


~帝城最上階:天帝の間~


「よっしゃー!魔人は全て倒したぞ!嬉しいぞー!父さん嬉しくて嬉しくてウワァーーン!」

「ど、どうしよう…。段々面倒なキャラになっていく…」

「ぐっ…ふぅ、まぁすまんが慣れてくれ大魔王。私もこれでも苦しんでるんだぜイェーイ!」

「全然そうは見えないけどね。」

「いやいや、そろそろ限界も近いし…終わりにしようか。あ、『終』ってのは父さんの奥さんで…」

「聞いてないし。でもまぁ、終わらせようって意見には賛成かな。」


 二人は改めて剣を構えた。


「ならば…いくぞ!燃え上がれ十字の炎、『十字放火クロスファイア』!!」

「いいねぇ!じゃあ僕は…『魔界深淵流』、奥義!『摩訶不思斬り』!!」


ズゴォオオオオン!!

ズガァアアアアアン!!

ドッゴォオオオオオオオオオオオン!!


 城への配慮は一切無かった。



ガッキィイイイイン!!


 その後も怪物同士の戦いはなんというか凄まじく、ドッカンドッカンもう大変。

 いい加減にしないと城が崩れそうな感じだった。


「ハァ、ハァ、参ったなぁ…。これが“人類最強”か…予想以上だったよ。」

「ふぅ…貴様こそ、この状況でまだ余裕があるように見える。父さん実は限界近いぞ?」

「だけど…」

「だが、しかし!」


 二人は同時に駆け出した。


「その首もらうぞ、大魔王!」

「じゃあ僕は、コレをあげるよ!」

「なっ!?」


 大魔王は剣を投げつけた。

 ミス!父は奇妙な動きで剣を避けた。


「ハッハー!舐めるな小僧!もらったぁ!!」

「…おっと、いいのかなぁ?」

「なっ…!?」


「むっ、親父…!」


 なんと!剣の行方には勇者がいた。


「うぉりゃああああ!!」

「えっ、スルー!?」


ズバシュッ!!


「ぐわあああああああ!?」


 父は躊躇せず斬った。

 大魔王に会心の一撃!



不覚にも占い師の野郎に逃げられ、仕方なく最上階へと向かうと、そこでは親父が大魔王と戦っていた。

着いた途端に剣が飛んできて少々ビビッたが、驚異的な反射神経で避けた俺はさすがだ。


「ぐっはぁ…!な、なんで…?普通、親なら…子をかばうでしょ…?」

「フッ、我が子なら絶対避けられる…父さんは信じていたのさ。」

「フン、親父が俺をかばう?全く信じられん話だ。」

「か、噛みあって…ない…!」


 大魔王は片ヒザをついた。


「よし、じゃあ最後は俺がトドメを刺してハッピーエンドだな!」

「いやちょっと待て勇者、今は父さん史上最大の見せ場だと思う。」

「…フン、まぁいい。トドメは是非とも俺が刺したいところだったが…仕方なく譲ってやる。ありがたく思うがいい。」

「いや、お前何もしてな…まぁいいか。さて…じゃあ改めましてこんばんは!今度こそ父さんが貴様を葬るぜヒャッホーー!」

「やっぱり代われ親父!貴様じゃ台無しだ!」

「ハァ、ハァ…ねぇ、いいのそんなにのんびりしてて?機を逃しちゃうよ?」

「フッ、安心しろ。仮に呼んだとて助けは来んよ。ではサラバだ、大魔王よ!」


ドスッ!


 なんと!父は背後から刺された。

 直前に変なフラグを立てたせいだ。


「なっ、馬鹿…な…!人の気配など…無かった…はず…!」

「お、俺じゃないぞ!?」

「勇者…さすがにこれはちょっと…」

「いやマジで!突然あっちから剣が…!」


 信じられないのも無理はなかった。

 しかし、本当に勇者の仕業でないことは…この後すぐに明らかになる。


「…ハハハッ、やってやったぜ!ざまぁみろ『勇者』よ!ハッハッハー!!」

「な…なぜ貴様が…!?」


「待ちわびたぜ…この時を!!」


 なんと!死んだはずの『暗黒神:嗟嘆』が現れた。

 しぶといにも程があった。


「ば、馬鹿な…!貴様はこの俺が、最後に何度もブッ刺して死んだのを確認したはず…」

「うぐっ、勇者…」

「お、オイ親父!親父大丈夫か!?チクショウ、こんなことなら…!」

「ぐふっ!だ、大丈夫だ勇者…心配するな。」

「こんなことなら、もっと保険金を…!」

「と、父さんは心配になってきたぞ。特に“もっと”ってとこに…」


 知りたくない事実だった。


「いや~、これはまた意外なお客さんだねぇ。僕も驚いちゃったよ。」

「ケッ、テメェに組する気はねぇよ。たまたま利害が一致しただけだ。」


 五百年振りの再会となる大魔王と暗黒神だが、見たところ二人の仲は良くないようだ。

 しかし、勇者が気になったのはそこではなかった。


「ニオうな…」

「フッ、違うぞ勇者。これはむしろ、ほとばしる大人の魅力だ!」

「いや、加齢臭的な話じゃねーよ!そもそも親父じゃなく…暗黒神、貴様だ!」

「あぁ?何の話だ…小僧?」

「貴様からは、薄っすらだが腐臭がしやがる。テメェ…『死体使い』だな?」


 キッ!と暗黒神を睨みつける勇者。

 暗黒神は少し考えたが、誤魔化すのはやめたようだ。


「…フン、勘の鋭い小僧よ。」


「そうか、そいつの死体に乗り移り脱出したわけか…。ウザいにも程があるなジジイ…確か名は『黒猫』だったか。」

「損傷が激しく一時危なかったが、さすがは嗟嘆様…素晴らしい肉体だよ。」

「あ~、暗黒神じゃないんだね。じゃあもしかして、僕らの仲間になってもらえたり?」

「断る…と言いたいところだが、いいだろう。持つ力は大きいほど良い。」


 困ったことに、また一人強敵が増えてしまったようだ。


「決まりだね。んじゃ、行こうか。ハァ~やっぱ夜玄の言う通りだったなぁ~。」

「夜玄…あの占い師か?奴が何だって?」


 勇者の問いに、大魔王は窓際に立って答えた。


「終焉の時は今じゃないってさ。決戦は最初の予定通り、秋!また会おう!」


ガシャァン!


 大魔王達は窓の外に消えた。



「チッ、待ちやがれクソが…!」

「待て勇者!父さんを…父さんを一人にしたら、泣いちゃうんだからネッ!」

「こんな時に副作用か!ちっとはTPOをわきまえやがれ面倒な奴め!」

「…今のお前じゃまだ勝てん。決戦の時に向け、これから父さんと遊ぼっ☆」

「ぐっ…!」


 勇者は怒りの矛先が変わった。


「…ふぅ~、まぁいい。親父も手負いだし、俺一人で二人を相手にするのはどのみちキツかったしな。さて、じゃあ俺らも戻るとするか親父。」

「いや、先に帰っていてくれ。父さんにはまだやることがあってな。」

「やることだと?何言ってやがるんだそんな体で…」

「いや、財宝を漁りに。」

「ゆ、『勇者』の鑑だなお前…」

「この帝城は、想い出深き場所でな。少し…見て回りたいのだよ、久々に。」

「フン、まぁいい。今後の作戦を練るんだ、晩飯前には戻ってこいよな。」

「…ああ。」


 勇者は去っていった。



「ふむ…前にもこんな感じで、勇者を見送ったことがあった気がするな…。父さん空気を読むのは苦手だが、気配を読むのは得意なんだ。そろそろ出てこないか?」


「…さすがだなぁ人類最強。存在感消すのは自信あったんだけどなぁ~。」


 父が語りかけると、怪しげなマントを羽織った男が現れた。


「何者だ貴様は?とりあえず名を名乗るがいい。」

「名前かぁ、そうだなぁ…色々あるが…」


「まぁ、『マジーン』でいいわ。」


 その晩、父が戻ることはなかった。




最上階から一気に下ると、戦闘の跡は見られたが、敵も味方も誰もいなかった。

どうやら今回の戦いはこれで終わったらしい。ふむ…俺、ほとんど何もしてねぇ。


「というわけで、とりあえず生存確認をしようと思う。」


 夜。生き残りを酒場に集めた勇者。

 次の戦いに備え、まずは情報の整理が必要だった。


「じゃあ点呼するぞ!番号ぉー!」

「イーーチ!」

「ニィーーなのだー!」

「サーーンだぜ師匠ー!」

「チッ、一人か…」


 盗子、忍美は華麗に無視され、土男流だけがカウントされた。


「うわーん!いくら敵だったとはいえ無視はあんまりなのだー!」

「いや、ず~っと一緒なのに無視されたアタシの方が酷くない!?」

「で?賢二よ、暗殺美はどうした?」

「あ、彼女は傷が深かったからまだ眠ってるよ。今は命に別状はないけどね。」

「ワチもいるですけど、太郎さんと愉快なお仲間達は…その…」

「えっ!ま、まさか死……逃げました?」

「ええ…」

「やっぱり…」

「チッ!やれやれ、思ったよりも厳しいな…。こりゃ、滅んだな世界。」


 勇者は希望が見えない。



その後聞いた皆の話を総合すると、大魔王、帝雅、夜玄、竜神、女神の死は確認できていない。暗黒神も加わりやがったし…相変わらず強大な戦力だと言える。

それに引き換え、こちらの生き残りはどう考えても雑魚ばかり。これでどう戦えというんだ。

大魔王が言うには、やはり最後の決戦は秋…今は夏だから、そう長くもない。時間は無い。

これまでは、ピンチには強い誰かが助けに来たが…もうみんな死んだ。今後は誰も来ない。

これからが本当の俺達の戦いとなる。“守られる側”じゃない、“守る側”の…


いや、“やられる側”の…?


 やっぱり希望が見えない。




数日後、旅立ちの準備は済ませた俺だったが、まだまだ不安は消えずにいた。

敵は恐らく本拠地…メジ大陸で待ち構えているはず。ならばとりあえず向かっておこう。

だが、今の戦力で勝てる相手とは到底思えない。それを補う手段も思いつかん。


「ま、なるようになるか…いや、ならないか…やれやれ…」


 相変わらず希望を見出せず、勇者が港で途方に暮れていると、旅支度を整えた盗子が現れた。


「おっはよー勇者!いよいよ出発だね~なんか緊張するねー!」

「よぉ盗子、今日も朝から絶望的な顔面だな。頑張れ。」

「うっさいよ!もうじき死んじゃうかもって状況なのに、なんで相変わらず手厳しいの!?」


「あ、おはよう勇者君。いよいよだね…でも大丈夫!ちゃんと遺書も書いたし…」

「よぉ賢二、いつ見ても清々しい諦めっぷりだな。なんか逆に頼もしいぞ。」

「アハハ…まぁ今度ばかりは、本物になるかも…しれないけどね…」

「賢二…」


 賢二は覚悟が決まっているのかいないのかわからない微妙な顔をしている。


「ねぇ勇者、希望は…あるんだよね?これで終わりじゃ…ないよね?」

「盗子…」


 盗子も凄まじく不安そうだ。

 しかし…勇者はやはり、相変わらず勇者だった。


「フッ…ああ、終わらない!俺達の未来は、希望で満ちている!そう―――」




俺達の戦いは、まだ始まったばかりだ!




 こうして勇者は歩き出した。


 あてどない、遥かなる旅路を…




〔キャスト〕


 勇者

 賢二

 盗子

 姫

 :



「えっ!ちょ、ちょっと待って!なにこの“打ち切り”みたいな感じ!?」

「いや、もう心が折れたし。」


 勇者は“無”の顔になっている。


「が、頑張ろうよ勇者君!ここまできてうやむやってあんまりだよ…?」

「そうだよ勇者!やってみなくちゃわかんないじゃん!ね!?」


 思わず励ます側に回ってしまった二人。

 知らぬ間に立場が逆転していた。


「フン、やらんでもわかるさ…」

「勇者…」

「最後は絶対、この俺が勝つってことはなぁ!!」

「ゆ、勇者…!?」

「フン、貴様らごときに心配されるようになったらそれこそ世も末だぜ。」

「じゃあ…!」

「ああ、行くぞメジ大陸。そして当然、大魔王をブッた斬る!」


 勇者は調子が戻ってきた。


「つーかヒロイン不在でエンディングとかありえんだろ?結局遊園地にも来なかったし…とりあえず姫ちゃんを探すぞ。それだけでも旅立つ理由としては十分だ。」

「僕はそっちの方が難易度高いと思うけどね…」



「よし、じゃあ行くぞお前達!そして世界を、面白おかしく変えるんだ!!」


「オォッ!!」



 勇者は再び歩き出した。

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