【155】帝都奪還作戦(10)
ズッガァアアアアアアアン!!
帝城十階『舞踏の間』では、盗子に拒絶され、ブチ切れた帝雅が大暴れ中。
どう考えても勝ち目は無いので、盗子も賢二もとにかく必死で逃げるしかない。
「うっぎゃー!怖いよ痛いよ頭ぶつけたよー!」
「と、盗子さん!頭大丈夫!?」
「誤解を生む言い方はヤメてっ!」
「ほぉ、予想以上に素早いじゃないか我が娘よ…。嬉しさのあまりお前を殺す!」
「ぎゃ、虐待反対ー!おっかないの反対ー!」
「ならば私を父と呼ぶか!?父の愛に包まれつつ父を愛して生きるか!?」
「それはノーサンキュー!」
「ならばやはり死ねぇえええええ!!受けるがいい、『帝王百虎撃』!!」
「今のアタシは、これまでとは違うんだから!今日は、アタシが…アタシが頑張るんだから!」
なんと!盗子は攻撃を避けた。
「ぎゃーーー!!」
「わー!賢二ーー!!」
だが賢二に直撃した。
「やれやれ、逃げ足はなかなかだが…それだけか。残念だが、お前に勝てる力は無い。」
「とか思ったら大間違いだよっ!食らえっ、『暴走演舞:斬り斬り舞』!」
チュインチュイィン!
「チッ、『舞士』の技か…器用なマネを…!」
「跳んだね!?空中じゃ避けられないよっ、いっちゃえ〔炎殺〕!」
「なっ、魔法までだと…!?ハァアアッ!!」
帝雅はマントを翻して炎を弾いた。
「『舞士』の演舞に魔法…お前、職業は何だ?」
「フンッ、『ヒロイン』だよっ!!」
盗子は調子に乗った。
バシィイイイイン!
帝雅は盗子の頬を引っ叩いた。
「イッターーイ!はたかれたー!お父ちゃんにもぶたれたことないのにー!」
「私が父だぁあああああああ!!」
「くぅ…!やっぱし…中途半端な技じゃ、全然意味ないみたいだね…」
「やっと気づいたか塔子。ならばどうする?もう一度だけチャンスをやろう。」
「…とっておきの技で、アンタを倒す!!」
盗子は一瞬悩んでから吠えた。
「どうやら、説得は無意味なようだな…。だが、私を討てる技など存在しない。」
「フン、あるよアタシは知ってるよ。なんでも斬れる…必殺の技をねっ!」
盗子は妙な構えをとった。
それはかつて、『技盗士』としての師であるソボーが、首無し族との一戦で見せた『渾身抜刀流』奥義の構えだった。
「えっ、そんな隠し玉が!?でも盗子さん、じゃあなんで今まで…あ、高確率で失敗するとか?」
「ううん…これまでは失敗したことないよ…前の、二回は。」
「てことは…!」
「でも!“三回”使ったら死んじゃう呪われた技なんだよ!アタシ…アタシまだ、死にたくなグエッ!!」
帝雅の一撃!
盗子は鮮やかに宙を舞った。
「ぶっはぁ…!!」
「覚悟無き者には戦う資格すらない。全てを諦め…そして眠るがいい。」
「う、うぐぅ…」
かなりのダメージを負った盗子。
起き上がろうにも膝が大爆笑でうまく立てない。
「ぐふっ…や、ヤだよ…。アタシには、まだ生きてやりたいことが…山ほど…!」
「諦めなさい。願って叶う願いなど、一握りだけだ。全ては無駄なのだよ。」
「そ、そんなことないですよ!願えばきっと何だって…!」
賢二は珍しく前向きに励ました。
「じゃあ勇者の恋人に…!」
「いや、それは無理かと。」
賢二は冷静に斬った。
その後、非情な帝雅によりさらにボッコボコにされた盗子。
賢二も防御魔法で援護したが、全てを防ぎきれるものではなかった。
「ご、ごめん盗子さん!治療しながらじゃ、今くらいのが限界で…!」
「ぐふっ…ねぇお父…アンタ、アタシらをやっつけて…その後はどうすんの?」
「む?私の目的はお前だけだった。ならば後は…全てを滅ぼすしかないだろう。」
「す、全てを…ってことは、じゃあみんな…死んじゃうんだね…」
「そう、敵も味方も老若男女もない!全てだっ!フハハハハハハハハッ!!」
「く、狂ってるよ…!」
「わかったら逃げるのをやめなさい。死して我が内で、永遠に生きるがいい!」
帝雅は力を溜め始めた。
動くなら今しかない。
「に、逃げよう盗子さん!これ以上は…」
「…あのさ賢二、勇者に会ったら言っといて。」
「え…?」
盗子は帝雅に向かって走り出した。
「大好きだった…ってさ☆」
「ちょっ、盗…」
「さらば娘よ!これが父としてできる、最初で最後の教育だぁあああああ!!」
「いっくよぉ~~~!!」
「『カル死ウム不足』!!」
バイバイ盗子。
「ッ!!?」
目が覚めると、俺は親父と戦った部屋に転がっていた。そうか俺は負けたのか…。
いや、違う。まだ本調子じゃないからだ。だからこれをカウントに含める必要は無い。
~帝城二十階:展望の間~
「というわけで、貴様を殺して仕切り直そうと思う。覚悟するがいい。」
「…いえ、やめておきます。私の占いでは、今はまだ…その時ではないと出ているのでね。」
父と対峙した『閑散の間』から駆け上がること五階。そこで勇者が遭遇したのは『占い師:夜玄』。
どうやら苦怨との一戦を制したのは、彼の方だったようだ。
「占いもクソもない。貴様には騙されてたわけだしなぁクソ執事。ムカつくから殺す。」
「大義のためなら手段は問わない…アナタならわかると思うのですが?」
「じゃあなんとなく殺す。」
「こ、困りましたね…」
「俺は何でも許されるが貴様は駄目だ。さぁ、大人しく刀のサビとなるがいい。」
「やれやれ、仕方ない…少々、お相手しましょうか。」
一方その頃、盗子と帝雅の一戦は―――
ポタッ、ポタッ…
「ぐ…ぐぉ…!ぐぉおおおおおおおお!ぬぉおおおおおおおおおお!!」
滴る血。落ちた右腕。悶絶する帝雅。
「命を賭して、我が右腕を奪ったか…!命懸けで、腕ごときを…!」
「な、なんで…なんでなの…?」
盗子は呆然としている。
だがその目線の先にいるのは、帝雅ではなかった。
「なんでなの!?ソボー!!」
「…ケッ。相変わらず…うざってぇクソジャリだなぁオイ。」
なんと!ソボーが現れた。
技を使ったのは盗子ではなくソボーだった。
「まさか、生きていたとはな宇宙海賊よ。見事一矢報いたというわけか…」
「安心しろやぁ。あの技ぁ三回使った呪いで俺様がくたばるまでにゃあ、まだ間がある。ちゃんと殺してやらぁ。」
「そ、ソボー!」
「テメーをなぁ!!」
「なんで目線こっちなの!?」
恒例の流れだった。
「あ…ありがとうソボー!助けに来てくれたんだね!命まで…懸けて…!」
「あ゛?勘違いしてんじゃねぇクソジャリ。俺・様・自・身の、復讐のために決まってんだろうが。」
先ほどの会話からも、ソボーと帝雅の二人になんらかの因縁があるのは明らかだった。
「う゛ぅ…そ、そういえば前に言ってたよね復讐とか。確か左腕と顔の…」
「…と、“娘”の…だろう?」
「ッ!!!」
ソボーはこれまで見せたことがない顔を見せた。
「えっ、娘!?そんな話アタシは全然…」
「そうか、復讐を完璧に果たすため…私と塔子を引き合わせたというわけか。」
「えぇっ!?じゃあ殺されちゃうのアタシ!?今ここで!?」
「フッ…あぁ、このジャリがテメェのガキと知った時ぁ、震えたぜぇ皇帝?」
「ひぃいいいいいい!」
「…だが、違ぇんだわ。全然違ぇよ…コイツは、テメェのガキじゃねぇ。」
「そ、ソボー…?」
「クソ弱ぇし。」
「そーゆー意味!?」
だが説得力はあった。
「さ~て、じゃあやるとしようかぁ…時間も無ぇことだしよぉ。」
「なぜだ海賊よ、なぜ塔子を助けようとする?まさか自分の娘に重ねたか?」
「あ゛ぁん!?無礼なこと抜かしてんじゃねぇぞクソがぁ!こんなブッサイクと似てるわけねぇだろうがぁ!」
「いや、無礼はどっちだよ!?アンタも相当だブヘッ!痛ぁ…!」
ソボーはいつも通りの一撃を叩き込んだ。
「見ての通り、守る気なんざサラサラ無ぇ。俺はただ、テメェを殺してぇ…それだけだ。」
「そうか、ならば決着を付けるとしよう。早めに止血をせねば、さすがの私も危ういしな。」
「おいクソジャリィ、テメェは邪魔だぁ…とっとと失せろやぁ。」
「えっ!?で、でも…!」
「どうせ呪いで死ぬ身だ…最期の記憶にテメェがいちゃ、あんまりだろぉ?」
「そのセリフの方があんまりだブハッ!だからなんでグーなの!?」
半泣きの盗子の訴えを当然のように無視しつつ、ソボーは叫んだ。
「さぁ行けぇ!五秒以内に失せねぇとブッ殺すぞぉ!」
「えっ、あっ、でも…」
「ゼロッ!!」
「数えて!!」
盗子はダッシュで逃げた。
邪魔な盗子達を追い出し、そしてソボーと帝雅の一騎打ちが幕を開けた。
「やれやれ、やぁっと邪魔くせぇのが消えた…せーせーしたぜぇ。なぁオイ?」
「同意を求めるな。にしても貴様…やはり重ねていたのだな?塔子と娘を…」
「ケッ、だから全然似てねぇっつったろぉ?俺様のガキを、あんなブサイクと一緒にすんなやぁ。」
「一度ならず二度までも…。実の親を前に、娘を愚弄するか貴様…!」
「…だがまぁ、ガキなんて似たようなモンかもなぁ。ギャーギャーギャーギャーうるせぇしよぉ、ったく…」
「結局似てるのか似てないのかどっちなんだ。」
「殴られても蹴られても、家臣すら怯える俺様の周りを…ウロチョロとよぉ。」
「オイ貴様…私を無視するな。」
「ったく、ウゼェったらねぇよなぁ…。ウザすぎて、調子が狂っちまうわぁ。」
「む…無視するなぁあああああああ!!」
「二度と会いたくねぇ…地獄まで追ってきやがったら、殺すぜぇ…?盗子ぉ…!」
ジャッキィイイイン!!
激しいバトルはしばらく続き、そして唐突に止んだ。