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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
154/196

【154】帝都奪還作戦(9)

 次第にクライマックスに近づいてきた感が高まる中、最上階では…今まさに“最強対決”が始まろうとした。


~帝城最上階:天帝の間~


「…あらら、なんか…期待してたのと違うのが来ちゃったみたいだねぇ。」

「おっと、言葉を選んでもらおうか。この私を誰だと思っている?」


 大魔王と対峙するのは、勇者と解樹を倒し一人最上階へと向かった勇者父。

 シリアスモードの限界前に勝負を決めたいところ。


「ん~、全然知らないから教えてほしいんだけど。」

「私は、こう見えて意外と繊細な男…父さんだ!邪険に扱うと泣いちゃうぞ?」


 早くも限界なのかもしれない。


「言葉を選べってそういう意味とは思わなかったよ…。ふざけてるの?」

「すまんが慣れてくれ。」

「なんかよくわかんないけど、アンタが相手なわけね。いいよ遊んであげる。」

「手加減はせんぞ小僧よ。全力で貴様を、闇に葬ることにしよう。見るがいい!」


 父は〔一騎当千〕を唱えた。

 父は光のオーラに包まれた。


〔一騎当千〕

 勇者:LEVEL90の魔法(消費MP1000)

 凄まじく強くなった気になれる究極の魔法。とにかく色々キラキラ光る。


「なっ…馬鹿な、この僕が…冷や汗を…!?」

「これでも“人類最強”と謳われた身…この私を越える人間は、存在せんぞ?」

「…フッ、面白いね。じゃあ遊ぼうか…全力で!」


 主人公そっちのけでいいのか。




 その頃、賢二のお株を奪う感じで空から降ってきた盗子は―――


~帝城七階:廊下~


「う゛ぅ~痛いぃ~!でも生きてて良かったよぉ~!」

「ちょっ、なんでアンタが空から降ってくんねん!?って、そういやタレ目は…」

「アタタタ…!あれ…?えっと、僕は一体…?」


 盗子が激突したショックで、賢二は正気に戻ってしまったようだ。


「あっちゃー!アンタのせいでタレ目も元に戻ってもたやんか!最悪やー!」

「ぐぉっ…し、死ぬぅ…」

「わー!あ、暗殺美さん!?その傷…ま、任せて!僕がなんとかするよ!」

「キャッ!さ、触んなさ!乙女の胸を触ろうとか…このド変態めさ…!」

「え!だ、大丈夫!よくわからなかったし!」

「ぐわっ…!」


 賢二はえげつない精神攻撃を叩きこんだ。


「…なにやら興がそがれてしまったな。とても好ましくない空気だ。」

「うわっ、なにアイツ!?見るからに悪人じゃん!敵?ねぇやっぱ敵!?」

「アンタの親。」

「え…?あ、な~んだ親か~。親ならまぁ…って、えぇっ!?親ぁ!?」

「なっ…!?」


 盗子と帝雅は顔を見合わせた。


「ちょっ…え?親って…マジで?いや、でもアタシは…え?え?」

「ほ、ホントなの商南さん…?盗子さんの父親ってことは、天帝の…?」

「そーらしいでぇ、敵さんいわくなぁ。」


「娘…ではこの娘が、我が子『塔子』…だと…?」


 思いがけぬ父子の再会に、戸惑う帝雅。

 この先の流れは大体想像がついた。


「ふざけるな!こんなブサイクが…!ってな流れやねコレ。」

「そ、そうだよね…いつもなら…」


「あ…会いたかったぞ、娘よ!!」


 帝雅は盗子を抱きしめた。

 予想外のリアクションに全員がビックリした。


「ま、待ってよ順応早すぎじゃない!?そんなの急に認められるわけ…!」

「認めるもなにもない。母親に…皇子によく似ている。間違いないじゃないか。」

「で、でもそんな…急に親とか…!しかも敵だなんて…」

「敵?そんなことがあるわけないじゃないか。お前は…私が幸せにする。」


 新手のドッキリか何かか。


「ところで盗子アンタ、何がどうなって今に至んねん?説明してほしいわ。」

「あ、うん。『天帝の試練』ってのを受けて、んで勢いでちょっと飛ばされて…」

「あのスピードで飛ばされるんを“ちょっと”や言うてまうあたり、アンタも大概やな。」


 不幸に慣れすぎだった。


「おぉ、その歳で試練を越えたのか素晴らしい!さすがは我が娘よ!」

(言えない…三年も待てなくて途中で逃げてきただなんて言えない…)

「ん~でもまぁアレやな、敵やのうなるんやったらもう安心(ドスッ!)…へ?」


 痛恨の一撃!

 商南の腹にグサリと一撃。


「な…なんやねんコレ…?どないや…ねん…ぐふっ!」

「あ、商南ぁ!?どーゆーこと!?味方になってくれるんじゃなかったの!?」

「勘違いしてはいけない。私は塔子の味方…だが、他の者はみな敵だ。」


 残念ながら事態は好転していなかった。

 それどころか、商南は今にも死にそうな感じだ。


「くふっ…ハァ、参ったわ、油断したわホンマ…情けな…」

「ちょっ、動いちゃダメだよ大怪我なんだから!死んじゃうってマジで!」

「あん?まぁ大丈夫やろちょっとくらい動い…あ、腸出てきた。」

「えっ!?うっぎゃー!ホントに出てるぅーー!!」

(パクッ)

「しかも食ったーー!!」

「アハハ、『ソーセージ』やがな。『商人』舐めるなや?ホンマ…アンタは…アホやなぁ…」

「この状況でそのギャグはあんまりだよ!ビビるよそりゃ!」

「アホかボケ…。ウチごときで参ってたら…“アイツ”の相手は務まらんでぇ?」

「へ?アイツ…?」

「せいぜい死ぬまで突っ込んだり。アイツには、アンタが必要や。アンタがな!」


 商南は帝雅に向かって走り出した。


「あ、商南!?アンタ何を…!?」

「上や盗子!行けば勇者がおる!あとタレ目、暗殺美は任したでぇ!?」

「商南さん…!?」


「最後の商いや、ごっつ豪勢に…大盤振る舞いでいったるわぁ!!」


 ド派手な閉店セールが始まる。



「やれやれ…憐れなものだ。貴様ごとき小娘が、私に歯向かおうとはなぁ。」

「最後が足止め係ってのはウチとしても不本意やがなぁ、まぁしゃーないわ。」

「足止め…できるとでも?」

「盗子にはな…好きな奴がおんねん。」

「…き、聞こうか。」


 商南の方が一枚上手だった。


「ハハッ、チョロすぎて笑けてくるわ!さぁ砕けていでよ、『幻獣玉』×5!!」


<幻獣玉>

 『武具玉』と同系統の道具で、希少種の魔獣を封じ込めた宝玉。

 あまりに高額であるため、ハズレを引いた時の絶望感は半端無い。


「高すぎて今まで使わんかってんけど…もう、要らんしなぁ!いったれぇ!!」

「グルァアアアアアア!!」


 凄まじく強そうな魔獣が五体現れた。

 それを見てさすがの帝雅も顔色が変わった。


「なっ、稀に見る高位の魔獣を五体も…なんたる強運だ…!」

「グォオオオオオオオ!!」


「ふぅ…これでまぁ、足止めにはなるやろ…。後は、アンタがやれや…勇者…」


 薄れゆく意識の中、商南は帝雅と魔獣の戦いをぼんやりと眺めていた。


「舐めるな畜生風情が!この『皇帝』に逆らうことは、神にとて許されぬ!」


「にしても…まったく、大損やで…。アイツには…貸しばっかりやったわ…」


「グルァアアアアアア!!」

「死ねぇえええええええええええ!!」


 商南の耳には、もはや何も聴こえてはいなかった。



「でも…ま…ええか…。それなりに…楽しい旅やったし…な………」



 想い出はプライスレスだった。




 商南が静かにくたばった頃、最上階の父は四体の魔人に囲まれていた。

 だがその戦闘は、あまりに一方的なものだった。


「ぐぉおおおおおおお!!」

「うっぎゃあああああ!!」

「ハッハッハー!食らえ『父さんハリケーン』!そして『父さんトルネード・タイフーン』!」

「く、区別がつかない゛っ!!」

「さらには『父さんドメスティック・バイオレンス』!」

「いや、それは家でやっブホッ!!」


 父は魔人A~Dを豪快にブッ倒した。

 一見ふざけているようにしか見えないが、大魔王はしっかりその脅威を感じ取っていた。


「ま、参ったね…。結構強い奴らを見繕ったはずなんだけどなぁ。」

「オイオイ、話が違うじゃないか大魔王。他人に頼る子は父さん嫌いだぞ?」

「いや~、アンタ強くてさぁ。傷も開いちゃったしちょっと休ませてよ。」

「フン、悪いが好機を見逃すほど私はお人よしではない!五分だけだぞ?」

「…な~んかムカつくねぇその余裕顔。もしかして僕、舐められちゃってる?」

「残念ながら、誰からも教わっていないのだよ。“敗北”と…“常識”はなぁ。」


 後者は恥じろ。




「こ、ここは…?なんかデッカイ戦いが終わった後っぽいけど…」


~帝城十階:舞踏の間~


 全力で逃げ、戦仕が苦怨らと戦っていた部屋まで辿り着いた盗子達。

 そこでは苦怨と夜玄の仲間割れが始まっていたはずだが、すでに二人の姿は無かった。


「ちょ、ちょっと休もう盗子さん!そろそろ治療に戻らないと暗殺美さんが…!」


 賢二の背に揺られる暗殺美は、一命は取り留めたものの未だ重傷だった。


「あっ、そ、そだね!でも…知らぬ間に回復魔法も使えんだね賢二ってば。」

「あ、うん。二人のお師匠様に、色々と叩き込まれたからね。」

「へ~、そなんだ~。で?どんなお師匠さん達だったの?」

「えっと、“ストーカー”と…“ド変態”?」

「…逃げた方がいいのかなアタシ?」

「あ、そういえば盗子さんも試練とか凄いよね!今はもう『天帝』なの?」

「いや、実は試練の途中でその…。だからおあずけ…かなぁ?」

「そうなんだ…。なんか安心した僕がいてごめんね。」

「ううん。アタシもアンタがまっとうに成長したと思ってメッチャ焦ったし、おあいこだよ。」

「アハハ、じゃあお互い様だね~。」

「そだね!アハハハ☆」


 二人は現実から目を背けた。



「ところで賢二、どうなの暗殺美の容態は?なんとか…なりそう?」

「あ、うん。治療に専念できればなんとかね。でも敵が来たら…アウトかな…」

「や、やめてよそういうフラグ立て…」


「おぉ、待っていたのか塔子。」


 当然のように悪い予感は当たり、帝雅が現れた。


「ハイやっぱりキターー!って、アンタがいるってことは…商南は…!?」

「フッ…まぁ敵ながら、アッパレな最期だったと言えるかな。」

「ッ!!お、鬼!鬼ぃーー!!アンタなんか…絶対お父ちゃんじゃないよっ!」


 商南の死を知らされ、激高する盗子。


「と、盗子さん!僕…」

「任せて賢二!こんな奴、アタシがブッ倒してやるんだから!」

「すぐ逃げるね!」

「信じてっ!!」


 無理もない判断だった。


「アンタのことは、絶対許さないよ!よくも…よくもアタシの仲間を…!」

「やれやれ、何を悲しむ?私とお前以外、世界にとっては不要な存在だろう?」

「うっさいよ異常者!アタシは親とか絶対認めないよウザッ!嫌い大っ嫌い!」


「…ぜだ…」

「ハァ?何言ってんの全然聞こえな」


「なぁああああああああああぜだぁあああああああああああああああ!!」


 帝雅はキャラが一変した。

 盗子は軽くチビッた。


「なぜだ…なぜ私を拒絶する!?なぜお前は…なぜ“お前達”は…!!」

「いや、ちょ、落ち着いて!しかもなぜ複数形!?」

「…殺す。」

「えぇっ!?」


「手に入らぬのならば…殺すっ!!」


 真の『父さんDV』が始まる。

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