【153】帝都奪還作戦(8)
帝城のちょうど半分…十五階にある、やけに静かな部屋。そこにいたのは、やけに静かな親父。
あの親父がこんなに大人しくしていられるはずがない。きっと、何かある。
~帝城十五階:閑散の間~
「よぉクソ親父。しばらく見かけんとは思っていたが、敵となって現れるとはなぁオイ。」
「悪いな勇者、もはや私は…お前の知る父ではない。どうだ悲しかろう?」
「死ぬほどどうでもいい。」
「父さん悲しい…」
勇者、先制の口撃!
「ふむ、どうやら別人ってわけでもなさそうだ。となると…誰の差し金だ?フッ、いい勘してるじゃねぇか…勇者。そう言って解樹が現れるわけだな?」
「フッ、いい勘…え゛ぇっ!?」
勇者は見せ場を奪った。
解樹は出鼻を挫かれた。
「お?なんだ本当にいやがったのか、このクソじゅじゅちゅ師め。」
「チッ、まさか当てずっぽうとはなぁ。黙ってりゃバレなかったのかよ…」
「いや?そうでもないさ。“呪い”か何かの影響でもなけりゃ、こんな親父は説明がつかんしな。」
「そういうお前も、ここにいるってことは…手に入れたんだな?『断末魔』を。」
断末魔が目当ての解樹は、ニヤリと笑みを浮かべている。
「フン、さあな。全く自覚が無いからよくわからん。」
「それは育ちのせいじゃねぇのか…?」
「失敬な!父さんは清く正しく優しく育てたかった!」
「どっちが失敬だよ!なんだ貴様ら、この俺の性格が歪んでるってのか!?」
「いや、歪みなく悪の方面まっしぐらだろ。」
「オーケー解樹、まずは貴様から殺す!」
「おっと、いいのか?俺が死んだら…テメェの親父は解放されないぜ?」
「…ん?」
「な、なんだよその“え、だから?”ってな顔は…?」
勇者は“え、だから?”という顔をしている。
「フン、まぁいい。望みとあらばまずは親父から…血祭りに上げてやろう。」
「フッ、来い…勇者!」
壮絶な親子喧嘩が始まる。
「ま、普段はただのクソ親父だが…一度は本気で手合わせしてみたかった相手だ。この機会に乗じるのも悪くない。が…その前に一つだけ教えろ解樹、親父にかけた呪いは何だ?」
「ん?あぁ、名は『生真面目』…おフザけが許されねっつー厄介な呪いだよ。」
「それ解かない方がいいやつじゃないか…?」
むしろ薬の類だった。
「妙に晴れやかな気分だよ勇者。父さんまるで悪い夢から覚めたようだ。」
「悪いな親父。これから貴様は、再び悪夢を見ることになるだろう。」
「仕向けといてなんだが、親子の会話じゃねぇな…」
「さぁ抜けぃ親父!だが半端な剣ではこの『魔神の剣』には勝てんぞ!?」
「フッ…確かにな。では私は呼ぶとしよう、我が最強の武器となる相棒…私の『契約獣』をな。」
「契約獣だぁ?フン、貴様ごときのペットが武器化したところで、この俺には…」
「来るがいい、ペルペロス!!」
「なっ…なにぃいいいいいいい!?」
ペルペロスと言えば、かつて学園校の秘密の部屋で賢二にトラウマを植え付けた魔獣であり、『三神獣』に数えられるほど強力な力を持っている。
「ちょ、ちょっと待て親父!ペルペロスは校長のだったとかじゃないのか!?学園校にいたからてっきり…」
「警備強化のため学園に貸していただけだ。もとは私の可愛い相棒だ。なぁ?」
「バウ!」
「うぉっ、いつの間に親父の背後に!?」
「さぁいくぞペル!久方ぶりに姿を見せるがいい、『三つ首の矛』よ!」
「ワオォーーン!」
ペルペロスは怪しい光を放ち武器化した。
父は『三つ首の矛』を装備した。
「くっ、なんて禍々しさ…!これが、かの『三神獣』の力…貴様の武器か…!」
ただでさえ一騎当千の戦闘力を有する父が、最強の武器を装備…もはや“鬼に金棒”どころの話じゃなかった。
「さぁ勇者!この父に見せてみろ、お前の真の強さを!!」
「おぉ!いくぞぉ、親父ぃ!!」
勇者はマシンガンを構えた。
「ぬっ!?」
「ハッハッハー!悪いな親父、見せ場の無いままにハチの巣になるがいい!」
「ちょっ、おま…この流れでその武器は無しじゃねぇか!?さっき魔剣って…」
「外野は黙ってろ解樹!ルールは俺が決める!それこそがルール!死ねぇえええええええ!!」
ズガガガガガガガガガッ!
勇者はマシンガンを連射した。
だが弾丸は全て叩き落とされた。
「フン、止まって見えるぞ。」
「…チッ、わかっちゃいたが…やはりこの程度の武器じゃ話にならんらしいな。」
「さぁ勇者!そろそろ本気でかかってこい!!」
「おぉ!いくぞぉ、親父ぃ!!」
勇者はバズーカを構えた。
「いやいやいや!だからそうじゃねぇだろ勇…」
「死ねぇえええええええ!!」
ズドォオオオオオオオオオン!!
勇者はバズーカをブッ放した。
だがまたしても素手で叩き落された。
「クソッ…ったく、銃弾を打ち落とすとか型破りにも程があるぞ。普通死ぬだろうが。」
「フン、そんなのが効いたら軍隊が『魔王』倒しちゃうだろ?そうなると我々『勇者』の存在意義が…」
「黙れ!悪の手に堕ちた貴様が『勇者』を語るな!それは今や俺だけの特権だ!」
勇者の攻撃。
勇者は200のダメージを受けた。
「ぐっ…!なっ…カウンターだと…!?それにこの十字の傷跡は…!」
「ほぉ、この『十字迎撃』を受けてその程度とは、さすがだな。」
父の持っていた『三つ首の矛』は、二本の剣に姿を変えていた。
どうやら複数の形態を持つ武器のようだ。
「クロス…ってそれはカルロスの…!貴様いつの間にそんな技を…!?」
「ふむ…どうやら勘違いしているようだが、この技はカルロスのオリジナルではない。我が一族に伝わる秘剣なのだ。」
「なっ…ってことはじゃあ、貴様がカルロスに…!?」
「まぁ全ては伝承しきれなんだがな。我が流派…『縦横無尽流』は、奥が深い。」
「…テメェ、そんなのがありながらなぜ俺に教えなかった?それでも親か!?」
「フッ…確かにお前がこの剣を継いだら、この私をも越えるやもしれん。だが…」
「だが…?」
「それは、ヤダッ!!」
プライドの問題だった。
「やれやれ、体に負荷が掛かりすぎるから~とかかと思えば…ったく、なんて情けない生き物なんだ。もういっそのこと死ねばいいのに。」
「フッ…おい解樹、ハンカチを。」
「いや、泣くなよ!頑張れ父親!」
「さぁ吠えるがいい魔神の剣よ!地獄の業火で世界を焼き尽くすがいい!」
「息子は息子で容赦ねぇなオイ!しかも禍々しいし!」
「甘いわ勇者!天地を十字の血で染めろ、『血染十字』!」
ガキィイイイン…ズバシュッ!
「うぐっ、馬鹿な…!この俺が…防ぎきれんだと…!?」
「勇者よ、お前は確かに強い。だが、上には上がいるということを…この父が教えてやる。」
「黙れ。そしてそのまま死ね。」
「フッ…おい解樹、カミソリを。」
「手首を切るな!強く生きろ父親!」
父は威厳が足りない。
「さぁ、茶番は終わりだクソ親父!これで、終わりだぁああああああ!!」
ズバシュッ!!
「…と、なるはずが…まさか…この俺…が……」
痛恨の一撃!勇者は意識を失ってしまった。
やはり父の方が一枚上手だったようだ。
「はぁ~…容赦ねぇな~凱空さん。まさか息子相手にここまで手加減無しとは思わなかったわ。」
「油断してたらやられていたさ。我が子ながら素晴らしい才能だ。父さんメチャ嬉しい。」
「さて…んじゃ、トドメ刺してもらおうか。俺のお目当てはコイツ中の『断末魔』なんでねぇ。」
「…すまんな。」
ドスッ!
父は矛を突き刺した。
解樹の胸を貫いた。
「お…おおぉ…!?ぐふぁ!!な、なんだよ…これ…?」
「この矛は『三つ首の矛』という。自慢の武器だぞ?」
「いや、そういう意味じゃ…なく…」
解樹は膝から崩れ落ちた。
どう見ても致命傷だ。
「新たに受けた呪い『生真面目』には、別に私を操る効力は無いだろう?」
「なっ…オイオイ、ここまで真面目に言うこと聞いといて…そりゃねぇだろ…」
「勇者を止めるのに、あの『シリアス限界』は邪魔だったんでな。悪いが利用させてもらったよ。」
「勇者を…止める?なんでそんなことすんだよ…?」
「私に負けるようでは大魔王には勝てまい。真面目に戦い、見極めたかった。」
「チッ、マジかよ…舐めやがって…。じゃあ解くよ『生真面目』…」
「ちょっ、それは本気で勘弁してくれ!これから真面目に活躍する身としてはわっしょーーい!!」
父は元に戻っちゃった。
「く、くっそぅ!これからという時にまたいつもの楽しいお人柄に…!なんてこったい!」
「ハハッ…やっぱアンタにゃ、それがお似合いだわ…。死ぬまでやってろ…」
「…ま、お前の置き土産として受け取っておこう。愛着も無いでもないしなぁ。」
「フッ、敵わねぇなオイ…。“呪い”に愛着かよ…立場ねぇわ…」
「すまんな解樹、お前の研究熱心さは嫌いじゃなかったんだが…刺しちゃった♪」
「刺しちゃった♪じゃねぇよ痛ぇ…。ったく…見たかったんだがなぁ…最悪の呪い『断末魔』が、世界を終わらせる様を…さ…」
そうぼやく解樹だが、もうその目には何も見えていないようだ。
「訪れんよ、そんな未来は。人は強いのだ。呪いのような負の力に、人は負けたりはしない…よね?」
「聞かれてもな…。ハァ、なんだったんだろうなぁ俺の人生…やれやれだわ…」
「呪いに魅せられた人生…それもまた、ある種の呪いだったのかもな。」
「ぐふっ…うまいこと言うなよ…似合わねぇから…」
「安らかに眠れ解樹。次に生まれる時には…」
「…フッ、そうだな…次は…」
「できればボインの女の子で頼む。」
「台無しだわ…呪うぞアンタ…。ま、めんどくせぇし…やめとく…がな………」
あんまりな最期だった。
「…ふぅ、さて…行くかな。」
父はスキップで去っていった。
葉沙香、太陽神に続き、解樹も倒れた。これで苦怨と夜玄が同士討ちでもしてくれれば、十字禍は一気に半数を割ることになる。
そんな勇者軍優勢と思われる状況の中…オロチを味方につけた暗殺美達は、なぜか必死の形相で廊下を全力疾走していた。
~帝城七階:廊下~
「ハァ、ハァ、な、なんやねんアイツ!?ホンマなんやねん!?」
「う、うっさいさ!騒ぐ余裕があるならさっさと逃げろさ殺されるさ!」
「無理ちゃうん!?あんなの相手じゃ…」
「言うなさっ!思い出したら…心が負けるさ!」
「せやかて!いくらいきなりやゆーても、疲れとったゆーても、なんで…なんであのオロチが、“一撃”やねん!?」
なんと、味方につけたはずのオロチは敵の手にかかり、すでに亡き者らしい。
そして、そんな状況を作り出した男が…すぐ背後まで迫っていた。
「楽しいかね、鬼ごっこは?私は…とても嫌いだが。」
『皇帝:帝雅』が現れた。
全力で逃げる二人を追ってきた割に息一つ切らしていない。
「やれやれ参ったさ。一難去ってまた一難とか面倒なのはやめてほしいさ。」
「しかも強い上に残虐で冷酷とか最低やな。自分の仲間をあない情け容赦無く…」
どうやらオロチを始末したのはこの帝雅らしい。
「別に仲間ではないのでね。むしろ、強き者はいつか障害になる…。駆逐するいい機会だったよ。」
「この鬼め…!親の顔が見てみたいわ!」
「いるならついでに子供の顔も見てみたいさ。」
「子供か…それは私も見てみたいな。我が愛しき愛娘、塔子の顔を。」
「訂正するさ、見たくもないさ。って、え!?アンタあの盗子の親かさ!?」
「と、盗子…アイツ天帝だけやなくなんちゅー血ぃまで引いてんねん…」
「なに…?キミ達も娘を…塔子を知っているのかね?ではあの子は今どこに?」
「…儚い、最期だったさ。」
「なっ…!?」
「みたいな扱いを受けながら、きっとどこかでしぶとく生きてるさ。」
「いや、この状況でアンタ…ええ度胸やな…」
「ビビッたら負けさ。コイツを放っておいたら、賢二君にも危険かもなのさ。」
暗殺美は屈するつもりは無いようだ。
「ま、しゃーないな…ほな行くでぇ!」
「モチさっ!」
二人はボコボコにされた。
「イタタ…アイタタタ…。自分の娘の仲間をよくもまぁこないコテンパンに…」
勇ましくも帝雅に挑んだ二人だったが、あっさり返り討ちにあった。
既にオロチ戦で限界だったのに無茶するからだ。
「でも…本気じゃないから生きてるとも言えるさ…うぐっ。」
「安心したまえ、殺しはしない。キミ達には塔子と私の架け橋となってもらう。」
「架け橋もなにも私らも居場所は知らないさ。まずは勝手に捜してこいさ。」
「捜したさ、つい先程まで世界中駆けずり回ってな。だが見つからなかった。」
「大魔王の家臣の分際で主人そっちのけで娘捜しとかいいご身分な奴さ。」
「私は別に家臣ではない。塔子を手に入れた後は、邪魔なら奴も始末しよう。」
「フン、言うだけならタダなのさ。偉そうに言ったってどうせ…」
「…お前、少しうるさいな。」
痛恨の一撃!
暗殺美は胸を貫かれた。
「ガハッ…!」
「あ…暗殺美ぃ!ちょっ、しっかりしぃや!なぁ!?おのれぇブッ殺…」
「架け橋は二人も要らぬ。邪魔な方は、死ね。」
「えっ!ん~~~…!」
商南はどうするべきか悩ましい。
「…し、死にたない…けどアカン!暗殺美!目ぇ開けんかい暗殺美ぃ!死んだらアカン死んだら!」
商南は手持ちの回復符を全て使った。
だが出血は止まらない。
「無駄だ、心臓を貫いた。呪符ごときで治せる傷では…むっ!?」
ピカァアアアアアアアア!!
突如、まばゆい光が暗殺美を包んだ。
「なっ!?こ、これは…回復魔法…!?ちゅーことは…!」
「テメェ、俺様の下僕に何してくれやがったぁああああああ!?」
黒賢二が現れた。
商南の薬でキャラ変した賢二だったが、まだ元に戻っていないようだ。
「キミは…そうか『賢者』か、面白い。」
「『賢二』だよボケェ!“ゃ”なんてぇクソ食らえだあああ〔大・隕・石〕!!」
賢二は〔大隕石〕を唱えた。
〔大隕石〕
賢者:LEVEL10の魔法(消費MP160)
巨大な隕石を降らせる魔法。たまに映画の撮影なんかにも使われる。
チュドーーーーーーーン!
「ゲホッゴホッ、やり過ぎやっちゅーねん!ウチまで潰れたら…って、隕石…ちゃうやん!」
轟音と共に落ちてきたのは、隕石ではなかった。
まるで人影のような、それは―――
「イッタタタァ~~~!!あれ…?商南…?」
「とっ…盗子ぉおおお!?」
なぜか盗子が降ってきた。
賢二は直撃を食らった。