【152】帝都奪還作戦(7)
苦怨が呼び出せる最大戦力である『破壊神:レーン』と戦仕との戦いは、熾烈を極め…るはずだった。
『磁界師』であり、斥力によりあらゆる攻撃を受け付けない破壊神に果敢に挑む戦仕。そんな二人によって緊迫した死闘が繰り広げられる…はずだったのだ。
~帝城十階:舞踏の間~
「フゥウウウウ~~…ハァ、やれやれぜよ。まったく当たんねぇ!」
「ププッ☆僕ちゃんに攻撃とか当たるわけないのに!馬鹿だぁコイツー!」
困ったことに、破壊神のキャラが邪魔をして緊迫感が全く足りていなかった。
「当たるわけない…だぁ?フン、調子乗るんじゃねぇぜよ。」
「ハァ?調子乗るもなにも事実なんですけどぉ~?事実当たってなくない~?」
「…だが、そんなテメェも一度は死んだんだ。」
「ッ!!!」
一瞬だが破壊神の顔つきが変わった。
「つーことはよ、方法はあるってことぜよ!だったらオイラは、殴るのみよっ!」
戦仕の怒涛の連続攻撃!
「いやいやいや~、だーからいくら殴っても当たらないってば~。」
「おいオメェ、“手袋”の反対は何ぜよ!?」
戦仕はかつて『鬼神』や葉沙香にも放った『陸の秘拳』の準備に入った。
これで相手が“ロクブテ”と答えちゃうアホなら、不可避の秘拳『六武帝』を発動できる。
「へ?ロク…テブ?」
「まさか天然で間違えるアホが…!」
アホ過ぎても駄目だった。
「ギャハハハ!わっけわかんねー!雑魚にも程があるぅー!」
「チッ、ならとっておきを見せてやるぁ!武神流最終奥義…『漆の秘拳:七武神』をよぉ!!」
破壊神の舐めきった態度に、怒りがおさまらない戦仕はぶちキレた。
「いっくぜ破壊神!まずはテメェの、逃げ場をなくすぜよ!縛れ『寿老陣』!」
構えた戦仕の背後には、薄っすらと謎の爺さんの影が見える。
「う、動けない…!?でも僕ちゃんの力の前では、拳が当たることは…」
「テメェの“斥力”…それが万能だと思ったら、大間違いぜよ!『弁財拳』!」
今度は女性のような影が現れた。
どうやらその名の通り、七柱の武神の力を借りる奥義のようだ。
「プハッハ!なに偉そうに吠えちゃってんの!?なんかクサッ!クッサー!」
「磁石の同極は確かに避け合うが…“絶対”付かねぇか!?いいや、そうじゃねぇだろぉおおおお!『毘沙門拳』!」
「ぐぉおおおおお!?おっ、押し潰され…るぅ…!これが、こんなのが…あと四発も…!?」
「三つ飛ばしてぇー!」
「え、飛ばしちゃうの!?“七”にはこだわらないわけ!?」
「さぁ、ひしゃげて潰れて塵と化せ!食らえ渾身の一撃、『大・黒・拳』!!」
「うはぁあああああああああああああああ!!」
会心の一撃!
破壊神は壁にメリ込んだ。
「ゼェ、ゼェ…!や、やったぜよ!オイラ…やっといいとこ見せられたぜよっ!」
かなり生命力は削られたものの、戦仕は確かな手ごたえを感じていた。
破壊神はピクリとも動かず、その様子に苦怨は目を疑った。
「ば、馬鹿な…!人間ごときが、神に打ち勝つ…だと…!?」
「うぉー!凄いんだー!あんなの食らったら誰でもペッチャンコだぜー!」
「ぺ、ペッチャンコって響きは嫌いなのだ!乙女のハートをエグるのだ!」
「ウッホ…ウホ。」
ロリコングは忍美の肩にそっと手を置いた。
「慰めは要らないのだ!なんでそんな機能が付いてるのかが疑問なのだっ!」
「あぁ…開発者は変態ロリコンだったんだよ…」
仕様と言うべきかバグと言うべきか。
「さてと…じゃ、次はオメェぜよ。お師さんのカタキ、討たせてもらうわ。」
「マズいですね…。さすがに彼以上の霊は、持ち合わせていな…」
ドッゴォオオオオオオオオン!!
「ぐっ…はぁ…!!」
痛恨の一撃!
戦仕はアバラが何本かイッた。
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
破壊神の咆哮がこだました。
「グヘアアアッ!チッ、油断したぜよ…そんな攻撃も、できんのかよ…!」
「そうか、斥力で岩を弾いて…。やればできるんじゃないですかレーンさん。」
「クッソガキィ…!テメェこの俺様に血ぃ吐かせるたぁ、いい度胸だあぁ!!」
破壊神はキャラが変わるほどブチ切れている。
「…ヘッ、やっと面構えに合ったキャラになったじゃねぇの。やるかよ?」
「殺ぉおおおおおおおおおおおす!!」
そして―――
ドッゴォオオオオオオオオオオン!
「ウホォ…ホァアアアアッ…!!」
「ろ、ロリコちゃーーん!風穴開いたくらいで死んじゃ駄目なんだー!」
「ぐっ…ま、まさか…ここまで手当たり次第とは…!」
「うわーん!苦怨様苦怨様ー!しのみんをおいて逝かないでほしいのだー!」
怒りに任せて暴れ狂う破壊神。
敵味方関係ないその無差別攻撃は、まさに破壊の神の所業と言える。
「うぉおおおおおおおああああああああああ!!」
「チッ、雷撃まで効かねぇとか…もうお手上げぜよ…!」
「ウ…ウホホ…ホ……(ガクッ)」
「駄目なんだロリコちゃん!コイルが飛び出たくらいで死んじゃ駄目だー!」
「く、苦怨様だって!苦怨様だってもし内臓が出てもピンピンしてるのだっ!」
「いや、そんな化け物扱いはちょっと…」
「もう全員死ねぇえええ!死にやがれぇええええええ!!」
「…ふぅ、じゃあ…試しにやってみるかよ。たった今、いい手が浮かんだぜよ。」
勇者なら苦怨を殺すが。
「さぁいくぜ破壊神!ここらでオイラの大作戦を見せてやるぜよ!覚悟しなっ!」
「黙れよ馬鹿野郎がぁあああああああああああ!!」
「フッ、甘ぇな!こう見えてオイラ、学院塾でも成績は良かった方ぜよ!」
「ウ…ウホ…ホ……(ガクッ)」
「駄目なんだロリコちゃん!首が落ちたくらいで死んじゃ駄目だー!」
「というかまだ壊れてなかったんかいって感じなのだ!しつこいのだ!」
折角の緊迫した空気が台無しだ。
「ブチ壊す!!テメェら全員ブチ殺して、世界をブチ壊してやるぅううう!!」
「くっ、私はなんてものを…呼び出してしまったんだ…!」
「ウ…ウ…ホ……(ガクッ)」
「ロリコちゃーーーん!!」
「だからしつっこいのだぁーー!!」
「くたばれぇええええええええええ!!」
「うぉおおおお!邪魔くせぇえええええええ!!」
ドッガァアアアアアアン!!
戦仕、会心の一撃!
ロリータ・コングは大破した。
「うわーん!酷いんだー!ロリコちゃんがー!ロリコちゃんがぁー!」
「す、すまねぇ…つい…」
「“つい”で済ませていいのは師匠だけなんだー!あの人だけの特権なんだー!」
「だがまぁ、次こそは奴を…破壊神の野郎をやったるぜ。いい加減、ギャーギャーうるせぇしなぁ。」
戦仕はフラつきながらも、なんとか立ち上がった。
「ま、待ちなさい!闇雲に突進しても返り討ちに遭うだけ…」
「うぉおおおおおおおおおおおおぉ!!」
苦怨の制止を振り切り、戦仕は突撃した。
「フハハハ!馬鹿が、何度やっても『磁界師』である俺様に」
「届く一撃も、あるんぜよっ!!」
「なっ…!?ぐぁああああああああああああ!」
戦仕、会心の一撃!
今度こそ破壊神に大ダメージを与えた。
「グホッ、グハァアアア!な…なんだ…とぉ…!?ぶはっ!!」
「フン、言ったろ?オイラ、塾での成績は良かったってよぉ。」
戦仕の右手にはロリコングの残骸が巻き付いている。
「そ、そうか…その手に巻きつけたコイル…電撃…そういうことですか…!」
「えっ、どういうことなのだ苦怨様!?しのみんわかんないのだ!」
「そう、『電磁石』…コイツの力で磁界を歪め、オメェの力は相殺したんぜよ!」
「ば、馬鹿な…!この俺様の斥力が…テメェみてぇなクソガキに…!」
「さぁ、こっからは我慢勝負だ!どっちが先にくたばるか…賭けようぜぇ!」
「ハァアアア!?ふざけるな…勝つのは俺様だぁああああああ!!」
「いいや、オイラだっ!!」
「違うぜ私なんだー!」
「じゃ、じゃあしのみんなのだ!」
「え…これ乗らなきゃダメ…?」
苦怨はノリが悪い。
「食らえぇえええええ!『大破壊反撃掌』!!」
「テメェこそ食らえよ!必殺『超電磁崩拳』!!」
ズッガァアアアアアアアアアアン!!
「ぐぉおおおおお!!」
「がはぁあああっ!!」
双方は大ダメージを受けた。
「というか霊媒師のアンタ、いい加減諦めるんだ!そうすれば霊は消え…」
「実は先程から試しているのですが、どうやら…制御が効かないようです。」
「うぉー!とんだ役立たずだぜー!」
「くっ…!」
「ち、違うのだ!役立たずっぷりならしのみんだって負けてないのだ!」
「忍美、それ…フォロー…?」
苦怨は精神的ダメージを受けた。
「どりゃあああ!死ぬのはテメェだぁ小僧ぉおおおおおおお!!」
「いいや、オメェだ破壊神!!」
「じゃ、じゃあしのみんなのだ!」
「いや、それは違うよ忍美…」
「だったらテメェが死ねや小娘ぇえええええええ!!」
なんと!本当に矛先が向いた。
「えぇーー!?だ、大失敗なのだ!口は災いの元とはこのことなのだ!」
「まずい…あんなの食らったら…!チッ、仕方ない…!」
破壊神の攻撃。
苦怨は忍美をかばった。
さらにそれを戦仕がかばった。
「えっ…!?」
「ぐはぁああああああ!!」
「な…なぜかばった!?僕が死ねば破壊神も消えたかもしれないのに…!」
「…ヘッ、そんな勝ち方じゃ死んだお師さんに…キレられるぜよ…」
「ヘハハハッ!死んだなテメェ!その傷じゃあもう助からねぇよぉおお!!」
まさに満身創痍の戦仕。
もう立っているのがやっとのようだが、まだ心は折れていなかった。
「ゼェ、ゼェ、かもなぁ…。だったら次が、最後の一撃ぜよ!!」
戦仕の暑苦しさは頂点に達した。
「なぁ人形師のアンタ、盗子サンに会ったらよ…言っといてほしいことがあるんぜよ。」
「オーケーわかったんだ!なんでも伝えるから言ってくれー!」
「よそ見してんじゃねぇよクソガキがぁあああ!ブッ殺ぉおおおおおす!!」
「ヘッ、しつけぇ奴は嫌われるぜ!?そろそろ大人しく死んでろよ!!」
「うけたまわったぜーー!」
「いや違っ…」
「これぞ俺様の最終奥義!食らえぇええええ必殺『超絶破防砲』!!」
「迎え撃つぜ渾身の一撃…『雷・帝・七・武・神』!うぉおおおおおおお!!」
ズガガガァアアアアアアアアアアン!!
戦仕、会心の一撃!
破壊神の偽魂を打ち砕いた!
「ぐぁあああああああああああああああ!!」
「うぉー!やったぜ勝ったぜぇー!」
「お、おのれ…!おのれぇえええええええええええええぇぇぇぇぇ…」
ヒュゥウウウ…
破壊神は絶叫とともに、煙となって消えた。
「わ…わーい!勝ったのだ勝ったのだ…って、ハッ!違うのだ負けたのだ!」
「な、なんて人だ…。まさか一人で、古代神を打ち破るとは…。負けたよ。」
「ぐふっ!ヘヘッ、これでなんとか…お師さんに顔向けできるぜよ…」
戦仕はなんとか生き残った
―――はずだった。
「うぉー!お、起きるんだ戦仕さん!死んじゃ駄目だ…息するんだー!!」
「ま、待て!どういうことだ!?その二人はともかく、なぜ僕らまで…!?」
「怖いのだ苦怨様ー!死にたくないのだー!」
「アナタのこの先…見えてしまったのですよ。未来無き者には、死を。」
そこには十字禍の一人、夜玄が立っていた。
戦仕の返り血で赤く染まっている。
「その目…なるほど、次のターゲットは僕ということですか。おかしいなぁ、一応仲間だと思っていたのですが。」
「未来とは、人の死が積み重なった先にあるのです。私が見るべき未来のためならば、誰でも手にかけますよ。たとえそれが仲間だろうと…主だろうとね。」
「やれやれ…確かに破壊神は敗れましたが、まだ僕は…!」
「最強のしもべを失った今、次はありません。それにアナタは…甘すぎる。」
「そんなことはないのだ!苦怨様のお仕置きはたまに涙が出るのだ!」
「いや、だからそれフォロー…?」
「その娘が、アナタを弱くしている。必要の無い存在をなぜ守るのですか?」
「忍美は…確かに困った子です。時々ウザッ…毎日それなりにウザッたい。」
「本人の前であんまりな発言なのだ!泣いていいなら号泣するのだ!」
夜玄の様子から、彼が本気であることを察した苦怨。
話して駄目なら戦って勝つしか生きる道は無い。
「僕は、『霊媒師』名家の分家の身…影の中の影の存在として、生きてきた。」
「なるほど。つまり彼女は、そんな小さき自分を慕ってくれる…心の支えということですか。」
「違うのだ!支えられてるのはしのみんなのだ!一人ぼっちのしのみんを…」
「ま、どう思うかはお任せしますよ。ただ、侮っているとアナタ…死にますよ?」
苦怨は何やら怪しげな印を結んだ。
どうやらまだ奥の手があるようだ。
「そうですか…。では、死んでください。」
夜玄は正面から受けて立つ姿勢を見せた。
「さて…あ、ところで夜玄さん、アナタは全ての未来を見通しているのですか?」
「…いいえ。全てを見通せるほど万能ではありません。あくまで断片的に、です。それが何か?」
「そうですか…それを聞いて安心しました。ならば、賭ける価値はある!!」
ピカァアアアアア!
なんと!再び破壊神が現れた。
「なっ…馬鹿な、破壊神の偽魂は壊されたはず…!」
「フッ、偽魂が無くとも呼べる…究極の裏技があるのです。成功して良かった。」
「も…もしかしてそれ、『自爆交霊』!?駄目なのだ死んじゃうのだ苦怨様!」
「命と引き換えに、記憶の内に住むあらゆる死者を呼び出す奥義…ですか。」
「フッ…。えっと、土男流さん…でしたか。すみませんが忍美を、頼めますか?」
「オーケー任せてくれ!ぶっちゃけ邪魔臭いけど引き受けたぜー!」
「イヤなのだ、しのみんを見捨てないでほしいのだ!いい子に…するから…!」
号泣しながらすがりつく忍美。
苦怨はその頭にそっと手を乗せた。
「…ありがとう、忍美。色々面倒もありましたが、お前には随分救われました。」
「く…苦怨様ぁ…!」
「さぁ行ってください。これ以上は…」
「で、でもぉ…!」
「いや、これ以上は邪魔なんで。」
「えぇっ!?」
最後に本音が出た。