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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
151/196

【151】帝都奪還作戦(6)

 パジリスキュと融合することで、頭が八つある大蛇へと変貌を遂げたオロチ。

 一目散に逃げようとするも、見事に失敗した暗殺美と商南。

 このままでは殺されるのも時間の問題と思われた。


~帝牢:最下層~


「フハハハハ!オイどうした小娘ども?先ほどまでの威勢はどこへ行った?」

「…フン、二泊三日の旅行中さ。」

「あ~、なんや貧乏人やなぁアンタ。ウチは四泊やで…」


 口では強がってはいるものの、二人に限界が近いのはバレバレだった。


「フフフ。生意気なのは相変わらずだが、どうやら心は折れたらしいな。ならば名残惜しいが…そろそろ幕としよう。」

「商南、アンタ…あとどれだけ避けられるさ?私の体力はぼちぼち限界さ。」

「せやな、持ってる呪符全部使えば…アンタ一人くらいは、逃がしたれるわ。」

「な、何言ってるさ!?味方残して一人で逃げるとか…うん、まぁ、ね?」

「なんやねんそのまんざらでもない感じ…!?ま、泣かれるよりはええけどな。」

「そうか、より手負いの方が仲間逃がすか。なんて…ぐすん、友情…!」

「ってウザいねんその情緒不安定さ!やりづらいから元戻ってくれへん!?」

「…ゴメンさ商南、アンタのその…アレ、忘れないさ!」

「何をやねん!?ちょっ、アンタ…!」


 暗殺美は駆け出した。


「フン、愚か者めが。この十六の瞳から逃げられるとでも思ってか?」


 だが、またしても周りを囲まれてしまった。


「やれやれ参ったさ、照れるからそんなに見つめるなさ…私だけを、さ。」

「むっ、なんだその笑顔は…?この状況で油断」


「しまくりなんは、アンタやで?」


 いつの間にか商南が背後に回り込んでいた。


「ハッ、しまっ…!」

「出血大サービスや!もちろん出血すんのは、アンタやがな!『切・断・符』!」


ズバシュ!ズババシュ!!


「ぐわぁああああああああ!!」


 商南の不意打ち攻撃!

 八頭のうち二頭が切り落とされた。


「うぐぅ…!ま、まさかこのような奇策を打ってくるとは…!ぬかったわ…!」

「ま、暗殺美も半分本気やったろうしな。騙されるのも無理ないわ。」

「フッ、半分だと思ったら大間違いさ。」


 自慢げに言うことではなかった。


「なるほど、いいコンビなのだな。甘く見ていたことを詫びねばならぬ。」

「あちゃ~。もっと動揺なり逆上なりしてくれるんかと思いきや、至って冷静やんか。ヤバない?」

「まったくもって参ったさ。こう見えてもう喋るのもキツいくらい血を流しすぎたさ。」

「ウチかてもう呪符切れや。横っ腹の傷も限界や…ま、終わりかなぁ…」

「などと言いつつ、逆転の機をうかがっておるのだろう?もう油断しないもん。」

「…チッ、もう騙し系は効かないっぽい雰囲気さ。」


 絶体絶命のピンチが訪れた。


「終わりだ。何か…遺したい言葉はあるか?」

「死ねさ。」

「死ねや。」

「満点だ!強者は強者のまま…死ねぇえええええええええ!!」


 オロチの全力攻撃!

 六頭の口から激しい炎がほとばしる。


「あ、あかん…!」

「くっ、ここまでかさ…!心残りは…まだまだあるってのにさ…!」



 ミス!謎の魔法壁が攻撃を防いだ。



「なっ、魔法…だと!?『魔導符』か!?まだそんな切り札を…!」

「う、ウチやないで!?こないな攻撃受けきれるのなんて…」

「ハッ!ま、まさかまたあの変態ジジイかさ…!?」

「え!そうなの!?イヤァアアアアアアアアアアアッ!!」


 再びトラウマが蘇り、震え上がるオロチ。


「ぼ、僕はどうすれば…」


 賢二は出るに出られない。




「で!結局誰だ!?そこに隠れているのはわかってる…出て来い!あっ、変態じゃないならね!もし変態なら、帰れ!地獄に!」


 オロチは震えながら叫んだ。

 これ以上変態扱いされたくない賢二は、渋々姿を現した。、


「あ、えっと…変態さんじゃないのでご安心ください。」

「えっ!け、けけけ…賢二きゅん!?」

「土男流さんから連絡を受けたんだ。遅れちゃってごめんね暗殺美さん。もう、大丈夫だから。」

「うっきゅーーん!」


 なんだか賢二が頼りになりそうな感じだ



 ―――と思われたが、やっぱりそんなことはなかった。


「ゼェ、ゼェ、ゼェ…」

「チッ、小癪な…!くらぇええええええ!!」

「ゼェ…ハッ!えっと、あ…〔絶壁〕!?それとも〔鉄壁〕!?」


 残念ながら、賢二は相変わらずだった。


「いや、攻撃せーや!なんで暗黒神戦からちっとも成長してへんねん!?」

「そ、それが賢二君のいい…いい…い、いい加減にしろさクズが!!」

「無事に生き残れたら…死のう…」

「だが、この僕の攻撃をこれほどに防ぐとは…その点は認めざるをえんな。」

「まぁ確かに、おかげで命拾いしたわ。そこだけは褒めたるわタレ目っち。」


 防戦一方ではあるものの、その防御スキルは素晴らしく、全ての攻撃を見事に防ぎきっていた。


「あ、ところで…今さらですがこの大蛇の方はどなたですか…?」

「僕か?僕はオロチ…神獣パジリスキュと融合した、史上最強の大蛇だ。」

「聞くんじゃなかった…」

「ビビるなや!アンタもこの日に向けて修行してたんちゃうんか!?」

「え?あ、ハイそうですね。その…オッパイ仙人さんと…」

「イヤァアアアアアアアアアアアアア!!」

「イヤァアアアアアアアアアアアアア!!」


 オロチは絶叫した。

 暗殺美も絶叫した。



「そうか、奴の弟子か…これも何かの縁か。いいだろう、そろそろ攻撃してこい小僧。貴様とならば、さらに楽しい戦いができそうだ。」


 ド変態だった印象が強すぎて実力が評価されづらいオッパイ仙人だが、ちゃんと戦闘力も凄まじかった。

 その弟子であるという賢二に、オロチの期待は高まっていた。

 しかし、一筋縄にいかないのが賢二だ。


「いや、でもやっぱり殺生とか…ねぇ?できれば穏便に、話し合いとかで…」

「ハァ?何言うてんねんアホかボケ?世界滅亡目論む組織の一員やで!?」

「そうさ!それに…それに私の兄上は、コイツに…殺されたのさ!」

「えっ…?」


 賢二の顔つきが変わった。


「うむ、お前の兄は実に強き男であった。実に楽しい殺し合いだったよ。」

「も、もしかしてアナタは、楽しいとか楽しくないとかで人殺しができちゃう人…ですか?」

「フン、なんだ貴様、悪事は許せんとでも言いたいのか?」

「いや、身近にもっと凄い人がいるんで…」


 他人を責められる立場じゃなかった。


「で?やるのかやらんのかハッキリしろ小僧。これ以上逃げる気なら…」

「…やりますよ。だってアナタは暗殺美さんのお兄さんを、殺したんですよね?」

「だ、だ、誰が“お義兄さん”さ!?勝手に婿に来てんじゃないさカスがっ!」

「まさか怒られる流れになるとは…」


 相変わらず素直になれない暗殺美。

 その様子を見た商南は何かを思い出し、そしてニヤリと悪い笑みを浮かべた。


「あ、せや暗殺美。そーいや勇者からこんなん預かってんねん。」

「ん?何さこのメモ…?」


『さぁ告れ。』


 暗殺美は石になった。



「遊園地でアンタ、足の石化治すために『呪術師』紹介させたやんか?そんとき言われたやん“告れ”て。」

「なっ、なっ…」

「で?どないすんねん暗殺美?言わへんのやったら勇者にチクるで?」

「ゆ…勇者の倍額出すさ。だ、だから見逃してほしいのさ。」

「ほっほ~、ええ読みやん♪ま、ウチはまぁそれでもええねんけど…アンタはええの?」

「な、何が言いたいのさ?」

「ええ機会なんちゃうん?さっき“心残り”ある言うてたやろ?それとも、このままの関係…続ける気ぃなんかぁ?」

「う、うぐぅ…」


 暗殺美は決断を迫られた。


「さぁ小僧ぉ!死ねぇえええええええ!!」

「ひぃいいいいいい!!」

「急がな死んでまうで?」

「うぐっ、くぉおおおおおっ…!」


 暗殺美は決断を急かされた。


「…私の死に様…見てろさ、商南。レモン百個分の勇気を振り絞るさ!」

「おぉっ!行くねんな、ついに…ってなんで死ぬ気やねん!生き様見せろや!」

「すぅ~~~…」


 暗殺美は大きく息を吸い込み、そして叫んだ。


「け…賢二きゅん!あのっ、その…す……好きさぁーーーー!!」


「えっ…!?」


 オロチの攻撃!

 ミス!賢二は間一髪で避けた。


「あ、ありがとう暗殺美さん!“隙”だらけだったんだね!」

「アカーーン!史上もっともベタな返しキタァーー!!」

「ちょっと…しばらく立ち直れそうに…ないさ…」


 暗殺美は膝から崩れ落ちた。

 賢二はキョトンとしている。


「さぁまだまだいくぞ小僧ぉ!!」

「こ…この恨み…晴らさでおくべきかさぁああああああああああ!!」


 暗殺美は完全な逆恨みでキレた。

 もう暴れて誤魔化すしかない。


「ぬぉおおおおおりゃああああ!死ねやぁあああああああああああ!!」

「あっ、アカンよ暗殺美!そない無防備な突進は…」

「うるさい黙れさ!」

「告白だけにしとけや!」

「ぐはぁ!」


 暗殺美は出鼻を挫かれた。

 その隙を突いてオロチが襲い掛かる。


「遅い!遅すぎるわ!怒りに曇った技など食らうかぁーー!!」


 オロチの攻撃!


「なぁっ…!?ぐわぁあああああああ!」


 ミス!どころか、オロチの頭が一つ落ちた。


「あれ…?な、なんでさ…?」

「いや、なんで暗殺美までビックリしてんの!?アンタが斬り落としたんじゃ…」

「き、貴様かぁ小僧ぉ!!」


「補助系魔法〔倍化〕…!言ったでしょう、防御だけじゃないって!」


 でも攻撃でもないって。


「倍化…つまり暗殺美のスピードを倍にしたとかそんなんか?」

「素早さだけじゃないよ。味方一人の能力を瞬間的に倍にする上級魔法なんだ。」

「へぇ~、やるやんタレ目!ほな次はアンタが気張る番やな!」


「ほぉ…それは面白い。ならばかかってくるがいい!」


 オロチの興味は完全に賢二に移った。


「ひぃいいいいいい!お助けぇーーー!!」

「って結局それかい!ここは“後は僕に任せて”の場面ちゃうんかい!?」


 賢二はヘタレモードに突入した。


「うぐっ、か…体がうまく動かないさ…!なんでさ…!?」

「無理はやめておけ。急速に力を上げた反動がきたのだ、しばらく動けまい。」


 どうやら暗殺美は戦線離脱のようだ。


「ハァ、やれやれやなぁ…。こーなったらウチが、やるしかないやんか。」

「フン、それこそやめておけ。もはや貴様の攻撃なんぞ…」

「はぁ?何言うてんねん当たり前やろ。ウチにできるのは…これくらいやわ。」


 商南は賢二の口に何かを入れた。


「あ、商南さん!?い、一体…何を…ぐぁああああああああ…!」

「これな、“アイツ”の毛髪から成分抽出して、極秘で開発させた薬やねん♪」

「なっ…あ、アンタ賢二君に何しくさってんのさ!?あとアイツって誰さ!?」

「ま、危のうて売り物にはできひんのやけどなぁ。この…『邪王丸ジャオウガン』は。」


フシュゥウウウウ~…


 周囲には、賢二の全身から噴き出した煙が立ち込めた。

 そしてその煙が晴れると…中からどこかで見たことのある感じの賢二が現れた。


「オーケー、テメェら…皆殺しだっ!!」


 賢二は勇者化した。



「よぉ待たせたなぁ大蛇。お望み通り、これから貴様に地獄を見せてくれよう。」


 商南の危ない薬により、賢二は黒賢二に変化した。

 つまり天空城の戦いで魔法〔反転〕を使った時と同じになりそうな予感。


「な、なんだ貴様、その見事な変貌っぷりは…?多重人格的なアレか?」

「商南アンタなんてことしてくれんのさ!優しい賢二君がまた勇者みたいに…!」

「ま、まぁなんちゅーの?ギャップ萌え…みたいな?」

「うぉおおおおお食らえぇええええ!〔熱血〕!〔炎殺〕!〔爆裂〕!〔炎陣〕!〔獄炎殺〕!〔紅蓮〕!」


 賢二は手当たり次第に火炎魔法を繰り出した。


「ギャップ萌えどころの話じゃないさ!物理的に燃えに燃えまくってるさ!」

「先ほどまでとは打って変わって攻撃的に…!よもやこれほどまでの力を秘めていたとは…!」

「くたばれぇ〔大竜巻〕!死ねぇ〔氷点下〕!ヒャッハー!」

「うっぷん…溜まっとったんやな…」


「滅びろぉおおおおおお!世界ぃいいいいいいい!!」


 新たな『魔王』が降臨した。




 そして…商南の劇薬で暴走した賢二は、ひとしきり暴れて去っていった。

 残された三人はただ呆然とするしかなかった。


「い、行ってもうたな…あのまんまで…」

「なんで戻らないのさ!?アンタこの責任をどう取るつもりさ!?」

「あ~ハイハイわかったわかった。ほな責任取って結婚したるわ。」

「そそそそんなの認めるわけないのさ!豪快にちゃぶ台をひっくり返すさ!」

「ゲフッ…やれやれ。油断したとはいえ、この僕がこれほどまでに…なぁ…」


 心底疲れ切った様子のオロチ。

 あと一押しすれば篭絡できそうな感じだ。


「まったくやれやれやな…。んで?どないすんのアンタ?まだ続けるゆーんか?」

「ぶっちゃけ私は今それどころじゃないさ!追わなきゃなのさ!」


「…フッ、もうよい。もう…よいわ。」


 オロチは人の姿に戻った。

 なんだか憑き物が落ちたようなスッキリとした顔をしている。


「お前達のおかげでだいぶ楽しめた、もう思い残すことはない。あとは田舎で隠居でも…」

「ハァ?なに勝手に終わらせてんのさ、私は兄上の恨みは晴らしてないさ。」

「くっ、いや、それは…」

「せやなぁ、ほな用心棒でもさせるゆーんはどやろ?それでチャラや。」

「なんでアンタが決めるのか釈然としないけど私は別にそれでいいさ。」

「うぐっ…わ、わかった。力を貸そう。」


 オロチが仲間に加わった。

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