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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
15/196

【015】三号生:大陸の歴史調べ

二度もうっかり“へんげ”と唱えてしまったせいで、あわや時間切れかと肝を冷やした春の遠足。


だがあの後、まさかの“道具屋で売ってた”という衝撃的な事実がギリギリで発覚し、なんとか事なきを得た俺達。

盲点を突きにきたのか単に手抜きなのかはイマイチわからんが、まぁとりあえず死なずに済んでなによりだ。



そして気付けば夏…。


今年の夏休みの宿題は『地域の歴史調べ』。

いつになく真面目な題材でなんだか少しつまらんが、まぁ将来歴史に名を刻む者としては、歴史を知っておくのは悪いことではないだろう。


「とはいえ、それはもっとスケールのデカい歴史の話!こんな小島の歴史に興味は無い!俺は他を探す!」


 勇者がそう言うのは無理も無い。

 勇者達が暮らすのは『カクリ島』という小さな島。近隣のゴップリン島や西の小島ほどではないが、それでも人口は数千人…。どう考えても大した歴史は無さそうなのだ。


「はぁ?アンタまさか、大陸の歴史とか調べる気?絶対大変だよね?」

「俺は“まさか”とお前が大嫌いだ。」

「人を好き嫌いの尺度に使わないでくれる!?」


相変わらず盗子はやまかしいが、今日やりたいことは大人数だと目立って困る。

素早さだけを考えたら不本意ながらコイツを連れて行くのが妥当だろう。


「実は、前に噂で聞いたことがあるんだ。この学校には『極秘書庫』という、機密文書を保管する秘密の図書室があるらしい。」

「えっ、なんで学校にそんなんまであるの?前にも賢二が閉じ込められてた『秘密の部屋』とかあったじゃん…?」

「ん?なんだお前、日常の惨劇を見てなお…ここに“普通”があると?」

「いやゴメン、なんかアタシ夢見てたわ。」

「つーわけで、だ。今から二人でそこに…」


 そこまで言いかけた時、ふいに背後に気配を感じて飛びのく勇者。


「危険ね…やめた方がいいですよ…」


 音も無く現れたのは、同級生の霊魅だった。


「チッ、霊魅か…!お前さぁ、たまにこうやってビビらせにくるのやめてくれよ!この俺にそんなノリで来るのお前くらいだぞ!?」


 どうやらこの嫌がらせは定期的な行事らしい。


「閉ざされた扉を開く者…隠された秘密を探る者…いずれアナタ達には、大いなる厄災が降りかかるでしょう…」

「フン、『占い師』みたいなこと言ってんじゃねーよ『霊媒師』だろお前?お前にできるのはせいぜい霊を見るとか話すとかそんな程度だろうが。」


 そう言われた霊魅は、盗子の方をボーッと見つめながらゆっくりと答えた。


「そうね…だから…ねぇ…?」

「ねぇ誰が言ったの!?アタシの背後の誰が!?」



霊魅が余計なことを言ったせいで、すっかり怯えちまった盗子。

無駄に雰囲気があるせいで確かに無視しづらい感はあるが、心霊なんつー眉唾もんをイチイチ真に受けていたらキリが無い。


というわけで俺は、泣き叫ぶ盗子の首根っこを掴んで『極秘書庫』へと向かった。

なぜなら、普通に開放されてる方の図書室には、なぜか大陸の歴史にまつわる本は一切置かれていなかったからだ。


だから仕方なく俺は、警備員に頭を下げて『極秘書』のある保管庫に入れてもらうことにしたのだった。


「だ、誰だ!?この先は誰も…グエッ!」


 足元に横たわるオッサンから目を逸らす盗子。

 こんな状況で勇者と二人…流れ的にろくな結末を迎えられる気がしない。


「だ…大丈夫かな?こんなことして…」

「あん?この俺が頭を下げて頼んだんだ、問題無いだろ。」

「いや、豪快な“頭突き”だったじゃん!問題以外の何があるの!?歴史より前に頭の下げ方学ぶべきじゃない!?」

「それにしても…厳重な警備ではなかったにしろ、この重苦しい雰囲気…やはり何かあるな。」

「ね、ねぇ?これってもしかしてアタシも…“共犯”ってことになるのかなぁ?」

「バーカ安心しろ、俺もそこまで鬼じゃないから安心しろよ“主犯”。」

「鬼ぃーー!!」



そんなこんなで早速、大陸の歴史についての歴史書を探し始めた俺達。

しかし案の定、なかなか見つからない。


実は以前からおかしいとは思っていたんだ。

魔物とか普通にいる割に、学校の歴史の授業ではそれらに関する歴史には一切触れない。普通の図書室にもなかったし、“極秘”と名の付くこの部屋でさえも未だ見つからない。

もしかしたら、何らかの圧力で抹消されたんじゃなかろうか。


だが諦めかけたその時、なんと転んだ拍子に偶然それらしい名前の本を見つけることができたのだ。

その名も『歴史全書』。この“全”というのが本当なら、俺が知りたい情報が載っていてもおかしくない。


「う~む、この厚さの本一冊で“全書”と言われても信じがたいが…まぁいい、読めよ盗子。」

「あ、うん。えっとねぇ~…新星暦523年、突如現れた…えっ!?」


  ―――新星暦523年。

  突如現れた『魔王』により、世界は絶望の闇に包まれた。


「なっ、魔王!?やはり、かつては魔王はいたのか…!やったぜ!」

「いや、全然“やったぜ”な話じゃないけどね?にしても、523年っていうと…今から十…えっと十八年とか前かぁ。歴史的には結構最近じゃない?」


確かに盗子の言う通りだ。冒頭がこれということは、どうやら古代からの歴史が全て書かれた本では無いらしい。

にも関わらず、歴史の全てと…そう言いたくなるだけの事件があったということだろうか。


「んじゃ、続けるね?」


 盗子は音読を続けた。


  魔王の出現により、大陸は瞬く間に魔物に支配された。

  破壊、殺戮、ピンポンダッシュ…人々は皆絶望し、そして死を覚悟した。


「今、明らかに場違いなのが一つ混じってたよな…?」

「う、うん…」


  しかし、希望の灯はまだ消えてはいなかった。

  その三年後、世界を救う者…そう、『勇者』が現れたのである。


「なっ、うぉおおおおキター!」

「やっぱし『勇者』がキター!」


 文中に『勇者』が登場したことで、さらにテンションが上がる勇者達。

 その先が気になって仕方が無いほど二人は夢中になっていた。


  その者の名は、『勇者:凱空ガイク』。

  凱空は、後に『四勇将シユウショウ』と呼ばれる四人の戦士達と共に…


「…旅立ちますか?あの世に。」


 背後から聞こえたてきた聞き覚えのある声。今度は霊魅じゃない。

 背すじに凄まじい悪寒を感じつつ、二人がゆっくり振り返ると…そこには拳をポキポキさせている教師の姿があった。

 いつも以上の笑顔が逆に怖い。


「悪魔がキターーー!!」


 大いなる厄災が降りかかった。




折角いいところだったのに、先公に邪魔されたため仕方なく引き下がることにした俺達。

まぁよくよく思い返すとなんか適当な本だったし、ニセの歴史書だった可能性は高い。執着するのは得策じゃないだろう。


その後も手を尽くして色々と調べたが、やはり大陸の歴史については一切わからず仕舞い。

極秘書庫の扉も硬く閉ざされ、警備員も増員された上に『式神』まで導入されたと後に聞いた。


仕方なく宿題としては地域の適当な歴史をまとめて提出したが、胸のモヤモヤは晴れない。

いつになるかはわからないが、いつか絶対解き明かしてやる。



そんな感じで夏は過ぎ去り、そして学園生活における三度目の秋がやってきた。

クラスの奴らの瞳は皆、綺麗な“諦めの色”をしている。


その色の主な原因となる秋の遠足は、どうやら春に引き続き例年とは違った形式になるらしい。


「えー…実は最近、大陸の牢獄から囚人四名が脱獄したという情報が入ったのですよ。」


 教師からの不吉な一報と共に、盗子の中を嫌な予感がよぎった。


「ま、まさかそいつらを捕まえろとか…」

「言うんだろうな。」


 勇者も、他のクラスメート達も全員同じことを考えていた。


「囚人、ゲットだぜ!」

「言い方変えても同じだよ!」


 相変わらずおふざけが過ぎる教師。

 それがまた癪に障る盗子。

 いつも通りの流れだ。


「でもまぁ今回は大丈夫ですよ。この島に上陸したのは、そのうち二名だけという話ですし。」

「いや、人数の問題でもないと思うけど…ちなみにその人達は何した人なの…?」


 盗子は恐る恐る聞いた。


「あ~、別に大した事件じゃないですよ。ちょっとした大量殺人です。」

「大事件じゃん!!もっと一般人の物差しで考えてくんない!?」


 思ったより危険度の高そうな敵。

 だがしかし、残念ながら目的は今回も変わらないようだ。


「今回の遠足は、『近所で囚人探し』です。みなさん頑張って!」


 もはや“遠足”ではない。




というわけで…で済ますのもどうかと思うが、なんでも明日の遠足は、この島での囚人探しだという。

なんだ、俺達は『なんでも屋』か?


聞くところによると、敵は『五錬邪ゴレンジャ』とかいう悪の組織であり、それぞれ赤・黒・黄・桃・群青色の仮面とマントを纏っているそうだ。

今のところ知っているのはこれだけ。だが明日までにはもう少し調べておきたい。


そう思った俺は、念のため親父に聞いてみることにした。

期待薄ではあるが、奴も一応いい歳した大人…何か知っている可能性はゼロじゃない。


「ただいまー。」

「おかえりー。」

「おぉなんだ親父、知らぬ間に随分と全身が黄色く…だ、誰だテメェ!?」


 なんと、明らかに『黄錬邪』っぽい奴が現れた。

 しかもなぜかエプロン姿だ。


「き、貴様…黄錬邪だな?なぜここにいる!?それに親父…親父は!?親父ぃーーー!!」

「フフッ、叫んでも無駄ですよ。今の彼に…キミの声など届かない。」


声からして大人の女。

謎の仮面と全身を覆う黄色いマントのせいで詳細は把握しきれんが、背丈は大きい方じゃない。


情報量が無さすぎて強さは計り知れん…しかし、何かうまく表現しきれない、得体の知れないオーラが感じられた。

やはりコイツが噂の五錬邪の一人、黄錬邪で間違いなさそうだ。


「くっ、親父はどこだ!」

「お風呂。」

「って紛らわしいなオイ!“声が届かない”ってそういう意味かよ!」


 意外な流れに勇者が戸惑っていると、黄錬邪の言った通り風呂上がりの父が元気に現れた。


「ふぃ~、いい湯だっ…おぉ勇者、いま帰ったのか?」

「おいコラ親父、これは一体どういうこった!?なぜ五錬邪が…脱獄囚がここにいるんだよ!?」


 すると父は、驚くほどあっさりとこう答えた。


「いや…だって父さん『赤錬邪』だし。」


 父は意外な過去を持っていた。

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