【149】外伝
*** 外伝:終が行く ***
アタイの名は『終』、十五歳の小粋なレディ。ただいま青春真っ盛り。
ちょいと成り行きで『マオ』とかいう珍妙な霊獣を体に飼うハメになっちまったけどね。
まぁ放っておいたら何をしでかすかわからない奴だったし、仕方ないんだけどさ。
「んじゃま、急だけどアタイは旅に出ることにするよ。じゃあね大ババちゃん。」
村の長老に別れを告げ、生まれ育ったケンド村に背を向ける終。
央遠、左遠、右遠の三つ子によってマオが解き放たれたことにより、村人は半分が惨殺され、家ごと焼き払われていた。
「な、何をしに行くつもりじゃ!?村の外は危険でイッパイじゃぞ!」
「ちょいと世界征服に。」
「なんじゃいそのもっと危険な感じ!?」
終は散歩に出かけるくらいのノリで物騒なことを言い放った。
「てか危険もなにも、既に村ごと潰れかけてるじゃないか。今さらじゃない?」
「ならば村のために残っておくれ。お前はそんなんじゃが、なぜか皆に好かれとるでなぁ。村を立て直す中心として…」
「嫌だよ面倒臭い。」
「お前って子は…」
子が子なら親も親だった。
「でさぁ、大ババちゃんに頼みがあるんだけど、聞いてくれるかい?」
「ハァ~、言って聞く子じゃないしの…。なんじゃい、言うてみぃ?」
「この村、完全に滅ぼしていいかい?」
「えぇっ!?立て直すどころか逆方向に…!?アホか!生まれ育った村を滅ぼす娘なんぞどこの世界におるか!」
「ところがどっこいここに。」
「どっこいじゃないどっこいじゃ!一体何のためにそのような悪行を!?」
「いやぁ、その方がハクが付くじゃない?新たな『魔王』…その誕生劇にはさ。」
凄まじく迷惑な理由だった。
豪快に村を焼いて颯爽と旅立とうと思ったのに、ギャーギャーうるさい大ババちゃん。
仕方なく、そういう噂を流すよう村中に徹底するってことで妥協することにしたわけ。
「んじゃ、今からアタイが言うことを死ぬまで守るんだよ?真実は墓場まで持ってきなアンタら!」
「あ゛ぁ?なんでそんな面倒なこギャーー!!」
「まずは…そうだねぇ、まず“終は村人何人かを犠牲に悪魔を召喚した”…とかかねぇ。」
「プハッ!悪魔を召喚て!イマドキ悪魔なんて信じギャーー!!」
「んで、“闇の儀式で『魔王』になった”…みたいな感じでどうだい?」
「いや、もう現時点でギャーー!!」
「その後アタイは、“その狂気に酔って大量虐殺”…うん、完璧だね。」
「だからもう既に狂気ギャーー!!」
こうして村はほぼ滅んだ。
なんだかんだで村も半壊したことだし…ってことで、アタイは旅立つことにした。
目指すはメジ大陸。やっぱ歴代『魔王』が城を構えた、あの大陸しかないよねぇ。
「てなわけで、やってきたねぇメジ大陸。さすがのアタイも十日も飲まず食わずはキッツいわ~。アンタはどうだいダンディー?」
「し、死ぬかと…ホントに…死ぬかと…」
のちの勇者義母である男似は、終の相棒のような立ち位置なだけに、今回の旅も当然のように連れ回されていた。
終が船代をケチッたため、ギマイ大陸からメジ大陸まで泳いで渡るという苦行を強いられた男似だが、なんとか生きて対岸の町まで辿り着けたのだった。
~メジ大陸:田舎町モコモ~
「さ~て、とにかくまずはご飯だね。さっさと腹ごしらえして、サクッと滅ぼそうかね~世界。」
「サクッとって…あ、でもなんで急に世界征服なの?似合ってはいるけども…」
「さぁねぇ…もしかしたら『マオ』の影響かもしれないねぇ。血が騒ぐのさね。」
「それは初期不良のような…」
「おっ!ここはなかなか良さそうな店だよ、この店にしようかダンディー。」
「え、いや、でもお金が…」
「ハァ~…学習能力の無い子は嫌いだよ。アタイは、金は払わない。」
こうして町は滅んだ。
新たな『魔王』として世に君臨するには、まずはデッカイことをやらかして名前を売らなきゃ…ってアタイは思うわけ。
だからその後も勢いでいくつか町を消したんだけど、一向にアタイの噂が広まる気配無し。
なんだか誰かの陰謀なんじゃないかって気もしてくるね。じゃなきゃ納得できないよ。
「おかしい…これほどまでに残虐に、壊滅させてるってのに…!」
「あのさ姉さん…多分だけど原因は、姉さんが…」
「なんだいアンタ、このアタイに何か落ち度でもあるっていうのかい!?」
「目撃者も残さないから…じゃない?」
あーー…
完全犯罪が裏目に。
ダンディーに痛いとこ突かれてわかった。そうかいアタイはやり過ぎてたのかい。
んじゃま、これからはちょいと手加減してやろうかねぇ。破壊衝動にも少しは慣れてきたし。
~メジ大陸:ワッキサ村~
「とはいえ、のんびりする気もないのに…ダンディーはどこ行ってるやら…」
「そう急くでない次なる『魔王』よ。今はまだ、その時ではないのだから。」
買い出しに出た男似を待っていると、怪しげなマントに身を包んだ謎の占い師が話しかけてきた。
「…ん、誰だいアンタ?その気配の断ち方は並みの人間じゃないね?」
「私はしがない旅の占い師。名乗ることに意味は無い。」
「食えないジジイだねぇ…。で、何の用だい?」
「これより三年の後、汝の前に、汝の生涯を左右する者が現れるであろう。」
「ハァ?なにさいきなり…。アタイの生涯をだって?誰なんだいそいつは?」
「その者は汝を解き放ち、全てを新たなる時代へと導くだろう。」
「解き放つ…?アタイは別に何にも縛られてなんかいないよ?」
「時を待て未熟なる『魔王』よ。力を蓄え、そして『勇者』と出会うがいい。」
「…なんか偉そうだねぇアンタ、気に食わない。」
「フフッ、やめておくがいい。未来を見通す私に死角は無ガハッ!?」
終の攻撃。
占い師に500のダメージ。
「ぶふっ!!えぇっ!?ば、馬鹿なっ、私の背後へ回れる者など…!」
「アタイに命令だなんて、百万年早いんだよっ!!」
「いや、ちょっ…!」
占い師はボコボコにされた。
妙な占い師の妙な予言…アタイを解き放つ『勇者』が現れるとか違うとか。
よくわからないけど、三年も待つとかふざけんじゃないよ。アタイは短気な方なんだ。
「で、だからこそ敢えて三年待ってみようと思う。」
「えっ、それどんな発想の転換!?姉さん…なんか疲れるよその性格…」
「前にさ、よく当たる占い師の噂を聞いたことがあってね。そういやさっきのと特徴も似てたし、もし当たるなら…さ?」
「当たるなら…何?何その期待に満ちた瞳…?」
「だって燃える展開じゃないか。『勇者』と『魔王』の頂上決戦…血がたぎるだろう?」
「ハァ…。で?じゃあどうやって三年潰そうっての?のんびり過ごすの?」
「やれやれ、馬鹿を言うんじゃないよ。勇者ご一行が来るんだよ?だったらもてなさなきゃ。」
「なるほど。城を構え、兵を揃え…磐石な体制を整えようってわけね?」
「いや、得意料理を増やしたり…」
「主婦か!違うでしょ、もっと、こう、あらゆるものを蹴散らす的な…ねぇ?」
「つまり掃除…?」
「だから主婦か!」
のちの『戦業主婦』である。
三年待つと決めたはいいものの、じゃあ何して待とうかが決まらない今日この頃。
あまりのんびり待ちすぎて、逆に挙兵が間に合わなくなったりしたら困るねぇ…。
「てなわけで、使える子らでも頑張って集めようと思う。任せたよダンディー。」
「頑張るのは私なんかい…。ま、逆らう気は無いけどね、諦めてるし…」
「とはいえ、アタイが認めるレベルの人間が何人もいるとは思えないけどさ。」
「ちなみに合格の基準とかは?例えば、大岩を粉砕できるレベル…とか。」
「んー…島を?」
「地球滅ぶ地球滅ぶ。」
「半端な奴らじゃ『勇者』もガッカリだしねぇ。そんな思いはさせらんないよ。」
「あ、あのさぁ姉さん、なんでそんなにまで『勇者』にご執心なの…?」
「RPGが好きだから。」
「ごめん、その感覚よくわかんない…」
「面白そうじゃないか、決してクリアできないRPGの実写化…燃えるねぇ~。」
このようにゲームが若者に与える悪影響が昨今の(以下略)
それから二年が経ち、アタイは十七歳…更にピッチピチのムッチムチに。
でもあと一年も…まったく、この女ざかりを待たせるとは敵もいいご身分だよ。
~メジ大陸諸島:カチャ島~
「久しぶりだねぇダンディー、早速だけど状況を聞こうか。お仲間の勧誘の方はどうなってるんだい?」
「あぁ~…全然ダメ。名のある猛者は一通り当たってみたんだけど…」
終からの依頼を受け、男似は仲間を探して世界中を駆け回っていた。
だが残念ながら成果は無かったようだ。
「やれやれ、やっぱり安すぎたのかねぇ…時給。」
「いや、そもそもまず時給制なのが…」
「あ、奴は駄目だったのかい?最強と噂の『暗殺者:暗殺死』って奴。」
「あ~、なんか目立つことは嫌いだって。」
「最近本出したじゃないか。握手会とかやりまくってるらしいじゃないか。」
「ちなみにそのフィアンセ、『麻音』嬢も同じ理由でNG。」
「そっちはそっちで堂々と歌とか出してる子じゃないか。なんなんだいそのふざけたバカップルは…」
「まぁ総合して、胡散臭いって意見が大多数だったよ。“終って誰だ”と。」
「ん?アタイのブロマイドは配らなかったのかい?」
「いや、だからこそ誰だと。」
「ハァ、仕方ないねぇ…。闇に潜んで二年…やはりアタイ自身が動くしか…むっ、誰だい?」
「フッ、そういうことなら…どうだいアネゴ、俺と手ぇ組んでみないかい?」
謎の少年が現れた
「ぶべらっ!!?」
と同時にボコボコにされた。
「誰だいアンタ?このアタイと対等に話していい奴がいるとするなら、それは未来のダーリンだけさね。」
「ぐふっ…俺かい?俺は『呪術師:解樹』。呪いの研究の旅をしてる。」
「フン、そのじゅじゅちゅ師がアタイに何の用だい?アタイは忙しいんだよ。」
「俺はアンタを探してたんだ。この一年で数多くのダンジョンを潰した、謎の女をさ。」
仲間探しを男似に任せ、終はダンジョン攻略に力を注いでいた。
「あ~…ありゃただの暇潰しだよ。まぁ結果的にいい装備集めになったけどね。」
「ひ、暇潰しであの惨事かよ…ますますいいじゃんか。なぁ、俺と一緒にぶっ!」
ぶたれた解樹は鮮やかに宙を舞った。
「アタイは態度のデカいガキは大嫌いでさぁ。早死にするよ?」
「す、すま…すみません。で、どうでしょう?俺の情報買わねッスか?」
「情報?なんだいアンタ、その手の経験でもあるのかい?」
「色々と情報が必要でねぇ、スパイまがいのことしまくって今じゃ札付きの身ッスわ。」
「ふ~ん…ま、ネタ次第ってとこかねぇ。」
「フッ…最近、隣国『シムソー』で大規模な国獲り劇があったらしくってさ。」
「国獲りかい…。似た噂はチョイチョイ聞くけど、成功例は久々に聞いたよ。」
「だろぉ?そいつ仕留めりゃよオメェ、そりゃ確実に名は上がぶふっ!」
「言ったろう?生意気なガキは、嫌いだと。」
息子の方が酷いが。
「ん~、まぁ確かに…戦場でチマチマやってくよりかはその方が手っ取り早い気もするねぇ。てなわけで、城を落としに行くよダンディー。今回のヤマは、ちょいとデカいよ。」
「オーケー姉さん。ま、次の予定も無いし…いいんじゃない?行こ行こ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!俺も連れてってくれ!絶対に力になぶへぇ!!」
「雑魚は要らないよ。強くなってから出直しといで。いいね?」
解樹はもう聞こえてない。
「で、どうするの姉さん?さすがに二人で正面突破ってのは…」
「気が合うねぇダンディー、それでいこう。」
「いやゴメン、ちっとも合わせらんない…」
「でも参ったねぇ…城攻めするには、ちょいと武器が心もとない感じだよ。」
「あ~、確かに他の装備に比べて武器は大したの無いねぇ。どうしよっか?」
「まぁまだ一年もあるし、前に聞いたあの噂の魔人を探そうか。」
「噂のって…『武器商人』やってるっていう妙な魔人のこと?」
「そう、『魔人:ゴッピリン』…そいつから、全てを奪い取るよ。」
多分だが『ゴップリン』の親だ。
「てなわけで、ゴッピリンとかいう魔人を探してんだよ。アンタ知ってるかい?」
行き着いた武器屋で、終は店主に尋ねた。
「まぁこういう商売だから噂くらいはねぇ。けど見つけてどうする気かね?」
「ハァ?何言ってんだいアンタ、武器屋探す目的なんて決まってるじゃないか。」
「いや、まぁそうだが…」
「殺して奪う。」
「まさかの発想に同業者としては震えが止まらないよ…」
店主は震度3くらいの揺れで震えている。
「まぁ安心しな、そいつの噂を聞いたらアタイに連絡できるってんなら生かしとくよ?」
「え、何その一択…?」
「んじゃ頼んだよ、死にたくなかったら気合いで探しな!じゃあね!」
終は足早に去って行った。
「ば、バレなくて良かった…」
店主は震度7くらい震えている。
その後、世界中駆けずり回って、結局最初の武器屋がターゲットだと知ったのは約一年後。
捕まったら死ぬと知ってるだけあって頑張って逃げてたようだけど、なんとか捕獲に成功。さて、どうしようかねぇ。
「まったく、手間かけさせてくれたもんだよ。なんで逃げたんだい?」
「いや、わかるだろ!なんでか聞いちゃうその根性がわからんよこっちは!」
一年ぶりの悪魔の来店に、計測不能なくらい震える店主『魔人:ゴッピリン』。
「じゃあ聞こうかい、遺言。」
「ちょ、ちょっと待て!話せばわかる!話せば…!」
「決まったかい遺言は?」
「話してよ…。ま、言葉を遺したい家族なんぞ…もういないのだがな…」
「ん?なんだい、子供と死に別れでもしたのかい?」
「家出だよ。武器屋を継ぐのが嫌だってねぇ…。もう三年になるか。」
「じゃあ遺言を。」
「同情ゼロ!?ま、待ってくれ!と、とっておきの武器があるんだ!」
そう言うとゴッピリンは、店の奥から怪しげな宝箱を持ってきた。
「とっておき…?チンケな代物だったら許さないよ?」
「フフフッ、見て驚け?これこそが、かの『魔神』の角より切り出したという伝説の魔剣…!」
ゴッピリンは宝箱を開けた。
だが中身は空っぽだった。
「…で、遺言は?」
「ば…馬鹿息子ォオオオオオオオオン!!」
ザシュッ!
のちに魔剣は勇者が手にする。
そして時は過ぎ…気づけばあの占い師と会ってぼちぼち三年。そろそろ動かなきゃって感じに。
ま、国攻めって言ってもボスを仕留めれば終わるし、大した作業でもないけどね。
「さてと…んじゃ行こうかねぇ。準備はいいかいダンディー?」
「まさか、三年も準備期間があって結局二人だとは思わなかったけどね…」
メジ大陸の『シムソー国』…その中央に建つ城の前に、終と男似は立っていた。
たった二人で国を堕とすとか正気か。
「細かいことは気にするんじゃないよ。国盗りのついでに兵力も奪えばいいだけさね。」
「ハァ…ま、そう言うとは思ってたけどね。で?今回の作戦を簡単に言うと?」
「殴って蹴って。」
「ごめん、もうチョイ細かく…」
「面倒。アンタこそ敵の情報はちゃんと調べてきたのかい?」
「あ~、今は城にいるみたいだよ。しかも側近は遠征中…チャンスかもね。」
「いいかいダンディー、倒すのはボスだけだよ?他は未来の部下だからねぇ。」
「でもそのボスが手強そうだよ?姉さんは甘く見てるかもしれないけど…」
「安心しな、油断はしないさ。今回ばかりは…手加減抜きだよ。」
いっつもじゃん。
そして―――
「ハァ、まったく…『暗殺者』が白昼堂々襲ってくるとか…。やっぱ目立つこと大好きなんじゃん。」
「我が名は『暗殺死』。俺は逃げも隠れもしない。金のためならば…というかむしろ目立ちたい。なぁ『麻音』?」
「そだね~。死んでもらおっか~♪」
「参ったなぁ…。今回ばかりは、この『三日月の鎌』を…振るわなきゃだねぇ。」
男似は二人の暗殺者に挑み―――
「んじゃま、ぼちぼち始めようかね。アタイの野望のため、死んでくれるかい?」
「警備が手薄な時とはいえ…貴様、何者だ?」
「いいね~、楽しませてくれそうじゃないかアンタ。その歳でいい魔力だよ、『皇帝:帝雅』。」
「フッ…身の程知らずめ。来るがいい、力の差というものを…思い知らぐふっ!」
終は帝雅をボッコボコにした。