【148】帝都奪還作戦(4)
肉体を取り戻し、十字禍の一端を撃破した俺は、そのまま土男流と駆け上がること数階…。辿り着いた先には、なにやら無駄に広い空間があった。
~帝城十階:舞踏の間~
「ゼェ、ゼェ、な、なんなんだここは?なんか広くて、落ち着かないぜ師匠。」
「フン、息を切らしてる場合じゃないぞ土男流。敵さんがお待ちかねのようだ。」
息つく暇なく現れたのは、見覚えのある二人。
「フフフッ…やはり来ましたか。待っていましたよ勇者君、あの日の雪辱戦といきましょう。」
「し、しのみんも!しのみんも来るってわかっ」
苦怨が現れた。
忍美が現れた。
「よぉ、久々だなぁ苦怨。帝都の武術会で無様に逃げて以来か。」
「くっ…フッ、まぁいいでしょう。そんな口をきけるのも今のうちですしねぇ。」
「強がるほど惨めになるぞ?いいから早く出せよ『破壊神』を。どうせそれしか手はあるまい?雑魚だしなぁ貴様!」
「ぬぐぅ…!どうやらキミは、僕を勘違いしているようだね。僕の…力量を!」
苦怨の手から怪しい光がほとばしった。
なんと!武術会でも戦った、刀神流操剣術の始祖『剣聖:那金』が現れた。
「なっ…!?馬鹿なっ、そのミカンジジイの『偽魂』は俺が砕いたはず…!」
「彼の偽魂は二つあってねぇ。前にキミ、かなり苦戦してたよねぇ?フフフッ。さあ、頼みますよ那金さん。」
「む…?ハァ~…」
苦怨に促された那金は、とても面倒臭そうに溜め息をついた。
だが立場上、従わないわけにもいかないようだ。
「ふぅ、やれやれ…また呼ぶかい人使いの荒い小僧…あ、ミカンめが。」
「慣れてねぇなら無理して言うなよ。前にも言ったが誰も求めてないからなその縛り?」
「おやおや、またお前さんかい…。前に修行つけてやって以来か。」
「フッ…まぁいい、ちょうど俺も貴様には聞きたいことがあったんだ。苦怨にバレないようにこっそり強力な技を伝授するがいい!」
「いや、モロ聞こえなんですけどね…」
勇者は敢えて聞こえるように言っている。
「フッ…いいだろう小僧。ならば教えてくれよう、我が流派の最終奥義…!」
「あ、『一撃必殺剣』は却下で。」
「な、なぬっ!?」
「そりゃそうだろ。使ったら確実に死ぬだぁ?死んだら負けだ、俺には向かん。」
「やれやれ、そう伝わっておったか…。確かにそれがほとんどだろうがねぇ。」
「む?なんだよ違うとでもいうのか?」
「死ぬのは自分か相手の“どちらか”じゃ。ま、死亡率は強さに反比例するが。」
「なにっ!?じゃあ可能性としては、強者を殺せる技だってのか!?」
「まぁしかし、それまでの修行を全て否定するようなもの…興ざめだろう?。」
「俺は気にしない。」
「いや、気にしとくれよ。マグレで勝ったのでは、剣士の誇りは保てまい。」
「フン、俺は『勇者』だ。最後に立っていられれば…それでいい!」
たとえ世界が滅んでも。
武術会以来二度目の対戦となった那金だが、相変わらず実に厄介な敵だ。同じ流派だけにやりづらい。
キン!キンッ!キィイイイン!
「チッ!とっくに死んでるジジイの分際で、いい動きしやがる…!」
「ふぃ~やれやれ、まったく…チョイと見ぬ間に妙に強くなりおって。くたびれるわ。」
「フッ、知ってる。」
「だがまだまだ力の使い方が甘い。そう、例えるなら未成熟なイチ…ミカン!」
「イチゴでいいよもう!なんなんだその思い出した時だけ出てくる設定は!?しかも思い出しきれてねーし!」
「まぁ安心せい。遠き師である拙者が、責任持って教えてくれようぞ。」
「ほぉ、いい心がけだ。」
「いや、ちょ…自分の立場をもう少し考えてもらえません那金さん?アナタの主は僕で…」
「舐めるな小童!死してもこの那金、悪に心を売る気わぁぁぁぁぁ…」
苦怨は術を解いた。
「ハァ~…やはり人格に難ありだと扱いが難しい。」
「まったく、折角いいところだったのに…余計なマネをしてくれるなよ苦怨。」
「いや、余計なマネしようとしたのは彼なんですがね。」
「まぁいい、短い時間ではあったが得るものはあったしな。後は貴様を軽く料理するとしよう。」
「…言いますねぇ、相変わらず気に食わない人だ。いいでしょう、今度こそ…」
「おっと待てよ!そいつを倒すのは、オイラに任せてもらうぜよ!」
「む…?来たか、戦仕。」
城門に置いてきたはずの戦仕が現れた。
孤軍奮闘していたせいで全身に傷を負ってはいるが、幸いにも重傷ではないようだ。
「そいつもお師さんのカタキの一人でなぁ。それに…あの武術会での雪辱も果たしてぇんだわ。」
「だが戦仕、城門はどうした?足止めがいなきゃ雑魚どもが上って来ちまうだろうが。」
「んあ?あ~大丈夫だ、問題無ぇ。目に映る範囲はブッ倒してきたし、後から湧いてもまぁ…なんとかするさ、アイツらがよぉ。」
「アイツら…?」
その頃、戦仕が離れた城門では…どう考えてもなんとかできそうにない面々が、代わりに陣取っていた。
「さぁやるですよ!ワチ、今度こそ役に立って面接で立派な自己アピールを…!」
勇者に遊園地に置き去りにされた無職だったが、なんとか自力で駆け付けたようだ。
太郎、下端、ライ、召々の四人も一緒だ。
「うぉー!自分も燃えてきたッス!燃える展開ッスー!」
「うん、じゃあ僕も明日から頑張る。」
「あっ、それって『絶対頑張らないフラグ』だよね太郎ちゃん☆」
「頑張るニャみんニャ!頑張れば明日にはアタチらが、英雄ニャのニャ~!」
下手すると明日は来ないが。
さらにその頃、一階に残された宿敵は―――
「ハァ、ハァ、やっぱりこうなるか…。わかっちゃいたけど、なんかヘコむね…」
例の如く決着がつきそうにない状況。そんな自分の不甲斐なさに辟易する宿敵だったが、太陽神はそうは思っていなかった。
「フゥ~まったく、舐めた小僧だわな。これでも我輩、神と呼ばれた者ぞ?むしろ光栄に思うがいいよ。」
「フン、神だって?大魔王の軍門に下った段階で、ただの“手下”に格下げさ。」
「ほぉ言ってくれる…。だがどうするね、このまま続ければ城が溶けるぞい?」
「残念だけどそれは無いね。この帝城は、最強の耐火鉱石で造られてると聞く。キミの火力が度を越えていても、崩れることは無いさ。」
「だがお前さんじゃ決着はつけられん。さっさと代わりを連れて来るわな。」
太陽神の言う通り、このままではらちが明かない。
だが宿敵に退くつもりは無いようだ。
「いいや、そうはいかない。友に任されたこの場…退けるわけがないだろう?」
「任された?」
「そ、そこは突っ込んじゃいけない。」
宿敵に痛恨の一撃。
「ならばどうするね?急に進化できるとでも言うのかい拮抗の者よ?」
「フッ…ああ、その通りさ。」
「な、なにぃ…?」
「勝てない勝負に意味は無い。ならば僕は…僕は『好敵手』の職を、捨てる!」
どう考えても“退化”だが大丈夫か。
「その職を…捨てるとね?それが死を意味する愚行とわかっての行為かね?」
「僕は逃げていた…。勝ちを求めるより、負けから逃げていたんだ。それが僕の弱さ…。だが、そんな弱い僕はもう…捨てた!うぉおおおおお!『自主退職』!!」
宿敵は咆哮と共に力を込めた。
全身を取り巻いてたオーラが見る見る薄れていく。
「ハァアアアアアアアアアアアアアア!!」
「ふむ…こうも絵面と効果が真逆なのも珍しいわな。」
「ゼェ、ゼェ…!フンッ、いいのさ…たった一度…一度でも、勝てるならね。」
「明らかに負けに向かってると思うがね?」
「この奥義『自主退職』は、自ら職を辞するもの…確かに普通は誰も使わないだろう。でも引き分けの呪縛から逃れ、万に一つの勝機を得るには…この手しかないんだ。」
「ほほぉ、見上げたもんだわな。戦力を落としてまで勝ちにこだわるとは。」
「命を懸けてでも、報いたいのさ。僕を信じてくれた…友への信頼にっ!!」
「信じた?」
「そこも触れちゃ駄目!」
痛恨の二撃目。
「ふぅ…奥義の発動は終わった。これでもう後には退けない。さぁ!見るがい」
「もういいわな。燃え尽きるがいい、かつて強かった者よ!!」
「いや、ちょっ…見限るの早くない!?失望するのは見てからでも…」
「燃ぉえて無くなれぇええええええええええ!!」
ブフォォオオオオオオオ!!
太陽神の攻撃。
ミス!巨大な青い魔獣が宿敵を守った。
「プシャアアアアアアアアア!!」
「なっ…こ、こやつは水の魔獣『水曜獣』!?まさか貴様は…!」
「そう、これでも元は『魔獣使い』でね。この子は…兄から受け継いだ魔獣さ。」
「ほほぉ、やりおるわな。職無しになるわけでなく、前職に戻る仕様か。だがそんな力があったのならば、なぜ捨てたね?」
「いや、挫折して…」
「ま、負ける気がせんわな…」
太陽神は感心していいのか駄目なのかわからない。
「むぅ?『魔獣使い』…?そういえば大魔王の小僧が先日、雪の大陸で倒した中にも…中々の使い手がいたと聞いたわな。もしや兄とは…」
「ああ。『好敵手』という職の未来に絶望しかけていた僕に、ポン老師が…師匠が紹介してくれたのが、まさかの実兄でね。僕に魔獣を分け与えてなければ、もしかしたら死ぬことも…」
「して、修練の成果は?」
「意外と上々だったよ?『好敵手』として多くの敵と波長を合わせてきたこと…それがまさか、魔獣と合わせる『魔獣使い』にも通じるとは思わなかったね。」
「ほほぉ、面白い。ならば楽しめそうだわな。」
「さぁ、最終章といこうか太陽神ヒノテ。見せてあげるよ、キミの…ライバルの強さを!」
命懸けの決戦が始まる。
那金が消え、さぁ次はいよいよ『破壊神』か…という時に戦仕の奴が現れたので、苦怨は任せて俺は先を急ぐことにした。
一度倒した雑魚に無駄な時間を割いている暇は無い。俺はもっと強者と戦いたい。
誰もがビビる強き者…そんな奴らをブッ倒してこそ、俺の功績は輝くんだ。
ゆくゆくはそんな活躍が映画化されるだろう俺だ、名場面のネタは多いほどいい。
だがまぁ実際この俺と対等に戦えそうなのは、どうせ大魔王くらいなものだろう。
最強の敵は最後のお楽しみだ。それまではせいぜい、のんびりさせてもらおうか。
~帝城十五階:閑散の間~
「…と、思っていたんだが…なぁ。」
行き着いた先で勇者を待ち受けていたのは―――
「来たか勇者、この父に…殺されるために。」
最強の敵が現れた。