【146】帝都奪還作戦(2)
暗殺美と商南を帝牢に残し、俺は帝城近くのとある場所へと向かった。
味方を集めとけと土男流に言っといた酒場…仕方なくそこで、奴らを待とう。
「おいマスター、悪いがしばらく時間、もしくは店を潰させてもら…」
「あっ!遅いんだ師匠ー!とっても待たされたんだー!」
「さぁ、とっとと行こうぜよ勇者。盗子サンの城を、取り戻すんだろ?」
「僕も覚悟を決めてきた。今度こそは、役に立ってみせるよ。」
土男流が現れた。
戦仕が現れた。
宿敵が現れた。
「おいマスター、悪いが店を潰させてもらうぞ。」
「うぉー!当たり前のように仕切り直すとかさすがだぜ師匠ー!しかもさっきより悪い方に!」
「ハァ~…やれやれ。まさかもう集まってたとはな。こんなことなら最初っからここに来てりゃ、暗殺美と商南も死なずに済んだのかもな。」
「なっ!?ちょ、ちょっと待って勇者君!暗殺美って…あの美しい子が…死んだだって…!?」
「あー、そういや宿敵は暗殺美に一目惚れしたんだっけ?ったくお前といい戦仕といい、もうちょっと女の趣味をなんとかしろよ。」
「いや、キミの想い人も普通じゃないからね?」
むしろトップクラスの変人だった。
「ところで勇者、お前…盗子サンについて何か知ってるかよ?」
「ん?トウ…コサン?」
「いや師匠、多分そういうレベルで知ってるかは聞いてないんだ!存在ごと知らない扱いはさすがに私も同情しちゃうぜ!」
「お前、最近まで一緒にいたんだろ勇者?盗子サン、無事なんだよな…?」
「今の状況はマジで知らんぞ?〔武者修行〕で別れたきりでな。魔法の影響でか盗聴器も発信機も壊れたらしく、何にもわからんのだ。まぁ知りたくもないが。」
「そんな知りたくもねぇ相手に盗聴器だ発信機だ仕掛けるんじゃねぇぜよ。」
「フン、くだらんことは気にするな戦仕。そんなことよりお前らこそ敵の情報とか話せよ。」
「あ、情報なら私が仕入れてるぜ!もう『十字禍』も大半が城に来てるんだー!」
「おぉ、さすがだな土男流。だがお前『人形師』はどうした。本職を見失うなよオイ。」
もはや手遅れな感が。
「とにかく急ごう勇者君。そうこうしている間に暗殺美君が…」
「そんなことより太陽神について聞かせろよ。敵の情報は多いほどいい。」
「いや、そんなことって…!」
「暗殺美はやめとけ。世の中には知らない方がいいことってのもあるんだ。お前のためだぞ?暗殺美は賢二に惚れてる。」
「えっ、じゃあなぜ言っちゃったの!?言わない方がいいと知っててなぜ…!?」
むしろ知ってたからだ。
「ハァ…仕方ない、一旦忘れようか…。そうだね、太陽神…彼とはこれまでに二度戦ったよ。最初は校長に命じられメジ大陸に乗り込んだ時、そして次は前回の遊園地の時だね。」
「で、結果は聞くまでも無いって感じか。」
「まぁ僕の職業上なんとか引き分けたけど…他の人ならまず殺されるだろうね。」
「ほぉ、言うじゃないか。この俺でもそうだってのか?」
「いや、相性の問題だよ。敵は“炎の化身”みたいなものだからね。水系が得意な魔法使いとかじゃないと…」
「フッ、舐められたもんだな。俺だって得意だぜ?その…“水掛け論”とか?」
「確かに今まさにそうなりつつあるけども。」
「フン、まぁいい。じゃあ次は戦仕だ。お前の敵はどんな奴だった?」
「オイラの?そうだな…遊園地で最初に戦ったのは葉沙香とかいうバーサーカーだったがよ、一番叩きのめしてぇのは…帝雅って男ぜよ。お師さんの…カタキなんでなぁ…!」
「帝雅…盗子の父親を名乗る変人か。間違いなく強いな。」
「まあな。オメェにもわかるかよ?」
「ああ、強すぎだろ“個性”。」
「いや論点はそこじゃねぇぜよ。」
「そういや親父の頬にドデカく刻まれた傷は奴の仕業だと聞いたなぁ。その上『武闘王』も倒したとなると…実力は敵の最高戦力と考えていいのかもな。」
「でも師匠、さっき流された葉沙香って人も侮れないぜー!なんたって懸賞金7600銀の賞金首!罪状はなんと『大量虐殺』だぜー!?」
「ほぉ、気が合いそうだな。」
「そんな極悪人と意気投合しないでほしいけどその光景は想像しやすいにも程があるんだー!」
「あ~、あとは…アイツぜよ。あの『霊媒師』…なんかおっかねぇ奴を呼び出してよぉ、山賊のオッサン達を蹴散らしてたぜよ。」
「あ~、苦怨の奴だな。おっかない奴…俺から盗んだ『破壊神の盾』から偽魂を作ったってところか。古代神…確かに厄介そうだ。それに崩落園側の生き残りには竜神やオロチ、解樹もいるし…なんだもう詰んだんじゃないか?大変だなお前ら。」
「ちっくしょー!この状況で他人事なのはズルいぜ師匠ー!」
「ところで土男流よ、『帝都護衛軍』の奴らはどうなってる?いくらなんでも全滅ってことはないよな?」
「あ、うん!今回敵は少数で最短距離で攻め落としたから、遭遇しなかった人達は生き残ってるって聞いたぜ!城の中枢が陥落したって合図が出た時点で脱出したみたいなんだ!」
「お前のことだ、そいつらも集めてるんだろ?ただでさえ戦力差は絶望的なんだ、せめて雑兵の相手くらいは誰かに任せたい。まぁ期待薄だがな。」
帝都護衛軍とは文字通り帝都を護る軍隊であり、選ばれた強者のみで組織されているのだが、かつての五錬邪や今回の大魔王に攻め込まれた実績があるため、勇者はあまり当てにはしていなかった。
「さっすが師匠、私のことよくわかっててくれて嬉しいぜ!あとで合流する予定なんだー!」
「その中に『帝都守護隊』の連中は?護衛軍の中でも精鋭を集めたという部隊…前の暗黒神戦でも微妙に活躍してたんだろ宿敵?」
「あぁ、そうだね。僕と一緒に天空城へ向かった『二番隊』と『三番隊』は隊長含め全滅したようだけど、確か各隊二十五名で五番隊まであったはず…」
「ほぉ…。土男流は?」
話の流れで思い出した『帝都守護隊』の存在に、かすかな希望を見出した勇者。
「えっと、私の情報だと『一番隊』は総長の武史さんが死んじゃった時点で解散したって聞いたぜー?で、『五番隊』は今回の侵攻で敵の直撃受けちゃって壊滅…。残る『四番隊』は、今は残念だけど不在みたいなんだ。」
「不在だぁ?オイオイこの一大事に何やってんだよ?」
「いや、なんか先月は時間外労働が多かったから、みんな特別休暇もらって保養施設に…」
「チッ、なんて福利厚生がちゃんとした組織なんだ。まぁどう考えても今じゃないが。」
休んでる間に潰れる。
「そうなると、軍に任せられるのはやはり雑魚どもだけか。敵の幹部がどれだけ集まってるのか…それ次第だな。」
「さぁ、いい加減行こう勇者君。暗殺美君のこともあるし、僕には今度こそ倒すべき…因縁の敵がいるしね。」
「オイラも、早くカタキを討ちたくてウズウズしてるぜよ。アイツはぜってーオイラが、ブッ飛ばす!」
「私にもとっておきの秘策があるんだー!師匠もきっとビックリするぜー!」
「なんだなんだ、みんなしてヤル気マンマンじゃないか。ウザッ。」
「まさかのリアクションに師匠の前に私がビックリしたんだー!」
「フン…まぁいい、ほざいたからには結果を出せよ貴様ら?命懸けでなっ!」
「オウッ!!」
だが、一番目立つのは俺だ。
勇者は目指す場所がおかしい。
こんな絶望的な状況の中、なぜかヤル気らしいドMな三人と共に、俺は改めて帝城へと乗り込むことにした。
途中、土男流が声をかけていた帝都護衛軍の残党(約五十人)も合流。
もちろん今回も正面突破だ。最終決戦にコソコソするなんて興ざめだしな。
~帝城:城門~
「さーて行くぞ…さぁ~てぇ!行くぞぉおおおおおあああああ!!」
敵の本拠地と化した帝城を前に、なぜか無駄に絶叫する勇者。
「ちょっ、待ってくれ勇者君!なぜわざわざ敵を誘うようなマネを!?」
「フッ、陽動作戦だ。」
「いや、それは本隊が別にいたらの話だよね!?状況が違うよね!?」
「だが敵は…そうは思わんだろうなぁ。」
「うぉー!さすがなんだ師匠ー!まずは心理戦とかなんかカッコいいぜー!」
「フッ、ただの嫌がらせとは今さら言い出しづらい雰囲気だぜ。」
やっぱりただの嫌がらせだった。
「まぁ来るなら来りゃいいんぜよ。どうせ最終的には、全員ブッ飛ばさなきゃなんねぇわけだしな。」
勇者の悪ふざけにも動じていない様子の戦仕。
すると遠くから、敵兵が駆け付ける声が聞こえてきた。
「不審者が来たぞー!敵襲だー!」
「衛兵、集えぇーー!!」
「ま、とりあえずここは任せろよ。オイラは後から駆けつけ…って、いない!?」
戦仕は陽動に使われた。
戦仕一人を城の外に残し、俺は残りの雑魚ども城の中に乗り込んだ。
未だ不安しかないが、先のことは考えたら負けだ。
「チッ、戦仕を連れてくるつもりが…まさか使えんお前らが来やがるとはな。」
勇者は置き去りにした張本人が言うべきじゃないセリフを吐いた。
「もう足止め要員なんてごめんなんでね。今回は貪欲に、勝ちを目指すんだ!」
「いや、もう少し冷静に考えろ宿敵。自分のアイデンティティは大事にしろよ。」
「私はもう師匠と離れないって決めたんだー!師匠の養分で育つんだー!」
「お前は冬虫夏草か何かか。」
早くも勝ち目が見えない。
「勇者殿、我々は…どうすればいいのだろうか。一度は敗走した身…情けない話だが、力になれるとは思えぬのだ。」
同行してきた帝都護衛軍の中で、一番古株っぽい渋い兵士が話しかけてきた。
「ワシらはかつて凱空殿に師事し、鍛錬に励んだが…ついぞ守護隊への道は叶わなかった。そんな我々では、守護隊をも上回る敵の相手にはならぬだろう。口惜しいが…貴殿に託すしかない。」
「ふむ。まぁ身の程をわきまえてるだけ上等だ。胸を張って戦い、そして華々しくチリと化せ。」
「いや、せめて“盾”くらいには…」
勇者は士気を下げまくった。
~帝城一階:守りの広間~
「てなわけで、早くも最初の広間の前まで来ちまったわけだが…こんなメンツだ、なるべく敵に見つからんよう慎重に行けよな。」
入口で大声出した男のセリフとは思えなかった。
「あ~…残念だけど、そうもいかないようだよ勇者君。そうこうしているうちに…来たようだ、僕の宿命の相手がね。」
「…やれやれ、またお前さんかね。参ったわな。」
太陽神が現れた。
見るからに“もう飽きたわ”的な顔をしている。
「さて…このくだらん因縁も、ここらで幕としようかね。次は無いわな。」
「勇者君、ここは任せてもらうよ。僕は後から駆けつけ…ってやっぱりいない!」
当然の流れだった。
今度は宿敵を残し、俺と土男流と護衛軍の五十人は更に上へ。
確か帝城は地上三十階…まだまだかかりそうだ。
~帝城三階:歓談の間~
「やれやれ、残されたのがお前とはなぁ土男流…。俺が戦えん今、これ以上進んでも…」
「だ、大丈夫なんだ!さっきも言ったけど私には奥の手があるんだー!」
「フン、『人形師』風情の奥の手なんぞ知れている。希望もクソも無いな。」
「今や色々呼び出せるんだぜ!前に仲良くなった『ロリータ・コング』とか!」
「ロリコンに希望は見出したくないな、人として。」
「そして、中でも一番のオススメなのが…」
「ちょぉ~~~っと待ったぁーーー!!」
土男流の言葉を遮って、敵地で発するべきではない音量で聞き慣れた声が聞こえてきた。
「なっ!?ま、まさかそのウザ過ぎる声は…!!」
「アタシを置いてこうとか、甘いんだかんねっ!!」
なんと!盗子が現れた。
天帝の試練はどうした。
「くっ、この状況で味方どころかゴミが現れるとは…!なんてことだ…!」
「か、顔が鬼みたいなんだ師匠ー!せっかくの男前が台無しなんだー!」
「フッ、そんなことはないぞ?ホラ、こんなに素敵に笑える。」
「それは標的を見つけた猟奇殺人鬼の笑みなんだー!」
勇者は般若のような顔をしている。
「ったく、この状況で足手まといが増えるとか…。仕方ない一旦退くとするか。」
「ギャーギャーうっさいよバカ勇者!ビビッてないで急げばいいんだよ!」
どういうわけか、盗子は無駄に強気だった。
死ぬ気か。
「…なにぃ?ほぉ、いつになく好戦的じゃないか。新手のジョークかオイ…?」
「バーカバーカ死ねっ!アンタなんか死んじゃえばいいんだよっ!」
「て、テメェ…いい度胸だ貴様ぁ!!ブッ殺…」
バスンッ!!
突如聞こえた妙な音と、同時に目に飛び込んできた衝撃の光景。
土男流は驚き、勇者は言葉を失った。
「わっ!?」
「え……?」
いつの間にかそこには、『狂戦士:葉沙香』が立っていた。
水平に振り抜いた右手は鮮血に染まっている。
「まぁ~ずは、一人目ぇ~♪」
盗子は首から上が無い。