【143】バトル遊園地(5)
オロチの撤退により、Death忍ランドの戦いは終わりを告げた。
その少し前…一方の崩落園遊園地では、戦仕が一方的な窮地に陥っていた。
「ゼェ、ゼェ…マジかよ…!な、なんぜよこの凄まじい状況はよぉ…!」
戦仕の前にはそれまで戦っていた葉沙香だけでなく、山賊達と戦っていたはずの苦怨と忍美、そして拳造を打ち破った帝雅までもが立ちはだかっていた。ついでに土男流もいる。
太陽神はもう帰ってしまったので、残るボス級の敵は全てここに集結しているというわけだ。
「ハハッ、形勢逆転だなぁクソガキ!だがテメェら、手は出すんじゃねーぞ?コイツをやるのはこの俺だ…邪魔したら殺す。」
「ま、邪魔する気はありませんよ葉沙香さん。あの野蛮な山賊どものせいで、僕もそれなりに消耗していますしね。」
「弱者をいたぶるのは『皇帝』の名誉を汚す。私も傍観にとどめよう。」
幸いにも共闘する気は無さそうだが、その様子が戦仕に火をつけてしまったようだ。
「あん…?へぇ、言ってくれるじゃねーの。オイラが弱者…?ざけんなよっ!!」
バチッ…バチバチバチィイイ!
戦仕の体から電気的な何かがほとばしった。
「なっ!?テメェ、まだそんな奥の手を隠してやがったのか!さっきまでは手ぇ抜いてたってのかよ!?」
「いや、まぁこの『雷神の篭手』…ぶっちゃけまだ制御がきかねぇんぜよ。」
「あ゛?ギャハハッ、なんだよ使いこなせてねぇのかよビビらせやがって!」
「ドアノブ握ると、こう、バチッと…!」
「ちっさ!!舐めてんのかテメェ!?そんなんにビビるアホがどこに…」
「ぐぉー!か、考えただけで痛いぜー!」
「し、しのみんも!しのみんも負けじと痛いのだっ!」
土男流と忍美に10のダメージ。
「フゥ…さーて、じゃあいくぜ?死ぬ気でブチのめすぜよ、アンタら五人!!」
土男流も勘定に入った。
「うぉ…うぉおおおおっ!いくぜ武神我流奥義、『雷帝ビリビリ拳』!!」
「ぬぐっ!ぐぉおおおお…そ、そんなフザけた名前の技に…この俺様が…負けるかよぉ…!」
「あらら、苦戦してるようですねぇ葉沙香さん。手助けが必要ですか?」
「ざけんな霊媒師!手ぇ出したらテメェ、靴底にガムくっつけるぞゴルァ!」
「ば、バーサーカーの割にスケールの小さい嫌がらせを…」
S級賞金首である葉沙香を相手に善戦する戦仕。
このまま1対1で戦えるのなら、なんとかなるのかもしれない。
「うぉー!アンタ凄いな雷の人!その勢いなら全員倒せそうなんだー!」
「オイラは何があっても生き延びるぜよ!もう一度盗子サンに、会うまでは!」
「ッ!!?少年、キミは…塔子を知っているのかね?」
先ほどまで戦仕に無関心だった帝雅だが、盗子の名が出て態度が一変した。
「あ゛?アンタこそ盗子サンの何ぜよ?盗子サンは…オイラの女神ぜグハッ!」
帝雅は戦仕を蹴り飛ばした。
戦仕は200のダメージを受けた。
「なっ!?テメェ、邪魔してんじゃねーよクソがぁ!!コイツは俺の獲物だと…」
「すまないが少々事情が変わった。娘に群がるハエは…私が全て駆除する。」
盗子はウ○コか何かか。
「げほっ、ぐほっ!む、娘…だぁ!?嘘ぜよ、盗子サンがオメェなんかの…!」
「塔子の居場所…知っているなら話したまえ。そうすれば楽に殺してくれよう。」
「フッ…オイラ、無駄口は嫌いなんぜよ。男はやっぱ…“拳”で語るモンよ!」
絶望的な状況下でなお、精一杯強がる戦仕。
その時、そんな空気を塗り替えるような笑い声が轟いた。
「ハッハッハ!よく言ったぁ戦仕、相変わらず暑苦しいが嫌いじゃねぇぜ!」
なんと!死んだはずの拳造が現れた。
帝雅は思わず二度見した。
「なっ…あの攻撃を受けて生きていようとはな。やはり瓦礫を掘り起こして死体を確認すべきだったか…やれやれ、化け物め。」
「本当は隅で休んでようかと思ったんだが…ま、こう弟子にカッコ付けられちゃ…なぁ?」
「お、お師さんアンタ…そんなボロッボロで片腕もげた状態でそのノリとか…敵さんの言う通り化け物にも程があるぜよ。」
「ん?いやぁ~、さすがにもうヤベェだろ。だがまぁ…」
「だども、死ぬ気のオッサンが二人もいりゃあ…戦況もちっどは変わるべ?」
なんと!さらに山族長まで現れた。
今度は苦怨が二度見した。
「ば、馬鹿な…!アナタは確かにあの時、僕が…!」
「ブハハッ!まぁ見だ目通りのタフさが売りだでなぁ。そう簡単にゃ死なんべ。」
少し前の戦いで、手下の山賊達もろとも始末したはずの族長が再び現れたことに驚愕する苦怨。
ちなみになぜ戦闘描写がカットされたかというと、むさくるしい山賊達がうごめく絵面があまりにも暑苦しかったからだ。
「出会い頭に“あんな化けモン”呼ばれで一気に押し切られぢまっだが、このままで終わっちゃあ…死んだアイヅらも浮かばれねぇ。戻ってきたべよ。」
「…フン、まぁいいさ。結末は変わらない。」
思わず動揺してしまった苦怨だったが、族長もまた拳造と同じく今にも死にそうなこと気付き、落ち着きを取り戻した。
「で、どうします帝雅さん?お互い狩り残してたようですし、まずは元々のターゲットをきっちり倒しましょうか?」
「いいや、私は塔子の…」
あくまで盗子に執着する構えを見せる帝雅だったが、拳造がそれを遮った。
「なぁ帝雅よ。俺ぁもう瀕死だ、テメェもそれなりにだろう?かったりぃしジャンケンで決着ってのは駄目か?」
「苦怨様苦怨様!この人頭おかしいのだ!緊張感もへったくれも無いのだ!」
「フン、悪いが同じ轍は踏まん主義でね。」
「でも意外にも一回踏んでるっぽいぜー!」
忍美と土男流のツッコミも相まって、場に緊迫感が足りない。
「いやいや拒否権は無ぇんだわ。悪ぃがこの鋼の“グー”で…俺の勝ちだ。」
壮絶なジャンケン大会が始まる。
「さぁまだまだいくぜぇーー!ジャーーーン…ケェーーーーン!!」
その後、数多のグー(拳)が乱れ飛び―――
「ぐぅっ!な、なんだよこのオヤジ…!なんでそんな体でそんな動きが…!」
「くっ、まだこれほどの力が…!」
「ハッハー!どうよ、痛々しいだろぉ!?ぶばっ!」
「なんでこの人、血を吐きながら自慢げなのかわからないのだ!怖いのだ!」
葉沙香と帝雅の二人を相手しながら、楽し気に血を吐く拳造に怯える忍美。
「おっど、オデも負げでらんねなや。もっとこう、ブバッと…ぶばっ!」
「うぉー!勝負の方法が間違ってるんだー!それだと勝った方が死ぬんだー!」
山賊長もまた、怪我人とは思えない攻撃を繰り出しつつ、怪我人らしくぼちぼち死にそうだ。
どうやら二人は、戦仕に後を託して死ぬ気のようだ。
「オイ見逃すなよ戦仕?俺達が活路を開く…オメェはその隙に、そこの浅黒い方の嬢ちゃん拾って逃げな。」
「た、頼むから無理しねぇでくれお師さん!アンタが死んじまったらオイラ…」
「あ゛?何言ってんだテメェ、もう駄目に決まってんだろ。普通に死ぬぞ俺ら。」
「えぇっ!?なんぜよそのアッサリしまくりな死亡宣言!?」
「だがまぁ、オメェは別よ。生きて…凱空のガキと組んで、そして勝てや。」
「なっ…い、イヤぜよ!オイラまだ、アンタに教わりたいことが山ほど…!」
「心配すんな、もう大抵教えてあらぁ。あぁ、んじゃまぁ最後に一つだけ…」
「な、なんぜよ!?何かとっておきの技とか…!?」
「オメェさっき言ってたが…“拳”で語るなんざガキの発想よ。大人の男はなぁ…“背中”で、語るんだ。」
拳造は戦仕に背を向け、親指を立てた。
「ギャーギャーうっせぇんだよテメェらぁ!いい加減この葉沙香様にブッ殺されろやぁ!」
「今度こそトドメといきますか…。いでよ、『破壊神』!」
「おっど、まだ出やがっだなぁ手下どものカタキめがぁ!んだば、冥途の土産に腕の一本ぐれぇはもらっでいがねばなぁ!!」
「逃がしはせんぞ少年!塔子の居場所を聞くまでは…!」
「さぁ!行けやぁ戦仕ぃーーー!!」
「お師さぁーーーーん!!」
そして崩落園遊園地は、その名の通り崩落した。
あの後、霊魅にまんまと逃げられた俺は、商南、そして無理矢理たたき起こした無職を連れて敵残党を捜して歩いた。
すると途中で、道端で倒れている暗殺美を発見。どうやら眠っているようだ。
しかも、なにやら片足が石と化している。これは面白い…放っておく手は無いな。
「というわけで商南、漬物業者に知り合いはいないか?」
「どんだけ酔狂ならこない厄介なオプション付いた漬物石なんか欲しがんねん?」
「いや、普通はまず心配とかする気がするですが…」
「フッ、これだから職無しは困る。“普通”なんてのは無個性な奴らが自分を守るために作った言葉よ。」
「裏を返せば“個性”って言葉もそうかと…」
無職がドン引きしていると、声が聞こえたのか暗殺美が目を覚ました。
「う、うぅ…フゥ、やれやれさ。寝覚めに見るのがアンタの顔とか…最悪さ。」
「よぉ暗殺美、石化とはまた斬新なファッションだが多分その時代は来ないぞ。」
「フン、私としても流行らないことを祈ってやまないさ。ってか誰か治せや。」
「ん~…すまんけどウチの在庫の中には何も無さそうやね。その手のタイプは“呪い”が多いねん。」
「なっ…!?じゃ、じゃあ私は一生このままって意味かさ…!?」
商南の言葉にショックを受ける暗殺美。
だが勇者には当てがあるようだ。
「いや、そうでもないぜ?奴ならば恐らく…って感じの奴をさっき見かけたぞ。まぁまだ生きてるかはわからんがな。」
「まさかアンタに頼る日が来るとは思わなかったさ。」
「む?よもや貴様…この俺が貴様ごときのために動くとか思ってないよなぁ?」
「くっ…ひ、姫との間を取り持つさ!」
「却下。貴様なんぞがあの姫ちゃんを導けるとは到底思えん。」
「じゃあ、邪魔な盗子を亡き者にするさ!」
「それは俺の趣味だ。ま…賢二相手なら考えんでもないがな。」
「へ?賢二…君が、何なのさ?ハッ、まさか殺せとか…!?」
「告れ♪」
「ぬぁああっ!?」
勇者は悪い笑みを浮かべている。
「な、な、ななな何言ってんのさアンタ!?アンタ気は確かかさ!?」
「次に奴に会った時な。もし言わなかったら回覧板に載せて世界中回すからな。」
「だからなんで…!わ、私はあんなの、別に好きでもなんでも…ないし…」
「それならそれで面白い。」
「お…鬼ぃーーー!!イヤーーーン!!」
暗殺美はキャラが崩壊し始めた。
「おっとそうだ、大事なことを忘れてたぜ。オイ商南、鼻栓はあるか?」
暗殺美を回収して少し歩いた後、勇者は顔をしかめながら尋ねた。
「ん?なんやよーわからへんけど…まぁええわ。5銀(約5万円)な。」
「高っ!って、え!もしや次はそういう目的地です!?じゃあワチにもお一つ!」
「ほな10銀。」
「なぜに倍額っ!?」
「せやけどなんで急に鼻栓やねん?なんかあったんか?」
「ん?あぁ、なぜだかよくわからんが…妙な鼻騒ぎがするんだ。」
「確かにその騒ぎは妙やけども…って、ぐふっ!ホンマや、ごっつクサッ!」
一行の眼前には、異様な光景が広がっていた。
無職はこんな感じの光景に見覚えがあった。
「か、花壇の花が…枯れてる…!もしやこれは、大佐さんの技…いや、ワキ?」
「うぐっ、しまった…買ったはいいが今の俺は鼻栓が使えん…!」
「そんな霊体のアンタまでクサいとか、どんだけ異次元のクサささ…クサッ!クサ過ぎるさ!」
「や、ヤバッ…鼻栓全部売ってもうて…ウチの分が…ぐへぇええ!」
「お、お気を確かにです商人さん!落ち着いて、気を鎮めて、えっと、あっ!深呼吸!」
「いや、殺す気かいアンタ!」
「にしても…少々、意外な展開だったな。」
そう勇者が話しかけたのは―――
「フッ…そうか?」
なんと!解樹が勝ち残っていた。
大佐は物言わぬ汚物と化していた。
「そ、そんな…!軍の中でも指折りのクサ…強さだった大佐さんが…!」
「だろうな、メチャクチャ苦労したぜ。おかげで嗅覚は完全に死んだわ。」
解樹も無事ではないようだ。
「ところで解樹よ、貴様に呪解を頼みたいんだが聞いてくれるかコラ?」
「あん?何言ってんだよ、俺は敵側だぜ?何の得にもならねぇことは…」
「お前、『断末魔』って呪いに興味は無いか?」
「…テメェ、その名をどこで…?」
解樹の目付きが変わった。
「どこでも何も、俺の本体は今それを馴染ませてる真っ最中だ。気になるか?」
「なるほど…そういうことか。ああ、是非とも手に入れてぇもんだわ。そのためなら手段は問わねぇよ。」
「フッ、ならば言うことを聞け。さすれば今度貴様の前で、存分に暴れてやる!」
「いや、それだと言うこと聞こうが聞くまいがじゃね?ま、どっちでもいいがな。治すのはその嬢ちゃんだな?」
「ああ。できそうか?」
「ま、なんとかな。これが済んだら今日は帰るぜ?早くなんとかしねぇと、マジで一生鼻の利かねぇ人生になっちまう。」
「安心しろ、今の俺には攻撃力が無いしな。見逃してやるよ。秋になったら全員まとめてブッた斬ってやるさ。」
「フッ、秋…か。まぁその頃の方が、逆に落ち着いてるかもな。」
解樹はなにやら含みのある笑みを浮かべた。
「む?貴様何を…」
「あのインタビューの嬢ちゃんから俺達の主戦力は聞いてるよな?十字禍の…」
「ああ。土男流の情報じゃ、そのうちの四人ずつが各遊園地へと出向いてる。残る二人…夜玄と女神の戦力はわからんが、まぁいざとなったら親父が動けば…」
「あー、凱空さんならいねぇぜ?三つ子と共闘して俺が捕らえたからな。」
「なっ、親父が…!?あんなのでも元『勇者』だぞ?貴様どんな卑怯な手を…」
「ま、確かに反則使ったけどな。だが何が悪い?勝負は生きるか死ぬかだろ?」
「いや、参考までに知りたいなと。」
「少しは心配とかしてやれよ…」
解樹は複雑な気持ちになった。
「で?結局貴様は何が言いたいんだ解樹?さっきの秋の方が落ち着いてるかも…ってのはどういう意味だよ?」
「あぁ、秋にはもう全てが終わってる…そういう意味さ。」
「あん?話が違うだろ。大魔王は麗華との一戦の影響で半年は動けんと…」
「本当にそうか?お前ならどうする?」
「ん?俺なら…?」
「一つヒントだ勇者。お前も相当だが、あの大魔王ってのもまた…なかなかいい性格してんだよ。」
そう言って、解樹が見つめた方角には―――
「ぐっ…お、おのれ夜玄…!この、裏切り者…め…!」
「すみませんね洗馬巣さん、これも全て…未来のためなのです。」
ドシュッ!
そこは帝都の城…帝城の一室、芋子の部屋。
熟練の執事だっただけに帝都の隅々まで知り尽くしている夜玄は、騒動を起こすことなく忍び込み、そして…かつての同僚である洗馬巣を平然と手にかけていた。
そして、さらに…
「さて…では最期に、何か遺したい言葉はありますか?芋子様。」
「ポ、ポテ…ト……」
ドシュッ!
「いや~、結構エグいことするね夜玄さん。古巣でこんな…心は痛まないわけ?」
表情を変えることなく返り血を拭う夜玄の背後から、静養しているはずの大魔王が現れた。
「…フッ、『大魔王』のセリフとは思えませんね。」
「ハハッ、まぁそうだよねー。僕ならこんなひっそりと動かないで、もっと大暴れしちゃうかな~。」
「それができない体だから、静養されていたはずでは?」
「ま、そうなんだけどね~。これでもすんごい痛いんだよマジで?あのおネェさんのせいでさー。」
大魔王は麗華に斬り付けられたあたりをさすりながら、苦笑いを浮かべた。
「でもさ、それ我慢してでも動きたいんだよねー。だってさぁ…」
そして次に見せた顔は、苦笑いはまた違う種類の、もっと悪い感じの…そう、勇者がよく見せる笑顔だった。
「だってその方が…面白いじゃない?」
こうして帝都は陥落した。