【141】バトル遊園地(3)
冥符の命懸けの奮闘により、竜神の撃退に成功。
残された俺と商南は、他のメンバーはどんな状況かを知るため園内をさまよい…そして、鬼を見た。
「なぁ勇者?アレって…そうやんなぁ?アレやんなぁ?」
「う、うーむ…」
ズッガァアアアアン!ドガァアアアアアン!!
「さぁまだまだいくよクソガキども!生を育む母なる秘剣…『初斬』!」「う、うぁあああああ!!」
気を失った無職に代わり、派手に大暴れする『母さん・マークⅡ』。
ただの出刃包丁によるものとは思えぬ強力な一撃に、豪快に宙を舞う右遠。
「時には『安斬』!」
「くはぁっ!」
「そして時には、『難斬』!!」
「ぎょぇえええええええ!!」
左遠、央遠もまた瀕死のダメージを負っていた。
「やれやれ、まさか貴様まで来ているとはな。さすがの俺も予想外だったぜ。」
見なかったことにしてスルーしようか少し悩んだ勇者だったが、立場上そうもいかないので渋々話しかけることに。
帝都で会った記憶がよみがえり、商南は足がすくんでいる。
「ん?誰だいアンタ、可愛い顔しちゃって…。親の顔が見てみたいよ、特に母親のね。」
「だ、騙す気なんかツッコミ待ちなんかわからへん…」
「おや、よく見りゃアンタ…も、知らない子。」
「どうせシラ切るなら切り通してくれへん!?ごっつやりづらいわ!」
相変わらず設定がガバガバだった。
「で?答えろよ謎の仮面女、なぜ貴様がここにいるんだ?」
「あ~、この子らチョイと知ってる子らでねぇ。おイタが過ぎるんで教育しに来たのさね。ま、同郷のよしみってやつさ。」
「貴様の旦那は存在自体が痛いがなぜ放っておいた?」
教育でどうにかなるレベルじゃない。
「さ、早く立ちなよガキんちょ達。いくらなんでも…あの程度でくたばるほど、ヤワでもないだろ?」
足元でぐったりしている三つ子に向かって無茶を言う母さん。
すると三人は、苦痛に顔を歪めながらもなんとか立ち上がった。
「ぐふっ…!今のを“あの程度”呼ばわりとか…相変わらず化け物だね終ネェ。勝てる気がしないな…」
「オイオイ、弱音吐いてんじゃ…ねぇよ…右遠。いつか三人で世界征服する…そう誓ったろ俺達?」
「世界征服だぁ?ったく、やれやれ…懲りない小僧どもだねぇ。あの日とまったく変わらないじゃないか。調子ん乗って復活させたマオに乗っ取られて、好き勝手されちまった…あの日みたいにね。」
「ッ!!!」
母さんの一言に、三人の顔が強張った。
勇者もまた、想定外の話に驚いている。
「なっ、マオを身に宿しただと…!?この俺ほどの実力者ならともかく、そこいらのガキがそんなことしたら一瞬でボンッだろ!魔王母はそうだったぞ!」
「…ま、そこは三つ子ゆえって感じかな?」
右遠は“バレちまっちゃ仕方ない”的な感じでペラペラと語り始めた。
犯人が自供する時によくあるやつだ。
「うまいこと三等分されてね、短時間ならなんとか耐えられたよ。それでも村を半壊させるには十分だった。最終的にオニネェちゃんに罪をなすり付けようとしてたんだけど、途中で心身ともに限界が来ちゃってね…。やっぱり『魔神:マオ』は強すぎたなぁ。」
右遠は薄ら笑いを浮かべながら、さらに続けた。
「それでも結構うまくやったつもりなのになぁ……終ネェ、いつ気付いた?」
「いや、後でマオから聞いたしね。」
右遠は恥ずかしくて死にたい。
「ま、その前に気付いてたけどさ。倒れてたアンタらはなんだか…内側からやられたような怪我だったからねぇ。」
「ギャハハッ、悪かったなぁ終ネェ!あん時ぁ折角アンタが罪かぶってくれたってのに、結局豪快にグレちまったわ~!」
「なっ!?罪をかぶったって…じゃあ謎仮面、お前は…」
以前、盗子らがケンド村を訪れた際、村人から聞かされた話を後で勇者も聞いていた。『魔王』へ転職するための儀式として、村人の半分は終により惨殺され、村ごと焼き払われたのだと。
だが今の話を聞く限り、真実は異なるようだ。もしかしたら終は、世間で言われているほどの悪人ではないのかもしれない。
「まったく、とんだ無駄骨だったよ。ありったけの金品奪って目撃者をフルボッコにして最終的に村中グッチャグチャに破壊して火ぃ放って旅立った甲斐が無かったね。」
「じゃあやっぱお前悪党だわ。」
勇者は一瞬でも期待した自分を恥じた。
「だがまぁなんにせよ、そうか…マオ復活の真犯人は別にいたってことか…。ったく、伝聞ってのは当てにならんもんだな。」
「つーかよぉ、今さらだが誰だよテメェ?なぜか透けてる分際で偉そうなクソガキがぁ!」
「黙れ三下、身の程をわきまえろ。過去に何やらかしてようが、その歳まで無名って時点で底が知れてる。」
「あ゛ぁん!?違ぇよ俺らは宇宙で暴れまくって…」
「いや、興味ない。」
「ブッ殺す!!な、なんだこの異常にムカつくクソガキ…ふざけやがって!親の顔が見てみてぶべらっ!」
三つ子は親にボッコボコにされた。
「う゛…ぐっ…チクショウがぁ…!」
並みの人間なら砕け散っていそうな連撃を叩きこまれたにも関わらず、根性で立ち上がった央遠。
「うわっ、起きよった!あんなん食ろうて…なんちゅータフさやねん!?」
「あらら、確かに少しは強くなってたみたいだねぇ。母さん嬉しさのあまりもう一撃いくよ?」
容赦ない母さん。
だが、そうはさせんとばかりに残りの二人も起き上がった。
「フッ、舐めないで…ほしいね…。僕らも…いつまでも、やられっぱなしじゃ…ない。なぁ左遠?」
「ええ、見せて…あげましょう右遠…。私達の、必殺奥義をブバッ!!」
やっぱり容赦ない母さん。
「な、なぁ勇者…今さらやけど、この母さんの強さエグすぎへん?敵さんの幹部を雑魚扱いとか化けモンやんか…」
「いや…違うな、コイツらが雑魚すぎるんだきっと。ったく、低レベル過ぎて失望したぜ。」
再び敵を挑発する勇者。
少しでも休みたいほど瀕死だとはいえ、そこまで言われて黙って倒れている央遠ではなかった。
「く、クソが…何度も何度も好き勝手言うじゃねぇかクソガキ…!面白ぇ、なら見せてやるよ!俺らの奥義『アルティメットライアングル』をな!」
「な、なんやねんその適当にくっつけた感じの技は…?」
央遠の合図を受け、右遠と左遠も再び起き上がった。
そして三人を結ぶように三角形が形成された。
「ああ、見せてやろう…そう、僕が大気から力をかき集め!」
「私が照準を合わせ!」
「そして俺が外野で野次る!」
「野次るなっ!つーか今は俺が喋るとこなんだよ邪魔すんな!」
勇者が我慢できるシチュエーションじゃなかった。
「フン、あらゆる攻撃を受け付けぬ今の俺に脅威は無い!やりたい放題だ!」
「確かにそうやろうけど自重せーや邪魔くっさい!」
半透明な霊体であるのをいいことに、調子づく勇者。
だがなぜか、三つ子は不敵な笑みを浮かべている。
「フッ…甘ぇな。あらゆる攻撃が効かねぇだとぉ?チャンチャラおかしいぜぇ!」
「この技は、僕らが半生をかけて習得した秘奥義…。全世界の、あらゆるものを貫く光の矛!たとえ…霊体だろうとね!」
「な、なんだと!?むっ、なんだ…動けん…!」
勇者の体を謎の光が縛り付けている。
「ターゲット、ロック・オン!」
「なにっ、じゃあ次は俺の出番か!?」
「野次ってる場合やあらへん!アンタ狙われてんねん!」
「死ねぇえええええええ!!」
ズッゴォーーーーーーーーン!!
閃光が周囲を貫いた。
シュゥウウウウウウウ…
「あ、あ、ありえへん…こんなん…反則やんか…!」
目の前の壮絶な光景に、腰を抜かす商南。
三つ子の攻撃により、Death忍ランドはその半分が消し飛んでいた。
だが、商南の驚きは彼らの技に対するものではなかった。
「そ、そんな馬鹿な…!大魔王すら認めた俺らの技を、防いだ…だとぉ…!?」
「ハァ、やれやれだねぇ。さすがのアタイも片手がオシャカだよ。」
「しかも片手で…!」
なんと!攻撃は母さんが防いでいた。
「なぁ商南…俺、父子家庭で良かった。」
「ホンマやな…」
さすがの勇者もドン引きしている。
だが、もちろんここままで終わらせる母さんではない。
「さーて、もう打ち止めだろう?じゃあそろそろ…お仕置きタイムの仕上げといこうかねぇ。」
「ッ!!目を逸らすな商南!しかと目に焼き付けろ!」
「えっ!?」
「トラウマになるぞ!」
「なら逸らすわ!鬼かアンタは!」
「じゃあねクソガキども!もし生まれ変わったら今度はまともに生きな!」
「ひ、ひぃいいいいい!!」
「うなれ母なる秘奥義、『帝・王・切・開』!!」
「ぎゃああああああああああああ!!」
これが…“お仕置き”か…?
勇者は父子家庭で良かった。
謎仮面のとんでもなく容赦ない攻撃で、敵三人の存在は無かったことになった。
“完膚なきまでに”とはこういうことを言うんだな…と思わずにいられない。
「ふむ、さすがは元『魔王』…えげつないな。飯前にこの惨劇はキツいぞ。」
「えっ、そんななん!?イヤや目ぇ開けられへんやん!」
「あ~~…、まぁ昔っから手加減と…防御は苦手でねぇ。」
「ッ!!?」
なんと!母の胸に風穴が開いている。
「なっ…!き、貴様…その胸は…!」
「フッ、なんだい?母さんのお乳でも吸いたくなったのかい?」
「舐めるな!思春期の男子は“吸う”より“揉む”に興味津々だぞ!」
「どんな返しやねん!?それ何の主張やねん!?」
「まだまだ甘チャンだねぇ勇者…。いずれ戻るんだよ、“吸う”にね。」
「アンタも何教えてんねん!?」
最後の教育がコレて。
「ま、さすがのアタイでも、さっきの攻撃は…軌道を逸らすので手一杯でさぁ。」
「確か、胸の『偽魂』が砕かれたら霊は…。そうか、もう…逝くのか。」
「なぁに、地獄でまた会えるよ。」
「いや、仮にも母なら“来るな”と言えよ。」
「おや、母だと言ってくれるのかい?嬉しいねぇ…そんな資格も無いアタイに…」
「フン、資格だぁ?そんな試験があるなんて聞いたことねーよ。勝手に作るな。」
「アハハハ!やれやれ、カッコ良く育っちまったねぇ。さすがあの人の子だよ。」
嬉しそうに笑う母だが、その体は少しずつ消え始めている。
「最後に何か、遺したい言葉はあるか?」
「んー、そうだねぇ…じゃああの人に伝えておくれ。約束のもの、あげられなくてごめんってね。」
「む?なんだ、元『魔王』の分際でしおらしいなオイ。んで、約束って何だ?」
「世界の半分。」
「やっぱお前『魔王』だ。」
「あぁ、あと愛息子にも一言頼むよ。アタイはこれで消えるけど…でも、忘れないでほしい。」
母は勇者の瞳を覗き込んで言った。
「アタイが消えても、いずれ第二第三のアタイが…!」
「お前どこまでも『魔王』だなオイ。」
「あと…いつまでも、アンタの幸せを祈ってると…ね。」
「…うむ。」
「フッ…いい笑顔だ。」
ニッコリと微笑んだ母さんは、両手を大きく広げて天を仰いだ。
「あ~…今日はいい天気だねぇ~。こりゃ洗濯物がよく乾き……」
ヒュゥウウウウウウ~…
強い風が吹き、勇者は目を細めた。
「い…逝ってもうたなオカン…。なんやかんや言うてやっぱ悲しいやろ?」
「フン!逝ったもなにも、とうの昔に死んでる奴だぜ?それに今ので消え失せたわけじゃない。どうせまた呼べるんだろ、霊魅よ?」
「へ?レミ…?」
勇者が呼び掛けると、どこからともなく霊魅が現れた。
「…無理ですよ…。もう『偽魂』が無いもの…」
「うわっ、なんやねんアンタ!?いつの間に背後におってん!?」
「あん?無いなら作りゃいいだろ。いつかの苦怨の口ぶりじゃ、お前『霊媒師』の名家の出だって話じゃないか。」
「作れないですよ…。材料がもう無いもの…アナタの『へその緒』…」
「オーケーちょっと待て、まずはその入手経路を詳しく聞こうか。」
「前にオークションで…」
「なっ!?あ、あのクソ親父…なんでそんなものを…!」
「売ろうと思って、留守中に…」
「すまん親父!犯人は目の前にいたぜ!」
「だって…」
「“だって”じゃない!」
「遊ぶお金が…」
やっぱり“だって”じゃない。