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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
140/196

【140】バトル遊園地(2)

Death忍ランドで商南&冥符と竜神との戦いを見守ること数十分。

やはり冥符じゃ役者不足だったのか、戦況は悪化の一途を辿っていた。雑魚め。


「グフッ!くそっ、この俺が…!ハニーの前で、なんて無様な…!」

「フン、人間ごときガこの私に挑もうというのが間違ってル。雑魚は消えなヨ。」


 口元に血をにじませ、苦しそうに片膝をつく冥符と、それを見下ろす竜神。


「フッ、まったくだな。」


 そしてなぜかセリフが敵側な勇者。

 なんだか竜神よりも様になっている。


「それが精一杯カ?ならもういい、飽きたネ。ひと思いに殺してあげるヨ。」

「ハハッ…おっと、それは負けフラグだぜ竜神さんよ?“ひと思いに殺してやる”ってセリフを吐いてちゃんと実行できた奴を、俺は見たことが無い!」


 冥符は巨大な紙とナイフを取り出した。


「精一杯なわけないだろ?まだまださ!ま、この手は命懸けなんで…使いたくはなかったんだがなぁ!」


 なんと!冥符は自分の手首を切った。


「な!?アンタどないしてん!さらに気ぃ狂ってもうたんか!?」

「フフッ、違うよハニー。これは…えっ、“さらに”?」

「オイ冥符、貴様…それはまさか“自分の血で呪符を作る”というありがちで陳腐な展開じゃないよな?」

「なっ!?ちょ、おまっ…」


 勇者は突いてはいけない図星を突いたっぽい。


「ちちち違う!こ、これは…これはただの、“自殺未遂”だ!!」

「やっぱ気ぃ狂ってるんやん!」

「くっ…このままじゃ“未遂”じゃ済まなくなるな…カッコつけてる場合じゃないか…!ただで死ぬわけには、いかないんだ!」


 冥符は勇者の予想通りの行動に出た。


「フン、やはり血文字か。だがこのサイズなら、決まれば確かに…」

「これぞ我ら『符術士』の奥義、『血印魔刻符ケツインマコクフ』…!威力は従来比の数十倍!」

「今なら更に!」

「同じものがもう一点♪って何を言わせる!?勇者テメェいい加減に…!」


 相変わらずおふざけが過ぎる勇者。

 だが冗談が通じないタイプの竜神はクスリともしていない。


「最後のあがきか…面白いネ。余興がわりに見ていてあげるヨ。」

「フッ…その余裕が貴様の死因だ!吹き飛ぶがいい竜神!食らえ、我が愛の…『超巨大爆殺符』!!」


 冥府、必殺の攻撃!


ズッドオオオオオオオオオオオン!!



「どわーーーっ!!」


 商南もフッ飛んだ。


「ってオイ!なにさらすねん冥符!?ウチまで殺す気かアンタ!?」

「す、すまないハニー!さすがの俺もちょっとテンパってて…ね…ぐふっ!」

「あ…だ、大丈夫なん?ごっつ血塗れやんか!いつの間に反撃されてん!?」

「くっ、さっき切った手首の傷が思ったより…」

「完全に自業自得やんか!ホンマの自殺未遂やん!アホちゃう!?」

「ま、まぁまだ大丈夫さ、この程度ならまだね。でも…」


 冥符は消えゆく爆炎の方を見ながら苦笑いを浮かべた。

 残念ながら、まだ元気そうな竜神が立っている。


「今のはさすがに…チョト効いたネ。」


「この程度で済まないとなると、保証はできない…かな。」


 冥符の限界は近い。



「んなアホな…!あの威力の爆発で、そんな程度て…!化けモンやんか!」

「私は『竜化戦士』…どんな攻撃モ、この硬いウロコを通すことは叶わナイ。」

「やれやれ、まさかそれほどとは…ね…」

「お前の恋も叶わない。」

「って畳み掛けるなよ勇者!内容的にはそっちの方が傷つくわ!」

「フン、現実を見ろよ冥符。お前の奥の手をまともに食らってあの程度…もはや勝ち目はあるまい?」

「奥の手だぁ?フン、舐めないでほしいな。さっきのはただデカいだけの、言わばパーティーグッズ!宴会芸に過ぎない!」

「その割に貧血でフラフラやん!ハイリスク・ローリターンやんか!」


 冥符は強がっているが、どう見ても限界は近い。


「…も、もうヤメや冥符。あとはウチがやったる!もう見てるだけは勘弁や!」

「おっとそれは駄目だぜハニー。愛する女性を守るのが男の仕事…だろ?」


 満身創痍ながら、冥符は商南を矢面に立たせる気は無いようだ。

 しかし、それがかえって逆効果だった。


「愛かネ…ならその娘が死んだ方ガ、お前は力を出すのカ?」

「なっ…!?ちょっ、待てお前!なぜハニーを見て…」


 竜神がお送りする、痛恨の一撃!



「ぐっ、ぐはぁ…!!」



 商南…ではなく冥符が胸を貫かれていた。


「め、冥符!!アンタ…ウチをかばって…!」

「おや、狙いと違うネ。よく間に合ったナお前。」

「ぐぼっ!フッ…『瞬速符』の速さを…甘く見ないでほしいね……ガフッ!!」

「あ、アンタ…この状況で女狙うとか恥ずかしないんか!?」

「ン?敵に男も女も無いヨ。死は男女平等に訪れル…違うカ?」


 冷徹な目で商南を見据える竜神。


「フッ、気が合うな竜神。こう見えて俺もレディーファーストな男でな。」

「いや、勇者の場合は“女からブチ殺す”って意味のファーストちゃうん!?」

「ボンッ!…とな。」

「“バースト”やん!確実に息の根とめてもうてるやん!」


「まぁ無駄なあがきだったガ、まぁ良くやったと言っておこうカ。」


 左手を冥符に深々と突き刺した竜神は、トドメを刺すべく右手を振り上げた。

 だがなぜか、絶体絶命のはずの冥符はニヤリと笑った。


「…随分と、趣味のいいマントを羽織ってるなお前…ちょうどいいよ…」

「ム?お前、何ヲ…ハッ!まさカ…!!」


 竜神の背中に回された冥符の手に気付いた。

 マントには呪符のように血文字が刻まれている。


「悪いが一緒に死んでくれ、終末の秘奥義…」

「め、冥符ぅーーーー!!」


「『冥・府・魔・道・符』!!」


シュゴォオオオオオオオオオオオオン!!!


 また商南もフッ飛んだ。



命懸けの道連れ作戦で、竜神どころか辺り一体を吹き飛ばした冥符。

商南を守るとかなんとか言ってた割に遠慮の無い攻撃だ。


「ふむ…なかなかの破壊力じゃないかあの野郎。しかも仲間ごと…。一種のテロだと言える。」

「ゲホッゲホ!ハァ、えらい目に…って、ハッ!冥符は!?冥符はどないなっ…」


 商南は全力で避けてなんとか生きていた。


「フッ…やっと俺を求めてくれたかハニー。けどまぁ少しだけ…遅かったかな…」


 冥符もまだ生きているようだが、しかし―――


「あ、アンタ…その傷…!」

「ま、ここまでらしいねぇ。しばらく一人にして悪いけど…一足先にあっちで、マイホーム作って…待ってるよ。」

「何言うてんの!?いっつもクソしつこいんが売りのアンタらしくないやんか!」

「いや、“あの世で待ってる”は究極のしつこさだろ。怯えた方がいいぞ商南。」


 確かに敵キャラがよく言うセリフだ。


「ずっと一緒に…いたいと思ってた…それが愛だと…。でも、違うんだよな…」


 力なく横たわった冥符は、今にも消えそうな声でつぶやいた。


「え…?」

「想い人はやはり…俺より…一秒でも長く…。それが、愛なんだ…!」

「ちょっ…何言うてんねん!?目ぇつぶったら駄目やで!死んだらアカン!」

「生きてくれ、ハニー。俺の分まで…幸せに…な……」

「め…冥符…?冥符ぅううううううううぅ好きぃいいいいいいいいいいい!!」

「・・・・・・・・」

「・・・・」


 壮絶な一人芝居だった(「ずっと一緒に」以降)。



凄まじい熱演の果てに、冥符は逝った。あれは“愛”ってレベルじゃないだろ。


「うぐっ、冥符…。なんちゅー…泣きづらい逝き方しよるんや、アホォ…」

「フン、それでいいんだよ。無防備に泣くには、まだ早い。」

「へ…?って、アンタは…!!」


「フゥ…参ったネ、まさかこのウロコを、砕く者がいようとはネ…」


 なんと!竜神は生きていた。


「ば、化けモンめ…!こうなったらウチが…ウチが、やったるっ!!」

「やめておケ小娘。拾ってやっタ命ヲ、簡単に捨てられたラ奴も浮かばれマイ。」

「そ、そんなんやってみなわからんやんか!」


 冷静さを失い、竜神に食って掛かる商南。

 だがなんと、珍しく勇者が止めた。


「…ま、やめとけ商南。今からのコイツは恐らく…余計に手強くなるだろう。」

「ハァ?なんでやねん!あの巨大な爆殺符と最後のやつ…どっちもまともに食ろうてんねんで!?せやから今なら…」

「そう、どっちも食らってるんだよ。そこがポイントなんだ。」

「ハァ?アンタ何言って…」


 勇者が何を言いたいのかわからない商南。


「俺の見立てでは、コイツは弱者を侮って手を抜くタイプの奴じゃない。効いてなかった印象が強すぎるが…普通ならそもそも、あんなにまともには食らわん。それに攻撃の手も減っていったろう?見方を変えれば、後半は“防戦一方だった”とも言える。」

「そ、それはつまり…力を出し切れん状況にあった…っちゅーことなん?」

「…お前、何が言いたイ?」


 竜神の声のトーンが変わった。


「フッ、今の俺は飛べるからな。少し上から見てたんだが…どうだ竜神?少し体が軽くなったろう?」

「ッ!!」


 勇者の意図に気付いた竜神は、足元に目を向けた。

 よく見ると飛び散った血しぶきが何かの模様に見える。


「なるほど、手首を切る以前に既に…カ。妙におどけて見せたのモ、これを隠すためだったカ。」

「いや、あれは奴の素だろ。ああいう奴だったぞ。」

「こ、この模様は何やねん勇者!?アンタ知ってるん!?」

「ああ、かつて授業で習ったことがある。確かこれは敵の力を吸収し、反転して叩きつける類の術…。つまりこの“大地の呪符”が完成していたら、死んでいたのはあるいは…」

「お前達かもネ。」

「いや俺は霊体だし。」

「ほなウチだけやん!むしろ今よりヤバかったんちゃう!?」

「食らえ必殺、『無理心中』!!みたいな?」

「確実に殺しにきとるやん!なんやったらウチをメインに!」


 あり得ないでもないのが怖い。


「というわけだ商南。さっきの言い回しからしてコイツはもう引き上げる気だぜ?ここでわざわざ引き止めるほど、計算できない商人じゃないだろ?」

「うぐっ、せやけど…!」

「それに貴様ごときが勝てる相手じゃないのはわかるだろう?雑魚めが。」

「なんでアンタは立ち位置がいちいちあっち寄りやねん!?確かにごっつ似合うてるけども!」

「ま、その小僧の言う通り…今日はもう帰るとするヨ。この余韻を壊すのハ、少々惜しいしネ。」

「に、逃げんなやっ!こない好き放題やられて黙ってるほどウチはお人好しやな…いけども、まぁ…そこまで言うなら…うん。」


 商南は冷静さを取り戻した。




 Death忍ランドで一つの戦いが終わった頃、崩落園遊園地でもまた、一つの戦いが熾烈を極めていた。


ズッゴォオオオオオオン!!


「ぬぉりゃあああああ!」

「ハァアアアアアアアッ!」


ドガァアアアアアアアアン!!


「う…うぉー!すんごい攻防なんだー!なんかワクワクするぜー!」


 激突する『武闘王:拳造』と『皇帝:帝雅』。

 そしてその様子をのんきに観戦する土男流。


「オイオイ、度胸座りまくりだなぁ嬢ちゃん…。だが邪魔だ、下がってろや。」

「まったくだな。気にする義理は無いのだが、なぜか殺すと後味が悪そうだ。」

「そうはいかないんだ!ここで退いたら師匠にガッカリされちゃうんだー!」

「いや、“ガッカリ”と“ポックリ”ならどっち選ぶかは決まってんだろがよ?」

「ガッカリはイヤなんだー!」

「やれやれ…。どうだね拳造君、次あたりで勝負を決めてみるというのは?」

「ったく…しゃーねーな。ま、さっさと決めりゃ巻き添え食らわす率も減るか。」

「仕方ない、私も奥の手を出すとするか。キミだけを確実に…殺してくれよう。」


 なにこのVIP待遇。


「ふぅ~~…さーて、ちゃっちゃと済ませて美味ぇ酒でも飲みてぇなーっと。」

「頑張ってくれヒゲの人ー!あ、でも勝算はあるのか?」

「あん?たりめぇじゃねーか。俺を誰だと思ってやがるよ?」

「ぶっちゃけよく知らないんだー!」

「覚える必要など無いよ。どのみち、彼はもうじき死ぬのだからね。」

「アンタは前にインタビューしたから覚えてるぜ皇帝の人!」

「お前ホントに何モンだよ嬢ちゃん…?」

「とにかく頑張ってくれヒゲの人!アンタ見た目からして強そうだから、期待度は抜群なんだー!」

「オゥ、安心して見とけぃ。いくぜ、『武々舞々分身ブブブブブンシン』!」


 なんと!拳造は“ぶ”の数だけ増えた。

 そこから先は、一方的な展開だった。


「オラオラオラオラァーー!!」


ドガッ、ガスンッ!ズゴゴゴゴゴゴゴン!!


「うぉー!マジで凄いんだー!でもその濃い顔が五つはウザいぜー!」

「うなれぇ俺の右拳ぃいいい!!」


 ドゴォオオオオオン!!


「そう叫びつつ左で殴るあたりがえげつないぜー!師匠を思い出すんだー!」

「ぬぐっ、これが…キミの奥の手か…!この私が、防戦一方…とは…!」

「ハハッ、馬鹿がっ!武神流裏奥義を、舐めんなっつー…のっ!!」

「なっ、しまっ…」


ズブッ…!ズボボボボッ!!


 拳造、会心の一撃!


「ぐほぁあああっ!!」


 帝雅…ではない謎の男の腹を貫いた。


「ええぇっ!?だ、誰なんだそのオッサン!?見覚えないんだー!」

「なっ…だ、誰だよテメェ!?いつの間に…!」

「わ、我は帝雅様の…『影武者』…。主…危急の時、身代わりとなる…者……」

「オイオイ…そんなのアリかよぉ…!」


 役目を終え、崩れ落ちる影武者の男。

 まさかの展開に動揺を隠せない拳造。

 その背後には、手刀を振り上げる帝雅の姿があった。




ドスッ…!




「…さて、まだ時間もあるし…他でも見に行くとしようか。キミも来るかね?」

「お?オウッ!!」


 土男流は物怖じしない。

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