【140】バトル遊園地(2)
Death忍ランドで商南&冥符と竜神との戦いを見守ること数十分。
やはり冥符じゃ役者不足だったのか、戦況は悪化の一途を辿っていた。雑魚め。
「グフッ!くそっ、この俺が…!ハニーの前で、なんて無様な…!」
「フン、人間ごときガこの私に挑もうというのが間違ってル。雑魚は消えなヨ。」
口元に血をにじませ、苦しそうに片膝をつく冥符と、それを見下ろす竜神。
「フッ、まったくだな。」
そしてなぜかセリフが敵側な勇者。
なんだか竜神よりも様になっている。
「それが精一杯カ?ならもういい、飽きたネ。ひと思いに殺してあげるヨ。」
「ハハッ…おっと、それは負けフラグだぜ竜神さんよ?“ひと思いに殺してやる”ってセリフを吐いてちゃんと実行できた奴を、俺は見たことが無い!」
冥符は巨大な紙とナイフを取り出した。
「精一杯なわけないだろ?まだまださ!ま、この手は命懸けなんで…使いたくはなかったんだがなぁ!」
なんと!冥符は自分の手首を切った。
「な!?アンタどないしてん!さらに気ぃ狂ってもうたんか!?」
「フフッ、違うよハニー。これは…えっ、“さらに”?」
「オイ冥符、貴様…それはまさか“自分の血で呪符を作る”というありがちで陳腐な展開じゃないよな?」
「なっ!?ちょ、おまっ…」
勇者は突いてはいけない図星を突いたっぽい。
「ちちち違う!こ、これは…これはただの、“自殺未遂”だ!!」
「やっぱ気ぃ狂ってるんやん!」
「くっ…このままじゃ“未遂”じゃ済まなくなるな…カッコつけてる場合じゃないか…!ただで死ぬわけには、いかないんだ!」
冥符は勇者の予想通りの行動に出た。
「フン、やはり血文字か。だがこのサイズなら、決まれば確かに…」
「これぞ我ら『符術士』の奥義、『血印魔刻符』…!威力は従来比の数十倍!」
「今なら更に!」
「同じものがもう一点♪って何を言わせる!?勇者テメェいい加減に…!」
相変わらずおふざけが過ぎる勇者。
だが冗談が通じないタイプの竜神はクスリともしていない。
「最後のあがきか…面白いネ。余興がわりに見ていてあげるヨ。」
「フッ…その余裕が貴様の死因だ!吹き飛ぶがいい竜神!食らえ、我が愛の…『超巨大爆殺符』!!」
冥府、必殺の攻撃!
ズッドオオオオオオオオオオオン!!
「どわーーーっ!!」
商南もフッ飛んだ。
「ってオイ!なにさらすねん冥符!?ウチまで殺す気かアンタ!?」
「す、すまないハニー!さすがの俺もちょっとテンパってて…ね…ぐふっ!」
「あ…だ、大丈夫なん?ごっつ血塗れやんか!いつの間に反撃されてん!?」
「くっ、さっき切った手首の傷が思ったより…」
「完全に自業自得やんか!ホンマの自殺未遂やん!アホちゃう!?」
「ま、まぁまだ大丈夫さ、この程度ならまだね。でも…」
冥符は消えゆく爆炎の方を見ながら苦笑いを浮かべた。
残念ながら、まだ元気そうな竜神が立っている。
「今のはさすがに…チョト効いたネ。」
「この程度で済まないとなると、保証はできない…かな。」
冥符の限界は近い。
「んなアホな…!あの威力の爆発で、そんな程度て…!化けモンやんか!」
「私は『竜化戦士』…どんな攻撃モ、この硬いウロコを通すことは叶わナイ。」
「やれやれ、まさかそれほどとは…ね…」
「お前の恋も叶わない。」
「って畳み掛けるなよ勇者!内容的にはそっちの方が傷つくわ!」
「フン、現実を見ろよ冥符。お前の奥の手をまともに食らってあの程度…もはや勝ち目はあるまい?」
「奥の手だぁ?フン、舐めないでほしいな。さっきのはただデカいだけの、言わばパーティーグッズ!宴会芸に過ぎない!」
「その割に貧血でフラフラやん!ハイリスク・ローリターンやんか!」
冥符は強がっているが、どう見ても限界は近い。
「…も、もうヤメや冥符。あとはウチがやったる!もう見てるだけは勘弁や!」
「おっとそれは駄目だぜハニー。愛する女性を守るのが男の仕事…だろ?」
満身創痍ながら、冥符は商南を矢面に立たせる気は無いようだ。
しかし、それがかえって逆効果だった。
「愛かネ…ならその娘が死んだ方ガ、お前は力を出すのカ?」
「なっ…!?ちょっ、待てお前!なぜハニーを見て…」
竜神がお送りする、痛恨の一撃!
「ぐっ、ぐはぁ…!!」
商南…ではなく冥符が胸を貫かれていた。
「め、冥符!!アンタ…ウチをかばって…!」
「おや、狙いと違うネ。よく間に合ったナお前。」
「ぐぼっ!フッ…『瞬速符』の速さを…甘く見ないでほしいね……ガフッ!!」
「あ、アンタ…この状況で女狙うとか恥ずかしないんか!?」
「ン?敵に男も女も無いヨ。死は男女平等に訪れル…違うカ?」
冷徹な目で商南を見据える竜神。
「フッ、気が合うな竜神。こう見えて俺もレディーファーストな男でな。」
「いや、勇者の場合は“女からブチ殺す”って意味のファーストちゃうん!?」
「ボンッ!…とな。」
「“バースト”やん!確実に息の根とめてもうてるやん!」
「まぁ無駄なあがきだったガ、まぁ良くやったと言っておこうカ。」
左手を冥符に深々と突き刺した竜神は、トドメを刺すべく右手を振り上げた。
だがなぜか、絶体絶命のはずの冥符はニヤリと笑った。
「…随分と、趣味のいいマントを羽織ってるなお前…ちょうどいいよ…」
「ム?お前、何ヲ…ハッ!まさカ…!!」
竜神の背中に回された冥符の手に気付いた。
マントには呪符のように血文字が刻まれている。
「悪いが一緒に死んでくれ、終末の秘奥義…」
「め、冥符ぅーーーー!!」
「『冥・府・魔・道・符』!!」
シュゴォオオオオオオオオオオオオン!!!
また商南もフッ飛んだ。
命懸けの道連れ作戦で、竜神どころか辺り一体を吹き飛ばした冥符。
商南を守るとかなんとか言ってた割に遠慮の無い攻撃だ。
「ふむ…なかなかの破壊力じゃないかあの野郎。しかも仲間ごと…。一種のテロだと言える。」
「ゲホッゲホ!ハァ、えらい目に…って、ハッ!冥符は!?冥符はどないなっ…」
商南は全力で避けてなんとか生きていた。
「フッ…やっと俺を求めてくれたかハニー。けどまぁ少しだけ…遅かったかな…」
冥符もまだ生きているようだが、しかし―――
「あ、アンタ…その傷…!」
「ま、ここまでらしいねぇ。しばらく一人にして悪いけど…一足先にあっちで、マイホーム作って…待ってるよ。」
「何言うてんの!?いっつもクソしつこいんが売りのアンタらしくないやんか!」
「いや、“あの世で待ってる”は究極のしつこさだろ。怯えた方がいいぞ商南。」
確かに敵キャラがよく言うセリフだ。
「ずっと一緒に…いたいと思ってた…それが愛だと…。でも、違うんだよな…」
力なく横たわった冥符は、今にも消えそうな声でつぶやいた。
「え…?」
「想い人はやはり…俺より…一秒でも長く…。それが、愛なんだ…!」
「ちょっ…何言うてんねん!?目ぇつぶったら駄目やで!死んだらアカン!」
「生きてくれ、ハニー。俺の分まで…幸せに…な……」
「め…冥符…?冥符ぅううううううううぅ好きぃいいいいいいいいいいい!!」
「・・・・・・・・」
「・・・・」
壮絶な一人芝居だった(「ずっと一緒に」以降)。
凄まじい熱演の果てに、冥符は逝った。あれは“愛”ってレベルじゃないだろ。
「うぐっ、冥符…。なんちゅー…泣きづらい逝き方しよるんや、アホォ…」
「フン、それでいいんだよ。無防備に泣くには、まだ早い。」
「へ…?って、アンタは…!!」
「フゥ…参ったネ、まさかこのウロコを、砕く者がいようとはネ…」
なんと!竜神は生きていた。
「ば、化けモンめ…!こうなったらウチが…ウチが、やったるっ!!」
「やめておケ小娘。拾ってやっタ命ヲ、簡単に捨てられたラ奴も浮かばれマイ。」
「そ、そんなんやってみなわからんやんか!」
冷静さを失い、竜神に食って掛かる商南。
だがなんと、珍しく勇者が止めた。
「…ま、やめとけ商南。今からのコイツは恐らく…余計に手強くなるだろう。」
「ハァ?なんでやねん!あの巨大な爆殺符と最後のやつ…どっちもまともに食ろうてんねんで!?せやから今なら…」
「そう、どっちも食らってるんだよ。そこがポイントなんだ。」
「ハァ?アンタ何言って…」
勇者が何を言いたいのかわからない商南。
「俺の見立てでは、コイツは弱者を侮って手を抜くタイプの奴じゃない。効いてなかった印象が強すぎるが…普通ならそもそも、あんなにまともには食らわん。それに攻撃の手も減っていったろう?見方を変えれば、後半は“防戦一方だった”とも言える。」
「そ、それはつまり…力を出し切れん状況にあった…っちゅーことなん?」
「…お前、何が言いたイ?」
竜神の声のトーンが変わった。
「フッ、今の俺は飛べるからな。少し上から見てたんだが…どうだ竜神?少し体が軽くなったろう?」
「ッ!!」
勇者の意図に気付いた竜神は、足元に目を向けた。
よく見ると飛び散った血しぶきが何かの模様に見える。
「なるほど、手首を切る以前に既に…カ。妙におどけて見せたのモ、これを隠すためだったカ。」
「いや、あれは奴の素だろ。ああいう奴だったぞ。」
「こ、この模様は何やねん勇者!?アンタ知ってるん!?」
「ああ、かつて授業で習ったことがある。確かこれは敵の力を吸収し、反転して叩きつける類の術…。つまりこの“大地の呪符”が完成していたら、死んでいたのはあるいは…」
「お前達かもネ。」
「いや俺は霊体だし。」
「ほなウチだけやん!むしろ今よりヤバかったんちゃう!?」
「食らえ必殺、『無理心中』!!みたいな?」
「確実に殺しにきとるやん!なんやったらウチをメインに!」
あり得ないでもないのが怖い。
「というわけだ商南。さっきの言い回しからしてコイツはもう引き上げる気だぜ?ここでわざわざ引き止めるほど、計算できない商人じゃないだろ?」
「うぐっ、せやけど…!」
「それに貴様ごときが勝てる相手じゃないのはわかるだろう?雑魚めが。」
「なんでアンタは立ち位置がいちいちあっち寄りやねん!?確かにごっつ似合うてるけども!」
「ま、その小僧の言う通り…今日はもう帰るとするヨ。この余韻を壊すのハ、少々惜しいしネ。」
「に、逃げんなやっ!こない好き放題やられて黙ってるほどウチはお人好しやな…いけども、まぁ…そこまで言うなら…うん。」
商南は冷静さを取り戻した。
Death忍ランドで一つの戦いが終わった頃、崩落園遊園地でもまた、一つの戦いが熾烈を極めていた。
ズッゴォオオオオオオン!!
「ぬぉりゃあああああ!」
「ハァアアアアアアアッ!」
ドガァアアアアアアアアン!!
「う…うぉー!すんごい攻防なんだー!なんかワクワクするぜー!」
激突する『武闘王:拳造』と『皇帝:帝雅』。
そしてその様子をのんきに観戦する土男流。
「オイオイ、度胸座りまくりだなぁ嬢ちゃん…。だが邪魔だ、下がってろや。」
「まったくだな。気にする義理は無いのだが、なぜか殺すと後味が悪そうだ。」
「そうはいかないんだ!ここで退いたら師匠にガッカリされちゃうんだー!」
「いや、“ガッカリ”と“ポックリ”ならどっち選ぶかは決まってんだろがよ?」
「ガッカリはイヤなんだー!」
「やれやれ…。どうだね拳造君、次あたりで勝負を決めてみるというのは?」
「ったく…しゃーねーな。ま、さっさと決めりゃ巻き添え食らわす率も減るか。」
「仕方ない、私も奥の手を出すとするか。キミだけを確実に…殺してくれよう。」
なにこのVIP待遇。
「ふぅ~~…さーて、ちゃっちゃと済ませて美味ぇ酒でも飲みてぇなーっと。」
「頑張ってくれヒゲの人ー!あ、でも勝算はあるのか?」
「あん?たりめぇじゃねーか。俺を誰だと思ってやがるよ?」
「ぶっちゃけよく知らないんだー!」
「覚える必要など無いよ。どのみち、彼はもうじき死ぬのだからね。」
「アンタは前にインタビューしたから覚えてるぜ皇帝の人!」
「お前ホントに何モンだよ嬢ちゃん…?」
「とにかく頑張ってくれヒゲの人!アンタ見た目からして強そうだから、期待度は抜群なんだー!」
「オゥ、安心して見とけぃ。いくぜ、『武々舞々分身』!」
なんと!拳造は“ぶ”の数だけ増えた。
そこから先は、一方的な展開だった。
「オラオラオラオラァーー!!」
ドガッ、ガスンッ!ズゴゴゴゴゴゴゴン!!
「うぉー!マジで凄いんだー!でもその濃い顔が五つはウザいぜー!」
「うなれぇ俺の右拳ぃいいい!!」
ドゴォオオオオオン!!
「そう叫びつつ左で殴るあたりがえげつないぜー!師匠を思い出すんだー!」
「ぬぐっ、これが…キミの奥の手か…!この私が、防戦一方…とは…!」
「ハハッ、馬鹿がっ!武神流裏奥義を、舐めんなっつー…のっ!!」
「なっ、しまっ…」
ズブッ…!ズボボボボッ!!
拳造、会心の一撃!
「ぐほぁあああっ!!」
帝雅…ではない謎の男の腹を貫いた。
「ええぇっ!?だ、誰なんだそのオッサン!?見覚えないんだー!」
「なっ…だ、誰だよテメェ!?いつの間に…!」
「わ、我は帝雅様の…『影武者』…。主…危急の時、身代わりとなる…者……」
「オイオイ…そんなのアリかよぉ…!」
役目を終え、崩れ落ちる影武者の男。
まさかの展開に動揺を隠せない拳造。
その背後には、手刀を振り上げる帝雅の姿があった。
ドスッ…!
「…さて、まだ時間もあるし…他でも見に行くとしようか。キミも来るかね?」
「お?オウッ!!」
土男流は物怖じしない。