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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
139/196

【139】バトル遊園地

土男流と二手に分かれ、『Death忍ランド』へ向かった俺。今は飛べるので早く着けた。

だが辿り着いた先で俺が見たものは、想像の斜め上を行く光景だった。


「ニ゛ャーーー!ウニ゛ャアーーー!!」

「ひぃいいいい!し、死ぬッスぅううううう!!」

「うぐっ、こ、これは…かなりくるね…!」

「キャハハ☆面白いね、このジェットコースター♪」


 苦しそうなライ、下端、太郎。そして一人だけ楽しそうな召々。

 それなりに破壊された遊園地の中で、なぜアトラクションに乗る余裕があるのか勇者にはわからなかった。


「お前ら一体なんなんだ!なぜこの状況で遊んでいられるんだよオイ?」


 勇者は心底呆れながら太郎に話しかけた。


「ん?あぁキミか…。フッ、愚問だね。遊具があるのに遊ばない『遊び人』がどこにいると?」

「いや、お前より断然そこの小娘の方が楽しんでたろ。話の流れ的にこんなこと言うのもなんだが頑張れよ遊び人。」

「いや~、でも天然には勝てっこなくない?」

「ふむ、まぁそりゃそうだな。」


 勇者は痛い程よくわかった。


「で?今はどんな状況なんだよ?説明しろ下端。」

「あー、実はちょっとドタバタがあったおかげで、今すいてるんスよ!アトラクション乗るなら今がチャンスなんッス!」

「いやピンチだろ!お前らがこうしてる間にもきっと誰かがピンチだろ!」

「今は無職ちんが奮闘中ニャのニャ!3対1とは卑怯にも程があるニャ!」

「何が卑怯だ!見殺しにした奴が言うなよ!」

「フッ、僕らが見ていたとでも?」

「なお悪いわ!!」



雑魚どもの話を聞く感じ、どうやら無職は高い確率で亡き者らしい。

3対1ってことは、土男流のインタビューから察するに相手は三つ子と考えるのが妥当か?

チッ、こんなことなら土男流にもっと詳しく聞いとくべきだった。敵どころか味方が誰かもわからん。


そういや、別れ際に太郎が言った一言も気になる。


 「あ、気を付けてね勇者君。半透明で油断してるみたいだけど…多分“彼”の能力の前では、今のキミでもただでは済まないから。」


まるで敵をよく知るかのような発言…。あのヘタレどもがそんな情報を得られるほど敵に近づくとも思えんが、気にならんと言えば嘘になる。面倒臭がらずに問い詰めてから別れりゃよかった。


まぁいい、とりあえず適当にフラフラと見て回ろう。

半透明なため直接攻撃はできないが、言葉の暴力で心の傷をえぐることはできる。

物理攻撃は受けようもないし、一方的に攻撃を…ぐぇっ!えっ、なぜ…!?


「ぐふっ!な、なんだこの刺激臭は…!?毒ガス…!?いや、だが今の俺にダメージを与えるとか…むっ!?」


 理解できない謎の臭いに戸惑う勇者。

 そんな勇者の目に飛び込んできたのは、苦しみ悶えた後と思われる…ピクピクと微妙にしか動かない解樹の姿だった。


「か、解樹…!?敵側のコイツを倒したってことは味方…チッ、太郎が言ってたのは…こういうことか…!」


 そして、立ち込める瘴気というか臭気というか、そんな謎のガスの晴れ間から現れたのは、義勇軍ナンバー2にして最悪の能力を持つ男…『ワキスメル大佐』。


「ではそろそろ見せようか…私の、全開のパワーを!!」


やべぇクセェ!むしろ痛ぇ!!


 次元を超えた破壊力だった。



なんと、今の俺にダメージを与えるほどの刺激臭を放つ謎のオッサンがいた。

足元に解樹らしき奴がうずくまってたが、確認している間に鼻がもげそうだったので無視して逃げた。


するとその先の広場で戦っていたのは、見知った三人。

そうか…奴らも来てたのか。


「ふぅ~、さすがは神…一筋縄にはいかないなぁ。まぁ負けないがね!」

「おぉ、ええ感じやん冥符!その調子でガンガンやったり!」

「…なかなか面白い戦いだネ。いいヨ、名乗りなヨ。」


 冥符&商南と竜神が戦っていた。


「フッ、俺か?俺は『符術士』の冥符。そして隣にいる美少女こそ、我が伴侶で」

「もなんでもない、商南や!」

「そしてこの俺が!かつて『学園校の蒼き狼』と恐れられた、俺だっ!!」

「いや名乗れや!!って、勇者ぁ!?なにアンタ普通に合流してんねん!」


 勇者は大人しくしてるのが苦手だった。


「よぉ、会うのは二度目だな竜神。」

「フフ、そうカお前モ…。どうやら退屈せずに済みそうだネ。だがお前、そんな体で戦えるのカ?前に見たより薄いガ。」

「フッ、『クール・ビズ』だ。」

「どんだけ暑がりやねん!って冗談抜きになんやねんそのありえへん風体は!?」

「ん?そうだな…例えるなら“心ここにあらず”の“心”の方が今だ。」

「わかりづらいわ!例えた方がわからへんてどないやねん!?」

「まぁなんにせよ、今の俺は戦力にならんということだ。俺に頼らず頑張れ。」

「そうカ残念だネ…。あの女が命を賭して遺した力…楽しみにしていたんだガ。」

「ッ!!それは麗華のことか!?そうか…やはり奴は死んだのか…」

「フフ。なんだネ、やはりショックかネ?」

「フッ…いや、死ねない理由がまた増えた…ってとこだ。ん?奴は地獄か?」


 勇者もだが。




 その頃、少し離れた所では…暗殺美とオロチの戦いが繰り広げられていた。


「ハァアアアァ…!食らうさ、秘奥義『風林火山』…『風の舞』!」

「フン、それは当たらぬと言ったはずだ。僕をガッカリさせてくれるでない。」


 “接戦”かというと残念ながらそうではなく、暗殺美の攻撃は全て紙一重でかわされていた。


「じゃあアンタも攻撃してこいさ!避けてばっかでこっちも拍子抜けさ!」

「いきなり終わってしまってはつまらない。今日まで生きてきた甲斐が無い。」

「ハァ?勝手に人を生き甲斐にしてんじゃないさ!」

「ああ、確かに間違っていたようだ…。お前の兄は実に強かった。お前にもそれを期待していたのだが…残念だ。」

「そして勝手にガッカリしてんじゃないさ!」

「やれやれ、仕方ない…ならば終わりにしようか。」


 どうやらオロチは、戦うことを生き甲斐にする系のヤバい奴のようだ。

 しかし、かつて彼女の胸を躍らせた兄に遠く及ばない暗殺美の実力を見て、これ以上の戦いは無駄と判断したようだ。


「安心しろ、殺しはしない。今のまま、永遠に美しく…時を止めるがいい。やれ、『パジリスキュ』!」


 巨大な蛇が現れた。

 そして大蛇の瞳が怪しく光った。


「なっ!?み、右足が…石にっ!?」

「ほぉ、咄嗟に目を伏せたか…さすがに少しはやるようだな小娘。だがもう逃げられまい。」

「コイツが、伝説の神獣…!目を見たら石になるってのは本当だったのかさ…!」

「お前じゃ手に余る相手だったということだ。今すぐ去るなら追いはしない。」

「こ、こんな足じゃ…」

「もはや戦えまい?」

「賢二きゅんとデートできないさー!うわーん!」


 石じゃなくても果たしてどうか。


「くぅ…う、動け!動くのさこのスラッと伸びたなまめかしい右足めっ!」

「動揺してる割に大した自信だな…」

「チッ、ここまでかさ…!」

「そうだ。観念して…死ぬがいい!」


 オロチが手刀を振り上げた、その時―――


「キャ、キャーー!え、なにその蛇!?えっ、なにぃ!?キャーーー!!」


 現れたのは、どう見ても戦闘員には見えない地味眼鏡の女。逃げ遅れた一般客のようだ。

 ありえないサイズの大蛇パジリスキュを前に、足がすくんでしまっている。


「…まだ一般人がいたのか。困ったものだ。」

「バッ…来るんじゃないさ!思いっきり口封じに殺されるパターンさ!」

「キャー!だ、誰かぁー!誰か来てぇーー!!」

「確かに目撃者は…好ましくはないな。消すか。」


 オロチの攻撃!

 ミス!逆に女の手刀が炸裂した。


「な…に…?貴様、ただの女じゃないな…何者だ?なぜ邪魔をする?」

「ん~、別に邪魔したいわけじゃないよぉ。その子にはちょいとばかり借りがあってさぁ。」


 女の様子が変わった。

 口調は緩いがなんだか強キャラ感がある。


「ハァ?誰さアンタ?私はアンタなんか知らないさ。名乗るがいいさ!」

「あ~、私は『詐欺師』の『早季子サキコ』。シジャン城でキミに見逃してもらった『大ボラ兄弟』は、ああ見えて可愛い弟分でねぇ。」

「お、大ボラ兄弟…」


「ま、そういうわけよ!久しぶりだな嬢ちゃん!」


 どこからかわらわらと現れたのは、どこかで見たようなガラの悪い男達。

 かつてシジャン城の戦いにおいて、『人獣奇兵団』の名を騙って挑んできたものの、華麗に返り討ちにあった詐欺師集団だ。


「…って、誰さ?」


 場の空気が一気に凍った。




 一方その頃、もう一つの戦地である崩落園遊園地では…逆に凄まじい熱戦が繰り広げられていた。


「ふぅ…やれやれ、さすがは『太陽神』と呼ばれた男…。ただでさえ暑い夏だってのに、余計に暑くしてくれる。」

「フン、よう言うわな。お前さんのせいで二倍暑いんよ『好敵手』。」


 陽炎が揺らめく中、静かに向かい合っているのは…しぶとくもまだ生き残っていたらしい宿敵と、ドクロを模した仮面を被った老人『太陽神:ヒノテ』。

 土男流のインタビューが無かったのでどんな敵なのかは謎だが、どんな技を使うのかは名前から明らかだった。


「フゥ~…ま、予想通りだけど動きが無いね。この前と同じ展開だ。」

「迷惑この上ない敵さんだわな。またも人の真似ばかり…勝つ気無いんかいね?」


 実はこの二人の戦いは、これが初めてではなかった。かつて校長がメジ大陸に派遣した先遣隊の一員だった宿敵は、その際にこの太陽神と一戦交えていたのだ。


「勝つ気だって?あるさありまくるさ!僕だって…いや、むしろ僕ほど勝ちを渇望している人間はいない!」

「ならば続けようかね。動かねば何も始まらんわ。」


「爆炎の奥義、『プロミネンス』!!」

「爆炎の奥義、『プロミネンス』!!」


 ズゴォオオオオオオ!!

 二人の同じ技がぶつかり合い、激しい炎が燃え上がって弾けた。


「ふむ…やれやれ、やはり見事だわな。だがしかし…」

「…ああ。」

「飽きたわな!」

「ああ!」

「帰るかね!?」

「ああ!!えぇっ!?」


 太陽神の思わぬ提案に驚く宿敵。

 だが太陽神の顔は冗談を言ったようにも見えない。


「いや、帰るってアンタ…大魔王軍の幹部としてそれはアリなのか?」

「ふむ…しかし、アイコとわかりきったジャンケンを続けるのも不毛だろう?それに…ある者の予知では、今はまだ“終焉の時”では無いらしいわな。」

「今はまだ…か。つまり、世界の終焉の時…それが僕らの雌雄が決する時だと?」

「よくわからんわな。だが一つだけ言えるのは、これ以上この炎天下で暴れ続けるのは…」

「続けるのは…?」


「熱中症の危険がな。」


 確かにそうだが太陽神が言うな。




 心が折れた宿敵と太陽神は、なんと本当にそのまま撤収。

 一方、同じく崩落園にいた戦仕は…『狂戦士:葉沙香』と全力で戦っている最中だった。


ドガァアアアアアン!


「ゼェ、ゼェ、やっぱ、やるなアンタ…!さすがは大魔王軍の幹部の一人ぜよ。」

「ハァ、ハァ、テメェもな…。ガキだと思っ舐めてたぜチクショウ…!」

「ところでアンタ、“手袋”の反対は…?」

「あ゛ぁ?だから“ロクブテ”だってさっきも…ハッ!」

「うぉおおおおお!武神流奥義、『六・武・帝』!!」


 ズゴォオオオオオン!!

 戦仕、会心の一撃!


「制約の秘奥義、六武帝…。相手が言わねぇと発動しないだけに、撃てた時の威力は半端ねぇぜよ。」

「ぐはぁ!し、しまった、また…!」

「オイラも驚きぜよ!この技を何度も食らうってアホかアンタ!?」

「じゅ、純粋なんだよ!!」

「フン、“単純”なんだろ?モノは言いようだなオイ!」

「にしてもテメェ、女は殴りたくねぇとか言いながらやりたい放題じゃねぇか!」

「ヘッ、アンタは男らしすぎてやりやすいぜよ。アンタもまた例外に分類した!」

「お、俺みたいな女こそ実は傷つきやすいんだからな!わかるか!?」

「オイラは女心のわからねぇ…無粋な男ぜよ…。チクショウ、盗子サン…!」

「開き直ってんじゃねぇよテメェ!ってか誰だよトウコって知らねーよ!」

「すぐ会いに行くぜ盗子サン、この野郎を…ブッ倒してな!」

「“野郎”って言うなーー!!」


 葉沙香に精神的ダメージ。




 そして舞台は、再びDeath忍ランドへと戻り―――


「ハァ、ハァ…ハァ…も、もう…限界かも…です…」


 なんと、太郎らに逃げられ一人孤独に死んだかと思われていた無職だったが、しぶとくもまだ生き残っていた。


「儚い人生…でしたよ…」


 だがもう準備万端のようだ。


「フン、思ったよりやるガキだったなぁ。ブッ殺すのが惜しくもあらぁ。」

「恨むのなら我々と…敵として出会ってしまった運命を恨んでくださいね。」

「いや、その前に見捨てて逃げた仲間をね。」


 相対するは央遠、左遠、右遠の三人。

 もし今のこの光景を絵にするなら、タイトルは恐らく『絶望』となるだろう。


「む、無念です…。何が無念って、職歴が真っ白なまま…旅立つのが…」

「残念だが来世に期待しな!あばよっ!!食らいやが…」


 央遠の攻撃!


「れっ…!?」


 ミス!攻撃は謎の何かに阻まれた。


「おっと、そうはさせないよ。アンタらの馬鹿げた計画は、アタイが食い止めてやる!」


 無職を守るように、央遠の前に立ちはだかる謎の影。声からして女ようだ。

 砂煙が立ち込めるというよくある演出のせいで姿はハッキリとは見えないが、左遠は何かに気付き驚きの声を上げた。


「そ、その声は…!馬鹿な、アナタは亡くなったはず…!」

「はぁ?誰かと勘違いしてないかい小娘?アタイは誰も知らない秘密の戦士…」


バサァアアッ!


 女が勢いよくマントを脱ぎ捨てると、砂煙が一気に晴れた。

 茶色の長い髪に、美しい顔立ち…そして目の周辺だけを覆う申し訳程度の仮面で顔を隠している。


 そう、つまり彼女の名は―――



「謎のお助け仮面、『母さん・マークⅡ』!!」



 髪型が若干違う。

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