【138】修練の章
~修練の章:暗殺美編~
暗黒神の城から落っこちて、海を漂ってたら知らぬ間に故郷に流れ着いてた私。
賢二きゅんが心配だけど…きっと彼ならしぶとく生き残ってるはずさ。
私に今できることは、今のうちに強くなっておくこと。いつか彼と並んで戦うために…。そしてもう一つ、“あの日”の雪辱を…果たすために…!
「というわけで、私に修行をつけてくれればいいのさパパ上め。」
暗殺美に“パパ上”と呼びかけられたのは、全身黒ずくめで黒髪のオールバックが似合う渋いオッサン。
しかし、娘に対するノリは意外と軽かった。
「お、ヤル気だなあさみん!だがまぁ待て、今日くらい数年ぶりの再会を祝し…」
「パパ上の屍を乗り越えて、私は強く生きるさ。」
「いやいや、勝手に殺すとかあんまりじゃないかあさみん。パパは…」
「あさみん言うなや!いいから早く始めるがいいのさ!」
「だがいいのかいあさみん?パパは一応“伝説の暗殺者”…かなり厳しいぞ?」
「望むところさ。私の行く道は、半端な強さじゃいられない世界なのさ。」
「…いいだろう。そういうことならガフッ!?」
暗殺美の空気を読まない先制攻撃。
「ドンと来いやぁー!!」
「いや待てあさみん、ちょっ…」
「死ねやぁーー!!」
「上等だぁクソガキがぁーーー!!」
父は大人げなくキレた。
逆上したパパ上に、私は容赦なくフルボッコにされたさ。まったくなんて親さ。
ちなみにパパ上は伝説の暗殺者。その半生を描いた自叙伝は、ミリオンセラーの大ヒット。
ママ上もまた凄腕の暗殺者。殺しの手口を歌に乗せ、人の心を震わせる現役歌手。
二人とも『暗殺者』のくせに隠れる気が無いにも程があるさ。
「ぐ、グスン…。まさか実の娘に、これほどマジでキレる父親がいるとはさ…。というわけで、私に修行をつける役目はママ上に回ってきたのさ。」
「え~、めんどいなぁ~。ほらママってばそういう物騒なの嫌いでしょ?」
母もまた、全身黒ずくめで黒髪の美女。暗殺美と同じく性格がキツそうな目をしている割に、キャラは緩そうだ。
「一流の殺し屋が何言ってるさ。それを物騒と感じてない方がおっかないさ。」
「でもあさみん武闘派でいくんでしょ?ママはニコッて近寄ってサクッだし~。」
「パパ上はその昔、浮気がバレて死ぬほど殴られたという噂を聞いたさ。」
「今度やらかしたら…ブッ殺すぞあの野郎ぉ…!」
暗殺美は物騒な家に育った。
その夜、久しぶり家族のの晩餐は穏やかに進んだけど、最後にパパ上が急に真面目な顔で聞いてきたのさ。
「教えてくれあさみん。あの子の…『暗殺人』の最期について。」
「ッ!!」
暗殺人は暗殺美の兄であり、若くして大暗殺企業のトップに立ちCMなどもバンバン流していた。両親同様、まったくもって闇に潜む気が無い暗殺者だった。
「…あれは、私がカクリ島から出て二年くらい後…賞金稼ぎやってた頃の話さ。その頃の私は、『オロチ』って賞金首の女を追ってたのさ。」
「オロチ…聞いた名だな。かの魔獣『パジリスキュ』を契約獣にしたという噂が本当なら、相当な腕前だろう。」
「ぱじりすきゅ…確かにそんな感じの微妙に可愛らしい名前の蛇を飼ってたさ。」
「可愛いなんてとんでもない。世の魔獣の三強…『三神獣』に数えられる程だぞ。なぁママ?」
「あ~、なんだっけ?三神獣…『パジリスキュ』、『ペルペロス』、そして『フェニックチュ』…だったかな?ヤバいよね~。」
オロチは両親ともに知るほどの有名人らしい。
「なるほど…つまりこういうことか?暗殺人を倒したオロチの存在を聞きつけたお前は、カタキを討つため賞金稼ぎとなり探し当てたと…?」
「ま、そんなとこさ。金に目が眩んで大物にちょっかい出して殺されそうになったところに兄上が駆け付けたから見捨てて逃げたさ。」
「1ミリも合ってないじゃないか。清々しいくらい全然“そんなとこ”じゃないじゃないか。」
「まぁとにかく、私は強くなる必要があるのさ。兄上の…カタキを討つために。あの日のことは、あんまり忘れたことが無いさ。」
「ふむ…残念だが諦めるんだな。先ほど手合わせして成長したのはわかったが、しかし…やはりその力、やはり“暗殺”向きと言わざるを得ん。」
「ど、どういう意味さ?私に何か足りないとでも言うのかさ?」
「単純な話だ。悲しいかな今のお前の腕力じゃ、正面から強者には挑めまい?」
「そこでご紹介するのがコレさ。」
暗殺美は『風神の靴』を取り出した。
「なっ、お前そんな物騒な物をどこで…!?」
「さすがの私も死んだ使い手から頂戴してきたとは言いづらいから聞くなさ。」
「な、なんてバチ当たりな娘なんだ…!ちょっと親の顔を鏡で見てくる!」
「というわけで、可能性はあるわけなのさ。あとはパパ上の指導次第さ。」
「で、でもパパの暗殺は…誰にも見られたことがないのが売りだしなバフッ!」
「いいから来いやぁーー!!」
「て…テメェーーー!!」
暗殺美はボコボコにされた。
~修練の章:宿敵編~
僕は宿敵。みんなのライバル。
暗黒神戦を経て自分の力不足を悟った僕は、我が職『好敵手』の師である『ポン老師』のもとを訪れていた。
数年前ぶりだったから会えるか心配だったけど、なんとか会うことができて良かった。
「お久しぶりです老師。長らくご無沙汰していたことをまずお詫びします。」
「まずお詫びします。…ププッ☆」
「いや、ムカつくモノマネとかいいんで。」
宿敵が師と仰ぐ謎の男は、丸レンズのサングラスをかけた小太りのオッサン。
“老師”と呼ばれる割にお肌はツヤツヤしている。
「いや~久しいのぉ小僧よ。まだ生きとるということは、それなりに精進しとるようじゃなぁ。」
「お陰さまでなんとか日の当たる場所で活躍できてます。ホント良かった…」
「ふむ…では、久々に組み手でもしてみるかね?おヌシの成長が見たい。」
「いや、僕らの場合決着つかないんで…」
「フォフォフォ。どうやら『好敵手』の限界に、参っとるようじゃな。」
「…お察しの通りで。何か手はありませんか?いい加減勝ちたいんです!」
「まぁ手は…無いではない。じゃがしかし、勝てる保証は無い上に…更に…」
「負ける危険性が出てくる…ということですね?」
「知らん。」
「こういう人でしたね…。この人を小馬鹿にする感じ…とてもムカついて仕方がない。帰ります…」
「おっと、待つがいい小僧。」
あきれて去ろうとする宿敵を、老師は引き止めた。
「どうやらおヌシは、『好敵手』の本質を誤解しとるようじゃ。」
「なっ、『好敵手』の本質だって…?そ、それは一体…!?」
「知らん。」
「世話になった方にこう言うのはなんだが、もし法が許すなら笑顔で殺す!恐らく二・三度殺す!」
「そもそも妙だと思わんかったか?“引き分け=ライバル”…成り立つかね?」
「え?あ、確かに…。“負けない”のはともかく、決して“勝てない”とか…」
「そう、時に勝って時に負けて…それこそが好敵手!引き分けだけじゃない!」
「老師、それはつまり…!?」
「知らん。」
「でしょうね!ハイきたー!ハイ予想通りー!んもぉ~~!」
「やれやれ…やはり“彼”に任せるべきかのぉ。それが一番自然やもしれん。」
「え!もしかして誰か、心当たりでも…!?」
「知ってる。」
「ハイハイやっぱり知ら…えっ!?知っ…ホントに知っていると!?」
宿敵は意表を突かれた。
「うむ、なかなか強者じゃった。きっと何かをもたらしてくれることじゃろう。」
「じゃあなぜ今の今まで黙って…」
「そう言うな。ワシももう歳…おヌシと語らえるのも、これが最後じゃろう。」
「ろ、老師…」
「嫌われてもうたしな。」
「それは自業自得かと。」
「さぁ行きなさい宿敵。お前の行く先に何があるのか、それは…うむ、知らん!」
宿敵は明日が見えない。
~修練の章:冥符編~
死にかけ状態で天空の城から落ちた俺だったが、なんとか生き延びてその後ハニーと運命的に再会できた。そう、まさに運命!
そんな俺達は今、ハニーが行きたい地を目指し…あれ?もしかしてこれってハネムーン?
「ふぅ~、だいぶ歩いて疲れたねハニー。まぁちょっとのんびり休んでこうよ。」
「おっ、なんや懐かしい店やんか。確か勇者らと再会したんもここやったわ。」
冥符と商南が訪れたのは、エリン大陸のタミ村にある喫茶店。
タケブ大陸とギマイ大陸の境界あたりに墜落したはずの二人が、なぜエリン大陸まで移動しているのだろうか。
「だろ?だから結婚してくれっ!」
「会話せーや会話を!何をもって“だろ?”やねん!?うっとーしーねん!」
「でもよく言うじゃん?嫌よ嫌よも好きです!付き合ってください!って。」
「なんでウチの方から告る流れやねん!なんでそう無駄に前向きなん!?」
「この世に無駄なものなんてないさ。全ては愛に繋がってる。」
「ハァ…せやから何度も言うてるやろ?ウチが好きなんはゼニだけやねん。ちゅーかアンタ、目的忘れてへん?何しに向かってるか覚えてるん?」
「ん?もちろんわかってるさ、式の話だろ?」
「その前に“葬”付けたろか!?真面目な話や!」
「…わかったよ、行こうぜハニー。俺達の行く道…ヴァージン・ロードを。」
商南は最近少し痩せた。
ハニーに導かれるまま辿り着いた先は、まるで山賊でもいそうな妙な山だった。山で挙式か…うん、新しい!
じゃあ山頂に着く前に、素敵なプロポーズで求婚⇒結婚⇒挙式といくべきだろう。
「頼むハニー、俺の味噌汁を作ってくれ!もしくは俺と一緒の墓に入ってくれ!」
「どっちも嫌やっちゅーとろうがっ!もう聞き飽きたわ!」
「じゃ、じゃあ俺の…俺の味噌汁に入ってくれ!」
「どんな拷問やねん!その結果何がどうなんねん!?」
「ん?なんか変な砦が…。もしかしてここがハニーの目的地だったり?」
「フフッ。せやねんせやねん、前にもらい損ねたお宝がぎょうさんあんねん♪」
この山もまた、前に商南が勇者らと訪れていた地…名は『ババン山』。
そう、商南は再び山賊から宝を奪うため舞い戻ったのだった。
「お宝が?でもなぁハニー、こんな頑丈な錠がついた扉…」
ガチャ
「開いたで。」
「す、凄いな…。そのくらいすんなり心の扉を開いてほしいもんだが…」
「さ、はよ『転送符』出しぃや。お宝抱えてさっさとズラかるで~!」
「そりゃあ困るだなぁ。オデらの歴史でもあるで。」
山賊長が現れた。
前回にも増して呆れた目で商南を見ている。
「はぁ?何が歴史やねん?んなゼニにもならん…って、しもたーー!!」
「まぁたオメェさんかい…。まっだぐ懲りねぇ娘っこだやなぁ。」
「宝があったら心が弾む…それがウチら『商人』やねん!習性やねん!」
「いやハニー、そこは『盗賊』に任せた方が…」
「何がなんでも貰うてくでぇ~!資産の、有効活用やっ!」
居直り強盗が現れた。
その後、ハニーを守るべく山賊の長と一戦交えた俺だったが、敵はただの無法者とは思えないほど強く…困ったことに苦戦している。ぐふっ…!
「な、なんでや!?なんで冥符がこないな田舎モン丸出しのオッサンに…!?」
「フッ、舐めるでねぇ。これでもがづでの『勇者』どは…見だ目は関係ねぇべ?」
族長はちょっぴり傷ついた。
「くっ、馬鹿な…こんなオッサンに不覚をとるとは…!しかもハニーの前で…!」
「けどもオメェさんもながながだぁ。いい時期に…いい拾いモンがでぎだなや。」
「いい時期…?ハッ!まさか…婚期!?」
「アンタの頭はどんだけハートマークでイッパイやねん!他に無いんか!?」
「じぎに世界の危機が来る…そげな噂があっでなぁ。戦力が要るんでよぉ。」
「ハァ?それがウチらにどう関係すんねん?わけわからへん冗談は休み休み」
「金なら弾むでよぉ。」
「休んでてくれはったらええねん!後はこの冥符が一人、馬車馬のように働くさかい!な!?」
「フッ、任せてくれハニー!しっかり働いて、一生養うぜ!」
多分通じてない。
~修練の章:姫編~
私は姫…姫か姫じゃないかと聞かれたら、そう…姫だよ!多分…姫だよ?うん。
「というわけなの。」
定食屋の店主に、例のごとく意味不明なことを言い放つ姫。
そして当然のように戸惑う店主。
「え、いや、だからそうじゃなくて…お嬢ちゃん、無銭飲食でしょ?」
「違うよ姫だよ。」
「参ったな…。あのさお嬢ちゃん、お母さんとか一緒じゃないのかなぁ?」
「お母さんは、三年前に…」
「え…ご、ごめん。そんな事情と」
「三十歳になったよ。」
「知ってたら、決して謝らなかったのに…」
ゴキッ!
なんと!姫の首が100度回った。
「うぎゅっ!」
「えぇーーーっ!?だ、大丈夫お嬢ちゃん!?生きてる!?」
「姫ちゃ~ん?いつも言ってるよね~?ママは“永遠の十代”だ~って♪」
姫の母、妃后が現れた。
顔は笑っているが目が笑ってない。
「え、ママってことはアンタがこの子の母親かい?ちょうどいい、だったら聞い」
「ハイ~?(ニッコリ)」
店主は怖くて動けない。
何年かぶりにお母さんに会ったの。こう見えてお母さん子だから嬉しいよ。
「お母さんお久しぶり。少し会わない間に大きくなったよ?」
「いつも言ってるよね姫ちゃん?それママのセリフだから取っちゃダ~メ。」
「で、どうしたの?お昼御飯ならシチューがいいよ。」
「さっきたらふく食べた分の代金を払ったんだけど…じゃああれは何だったの?」
「三時のオヤツ?」
「それはちゃんと三時に食べようねって教えたよね?まだお昼前だよ?」
「お母さんの話はいつも難しいよ。」
「私はアナタの扱いが難しいよ…」
「お母さんは何しに来たの?ピクニック?大パニック?」
「ん~、どっちかって言うと後者かな。ちょっとアナタを…鍛えに、ね。」
母さんの奮闘が始まる。
なんか知らないけど、お母さんがハッスルし始めたよ。
疲れることはとっても困るよ。
「とか考えてると思うけど、ママ手加減しないから覚悟してね?」
「私は湯加減にはこだわる方だよ。」
「まったく…。なんでそんなにポヤポヤしてるのかなぁ?やっぱりマオのせい?」
「フッフッフ…」
「えっ…?ま、まさか…」
「フェックチュン!」
「…まずはその困った性格を、もうちょっと人並みにしなきゃだね。」
妃后の掌から不思議な光がほとばしった。
「うぎゅ~!お、お母さん…?頭がイタタタ~!」
「マオのカケラが残ってるのかも。だから私の“退魔”の魔法で…追い出す!」
「にゅぅ~~~!!う゛ぅ……ぅ…ハッ!!」
「さぁどうかな姫ちゃん?目は覚めた?」
「…うん、わかってるよ。時が…来たようだね…」
姫の瞳がギラリと光った。
「三時のオヤツの。」
「…アレ?」
だが何も起こらなかった。
~修練の章:勇者編~
姫ちゃんの…いや、お義母さんのおかげで、なんとか自由に動けるようになった半透明の俺。
まぁ肉体の修練は無理だが、霊体でも経験は積める。面倒だが修行でもしようか。
「というわけで俺は旅をしている。見た目は半透明だが気にするな。」
勇者が訪れたのは、ギマイ大陸の『ナンデン神殿』。
まるでただの無害な礼拝者かのように、自然に中に入ろうとした勇者だったが、明らかに半透明な不審者を門番の少年が止めないわけがない。
「え、うわっ、化け物…!?って、あれ?まさかキミ…勇者君?」
「む?なんだ貴様、この俺のファンクラブ通信の定期購読者か?」
「いや、その存在すら知らなかったけど…じゃなくて、僕は『駐屯科』にいたんだよ。」
「駐屯科…?ほぉ、まさかこんな所で生きた学園校関係者に会えるとはなぁ。」
「まぁ冒険科に比べれば駐屯科はそこまで厳しくなかったしね。」
「ふむ、この俺に向かって“死ね”とはいい度胸だ。ブッた斬る!」
「そうそう、そんな感じの人って噂で持ちきりだったよ…。ま、今じゃ他の噂で聞くけどさ。」
「ん?なんだ、世界最強の実力者とでも言われてたか?」
「え、いや、その…実力で…」
「実力で?」
「『魔神』の名を勝ち取ったと。」
意外と合ってる。
神殿の入り口で、なにやら俺が妙な噂になっていると聞いたがまぁ気にすまい。
くだらんことは放っといて、俺が今以上に強くなる道だけを探して突き進もう。
「というわけで貴様、俺を強くするがいい。手段は問わんが痛くしたら怒るぞ。」
神殿に侵入した勇者は、中にいた神官に話しかけた。
「なっ、出たな化け物…!亡霊の分際で神殿に乗り込んでくるとは笑止!」
「あん?誰が亡霊だ!舐めた口きいてると三代たたるぞ!」
「思いっきり亡霊の返しじゃないか!だが悪いな、こう見えて僕は独身だ!」
「いや、胸張って言えるセリフじゃないだろ。早く次代を育めよ。」
「だがしかし神官は鬼じゃない。さまよえる亡霊よ、悩みがあるなら聞くが?」
「俺は力を欲している。肉体が復活した時、奴らを斬り刻める力をなぁ!」
「やはり邪悪な輩か!そうか貴様、どこで聞きつけたかは知らんが…この神殿に封じている“あの魔獣達”が狙いだな…!?」
「ほぉ、そんなのがいるのか。」
「くっ!この私の口を無理矢理割らせるとは、なんと卑劣な…!」
「お前一回病院で診てもらえよ。」
「フフッ、だが甘いな!封じた部屋の扉は誰にも開けられ…って、いない!?」
勇者はすんなりスリ抜けた。
神殿のとある部屋の中には、なにやら図鑑でも見たことが無いような謎の魔獣どもが閉じ込められていた。
そういえば風の噂で、どこかの神殿に力のある魔獣どもが封印されてると聞いたことがあるような無いような。
もしコイツらがそうだというなら、この中から俺の『契約獣』になる奴を見つけられるかもしれない。
聞いた話じゃ、使いこなせば武器になったり防具になったり、お得な奴ららしい。
もし獲得できればば今後の戦いに有利になるだろう。
だが、契約獣は一生に一体としか契約できないようなので慎重に選ぶ必要がある。
まぁ俺ほどの男の目にとまる奴がいたとしたら、ショボいはずは無いだろう。むしろ心配なのは、俺の奪い合いだ。
最強の主を目の前にしたら、群がりたくなるのが獣の本能ってもんだろう。暴動にならねばいいのだが。
「さぁ貴様ら…」
「キ、キェエエエエエエ!!」
「俺と…」
「ガゴォオオオオオ!!グァオッ!!」
「一緒に…」
「グギャアアアアアアアアオッ!!」
フッ…みんな懐かん。
勇者は夜風が目に染みた。