【137】十字禍の全貌
季節は流れ、夏…。本体を置き去りに、半透明の俺は世界をウロウロしていた。
帝雅の話から、半年は…つまり秋までは無事かと思っていたのだが、残念ながら親父の読みの方が正しかったらしい。
『十字禍』とやらは早くも動き始めたようで、世界は大魔王軍に侵攻され始めた。
今だ。今こそ俺が…『勇者』が立ち上がるべき時なのだ。が、俺はまだ動けない。
「師匠ぉーーー!たっだいまだぜーーー!!」
とはいえ、幸いなことに話すことはできるので、偶然見つけた土男流を使って色々情報を集めていたのだ。
「よぉ戻ったか土男流。さぁお前の成果を見せるがいい我が偵察部隊長よ!」
「いやちょっと待ってくれ師匠!忘れてるかもだけど私は『人形師』なんだ!」
「そんなことより早く話せよ。」
「人の生き方を“そんなこと”扱いでブッた斬るアンタはやっぱ最高だぜー!」
「で、どうなんだよ?有益な情報が無きゃお前自身もブッた斬るが大丈夫か?」
「そりゃもう当然だぜ!見てくれ師匠、これが『十字禍』の全貌なんだー!」
・竜神
・太陽神
・女神
・帝雅
・葉沙香
・夜玄
・央遠
・解樹
・オロチ
・苦怨
「チッ…知った名がチラホラありやがる。解樹に苦怨か…奴らもだとはなぁ。」
「これだけのこと調べるのは結構苦労したんだ!褒めて欲しいぜ師匠ー!」
「だが知らん奴の方が多い。名前だけじゃ大した情報にはならんわ雑魚めが。」
「そう思ってインタビューしてきたんだ!」
「お、お前…たくましくなったな。」
土男流はできる子だった。
名前を調べるだけじゃなく、なんとインタビューまでしてきたという土男流。
その根性にも若干驚いたが、答えた上に生かして帰した敵の感性もまた驚きだ。
「とはいえ、どうせ雑魚のやつだけだろ?くだらん内容ならキレるぞ俺は。」
「まずは大魔王さんのからいくぜー!」
「っていきなりラスボスか!なんなんだお前は!?そしてアイツらは!」
「じゃあVTR、スタートなんだーー!!」
土男流が映写機を回すと、そこには薄暗い洋館の内装のようなものが映し出された。
~インタビュー:大魔王編~
「というわけで早速お願いするんだ!まずは名前とか年齢とか知りたいぜ!」
「ん~、名前は『救世主』だけど『大魔王』でいいよ。封じられてた期間を除けば歳は十歳かそこらだよ多分。」
「おぉ!私と同じくらいで大魔王とか凄いなー!見習いたい積極性だぜ!」
「いや、ここに単身乗り込んできたキミにはある意味勝てる気しないけどね。」
「じゃあ次は、世界滅亡を目論む理由を聞かせてほしいんだ!」
「単なる暇潰しだよ。僕くらい強いと、もうそのくらいしか楽しみ無くてさぁ。」
土男流が謎のVIP待遇を受けているのも、暇ゆえの気まぐれなのだろう。
「そんなアンタは秋くらいまでは動けないって聞いたけど、本当なのかー?」
「ん~、なんか最近調子いいから復帰は意外と早いかもね。」
「じゃあ最後に、今後の抱負とかあったら言ってほしいぜー!」
「ま、せいぜい楽しませてほしいものだね。僕をイラつかせたら滅亡早まるよ。」
「以上だぜ師匠ー!」
ごく普通に終わった。
~インタビュー:夜玄編~
「というわけで早速お願いするんだ!まずは名前とか年齢とか知りたいぜ!」
「名は夜玄、歳は伏せておきますが、まぁ何百歳といった化け物じみた歳ではないですよ。」
「じゃあ次は、なんで大魔王軍に入ったのかを聞かせてほしいんだ!」
「未来に導かれた…とでも言いましょうか。私はいるべくしてここにいる。」
「よくわからないけどわかったぜ!ところで予知ができるって本当なのか?」
「常に、確実に、とはいきませんがね。でもまぁ7~8割方当たっていますよ。」
「それは凄いぜー!じゃあ是非とも占ってほしいことがあるんだけど、私は」
「無理です。」
「うぉー!無理なら無理でせめて聞くだけ聞いてほしかったぜー!」
「まぁ大丈夫、いつか素敵な出会いがあると出ていますよ。彼なんかよりね。」
「グスン…じゃ、じゃあ最後に、今後の抱負とかあったら言ってほしいぜー!」
「この戦いの先は私にも読みきれない。でも少なからず、一つの色が消える。」
「以上だぜ師匠ー!」
土男流は帰りにちょっと泣いた。
~インタビュー:解樹編~
「というわけで早速お願いするんだ!まずは名前とか年齢とか知りたいぜ!」
「名前は解樹、歳はもうじき三十路ってとこだ。どうだよ見えねぇだろ?」
「もちろんだぜ!どう見てもオッサンなんだー!」
「えっ、いや、そういう意味じゃ…」
「じゃあ次は、なんで大魔王軍に入ったのかを聞かせてほしいんだ!」
「“呪い”を集めるのが趣味でね。ここなら手に入りやすいと思ってなぁ。」
「呪いのコレクションなら師匠の方が凄いぜ!足元にも及ばないんだー!」
「師匠って勇者だよな?確かにアイツは面白ぇ素材だよ。いつかバラしてぇわ。」
「ただのコレクターが“呪い界の貴公子”をバラすとか鼻で笑っちゃうぜー!」
「な、なんか俺にだけ冷たくねぇか嬢ちゃん…?」
「じゃあ最後に、今後の抱負とかあったら言ってほしいぜー!」
「凄惨なる殺戮の果てに、新たな呪いが生まれるだろう。俺はそれを見」
「以上だぜ師匠ー!」
解樹は帰りにちょっと泣いた。
~インタビュー:苦怨編~
「というわけで早速お願いするんだ!まずは名前とか年齢とか知りたいぜ!」
「僕は苦怨、歳は今年で十四になりますかね。」
「そういえばアンタは、前に師匠にコテンパンにされたって噂を聞いてるぜ!」
「あぁ、彼のお弟子さんでしたね。彼には…確かに煮え湯を飲まされましたよ。」
「おっ、アンタも経験者なのか?アレは凄まじく喉にくるよな!あと辛酸とか!」
「いや、まさか本物を飲ませる人だとは…」
「あっ、しのみんもムカついてるのだ!しのみんもアイツには」
「じゃあ次は、なんで大魔王軍に入ったのかを聞かせてほしいんだ!」
「霊魅様…“本家”を滅する身としては、まぁこちら側の方が似合うと思いましてね。」
「でね!でね!しのみんは苦怨様をサポートす」
「アンタうるさいからちょっと黙っててくれー!」
「しのみんにも触れるのだっ!無視はイヤなのだー!」
「じゃあ最後に、今後の抱負とかあったら言ってほしいぜー!」
「体という檻から放たれ、全ての霊は自由になる。誰も怯えることはない。」
「えと、しのみんは」
「以上だぜ師匠ー!」
忍美は帰りにワンワン泣いた。
~インタビュー:央遠編~
「というわけで早速お願いするんだ!まずは名前とか年齢とか知りたいぜ!」
「俺は央遠、こっちが妹の左遠でこっちが弟の右遠だ。まぁ三つ子ってやつだわ。歳は」
「秘密です。」
「オーケー大丈夫だ!言いづらいお年頃なのはわかったぜオバさん!」
「なっ…」
「す、凄い度胸だねキミ…」
左遠はショックで硬直してしまった。
右遠は思わず感心してしまった。
「じゃあ次は、なんで大魔王軍に入ったのかを聞かせてほしいんだ!」
「昔っから騒動起こすのが好きでよぉ。暇してたら声かけられたもんでなぁ。」
「世界滅亡レベルの話をちょっとした騒動みたく言うのはどうかと思うけどわかったぜー!」
「ま、ガキの頃に身近にいた奴が『魔王』になったのも影響してるのかもなぁ。」
「おぉ!師匠のお母さんを知ってるのか!世の中狭いぜー!」
「なっ、終ネェに…ガキが…!?」
「じゃあ最後に、今後の抱負とかあったら言ってほしいぜー!」
「いやちょっと待て!終わる前にそいつの話を」
「以上だぜ師匠ー!」
土男流は強引に締めた。
~インタビュー:葉沙香編~
「というわけで早速お願いするんだ!まずは名前とか年齢とか知りたいぜ!」
「はぁ?なんでこの葉沙香様が、んなこと教えてやんなきゃなんねぇんだ?」
魔国での一戦で、勇者の騙し討ちにより重傷を負った葉沙香様だったが、回復力が高いらしく今はもう元気そうだ。
「そう言いつつも名乗っちゃうあたりがニクいんだー!」
「バッ、そういうんじゃねーよ!」
「じゃあ次は、なんで大魔王軍に入ったのかを聞かせてほしいんだ!」
「最近賞金稼ぎどもがウザくてね。後ろ盾がある方が楽なんだよ、悪ぃか?」
「意外と寂しがり屋さんなんだな!わかったぜー!」
「いや、ちょっ…!」
「じゃあ最後に、今後の抱負とかあったら言ってほしいぜー!」
「ま、これを機に邪魔な奴らは一掃してやんよ。世界は…無法地帯に変わる。」
「以上だぜ師匠ー!」
終始土男流のペースだった。
~インタビュー:オロチ編~
「というわけで早速お願いするんだ!まずは名前とか年齢とか知りたいぜ!」
「名はオロチで通っている。言葉遣いは若者らしくないが、まだピッチピチだ。」
薄暗い背景に溶け込むような漆黒のコートに身を包み、青白い肌をして、額に蛇をハチマキのように巻いた謎の人物。目付きも鋭くパッと見かなり怖い。
「お?その声…もしかしてアンタ女なのか?男に見えたんだー!」
「女なんぞとうに捨てたつもりでいたが、そうハッキリ言われると意外と傷つくものだな…」
「じゃあ次は、なんで大魔王軍に入ったのかを聞かせてほしいんだ!」
「かつての約束を果たすためだ。“ある者の妹”が、僕を殺しに来る。」
「おぉ凄いぜ!殺されるために目立とうとかドMにも程があるんだー!」
「生にも死にも興味は無い。ただほんの少しでも、アツくなれればいい。」
「じゃあ最後に、今後の抱負とかあったら言ってほしいぜー!」
「特に無い。」
「以上だぜ師匠ー!」
土男流は若干飽きてきた。
~インタビュー:竜神編~
「というわけで早速お願いするんだ!まずは名前とか年齢とか知りたいぜ!」
「名はウザン、まぁ竜神でいいがネ。」
「じゃあ次は、なんで大魔王軍に入ったのかを聞かせてほしいんだ!」
「先の大戦時、死ぬカ、下につくカを選ばされてネ。他の神も同じと思うヨ。」
「わかったぜ!じゃあ他の神様にはインタビューするだけ無駄だな!」
「私にするのも無駄だと思うがネ。素直に弱点でも吐くと思ったカ?殺すヨ?」
「私は私にできることをするだけだ!師匠のためなら命は惜しくないぜー!」
「ホゥ…人にそこまで言わせる人物…興味深いネ。一体何者なんだネ?」
「う~ん、控えめに言って“悪魔”なんだ!」
「キミはどちら側の人間なんだネ…?」
「じゃあ最後に、今後の抱負とかあったら言ってほしいぜー!」
「惨劇は繰り返されル。全ては死に絶えル…例外なク、キミもネ。」
「以上だぜ師匠ー!」
竜神は若干自信をなくした。
~インタビュー:帝雅編~
「というわけで早速お願いするんだ!まずは名前とか年齢とか知りたいぜ!」
「私は帝雅。まぁキミの父親くらいの歳と思ってくれていいだろう。」
「じゃあ次は、なんで大魔王軍に入ったのかを聞かせてほしいんだ!」
「ただのついでだよ。地球に来た目的は、娘を…塔子を捜すことだけなのだ。」
「おぉ!?なんだアンタ盗子先輩のお父さんなのか!?驚いたぜー!」
「なっ、キミは塔子を知っているのかね!?」
「オゥ知ってるぜ!みんなにブサイクだなんだと虐げられつつも頑張る健気な女の子なんだ!」
「ならば別人だ。」
「大丈夫、いい所もあるんだ!しぶとさだけならゴキブリ並みなんだー!」
「つまり別人だ。」
「じゃあ最後に、今後の抱負とかあったら言ってほしいぜー!」
「娘を見つけたらこの星は滅ぼそう。何の未練もなく、二人で暮らせるように。」
「以上だぜ師匠ー!」
土男流は深追いはしなかった。
土男流の報告映像を見た感じ、なんだかヤル気が失せるくらいほのぼのしていた。
だが、逆に考えれば余裕があるからこそなのだろう。チッ、みんなして舐めやがって。
「ふむ…まぁとりあえず、さすがの俺も驚いたぜ。まさかマジでインタビューしてきたとはなぁ。」
「もちろんだぜ!面倒だから神様的なの二人は省略したけど気にしないでくれ!」
「いや、これ以上を求めるほど俺は鬼じゃないぞ。褒美をやりたいくらいだ。」
「ほ、本当かー!?じゃ、じゃあ頭をナデナデしてほしいんだー!」
「オーケー任せろ!三半規管が悲鳴を上げるくらい豪快にやってやろう!」
「記憶が飛びそうなのはイヤなんだー!もっと優しくがいいぜー!」
「フッ、俺がお前に優しくなかったことがあるか?」
「何をもってそんなセリフが吐けるのか考える時間がほしいんだー!」
「にしても…事態は急を要する感じだな。急いで戦力を整えねばならん。」
「あ、そう思って仲間とも連絡取ってみたんだ!」
「お、お前…!よーしわかった、撫でてやるからこっち来い!」
「本当か!?やったぜー!」
今の勇者に実体は無い。
「やれやれ、敵だけじゃなく仲間の情報までとは…。この俺の予想を度々上回るとは腕を上げたな土男流、舐めやがって。」
「褒められてるのか違うのか悩ましいけど嬉しいぜー!」
「だが仲間って具体的に誰だ?ちゃんと見つかったんだろうな?」
「師匠の知り合いを中心に捜して、もちろん何人か見つけてきたぜー!」
「ホント見上げた行動力だな…。で?連絡取って何をどうしたって?」
「連絡のついた人達と、あと敵さんも何人かご招待しといたぜ!」
「いや、敵は駄目だろ!決戦早めてどうするよ!?つーか招待ってどこに…?」
「えっと、『崩落園遊園地』と『Death忍ランド』なんだー!」
「なぜどっちも遊園地なんだ!なぜそんな楽し…そうな名の施設でもないが!」
「怒られるとは思わなかったぜ…。姫ちゃん先輩も…ノリノリだったのに…」
「そうとわかれば話は別だ。でかした土男流!ところで姫ちゃんはどっちへ?」
「んー、確かDeath忍ランドなんだ!」
「おぉ!そういやこの前デートの約束したのもそこだった!よし、すぐ行くぞ!」
「その体でか?」
「うぉー!手も握れねぇー!!」
遊んでる場合でもないが。
土男流の無駄な計らいで、敵との決戦の場は急遽設けられた。いや、早いんだが。
肝心の俺がいない状況で開戦とかありえないだろ。世界…ヤバいだろこれ…?
「確か崩落園はエリン大陸、Death忍ならタケブ大陸…逆方向だな。集合はいつなんだ?」
「今日なんだー!」
「早ぇよボケが!ならのんびりインタビュー見てる場合じゃなかっただろうが!」
「大丈夫!どうせ師匠は秋まで動けないんだから問題ないはずなんだ!」
「確かにそうだが大丈夫ではねぇよ!」
「師匠はDeath忍へ向かってくれ!もう一方の情報は私が任されたぜー!」
「チッ…まぁこうなっちまっちゃあ仕方ない。そうするしかないか…行くぞっ!」
「おうよっ!あ、みんなに何か伝言はあるかー?」
「もし姫ちゃんに会ったら伝えてくれ…そっちじゃないってな!」
どっちでもない可能性も。
そして―――
~Death忍ランド~
「久しいな小娘…。やっとだ、やっと会えた。待ちかねたぞ約束の子よ。」
「私も捜しまくってたさクソ蛇女め…!兄上の…『暗殺人』のカタキは、私が討つさ!!」
<オロチ VS 暗殺美>
「お前達が相手カ?子供のつがいカ…つまらんネ。」
「えっ!カップルに見える!?アンタいい目してるぜ友達になれそうだ!」
「ならんでええ!真面目にやらなシバくでホンマ!?」
<竜神 VS 冥符&商南>
「ハァ、ったく…。ちったぁ楽しめると思ってたんだがなぁ…」
「やれやれ、この僕達に子供だけで向かってくるとは…」
「ええ、愚かですね。」
「な、なんです!?ワチ達を舐めたら大変な感じになっちゃうですよ!?」
「負けねッスよ!自分も今回は真面目に頑張るッス!」
「やったるニャー!」
「面倒だけどね。」
「そだね。帰っちゃう?」
<央遠&右遠&左遠 VS 無職&下端&ライ&太郎&召々>
「キミに恨みは無い。できるだけ楽に、死なせてあげよう。」
「ぐふっ!や、やべぇ…!!」
<ワキスメル大佐 VS 解樹>
主人公を抜きにして―――
~崩落園遊園地~
「なんだよアンタ女かよ…?でも悪ぃな、今回ばかりは手は抜けねぇぜよ。」
「あ゛ぁん?上等だよクソガキがぁー!!」
<戦仕 VS 葉沙香>
「おや、僕のお相手はアナタ方ですか。随分とまぁみすぼらしい姿だ。」
「ブハハッ!威勢のいい小僧っこだ。仕置きのし甲斐があるべや。」
「し、しのみんもいるのだ!しのみんがいる限り苦怨様は絶対負けな」
「いっくぜぇえええ!うぉおおおおおおお!!」
<苦怨&忍美 VS 族長&山賊達>
「いやはや~、また会うとはなぁ小僧。これもまた運命だわな。」
「フッ…だがまぁその運命の輪も、この辺で断ち切ろうか。この僕の手でね!」
<太陽神 VS 宿敵>
「どうやら時が来たらしい。死んでくれたまえよ、拳造君。」
「ハハッ!冗談は顔だけにしやがれぇ!」
<帝雅 VS 拳造>
―――始まっちゃう。