【134】動き始めた者達(2)
どこからか謎の宇宙船が現れ、すぐ近くの平原に着陸した。
聞けば親父の知り合いが乗っているらしく、大魔王戦の戦力としても使える奴だという。
親父に期待するのもどうかと思うが、今は猫の手も借りたい状況…悔しいが期待が高まる。
「おっ、誰か出てきたぞ。どんな奴なんだよ親父?」
「フッ、驚くぞ?」
二人が見守る中、着陸した宇宙船から屈強な二人の男が現れた。
「フゥ~、やっと着いたか~。ここが地球かよ、まぁ確かに綺麗な星だわなぁ。」
男Aはなんだかガラの悪い人相をしている。
「ああ、滅ぼし甲斐があるぜぃ。」
男Bは物騒なことを口走った。
「お…親父?」
「…おや??」
聞いてた話と違った。
「オ~イどうするよ野郎ども?まずは焼き討ちでもして回るか~?ギャハハ!」
宇宙船から続々と野郎どもが降りてきた。
父はキョトンとしている。
「ふむ、どうやら味方じゃないようだ。親父に期待した俺がアホだったぜ。なにが“驚くぞ?”だ。テメェの方が驚いてんじゃねぇか。」
「こ…これは何かの手違いだ!が、仕方ない。ここは親子仲良く迎え撃とうじゃ…うぐぅ!?」
「むっ、オイどうした親父!?」
「す、すまん勇者…これ以上真面目にやると、父さん…!」
「またかよ面倒くせぇなぁ!もういいからその辺で虫でも食ってろ!」
「フッ、父さん詳しいぞ?」
「ホントに食うな!つーか常習者かよ!その血肉を継いだ俺の身にもなれ!」
「あ゛ぁ?なんだよコイツら地球人かぁ?暇潰しにブッ殺しちゃおっかなぁ~。」
勇者は男Aに見つかってしまった。
だがチンピラ相手に臆する勇者ではない。
「んだよ、うっせーな三下が。お前も親父と虫でも食っ…むっ!?」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ…!
勇者が睨みを利かたその時、なんと上空に新たな宇宙船が現れた。
「なっ、また別の侵略者だと…!?」
「チッ、やっぱし追ってきやがったかぁ!しつこい奴らめぇ…!」
どうやら新手は敵の敵のようだ。
そんな急展開の中、宇宙船は着陸し…謎の少女が現れた。
「…フゥ~、なんとか追いつけたですよ。手遅れにならなくて良かったです。」
降りてきたのはツインテールをキャバ嬢的にグルグル巻いた感じの華奢な少女。
勇者と同年代に見えるその少女は、やはりチンピラ達と相対する立場の人間のようだが、勇者は念のため確認しておくことにした。
「オイ誰だ貴様?こいつらの反応を見るにこちら側のようだが…?」
「あ、ワチです?えとですね、所属は『義勇軍』、名前は…あの…」
「なんだ、言いにくい名前なのか?気にするな、別に珍しい話じゃない。」
「え、そうです?じゃあ言うですが、名前も職も…その…あの…『無職』です。」
働け。
チンピラどもの船に続いて、またやってきた新たな宇宙船。そこから出てきたのは見た感じ大人しそうな小娘。
なんでも『無職』とかいう、かわいそうな名前の奴らしい。上には…いや、下には下がいるもんだ。
「まぁ俺の名も大概だが、お前のはもうなんというか救いようが無いな。」
「なんか…パパさんのリストラ直後に生まれたからだそうです。」
「娘に同じ業を背負わせようとか…とんでもない親父だな。やっぱそのクソ親父は未だに無職なのか?」
「いや、パパさんは…その…パパさんはマグロ漁船に…」
「ん?なんだ、思いのほか根性が要る職に就いたんじゃないか。だったらお前も見習って…」
「なるって…」
「おめでとう無職、お前が優勝だ。」
パパさんは施設に送られたらしい。
「あ、もしかしてアナタが凱空さんって方ですか?ワチらは仲間の人ですよ。」
「ふむ…やはり貴様らが親父のツテか。だが違うぞ俺じゃない。凱空は俺の父にして趣味は昆虫採集、俺は名も職も『勇者』だ。」
「え゛っ、勇…な、なんか早速負けた気分でイッパイですがヨロシクです…」
「だが貴様、呼ばれたから来たってんじゃないな?奴らの反応見りゃわかる。」
「あ、ワチらは彼らを追ってきたですよ。地球征服を目論む、悪者さん達を。」
「チッ、同業者か…」
「この星では『勇者』の定義が違うと見たです。」
「オラァ~!いい加減出て来いや~!敵さんがお待ちかねだ、暴れっぞ~!」
二人がのんびり話していると、宇宙船Aからワラワラと人が降りてきた。
だが当然、勇者がそれを見過ごすわけがなかった。
「おっと待てよ雑魚ども、ここから先は通行料を取るぞ。その安い命で支払うがいい。」
「んだとテメェ!?さっきから生意気言いやがって小僧がよぉ!」
「ワチとしても見逃せないのです。お仲間さんのカタキ…討たせてもらうです!」
「お?なんだ、職無しの分際でヤル気はあると見える。意外じゃないか。」
「む、『無職』は『ニート』と違うです!働く気が無いとか考え甘いのですよ!」
「なるほど、“悪事”でもいいからとりあえず働けと。」
「そんな物騒なことはこれっぽっちも…!」
「まぁいい、とりあえずさっさとコイツら片付けるぞ。詳しい話はその後だ。」
「オケです!やりましょう!」
無職の実力やいかに。
雑魚どもと戦い始めて数分。
無職は意外とヤルようだが、俺は結構ヤル気が無い。
「ぬぐっ、な、なんだ!?か、体が思うように動かんべ…!」
「ワチの職は『無職』。いろんな何かが“働かなくなる”という…困った力なのです…」
夢も希望もない能力だった。
「じゃあ俺も働かない。」
「なぜにです!?自分から戦おうと振ってきたアナタは今どこへ!?」
無職の能力のせいか父からの遺伝か、勇者はヤル気が無さそうだ。
「悪いが俺はこの後に試練が控えている。無駄な力は使いたくないんだ。」
「だったら最初から頑張る素振りとか見せないでほしかったです!」
「ところで無職よ、俺の親父は何してるかそこからなら見えるか?」
「え…なんか土掘ってるですがなんですかあれ…?親子してヤル気ゼロです!?」
「フン、そりゃお互い様だろう?貴様の仲間も誰一人として降りてこないじゃないか。」
「ッ!!」
勇者の言葉に、無職の表情が曇った。
「実はもう、ほとんど残っては…。中将、少将、強い人からみんな…」
「な、なんだとぉ…!?じゃあ俺が期待してた戦力は…」
「ギャハハハ!テメェらが悪ぃんだぜぇ?この俺達に逆らうからゴハァッ!!」
「ぐわぁああああああああ!!」
「ぎゃああああああああああああああああ!!」
いきなり何人か激しく吹き飛んだ。
「オイオイ無職、言い方に気ぃつけろよ。まるで雑魚しか残ってねぇみたく聞こえるじゃねぇかよ感じ悪ぃ。」
宙を舞うチンピラ達をかき分け、一人の男が現れた。
真っ黒に日焼けしたロンゲでヒゲでグラサンそのオッサンは、かつて賢二が身を寄せていた義勇軍…その総大将だった。
「た、大将さん!?駄目です動いたらまた傷が…!」
「バッカ言うなよ小娘が。こんなガキども手負いでも余裕だろぉ?」
相当な深手を負っているようだが、気にする素振りも見せない総大将。
そんな彼には、軍の総大将の他にもう一つの顔があった。
「だよなぁ凱空?」
「ああ、久しいな…『拳造』。」
「なっ、こ…このオッサンが…!?」
遅れて出てきた大将とやらは、かつて親父と共に世界を救った『四勇将』の一人、『武闘王:拳造』なんだとか。
疑おうにもその実力は凄まじく、雑魚ども全員を鼻ほじりながら軽く蹴散らしてしまった。これは信じるしかあるまい。
「フン、さすがにやるじゃないか古き英雄よ。だがほじった鼻クソは食うな。」
「ん~?あぁ、オメェが凱空の子か。はじめましてだな、ヨロシク頼むぜ。」
「いや、握手の前にまず手を拭け。」
「まったくもぉ~、無茶しちゃ駄目です大将さん。結構な重傷なんですよ?」
「ったくウルセェ小娘だなぁ、なんだオメェは俺の母親か?ママって呼ぶぞ。」
「全力でお断りですっ!」
「だがどうした拳造よ?貴様ほどの男が手傷を負うとは、相手は一体…?」
「あ~~…それなんだがなぁ凱空、実は…」
「いやいや、そこから先は自分で話すよ。キミは下がっていてくれたまえ。」
宇宙船Aから謎の男が現れた。
その顔を見て父は驚愕した。
「なっ、馬鹿な!!貴様は『帝雅』…!なぜ貴様が…!?」
「やぁ、久しぶりだね凱空君。最後に会ったのは、もう十年以上前になるか。」
二角帽子を被り、気取った感じの男。
父と同世代と思われるその男は、父と同じく顔に大きな傷があった。
「ったく、次から次へウジャウジャと…。で?なんなんだ親父、凄まじく因縁ありそうな感じだが知り合いか?」
「ああ。奴は『皇帝:帝雅』…かつて私の顔に、今なお消えぬ傷を刻ん…うむ、なかなかイケる。」
「いや、虫を食うな虫を。どう見ても正気に戻るべき局面だろ。だがまぁ…」
勇者は帝雅を見据えながら溜め息をついた。
「ハァ…。一応は“生ける伝説”である親父に傷を負わせた程ってことは、かなり強いんだろうなぁ面倒くせぇ。」
「その通りだ勇者。だが恐らくお前が思っているよりも、コイツは強いぞ。」
「でもやるんだろ親父?みんなで袋叩きにしてさっさと宝玉んとこへ行こうぜ。」
「いや、その発想は『勇者』としてはお前…」
「ハハッ、ガキの方がわかってんじゃねぇかよ凱空。そうだよやっちまえばいいんだよ。テメェもそう思うだろぉ?」
拳造は帝雅を挑発した。
だが帝雅は乗ってこなかった。
「いやいや、やめておこう。いくら私でもキミら二人を同時には厳しい。まぁ焦らずとも半年後にまた会える。その時には息子もろとも死んでもらうがね。」
「半年後…だと?帝雅、貴様何を企んで…」
「なんでも大魔王は、ある女剣士との一戦で負傷したそうでね。半年は静養するという話を聞いたよ。」
帝雅の口から思わぬ名前が飛び出した。
「なっ…オッサン、貴様も大魔王一派なのか!?」
「ん…?おっと、どうやら少し喋りすぎたようだ。そろそろ行くとしよう。」
帝雅は立ち去ろうとした。
だが拳造と父が立ちはだかった。
「クセェな…随分引き際がいいじゃねぇかよ。テメェは素直に他人の都合に合わせる奴にゃ見えねぇが?」
「ま、私にとっては地球侵略はただのついででね。特に急ぐ理由は無いのだよ。」
「ついでだぁ?ならテメェの、本来の目的は…?」
「娘だよ。」
「ッ!!!」
帝雅の言葉に、父は露骨な動揺を見せた。
「私の目的は、血を分けた我が子を連れ帰ることのみ。我が最愛の娘…『塔子』をな。」
会っても最愛と呼べるか否か。
なんと、盗子が愛娘だとか抜かした帝雅とかいう男。気が狂ってるとしか思えん。
だがかつて、芋子から盗子の母は未婚だと聞いた気がする。一体どういうことだ?
てっきり俺は、奴は土とか垢から作られたとばかり…。まさか人間だったとは。
…いや、そう決め付けるのは尚早かもしれん。アイツのことだ、きっと何かある。
そういえば、一説に赤子は『コウノトリ』とかいう鳥が運んでくると聞いたことがある。
となるとアイツも…む?だが“コウノ”って何だ?どういう意味だ?
コウノ…コウノ…どうのこうの…むっ?銅の?鋼の?じゃあ銀や金もありそうな気もする。これは大発見だ!
「などと考えている間に逃げられたわけだが、お前らどう責任取るつもりなんだ?なぁ無職よ?」
「今のくだりでよく他人だけ責めれるもんだと感心するです。」
「ったく何してんだよオイ?無職はともかくお前ら二人がまともにやりゃあ…」
「あ~悪ぃなクソガキ、ちょいと腹が…」
「甘えるなグラサン!どんなに深手だろうと気合いで耐えろ!」
「減ってなぁ。」
「余裕じゃねーかよ!ならなおのこと頑張れよ!」
「大将さんは気分屋さんなのですよ…」
「みすみす逃がしやがって…!今の俺じゃまだ倒しに行けねーんだぞ!?」
「ところがどっこい、結構イケるんだ。」
「誰も虫の話はしてねーよ!つーかまだ…っつーかマジで食ってたのかよ!」
「まぁ落ち着け勇者。」
「落ち着いていられるか!急がねば盗子が…盗子が?あぁ、どうでもいいや。」
勇者は落ち着きを取り戻した。
「だがしかし、盗子の出生については少し気になるな。教えるがいいクソ親父、アイツは…盗子はどうやって生まれてきたんだ?」
「む?それはお前、帝雅のピーーー!が皇子のバキューン!を…」
「ちょっと待て!どこの世界にそんなド直球な性教育をする親がいるんだ!?」
「ハレンチですっ!よくわからないですけど強烈なハレンチ臭を感じたです!」
「…よくは知らん。二人は知らぬ間に出会っていたようだ。そこに愛があったのかは…私にもわからん。」
「チッ、使えん奴め…。で?義勇軍のお二人さんはこれからどうする気だ?」
「ん~?まぁ半年しかねぇなら、やれるこたぁやらにゃあな。」
「やれること…?何をする気だ貴様?」
「馬鹿弟子に奥義を、な。『武神流格闘術』は俺の代じゃ終わらせねぇ。」
「武神流…そうか戦仕か。だが奴はどっかの亜空間にいると聞いたが?」
「あー?まぁなんとかなるだろ。大魔王とやらが何か企んでやがるのか、最近各所に空間の歪みができてやがってなぁ。希望はあると見てる。」
「そうか戦仕も…。また一つ手駒が増えそうだ、なんとかなるかもしれんな。」
「わ、ワチも頑張るですよ!力不足かもですけど、やれることはやるです!」
「ふむ、まったく期待できん。」
「そこは嘘でも励ましを…!」
「あぁ安心しろや無職、“あの男”と連絡ついてなぁ。オメェの仕上げは『大佐』に任せる。」
「えぇっ、あの!?ひぃいいいいい!」
「ふむ、よくわからんが楽しそうでなによりだ。」
どう見ても楽しそうではなかった。
「つまり、まだ使える仲間がいるってことだよなオッサン?だが『大佐』か…大した階級じゃないな。」
「いや、そんなことは無ぇぜ?実力だけなら俺に次ぐナンバー2…『中将』より強ぇと言われてる男さ。」
「強いのか?じゃあなぜ…よっぽど性格に難があるとかか?」
「フフッ。奴の名は『ワキスメル大佐』…職業は『ワキガ』。ただ“ワキが臭い”ってだけで『大佐』に甘んじてる…不遇の男だ。」
「なんなんだその怪物は。大丈夫かよお前んとこの軍?」
無職はプルプル震えている。