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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
133/196

【133】動き始めた者達

麗華を見殺しにし、なんとか大魔王達から逃れることに成功した俺達。

麗華の安否はわからんが、美咲が主のもとへ戻らんことから察するに、もう…


「チッ、やっぱ寒いな…。特に今夜は、どうにも冷えやがる。」


 天候の悪さもあり、途中の宿場町に宿を取った勇者一行。

 眠れぬ勇者が辺りをフラついていると、目覚めた賢二が追いかけてきた。


「あ、勇者君…こんなとこにいたんだね。あのさ、その…ちょっと聞いていい?」

「む?おぉ賢二、やっと起きたのかこの寝ぼすけめ。」


 栗子の件で怒りに震え、勇者の拳で痛みに震えた賢二。

 なぜかまだ少し落ち着きの無い様子の賢二は、意を決して勇者に尋ねた。


「あ、あのね…なんとなく…なんとなくなんだけど、麗華さんってその…僕の…」

「全く知らんな。…ま、奴が言わなかったことを俺が言うのは無粋ってもんだ。」

「え、いや、それもう聞いたのと変わらないような…」

「俺が言えることはただ一つ。奴らに勝たなきゃ、全てが無駄だってことだよ。」

「…うん、そうだね。ここまできたら、もう僕も逃げたいとか言わない…よ?」

「語尾が若干気になるが、まぁいいだろう。そう、もはや逃げ場は無いんだ。」


 勇者と賢二がなんだか格好良さげな話をしていると、同じく散歩中だった絞死が現れた。


「でもどうするんです?考え無しに乗り込んでも返り討ちに遭うだけでしょう。」

「考え無し?フン、この俺を舐めるなよ?なんとかなるさ。」

「やっぱ考え無しなんじゃん!」


 知らぬ間に盗子もいたが、勇者は当然のように無視した。


「こういう時こそ周りがサポートするもんだろ?ここはお前の国のはずだろ絞死、お前こそ何か無いのかよ?」


 自分に案が無いのを棚に上げつつ、ダメ元で絞死を煽る勇者。

 するとなんと、絞死から思わぬ答えが返ってきた。


「…実は一つ、父から受け継いだものがあるんですが…使ってみます?」


 全員首を横に振った。


「受け継いだもの…それがさっき取りに行ってた“忘れ物”とやらか。やっぱ奴が遺したのが日記だけとか無いよな…。だがどうしたんだ絞死、やけに協力的じゃないか?」

「ま、実家を奪われた恨みってやつですよ。アナタのことも大嫌いですけどね。」

「フッ、奇遇だな。俺も盗子は大嫌いだ。」

「せめて罵倒はアタシが関係する時だけにしてくんない!?」

「ちょ…勇者君!これって幻の魔法〔武者修行〕の魔導符…!凄いレア物だよ!」


〔武者修行〕

 魔法士:LEVEL??の魔法(消費MP??)※伝説の魔法なため詳しくは不明。

 味方一グループを修行に相応しい師のもとへ飛ばす魔法。嫌でも逃げられない。


「よし、高値で売ろう。」

「え!なにそのまさかの選択肢!?」

「そうは言うがな盗子、あの先公が遺したものだぞ?飛ばされた先が地獄…みたいな展開も普通にありえるぞ?」

「そ、そりゃそうだけども…」

「とはいえ、今の状況を考えると…戦力アップは不可避ですよ。やるしかないでしょう。」


 絞死はもう腹が決まっているようだ。

 一番年下にそう出られると、ヘタレの賢二・盗子としても逃げづらい。


「修行か…確かに今の状況を考えると、それしか道は無さそうだよね…」

「で、でもさ賢二、敵は強い奴ら…大魔王と十字禍って幹部だけで十一人もいるんだよ?それでも勝てるかな…?」

「フン、俺一人で十分だ。俺が実力を出しきれれば、盗子を含めて全員やれる。」

「なんで含められちゃうのアタシ!?なんでいっつも勇者の反対側なの!?」

「さぁ使えよ賢二。絞死の言う通り他に手は無いし…」

「でも勇者君…!」

「使わなきゃ使わないで呪いとかありそうだしな、奴のことだし。」

「じゃあ唱えるよ、みんな備えて!」


 賢二は瞬時に観念した。


「ハァ…武者修行か…。無印様はもういないし、僕はどこに飛ばされるんだろ…」

「フッ、俺もさっぱりだわ。師はついさっき死にたてホヤホヤだしな。」

「いや、でも…もしかしたらまだ生きてる可能性も…!」

「不吉なこと言うなよ賢二。そしたら飛ばされた先に大魔王もいるじゃねーか。」

「アタシに何か教えてくれる人とか…いる気がしないんだけど…」

「な、なんでしょうね…この“泥船に乗った感”は…」


 一行は凄まじい不安に襲われた。

 だがもう後には引けない。


「さぁ、やれぃ賢二!!」

「う…うん、いくよ!む…〔武者修行〕!!」


 賢二は魔法を唱えた。

 四人は光の塊になり四方に散った。


 そして―――



 ~ギマイ大陸~


ヒュゥ~~~~…ドスンッ!


「ぐわっ!イッテテテ…!チッ、なんつー荒っぽい魔法なん…むっ!?」


 魔法の効果で遥か遠方のギマイ大陸まで飛ばされた勇者は、そこで思わぬ人物と遭遇した。


「…来たか勇者よ。飛んで来るほどこの父に会いたかったか。父さん嬉しいっ!」


 なんと、勇者父が現れた。


「貴様かよ…。だがまぁ肩書きだけなら申し分無いか。よし、俺に力を授けろ!」

「フッ、悪いが…基本的にやる気は無い。」



 ~タケブ大陸~


「やあ、よく来たね少年。その顔…幼い頃の凶死君によく似ている。」


 勇者とは違い、タケブ大陸へと飛ばされた絞死の前に現れたのは、父と同じ“死神”の異名をとる謎の医師…『相原』だった。


「…失敬な人ですね。死んでもらっていいですか?」



 ~エリン大陸~


 賢二が飛ばされたのは、最大の大陸であるエリン大陸。

 カクリ島を出て最初に辿り着いた懐かしの大陸だが、そこで彼が出会ったのは…


「む?」


 かつて盗子と暗殺美が『ウザ界』で遭遇した謎の老人…『オッパイ仙人』。

 なぜか額に乳首が付いている異形の変態が、なぜか半裸で踊り狂っていた。


「え゛ぇっ!?」



 ~メジ大陸~


 そして最後に、どういうわけか歴代の魔王が城を構えるというメジ大陸。そんな危険な大陸に飛ばされた盗子が出会ったのは、彼女が最も苦手とする人物の一人…二度と会いたくなかった男、『宇宙海賊:ソボー』だった。


「あ゛ぁ?」

「ひょぇえええええええ!!」


 修行の前に死ぬかもしれない。




絞死の持ってた魔導符の力で、それぞれ修行の地へとフッ飛ばされた俺達。

俺の師はなんと親父…まぁ一応伝説の『勇者』なわけだが、どうやらやる気はゼロっぽい。


「とはいえ、もはやワラにもすがる勢いで頼んでやる。俺を鍛えろやクソ親父。」

「やれやれ、今さらながらもっと“お願い”の仕方とかちゃんと教えれば良かったなぁと父さん若干後悔。」

「俺は…悔しいが俺は、生まれて初めて自信を無くしかけている!この俺が!」

「ん、勇者…?」

「俺はもう駄目なのか!?マオが抜けたら俺はもうスッカラカンかちくしょう!」

「勇者…」

「いいや、そんなことは無い。俺はいずれは世界を制する器!支配者の器!」

「勇者…?」

「人々は俺の足下にひれ伏し、俺のために身を粉にして働き、俺に納める!」

「ゆ、勇者君…?」

「やがて世界は俺色に染まり、俺を称える歌で輝ける混沌のパラダイスが…!」


 勇者は自信に満ちている。

 そんな勇者を不安げな眼差しで見守っていた父だが、しばらく考えて観念したように話し始めた。


「なぁ勇者よ、風船に空気を入れ続けたら…どうなると思う?」

「あん?何言ってるんだクソ親父、そんなの割れるに決まってるだろ。」

「それと同じことだ。脆き器に、強大な力は宿ることはできん。」

「ッ!!それはつまり、マオやら魔剣やら盾やら兜やら、厄介な奴らを従えていた俺は…」

「うむ。十分だと言えるだろうな。」

「フッ、そうかよやっぱりそうか…さすが俺だぜ!って、だがそれでも今の俺がスッカラカンってことに変わりはないんじゃないか?」

「ふむ…ならば少し問いを変えようか。風呂に水を入れ続けたら溢れる…じゃあどうする?」

「あん?そんなの水を止める…のは反則か。栓抜いて水減らすって感じか?つーかなんだよ、まどろっこしい言い方ばかりしやがって。」


 父の意図がわからず勇者はイライラしている。

 だが父はマイペースに話を続けた。


「出産の際、母さんよりマオの魔力が流れ込んだのだ。まだ幼きお前にな。」

「おいコラ急に話を変えるなよ。風呂の話はどうなっ…」

「焦るな勇者、後でちゃんと入ってやるから。」

「いや、実際の風呂はどうでもいいよ!つーかそれむしろテメェの願望だろ!」

「父さん、久々に親子水入らず…つまり水の無い風呂に親子でスッポリと。」

「それじゃただの変態親子じゃねーか!なんだもう限界なのか!?なんか早くないかオイ!」

「お前から力が溢れ、マオが世に放たれる…それが最悪のシナリオだった。流れ込むマオの力の方は止まらない…となると、手は一つしかなかったのだ。」

「なっ…てことはまさか、俺の“持って生まれた力”の方を、どこかに逃がしたとでも…?」


「ハイもう限界でぇーす♪いやっほーーぃ☆」


 復活に三日かかった。




話の途中でブッ壊れた親父だが、今回はなんとか三日で戻った。

さっさと続きを聞き出さないと、また何日か待たされる羽目になりかねない。


「さて、前はどこまで話したか。父さんスパッと記憶がスパーキング。」

「俺にはマオにトコロテン式に押し出された未知の力があったとか違うとか。」

「あぁ、ふむ…そうなのだ。大変だったぞ“アレ”を封印するのは。大騒ぎだったんだ。」

「ちょっと待て、俺は産湯から覚えてるがそんな騒動があった記憶は無いぞ?」

「いや冷静に考えろ勇者、どこの世界にそんな早熟な赤ん坊がいるんだ。奇跡かお前。」

「そんなはずは無い!確かにあったことだ!俺の記憶力を舐めるなよ!?」

「確かにお前は色々と普通じゃないが…。それにお前にも、心当たりが無いわけじゃあるまい?」

「あ゛ぁ?何言ってんだテメェ、心当たりなんてあるわけ…」

「実母の記憶が、お前には無いはずだ。産湯から覚えてるはずなのに…な。」

「ッ!!!」

「できることなら、この話はしたくなかった。この日が来ないことを私は願っていたよ。」

「どういう意味だ…?俺の潜在能力に何か問題でも?」

「蘇らせるべきではないのだ。母さんを死に追いやった、あの悪魔…『蒼い悪魔』はな。」


 どう考えても善なる存在じゃなかった。


「あ、蒼い悪魔…だと?なんだその物騒な名前は?あぁ…そういや前にパンシティで…ナンダの傭兵団にそう呼ばれたことがあったっけ。まぁ無関係だろうが。」

「パンシティ…?もしかしたらそれは、私を知る者やもしれんな。遠い昔に暴れた記憶がある。」

「な、なに…!?親父は人畜無害なタイプだったんじゃないのか!?」

「誰の心にも闇はあるものだ。普段は『守護神の兜』で封じていたんだがなぁ。」

「むっ?神の力じゃなきゃ封じられぬ闇…それは性格の問題じゃないな?」

「…うむ。呪われた力…魔物どもが死に際に放った、恨みつらみの集合体…その名も、『断末魔』という。」

「だ、断末魔…!?親父テメェ、そんなに多くの恨みを買ってきたのか!?まぁ心当たりは無いではないが。」

「私だけじゃないさ。断末魔は我らが一族に、代々受け継がれたものだ。」

「な、なんつー負の遺産だよ!んなもん勝手に人に継がせてんじゃねーよ!」

「仕方なかろう、それが『勇者』の宿命なのだ。それに、その呪いの数以上に人を救ってきた。」

「つーか“一族”って、うちはそんなに代々『勇者』だったのか?初耳だぞ。」

「ああ。驚くほどに誰もが皆、親が強制せずとも自発的に『勇者』。」

「俺が言うのもなんだが自信家にも程があるなぁオイ。」

「だがその中でもお前は異例だぞ?なんたって片親が『魔王』だ!ハッハッハ!」

「それは貴様のせいだろうが!親は選べんが嫁は選べるんだぞ!?」

「いい…嫁さんだったよ、母さんは…。できればもう少し、共に在りたかった…」

「…聞かせろよ親父。俺の母親は、蒼い悪魔…断末魔に、殺されたんだろう?」


「ああ…。アレを封じた『魔封じの宝玉』…につまずいて、階段から…」


 とんだ濡れ衣だった。



「ときに親父よ、封印ってのは誰がやったんだ?まさか貴様じゃあるまい?」

「ふむ、封じたのは『妃后ヒコ』…姫の母親だ。一部だけ解読できた『天地封印術典』の秘術でな。」

「お、お義母さんが…!?」

「お前…“実の母”にも“育ての母”にも言わなかったであろうセリフをなぜ赤の他人に…」

「で、その宝玉ってのは今どこにある?もはやそれに頼るしかないんだよ。」

「確かに力にはなるかもしれん。だが制しきれねば、逆に悪に飲まれることになるぞ?」

「フッ、なんだ?悪に染まり、変わり果てちまった息子を見るのが怖いか?」

「いや、むしろ“変わり果てないこと”が。」


 親としては複雑な心境だった。


「まぁ安心しろよ、こんなピンチはもう慣れっこだ。俺ならきっとうまくやる。」

「…ハァ、やれやれ。こうなって引き下がるお前じゃないか。」


 父は観念したように、東の方角を指差した。


「この先の…ケンド村の東にあるほこらだ。かつてマオを封じていた石碑を拝借してな、厳重に封印してあるよ。」

「オーケー了承した。あぁ、あともう一つ…誰か強い奴に心当たりは無いか?敵は強大なんでな、味方は多い方がいい。」

「あぁ、安心しろ。そうくるだろうと手は打っておいた。きっと力になってくれ…おっと、ちょうどいいタイミングで来たようだ。」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!


「むっ、なんだこの音は!?上か…!?」


 なんと!謎の宇宙船が現れた。


「う、宇宙船…!?親父、貴様そんな凄いコネがあったのか顔に似合わず!」

「ふっふっふ、どうだ驚いたか勇者?父さん顔の広さは…宇宙レベルだぞ!」


 多分いい意味でじゃない。

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