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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
132/196

【132】巨悪との遭遇(3)

知らぬ間に盗子も起きていて、人数だけなら5:2…だがまぁ戦力的には足しにもならんので案の定戦況は好転せず、もはや死ぬか逃げるかしか無い感じになってきた。


「ゼェ、ゼェ、化け物め…!何発か当ててるのに効いてるように見えん…!」

「いや~さすがに僕も少し疲れてきたよ。そろそろ遊びも終わりにしていい?」

「フッ、だが甘いな。こういう時ほど味方が現れる…それがこの世界のお約束!」


「おや、少々早いかと思ったガ…どうやらそうでもなかったらしいネ、救世主。」


 なんと!竜を模した甲冑の男が現れた。

 どう見ても強そうで、どう見ても敵側な感じだ。


「あ~、久しぶりだね『竜神:ウザン』。しばらく見なかったけどどこへ?」


 やっぱり思いっきり敵側だった。


「チッ、味方どころか敵が増えるとはな…やれやれだ。」

「りゅ、竜神だと!?くっ…先の大戦の折、既に懐柔しておったのか外道め…!」

「栗子さん…寂しくないよ。もうじきみんな…」

「“敵討ち路線”からのシフトの早さがエグいね賢二…。まぁアタシも偉そうなこと言える立場じゃないけども。」


 四者四様の反応を見せる中、賢二はこの後さらに二度衝撃を受けることになる。


「すまんネ大将。我が父、魔竜『ウザキ』を倒した少年…その噂を辿ってたヨ。」

「ッ!?」

「あ~、確か僕の故郷の惑星『サマラ』も…同じ子が潰したとか聞いたなぁ。」

「ッ!!?」


 それはまだ賢二が宇宙へと出て一年にも満たない頃…。新進の『賢者』の功績とされる様々な噂が飛び交った。中でも人々を驚かせたのは、巨悪として恐れられていたウザキとサマラの滅亡。

 かつて賢二が討伐に向かった際、着いたら既に老衰で死んでいたという魔竜ウザキと、賢二の到着寸前に隕石群が直撃して滅んだという悪星サマラ。偶然なのか運命か、二人はその関係者らしかった。


「ん?どうした賢二、そんなに震えて…寒さに耐えられんのか?情けない。なぁ麗華?」

「貴様が言うな貴様が。でも、ホントにどうしたの賢二…君?何かあったの…?」

「え、いや…僕は何も…ホントに…」


 確かに何もしてない。



「さて…と。まぁ無駄に絶望してても仕方ない…やるしかないんだ。オイ麗華よ、貴様その片腕でも『千の秘剣』は放てるか?」

「む?ふむ、なんとかいけそうではあるが…なんだ、何か秘策でもあるのか?」

「ああ。俺と貴様の千を掛け合わせた秘剣、名は…そうだなぁ、『八百万ヤオヨロズ』とでもしようか。」

「いや、その“八”はどっから!?確かにその方がカッコいいけども!」


 盗子は無粋なことを言った。


「八百万か…悪くない名だな。いいだろう、貴様の策に乗ってやる。」

「おっと、だがその前に一つ。貴様、俺の性格はわかっているな?大魔王と竜神、どちらを狙うか…」

「…フッ、何年貴様の師をやってると思っている?意外と長い付き合いだぞ。」

「さて、最後のあがきの準備はオッケー?いくら気の長い僕でも、これ以上は待てないよ~?」


 両手を広げて微笑む大魔王。

 竜神も迎撃準備万端といった感じだ。


「ああもう十分だ。いくぞ麗華、食らえ大魔王!刀神流操剣術―――」

「―――即興奥義!八・百・万!!」


「なっ!?ぐぁあああああああああああああ!!?」


 実に勇者らしい攻撃。

 油断していた葉沙香が大ダメージを受けた。


「えっ、なんか選択肢と違く…あっ、“嘘八百”的な意味の八百!?」


 盗子はようやく合点がいった。


「ぐっ、て…テメェ…ら…!許さ…ねぇ…グハッ!」


 葉沙香は豪快に血を吐きながらも、怒りの眼差しで勇者を睨みつけている。


「ほぉ、まだ息はあるか…今ので死なんとはS級首ってのは伊達じゃないらしい。まぁ今は眠ってろよ雑魚め、どうせトドメを刺す隙は貰えんだろうしな。」

「チッ…まさかそうくるとはネ、驚いたヨ。でもそっちがそうくるなら…」

「おっと、そうはさせるかよ!今だ賢二、見せ場だぞっ!」


 勇者達が派手に立ち回っていたその裏で、静かにひっそりと『禁詠呪法』により上級魔法を唱えていた賢二。

 今回も難しい呪文だったが、なんとか無事詠唱し終えたようだ。


「いっけぇええええええ!〔超絶重力〕!!」


〔超絶重力〕

 賢者:LEVEL13の魔法(消費MP145)

 重力系の最上級魔法。だるまさんが「転んだ!」の瞬間くらい動けない。


「ぬぐぅ!?う、動けない…ネ…!」

「やれやれ…やられたね。まさか周りから潰してくるとは思わなかったよ。」


 狙い通り竜神と大魔王の動きを封じることに成功。

 だが大魔王への効きはイマイチのようだ。


「ご、ごめん勇者君!中心にいる人以外は、完璧には止められないみたい…!」

「賢二にしては十分だ、良くやった!あとは俺と麗華に任せろ!」

「ああ、ここまできたら道は一つ!」


「…不愉快だよね。とっても…不愉快だよねぇ、こういうの…!!」


 大魔王から尋常じゃないオーラが噴き出した。


「よし、逃げるぞ勇者!」

「うむ!!」


 結局逃げます。



これまで終始余裕そうだった大魔王だが、してやられたことでやっと不快感を露わにしやがった。ざまあ見やがれ。

だが、喜ばしい話ってわけでもない。奴からほとばしる強大なオーラはとんでもなく、今の俺達がまともにやりあえるレベルじゃない。


「仕方ない…俺と麗華で時間を稼ぐ、お前らは先に逃げるがいい雑魚ども。」


 勇者は賢二らを先に逃がすことにした。

 だが麗華がそれを制した。


「いや、残るのはワシ一人だ。ワシを置いて皆で逃げなさい。」

「何を言ってやがる、敵の力が読めん貴様じゃないだろう?ここは俺と二人で…」

「…ワシの顔に刻まれたこの十字傷はな…自分で刻んだのだ。“二人の自分”と、決別するために。」

「ん、なんだいきなり?二人の自分…どういう意味だ?」

「剣に生きると決めた日、ワシは捨てたのだ。“乙女の自分”と…“姉の自分”をな。」

「いや、どっちも今でも未練タラタラじゃないか。全然決別できてないぞオイ。」


 麗華は勇者のツッコミを無視し、今度は賢二に話しかけた。

 その瞳には、何か言い知れぬ覚悟のようなものが見て取れた。


「そうだ賢二君…いや、賢二よ。聞けば貴様は…『賢一』の弟らしいな。」

「えっ!知ってるんですか賢一姉さんを!?ね、姉さんは今どこで何を…!?」

「うむ…。ずっとずっと遠くの国で…好いた男と、幸せに暮らしておったよ。」

(実際はスイカ男と暮らしてたがな…)


 勇者は上手いことを言いかけたが空気を察して飲み込んだ。


「そ、そうなんですか!?よ、良かったぁ…生きてたんだぁ~☆」

「伝言も預かった。この戦いを無事終えたら共に…共に茶でも飲もうと、な。」

「ま、待て麗華!今のは近来稀に見る見事な死亡フラグ…!」

「麗しき華は、散り際こそが美しい。まるでそのために…咲いたかのようにな!」


 麗華は死ぬ気マンマンだ。



なにやら一人で残るとか言い出した麗華。だが賢二がそれを放っておかなかった。


「だ、駄目だよ麗華さんが犠牲になるなんて!見殺しにするなんてそんな…!」

(本当にいいのか麗華?今を逃せば、もう時は無いかもしれんぞ?)

(嘘もバレねば真実となる。この子には、さめない夢を見ていてほしいのだ。)

「…そうか。ならばもう何も言うまい。」


ゴギャッ!


 勇者は賢二に当身を食らわせた。


「グヘェッ…!」

「え!何してんの勇者!?当て身じゃ済まない音がしたけどアンタ手加減は!?」


 盗子の腕の中で賢二は動かなくなったが大丈夫か。


「さて麗華よ、最期に何をやってくれるんだ?ただで死ぬ貴様じゃあるまい?」

「うむ、置き土産代わりに見せてやろう。我らが流派の…“最終奥義”をな。」

「おぉっ、まだあったのか!『千刀滅殺剣』の次はやはり“万”か?それとも飛んで“億”の秘剣か!?」

「いいや…“一”だ。」

「はぁ?違うだろ、一は『一刀両断剣』のはずじゃ…」

「よーく見ておけよ勇者。見せてやれるのは、これが最初で最後となろう。」

「最終奥義…一体どんな技なんだ…?」

「放てば確実に死をもたらす『呪剣』…ツイの秘剣、『一撃必殺剣』。」

「なっ、確実に死ぬ…だと…!?」


「ふむ、ワシが。」

「お前が!?」


 まさに一撃必殺剣。


「最終奥義か…。貴様が知ってるってことは、スイカも使ったってことだな?」

「うむ。師匠は魔王にこの技を放ち、力及ばず割られた。陰から見ていたよ。」

「奴ほどの男が放って勝てなかっただと…?その呪剣、駄目なんじゃないか?」

「いや、威力は絶大だった。師匠の視界さえ広ければ、避けられることも…!」

「なんなんだその凄まじい自業自得は。」


「ハァアアアアアアアッ…!」


 そうこうしているうちに、大魔王の準備も整ってしまったようだ。


「わっ、なんかもう力溜め終わりそうな感じだし!ヤバいよ急いで勇者ぁ!」

「おっと…甘いネ、逃がしはしないヨ。」


 慌てる盗子の前に竜神が立ちはだかった。


「なっ…!?チッ、賢二め何してやがる…!?」

「誰のせいかは冷静に考えなくてもわかるよね!?アンタがゴギャッ!って!」


「やれやれ…仕方ないですね、じゃあ彼は私が引き受けましょう。」


 盗子を守るように絞死が割って入った。

 どうやら絞死もこの場に残るつもりのようだ。


「むっ?なんだ絞死、急に見えなくなったがどこ行ってたんだ?」

「まぁ忘れ物を取りに…ね。さぁ行ってください。私は逃げるのは性に合わな…ブホッ!」


 勇者の手加減なしの当て身が炸裂した。


「いいから貴様も寝てろ、恩を売ってやる。オイ麗華、こっちはいいぞ!」

「降りて来い美咲!皆を背に乗せ、全速力で飛び去るのだ!」

「クエッ!!」


 麗華の契約獣である美咲の背に、勇者は賢二と絞死を乗せた。

 盗子も慌てて飛び乗った。


 そしてついに、大魔王も動き出した。


「…ふぅ、やっと暖まったよ。しばらく本気になってなかったからさぁ。」

「勇者よ、よく目に焼き付けておけ!だができることなら使うな!これが…」

「ガッカリさせないでよね、おネェさん!死ねぇええええええ!!」

「ワシが師として見せられる、最後の必さちゅ…ぬぉおおおおおおおおっ!!」


 悲劇感が若干薄れた。



飛び去る美咲の背から、俺は確かに見た。麗華の秘剣が奴に刻まれる瞬間を…。


「あれが最終奥義か…確かに見届けたぜ麗華、後は安らかに眠れ。」

「ねぇ勇者、た…倒せたかなぁ大魔王?さっきのでもう終わりだったり…しないかなぁ?」

「さあな。だがとりあえず、最悪の事態を想定して動くべきだろう。南だ美咲!」

「クエッ!」


 その頃、勇者が後にした魔国城では…麗華の剣技により重傷を負った大魔王が、まだ生きていた。


「げふっ!ぶっ…う゛ぅ…ハァ、イタタ…参ったよ、まさかこの僕が…押し負けるとはねぇ…」

「…フッ、やれやれ。我が命を込めた一撃を…もってしても…ぐはぁ!」


 残念ながら、麗華の賭けは失敗に終わったようだ。


「いやぁ、おかげでしばらく動けないよ…。改めて名前、聞いていいかな?」


 いい一撃をもらったせいか、先ほどまでの怒りは冷めた様子の大魔王。

 麗華もまた、観念したのか取り乱すこともなく答えた。


「ワシは麗…いや、『賢一』だ。魔道の家に生まれ、剣に生きた不器用な女さ。」

「誇り高き剣士、賢一か…オーケー覚えておくよ。」

「いや、全力で忘れてくれ。だがしかし…笑わんのだな貴様は。少々意外だ。」

「ま、人のこと笑える名前でもないしねぇ僕も。」

「フフフ…違いない。ぐふっ!ガハッ!ぐぅ…ゲホッゴホッ!ぶはぁっ!!」

「苦しそうだネ。殺してやろうカ?」

「ハァ、ハァ…見ての通り終わった命だ、悪いが最期は好きにさせてもらう。」

「まぁ安心しなよ、すぐにみんなそっちに送ってあげるからさ。サクッとね。」

「フフッ…あの子らを甘く見るなよ?半年もあれば、貴様を討つ力を持つやもしれんぞ。」

「へぇ~、面白い冗談だね。なにげに暇してたんだ、期待しちゃうよ僕?」

「フッ…ワシにもイマイチよくわからんのだがな…“アレ”の真価は。」


 麗華は窓際に立った。


「そういえば…もう何年前だろうか…。あの『占い師』の…不吉な予言…」


 薄れゆく意識の中、麗華はまだ家を出て間もない頃に出会った、謎の占い師に言われたことを思い出していた。


 「これより数年の後、汝が実弟に、逃れ難き死の恐怖が襲い掛かるだろう。」


 「救い手がいるとすれば、唯一人。その傍らに在るは剣、魔術にあらず。」


 「信じるか否かは自由。だが『賢二』の命運は、少なからず汝が握っている。」



 そしてゆっくりと倒れ、窓の外へと舞い落ちる麗華の体。



「できる限り砥いでやったんだ、賢二を頼むぞ“剣”…頼むぞ、勇者……」




ドサッ


 新雪に真紅の華が咲いた。

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