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~勇者が行く~  作者: 創造主
第四部
131/196

【131】巨悪との遭遇(2)

麗華の後を追って、妙に緊迫感の無い見知らぬガキが入ってきた。

だが麗華のリアクション…そして『大魔王』という通称からして、かなりの大物と見て間違いない。

というか、それよりも気になるのは…


「オイちょっと待て麗華、メシア…だと?てことはまさかコイツ…!」

「ああ、そうだ。彼こそが五百年前にその名を轟かせた英雄…『勇者:救世主』と呼ばれたペテン師だ。」

「チッ、こんなガキがかよ…。つまりコイツが、諸悪の根源なんだな。」


 貧乏神から聞いていた話と総合し、全てを把握した勇者。

 そんな勇者らに向かって、大魔王はゆっくりと歩み寄ってきた。


「鬼ごっこは終わりだよおネェさん。あ、それとも次はアンタが鬼やっちゃう?」

「いや、コイツは元から鬼だぞ。」

「お前は下がっていろ勇者、黙って退けば今の無礼なセリフは聞かなかったことにしてやる。」


 怒るより勇者の身を案ずることを優先する麗華。その様子からも状況の悪さは明らかだったが、勇者は相変わらず勇者だった。


「悪いな麗華、ここで退けないから俺は…『勇者』なんだよ。」

「ちょっ、おい待て勇者…!」


 麗華の制止を振り切り、大魔王の前に立ちはだかる勇者。


「ん?なにキミ、空気読めない系?」

「フン、読めてないのは貴様だろう?どう考えても今から俺のターンだろうが。」

「ハハハッ!いいねぇその自信。楽しみだなぁ~その自信満々な顔が苦痛に歪むのが。」

「フッ…面白い冗談だ。」


 勇者はボコボコにされた。



ある程度予想はしていたが敵はそれよりも遥かに強く、俺は為すすべもなくブチのめされた。

そういや『マオの半身』も『死神の目』も失い、俺の魔力は空っぽだったっけ…。マズいな。


「グフッ…!というわけで麗華、俺は“逃げるが勝ち”の方程式から大勝利を導き出そうかと…」

「いいから黙って去れ。こやつは…お前ごときの手に負える相手じゃない。すまんが大魔王よ、殺すならワシだけを殺せ。」

「寝ぼけるな麗華。そんな話が通じる奴の目じゃない…交渉は無意味だ。」

「アハハ…ご名答。よくわかってるじゃんキミ、僕の部下にならない?」

「貴様も寝ぼけるな。たとえ貴様が誰であろうと、悪に屈する気は毛頭無い。」


 劣勢だろうが強気の姿勢を崩さぬ勇者。

 そんな弟子の姿を見て、麗華も少し落ち着きを取り戻したようだ。


「ふむ…やれやれ、挑む前から心折れるとは…ワシとしたことが情けない。」

「目が覚めたか?ならやるぞクソ師匠、不満はあるが仕方なく協力してやる。」

「だが心してかかれよ勇者?敵は『大魔王:救世主』…あの理慈殿を、葬った悪鬼だ。」


ふむ、勝てっこねぇ。


 勇者は心が折れた。



麗華から聞かされた衝撃の真実。なんとこの小僧、あの校長を亡き者にしたほどの実力者らしい。

まぁこれまでの話からかなりの強者だというのはわかっちゃいたが、具体例がわかりやすすぎて絶望感がヤバい。盗子なんか一瞬で気絶したようだ。


「いくぞ勇者、左右から挟み撃ちにする。ワシは右、お前は左、いいな?」

「嫌だ俺は右がいい。」

「ダダをこねるなこの状況で!チッ…もう右でいいからとにかくいくぞっ!?」

「まぁまる聞こえだけどね。」

「なっ、しまっ…」


 大魔王が一瞬で距離を詰めていた。


ズッゴォーーーン!!


 なんと!絞死が大魔王をブン殴った。


「私のことをお忘れでは?いや、名乗ってませんでしたか…じゃあいいです。」

「ぐっ…ふぅ、ごめんね忘れてたよ。悪いけど自己紹介してもらっていい?」

「フッ、勇者だ。」

「いや、キミじゃなしに。」

「ワシか!?れ、麗華だ。本名だぞ!?」

「聞いてないし。」

(私はどうすれば…)


 絞死は名乗りづらい。



「ふむ、どうやらそこそこ戦えそうなじゃないか絞死。少しだけ勝機が見えてきた気がするぜ。」

「いや、別に私は味方じゃ…」

「つーわけで、とっとと終わらそうか。室内とはいえこの国は俺には寒すぎる。」

「オッケー。じゃ、さっさと殺してあげるよ。ハァアアアアアッ!!」


 大魔王の連続攻撃!

 なんと!四人の絞死が全て防いだ。


「フゥ…なかなか重い拳ですね。防御に回ると苦労しそうです。」

「ほぉ、貴様も先公と同じ『幻魔導士』か…?だが今のは全て実体だったように見えたが…」

「へぇ、なるほど…幻の体『幻体ゲンタイ』をもって敵を討つ、『幻魔闘士』か…やるじゃない。」


 ゆっくりと起き上がる大魔王。

 残念ながらダメージはあまり無さそうだ。


「ハァ~…意外と面白くはあったけど…でも残念、惜しいけど無理だなぁ~キミ達じゃ…やっぱワクワクしないよ。」

「ワクワク…だとぉ?くっ、このワシも舐められたものだ…!」

「ま、すぐにわかるよ。格の違いってやつを…教えてあげるね。」

「私はお断りします。」

「ああ、ワシも右に同じだな。」

「いいや、俺が右だ。」


 右に一体何が。




そして、バトルが開始して数十分が経過。事態は俺が想像していた以上に深刻だった。


「ハァ、ハァ…参りましたね…こんなに打ち込んで、一発も当たらな…ぐふっ!」

「そんなんじゃ何発当てても効かないけどね。いくら増えても力が弱いし。」


 幼児らしからぬ見事な動きを見せた絞死だったが、残念ながら敵の方が何枚も上手のようだ。


「なんたることだ…逃げ疲れているとはいえ、まさかこれほどの差が…ガハッ!」

「ん~、片腕じゃなきゃもっと楽しめたのにね~。とっても残念だよ。」


 魔神戦で左腕を失っている麗華。

 まだ日が浅いこともあり、その動きにはぎこちなさが目立っていた。


「さぁ見るがいい!この俺の脚線美を!ギャフッ!!」

「キミはもっと真面目にやるべきだと思う。」


 あくまで自分流を貫く勇者。

 だがさすがに力の差は痛感したようだ。


「フッ、完敗だな…。いいだろう、殺せ。貴様相手なら盗子も本望だろう。」

「いや待て勇者、なぜその流れで平然と矛先を他人に持っていけるんだお前は?しかも気絶してる仲間に…」


 非道な時間稼ぎを試みる勇者。

 だが幸いにも、大魔王としても急がない理由があるようだった。


「いや~もうちょっと待つよ。待ち合わせの時間には、早いみたいだしねぇ。」



 その頃、城の地下牢では…また違った惨劇が繰り広げられていた。


「く、栗子さん!ちょっ…ねぇ栗子さん!?」

「に…にに逃げてください…先輩…。う、上に、行けば、ゆゆ勇者先輩…が…」


 血だまりの中で激しく狼狽する賢二。

 そんな賢二に抱きかかえられているのは、この地下牢まで彼を助けに来ていた栗子。どう見ても助からない傷を負っていた。


「喋っちゃダメだよ、血が…!」

「いえ、き、聞い…あ、せ、先輩…あの…わた、すす…すすすす…好………」

「く、栗子さん!?何!?いつも以上に何っ!?うわぁああああああああ!!」


 栗子は力尽き、賢二は泣き崩れた。

 そんな二人を面倒臭そうに見ているのは、栗子を手にかけた謎の女。

 肌は褐色で髪は短髪、筋骨隆々として見るからに気性が荒らそうなその女は、見るからに機嫌が悪そうだった。


「ったくダリィな~。この『葉沙香ハサカ』様を呼ぶかぁ?こんな所までよぉ!」



大魔王の強さは圧倒的で、三人がかりでも相手にならん。コイツ本当に人間か?

しかもなにやら誰かを待っているらしい。この状況でさらに敵が増えるとかもう絶望的だ。合流前になんとか勝機を見つけるしかない。


「おいコラ大魔王、待ち合わせとはどういう意味だ?冥途の土産に聞いてやる。」

「ん?あ~、召集かけたんだよ。全国でスカウトした十人…僕の右腕達にね。」

「じゅ、十人の右腕だと…!?」

「フフッ、驚いた?」

「なんてバランスの悪い体なんだ…!」

「いや、比喩的な意味で。」


 勇者は定期的に煽ることを忘れない。


「つーか貴様、確かメジ大陸に新たに建てた城にいるはずじゃ…?こんなとこで待ち合わせなんかせんでも、手下なら呼び寄せりゃいいだろうが。」

「あ~、それに関してはキミらのお仲間のせいだよ?理慈さんが派手に暴れたせいでさ、折角僕がこの大魔王生活のために造らせたお城が半壊!パーだよパー!まぁ着工したのが五百年前だから、基礎が死んでたのかもだけどね~。」

「チッ、校長め…中途半端なことしやがって。負けただけじゃ飽き足らず…」

「それにさぁ、やっぱ暇なんだよね~ただ待つのって。誰か攻めてきてくれる当ても無かったし、ね。」

「なるほどな…。じゃあついでにもう一つ聞かせろよ。貴様の右腕となる程の者が十人もいるだと?にわかには信じられん話だ。」

「はぁ?まだいるわけ冥途の土産?欲張りすぎじゃない?」

「フン、あの世には知り合いが多くてな。」


 主に敵だが。


「お前もおかしいと思うだろ麗華?」

「疑う気持ちもわかるが勇者よ…残念ながらそうでもないのだ。通称『十字禍ジュウジカ』…ワシはその脅威を皆に伝えるため、急ぎ逃げてきたのだよ。」

「いや~参ったよ。なるべく秘密裏に動きたいのにバレちゃってさ。最初は港町集合だったんだけど、このおネェさんがこっちに逃げちゃったもんで予定狂ってもう大変。」

「えっ…じゃあ私の城が今こんな状況に陥ってるのは…」

「わ、ワシのせいだったのか!?なんたる不覚…!」

「次は裁判でお会いしましょう。」


 絞死は憎むべき相手が決まった。


「ったく、なんだよこのピンチは貴様のせいかよ麗華…。言っとくが地下牢には賢二もいるからな?死んでも貴様のせいだから俺を恨むなよ?」

「なっ、賢二が!?あの子までこの地に来てると言うのか!?」

「ああ。まぁ相変わらず虫も殺せん雑魚だがな。」

「いや、実力が無いみたく言うでない。それは優しさゆえの…」


ドゴォオオオオオオオン!


 その時、床を突き破って何かが入って来た。


「キャハハハ!ほ~らここまで来てみろやクソガキィ~!?遅ぇぞ~!?」


 現れたのは地下牢にいた葉沙香。

 そして、珍しく激しい怒りに震えている様子の賢二だった。


「許さない…よくも栗子さんを…!僕は、絶対許さない!!」


「よぉ賢二、いつになく殺気立ってるじゃないか。このアマゾネスが何かしやがったのか?」

「勇者君…。栗子さんが…栗子さんが…!僕は…とっても怒ってるんだよ!」

「なるほどな、状況は察した。貴様がそんなになる程の惨劇があったんだな。後で見に行って参考にしよう。」


 何のだ。


「やぁ!キミが『狂戦士バーサーカー』…7600銀の賞金首、葉沙香だよね?」


 手配書で顔を知っていた大魔王は、相変わらず場の空気に合わない気さくな感じで女に話しかけた。


「はぁ?じゃあテメェが『大魔王』だってのかぁ?オイオイこんなガキが…」

「人を見かけで判断すると早死にするよ?」

「…ま、好きに暴れられるんならボスは誰だっていいけどねぇ。ヨロシクな。」

「うむ、よろしく頼む。」


 なぜか勇者が返事をした。


「いや、貴様はどちら側なんだ。何をどうヨロシク頼む気だ。」


 確かに麗華の言う通りだが違和感は無かった。


「で?俺はどうすりゃいいんだよボス?コイツら全員殺していいか?」

「あ~、しばらくのんびりしててよ葉沙香さんは。たまには動かないと、僕も勘が鈍るからさぁ。」


 葉沙香と合流したものの、引き続き一人で相手するつもりらしい大魔王。


「フッ、甘いな。三人じゃ敵わなかったが今は賢二も増えて四人…大差は無い。」

「え!なんか話の前後が噛み合ってなくない勇者君!?」

「いいから全員でかかっておいでよ、殺してあげるから。五人まとめて…ね。」


「…ッ!!」


 盗子の寝たフリはバレてた。

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